鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《よーじのおかげだ》

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 夜になってどこで訓練をしようかという話になったが、狼煙の提案により訓練は公園でやることになった。秋の匂いと冬の匂いがするなとよーじはふと思う。夜空と一緒に準備体操をしてブランコに乗っていた狼煙の前に立った。
「準備できましたよ、狼煙さん」
「バッチコーイですっ!」
 よーじと夜空が拳を掲げると狼煙はブランコから降りた。そして二人へ命令を下す。「よーじは弥生と憑依しろ。それから夜空はクシナと憑依だ。よーじの相手は俺で、夜空は睦月が担当する」
「えっ、俺も参加ですかっ!?」
 まさかの自分が名指しされて驚いている睦月に狼煙はにんまりと笑う。「俺の命令が聞けないって?」
 睦月の背筋が伸びあがった。冷や汗を垂らしながら「そ、そんなことないですよぉ~!」などと苦笑いを浮かべて武器の準備をする。睦月がへこへこしている姿を見てきじは息を吐いた。
「狼煙……、お前ってそんなに性格が悪かったか? 兄貴には従順だったじゃないか」
 すると狼煙はきじの頭を撫でる。わしゃわしゃと撫でる姿にきじはどこか自分の兄である鬼道丸を想起した。
「鬼道丸様は特別だったからなぁ。でも今は坊ちゃんとつるんでいた方が楽しいですよ」
「でも、だったら早太みたいにどうして兄者の味方にならない? どうしておらなんかに……」
「ははっ。俺はね坊ちゃん。鬼道丸様があなたを失って修羅と化してしまってからなんとなく愛想が尽きてしまったんですよ。でも早太は違った。早太はそんな鬼道丸様に焦がれている。それで良いと、逆に敬っているんだ」
 大きな手のひらがきじから離れる。そんな狼煙は少し寂しげな表情を垣間見せた。「人間ってものは失ってわかることと変わっちまう。それが良い方向なのか悪い方向に行くかはわかりません。でも、坊ちゃんは違った。あなたは弥生を失っても宿り主を恨むことなく、こうやって一緒に連れ添っている」
 きじは自分の首元にかかっている赤と白の数珠を握り締めてどこか俯瞰めいた顔を見せる。「弥生を失って辛かったけれど、それでも弥生が依代を残してくれたから、……かな」
 そしてよーじが自分の身体に弥生を憑依させ、弥生である依代の短刀を取り出している姿を見てからふっと笑う。
「でも、これだけは言える。……よーじが弥生と憑依してくれて、おらの宿り主として生きてくれて良かった。よーじが居なかったらおらは自分を見失っていたと思う」
 夜空が指輪から水のように透き通る剣を取り出した。向かう先は槍を持っている睦月だ。夜空は余雫剣で睦月に距離を詰めて斬りかかる。
 しかし睦月は軽々と翻して間合いを詰めた。なにをすべきなのかわかっていない夜空が踏み込もうとするが睦月は容赦なくカウンターパウンチを腹部に食らわせる。
「――ぐへっ!???」
「弱いっつ~のっ」
 吐き捨てるように言い放った勝者は睦月だ。夜空は地面に転がって大きく息を吐いた。そんな夜空によーじが彼の割れていない腹筋を擦る。そんなよーじの優しさを眺めてきじは顔を綻ばせた。
「おらが今、ここで生きられているのはよーじや桃葉じいちゃんやよーじのママのおかげだ。その優しさのおかげで今のおらが居る」
 狼煙が真剣な表情できじを見つめた。そんな狼煙にきじは自分の兄を想ってこんな言葉を紡ぐのだ。「おらは息を吹き返した兄者には会いたい。でも、修羅と化してしまった兄者には、……あまり会いたくないな」
「……俺もですよ。でも、その暴走を止めるのが神のみ使いである俺たちや坊ちゃん、あなたの責任です。血のつながった兄弟のごうというのも、神のみ使いにも含まれているんです」
「そうか……、業かぁ。じゃあ背けちゃいけないな」
 狼煙がにこっと微笑んで弥生を片手に狼煙へお辞儀するよーじへひらりと手を挙げた。そしてそこから大太刀を顕現させて振りかざす。「さぁっ、今度は俺とよーじだっ!」
 狼煙の合図とともによーじは疾風で駆け抜けて狼煙へ斬り込んだのだ。
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