鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
34 / 65

《睦月の戦闘》

しおりを挟む
 睦月が居なくなってしまった。そしてきじとも口を利かなくなってしまった。きじは弥生を失ったショックで口を利いてくれないのだ。だからよーじも敢えて口を利いていない。
 静かな一週間が過ぎて体育祭は無事に終わり、よーじはテンションが上がってクシナと共に居る夜空を見やる。「はぁ~っ、サイコーの体育祭だった!」
 夜空はクシナに憑依されれば運動神経が抜群に上がる。だからクシナを朱印としてよーじの左胸に納めれば、その能力は失われる。
 親友である夜空が嬉しそうに自分の足が速くなったのが嬉しくて堪らない様子を見るのが正直言って辛かった。だが、納めない限りいずれ起こるであろうきじの兄である鬼道丸が目覚めて災厄が起こるのだ。
「やったよ~! 初めて一位が取れたっ!」
「良かったですわ、夜空様。私は嬉しいですっ」
「あはっ。クシナさんのおかげだよ~。本当にありがとう!」
 二人の仲睦まじい姿がよーじは痛ましく思えた。自分がそれを引き裂いてしまうのかと思うと苦しくて堪らない。
 そして今は体育祭帰りの通学路。クシナ以外のよーじと夜空は体操着であった。リュックを下げて嬉しそうに歩いている夜空とクシナへよーじはただ俯いている。その姿を見て夜空やクシナが気が付いたようだ。
「どうかしたの、よーじ? やっぱりきじくんと睦月さんが来なかったのは寂しかった?」
「そうでしょうね……。お二人とも、なにやっているんだが。よーじ様は長距離走で一位を勝ち取っていたのに……」
「本当だよねっ。あれはすごかったなぁ。やっぱりよーじはすごいよ!」
 事情を知らない夜空とクシナがよーじを励ましてくれる。有り難いが今は苦しくて仕方がない。そんな時であった。
 よーじの脳内にフラッシュするように映像が浮かんだ。それは槍が飛んでくる映像であった。よーじは瞬時に弥生を呼び出した。「弥生っ、――――来いっ」
 すると白い小刀に変身した弥生が出現した。それから二人の前に出て槍を跳ねのけた。跳ねのけた槍に夜空が目を見開く。「槍っ!?? なにが起こって……?」
「夜空様。私と憑依なさって」
「え、あ、うんっ!」
 クシナの身体が透けていき夜空の中へ吸い込まれていく。その時を境に夜空へ無数の槍が飛んで行く。それをよーじが跳ねのけて、運動神経が抜群になった夜空がどこからか長刀を取り出して翻していった。
 夜空が叫んだ。「誰ですかっ! 出てきてくださいっ!」
 しかし槍や弓矢が飛ぶばかり。よーじは弥生の力を駆使して走り抜けるウサギの如く敵陣へ向かう。すると驚いた。そこには睦月が居たのだから。
「睦月……、どうして?」
 睦月はひどく悲痛そうな顔をして訴えかけた。
「兄貴、これは兄貴の為なんです。兄貴が傷ついていくのは嫌なんですっ!」
 睦月は訳が分からないと言った様子の夜空へ十数本の武器を飛ばした。武器で四方八方塞がれた夜空に睦月はトドメの斬撃を食らわせる。
 しかしその刹那、夜空はまるで意思を失ったかのような動きで塞がれた武器の山から飛び出て睦月へ刃を向けた。睦月は瞬時に槍で対抗する。
 それからゆらりと夜空が怒りに任せたような顔をして睦月へ言い放つ。「私にあだなす奴は、夜空様に刃を向ける者は、――殺すっ!」
 夜空に憑依したクシナが睦月へ剣を向けた。槍と長刀が混じり合い、轟音が鳴り響く。よーじはどうすべきか良いのかわからずにいた。しかしそんな斬撃の中で声が聞こえたのだ。
「よーじっ、よーじっ!!!!」
 その声は一週間も口を利いてくれなかったきじの姿であった。きじはなにかを持っていた。それは真紅と白の数珠でありそれを愛おしげに持っていたのだ。「おらが悪かったっ! だからお願いだっ、おらと憑依してくれっ!」
 よーじが藁にも縋る思いで駆けつけてくるきじと手を取って憑依をする。そして真紅の瞳となったよーじは睦月とクシナの喧騒を止める。
 「やめろ、お前ら。おらに妙案がある」よーじの手元には赤と白の数珠が煌めいていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

処理中です...