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僕の生きている意味。

振り返りたくない。【1】

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飼育員としてではなく飼い主としてアリッストを飼うことになったマナは現在、少々困りごとが生じている。

「暇だからお前の仕事っぷり見てやるよ。」

「…はい?」

社宅にてアリッストの為に朝食と昼食を作っていたマナが声を出せば、彼はマナの少ない給料で買ってくれたシャツに袖を通す。

「だって暇なんだよ。暇すぎておかしくなりそうだ。」

「暇って…。施設時代もほとんど寝てたじゃないですか?」

「あの時は他の獣人と話したり散歩したりシャワー浴びてたりしてたしよ~。でもお前だけじゃ物足りねぇ。」

「は…はぁ。」

アリッストの発言に内心では少し悲しんでいるマナではあるが、切り替えて言い放つのだ。

「じゃあ…。僕の働く姿はともかく、ご友人と面会したいってことですよね?」

「まあそうだな。暇だし。」

すると間を置いてからマナは朝食のベーコンエッグとパンケーキを机に置く。嬉々として食べるアリッストに少し嬉しさを覚えながら今度は昼食に作る予定であった鶏ピラフ(玉ねぎ抜き)をおにぎりの形にて作りながら考える。

「それじゃあ主任に聞いてみて大丈夫だったら面会って感じですね…?そしたら散歩とかもしたいですよね?」

「うまっ!…じゃなかった。あぁ。散歩もしたい。」

器用にフォークとナイフで食べる大きな虎の獣人の姿に微笑ましく思いながらマナは承諾をするのであった。


事情の説明をすると主任のリアラから許可が降りたようだ。アリッストは施設を回る。青シャツをはだけさせタイトなデニムを履き、長めのカーディガンを着て周回するアリッストの姿に驚き旧友であった獣人たちがその姿に驚いた。

「おお~!アリッストじゃねぇか!…久しぶりじゃん!」

最初に声を掛けられたのはジャガーのレンドル。彼はその出立ちでは怖いと恐れられてはいるものの意外と優しいタイプだ。

「なんだその爽やかな服装は~!?あの王様みたいな服装だったアリッストとは思えないな~!」

軽やかに話し掛けてアリッストの肩を叩くのはチーターのフィン。肉食動物であるが彼は明るく優しい性格であったのでよく草食獣動物や獣人にからかわれている傍らで慕われてもいる。しかももうそろそろで買い手も見つかるそうだ。
彼らはアリッストが施設に来てからの同期でもあり、なんだかんだで仲良くしていたネコ科動物仲間である。そんな2人にアリッストは軽く笑いながら昼食を食べることになった。
レンドルとフィンは飼育員から出された無機質な餌を食べる中でアリッストはマナが作ってくれた大きな鳥ピラフのおにぎりを食べてみれば彼らは羨ましそうな声を上げる。

「なんだそのでかいメシは!?…でも美味そうだな~?…一口食わせろ!」

「嫌だわバカ。」

レンドルがよだれを垂らして食べようとすればアリッストが断固拒否をして黙々と食べる姿にフィンはクスクスと笑う。

「あははっ!…アリッストはあの飼育員さんに特別待遇を受けてたもんね~!…でも本当に美味しそう。食べていい?」

「だから駄目に決まってんだろ。アホ。」

「冗談なのに~?」

クスクスと笑うフィンにもアリッストが少し険しい顔をしてピラフを食べていればレンドルが思い出すように言う。

「でも良いよな~?マナってさ。…肉付きはあんま良くねぇけど、丁寧だし誰にでも隔てなく優しいしよ~?…しかも爪を切るのも上手い!」

「そうだね~!最初来た時も一生懸命な姿見てちょっと良いなぁ~って思ったけど…。アリッストがねぇ~?」

含み笑いをするフィンにアリッストは顔を顰めながらピラフを食べ終えた。

「…?なんだよフィン。俺が何かしたか?」

「したって…。だってアリッストの…おもちゃだったんでしょ?彼?…結構狙っていた獣人居たのに~?」

「はぁ…?あいつを?」

衝撃的な言葉を吐くフィンにアリッストが驚けば便乗するようにレンドルが笑う。

「そうだな~!近くで見ると綺麗な顔立ちしてるしな!マナは!…アリッストの専属飼育員になってからあまり多くは近づかなくなったけど、狙ってた奴は結構居たな~?…"そういう意味"で。」

"そういう意味"という言葉にアリッストは溜息を吐く。マナが悪い意味でお人好しかつ人たらしならぬ獣人たらしであるのは感じではいたのだが…このような評判を聞くとは思わなかった。

(そういえば俺があいつを…マナを専属飼育員にしたって話をした時、妙にこいつら悲しい顔してたんだよな…。)

合点がいくアリッストにレンドルは水を飲んでから言い放つ。

「でも結局はアリッストのおかげで俺たちも仲が悪くならずに済んだってことで良かったんじゃねぇの?…フィンもまあ、飼い主が見つかったようだし?良かったな~?」

レンドルの言葉にフィンは軽く笑うがその姿は少し悲しそうであった。気が付いたらアリッストが尋ねれば彼は言い放つ。

「飼われるのは嬉しいんだけどさ…。でも、その飼い主が僕を愛してくれるかってなるとね~。まあ、飼い主はロボットではなくてエルフさんだから、ご長寿だけれども…でも、ロボット様の方が永遠の命だし…とか考えちゃって。」

「…お前。」

「まあでも!なんとかなるって思ってるよ!とりあえずアリッストとこうやって話せて良かった。…また遊びに来てよ?…今度はレンドルが買われないうちにね?」

「はっはっは!先になりそうだがな~!」

笑ってはいるが少し寂しそうな2人にアリッストは何も言うことが出来なかった。


「おいマナ~。…アリッストが呼んでんぞ~!」

「…?アリッストさん?…どうしたのかな?」

現在、昼休憩にて自身はもやしの炒め物を食しているマナは食事を中断して外に出れば、アリッストが手招きをしていた。何か用事かと思いながら歩いて行けば突然抱きつかれたのだ。サリーも居たので驚きと羞恥でいっぱいになるマナではあったがアリッストはさらに抱き寄せる。恥ずかしさのあまり離れようとするマナを離さずにアリッストは彼に囁く。

「連れて行きたいところがあるから来い。」

「えっ?なんで?ですか?」

疑問が残るマナに今度はアリッストはマナを担いでサリーに向けて言い放つ。

「ちょっとコイツ借りるから。…仕事には遅れさせないつもりだからよろしく。」

「はいはい。…あまりマナをいじめんなよ?」

「うるせぇ。」

溜息を吐くサリーがジタバタしているマナに手を振って事務所に入るのであった。
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