鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《目覚めの鬼道丸》

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 地獄のような場所で生まれて鬼を狩ることを務めた男は、今では幼子として生きていた。その姿かたちはある少年と酷似しているが違う点がある。
 少年の髪色は紅蓮の髪であった。赤き髪に漆黒の瞳をした小学一年生ほどの少年である。少年の名前はなかったものの今は名前がある。
 鬼道丸……それが名前のなかった少年の名であった。鬼道丸はぼんやりと窓を眺めているとそこに女性が入ってきた。その女性はなぜかメイド服で日本家屋には似合わない。そんな女性に鬼道丸は冷静な目つきで見やる。
「早太か……。そんな女装をしなくても俺を止める奴は居ねぇよ」
 そう。女性はよく見ると男らしいぎらついた目つきをしていた。喉仏もある。メイド服にしたのは趣味なのか、はたまた体格を隠す為なのかは不明だ。
 早太こと猪早太は鬼道丸のシックなマグカップに日本茶を淹れながら話を進めた。「弟の餓鬼に動きがある模様です。あの狼野郎に言われたのか、朱印を集めているんだとか」
「餓鬼……、あぁ。弟のな。今では立派な名前があるじゃねぇか。鬼を治める者、――鬼治丸って名前を」
 日本茶をふぅふぅと吹いては「あっつぅ……」などと少年らしく舌を出す鬼道丸に早太は少し和んでしまう。だがここは和むべきところではないのだ。
 祠の封印を破かれて、名のない少年を器にして生きている鬼道丸には時間がないのだ。鬼道丸は自分を冤罪の罪で殺した人間たちを、土地を恨んでいる。そしてこの少年もまた、鬼道丸を殺した少年の末裔であるようで、少年を呪うように鬼道丸が憑依しているのだ。
 少年は実験体であった。違法な新薬の実験体として生きていたのだが、鬼道丸が憑依してから力ずくでその場所から逃亡し、今は早太が住んでいる屋敷に居る。
 早太はイノシシを祀っている屋敷の令嬢であった。その女装癖がある青年に憑依しているのが早太だ。だが早太には実態がある。早太の本来の姿は筋骨隆々な男で格闘技を得意としている。
 福禄の強化版と言えば話が早いだろう。そんな筋肉マッチョな令嬢と実験体だった少年は和菓子をつまみながらこれからのことを話す。
「福禄と狼煙はどう動くかな? 特に福禄の動向が気になるな」
「あの狼野郎はともかく、シカ野郎は臭気でもぶら下げればこちらへ来るはずです。種は撒いてあります」
「へぇ~。仕事が早いな。どうやったんだ」
 するとメイド服の中に忍ばせたスマホを弄れば画面を鬼道丸へ見せた。その画面には中小企業の男の写真が乗っかっている。その男に鬼道丸は首を傾げた。
「なんだこのインチキ臭い男は? なんだか邪気が匂う感じがするな」
「わざと匂わせているんですよ。この男にはあらかじめ邪気を纏わせて写真を撮らせました。ですが、今はあの世です」
 あの世、という言葉に鬼道丸はふっと唇を緩ませた。この男がもしかしたら自分の祠を、いや、弟である鬼治丸の祠でさえも荒らした男であるかもしれないのだ。
 しかし、邪気を纏わせたと言うのであればその可能性が高い。双子の忌み子であった畜生と餓鬼には、逸話があるのだ。特に畜生かつ鬼道丸の力を宿したものは名声が舞い込んでくるというものである。
 自分たちにそんな力があるとは思えないが、この少年の身体で自分よりも背の高い人間たちを葬った時の爽快感といったらまた味わいたいものであった。
 この小さく華奢な身体で短刀を片手に振るったのだ。その短刀は自分が味方だと思って傍に居た狼の刃で作った短刀であった。……その狼煙は今、味方でもない。どちらかと言えば敵としか見ないでいる。
「……まずは力試しだ。福禄を倒して取り込む。でもこの男はもうあの世だろう? どうすればいい?」
 鬼道丸の問いかけに早太はニヒルな笑みを浮かんで見せた。それから姿かたちを変えてその男の姿となったのだ。「これでよろしいですか?」
 早太の変身の様に鬼道丸は驚いて手を叩く。「それで行こう。福禄に会うのが楽しみだっ!」
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