鬼を治めるよーじ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《鬼道丸と福禄》

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 メイド姿の女は福禄へ嫌に笑う。その表情に福禄はふっと笑う。「相変わらず口が汚いなぁ。鬼道丸様に叱られるぞ?」
「鬼道丸様には敬語を使っているから安心しろ。しかし、お前は昔から鼻が利く奴だとは知っていたが……。これじゃあ身に着けた変身の能力が損になっちまう」
 メイド姿の女である早太は姿かたちを変化させて顔を見せた。その男の姿に涼は目を見張る。それは取引相手の相手だったのだから。
 しかしそんな早太に福禄は自慢げな顔を見せた。「人間の食べ物を食べる前にあやかしを食べたから、鼻が利いたのかもね。俺、昔から嗅覚が良かったからさぁ」
「ははっ。お前は昔からそうだったな。だったら話が早い、――付いてきな」
 早太が訳の分かっていない涼を置いてどこかへと行ってしまう。しかし、街灯のようなものがあるので追うことができた。涼はどうしたら良いのか困惑していたが福禄が涼の袖を引っ張って早太の後を付いていく。
 早太を怪しんでいる涼に福禄は愉快そうな顔をしていた。そんな福禄に涼は耳打ちをする。「いいのか、付いていって? なにか企んでいたような顔をしていたぞ」
「あぁ、多分平気だよ。なにかあればみっさんと憑依すればいいだけだしさ。それに、……なんだか楽しそうな予感がするっ」
 能天気を超えてうきうきしている様子の福禄の馬鹿さ加減に涼は盛大な息を吐いた。こいつは本当に食の馬鹿だと自分の相棒かつ神のみ使いを恥じる。
 そんな涼ではあるが早太に付いていくと日本庭園が見えた。大きな池には色鮮やかな鯉が遊泳している。よく見るとカメも居た。
「あ~、うまそ~。鯉って食べられるんだよ? 知ってた、さっさん?」
「まぁそういう風習があるって言うのは聞いたことはあるが……。というか、立派な日本家屋だな。こんな田舎にあるなんてもったいない」
 いや、だからこそ逆に良いのか。などと考えつつ雄大な池を架ける橋を渡り、玄関を早太が開け放った。こう見るとどうして先ほどはメイド服だったのかと考えてしまう。そこは和装だろうと涼は内心で小突いた。
「ただいま戻りました。鬼道丸様」
 涼も福禄も唖然とした顔を見せた。その瞬間に早太は先ほどのメイド服の女の姿となる。そんな中で福禄が自身の髪を触って問いかける。「鬼道丸様って……早太、本当?」
「あぁ。本当も本当もマジだ。鬼道丸様は俺が預かっている。いや、俺が奉仕させて頂けている」
 どこか勝ち誇ったような早太の言動と態度にさすがの福禄もむっとしたようだ。「嘘言うなよ。だって鬼道丸様の匂いがしないじゃん。鬼道丸様は身体中から血の匂いと殺気が湧き上がっていて――」
「それは悪かったな。今は犯罪でもしたら刑務所にぶち込まれるから控えているんだよ」
 突き当りの廊下から現れたのは真紅の長い髪をした少年であった。しかしその姿はどこか見覚えがある。涼はわずかな記憶の中で思い出した。
「あの……、きじ。そう、あのきじって呼ばれていた少年と、――似ている」
 きじという言葉に少年は首を傾げたもののどこか得心を得た表情を見せた。「あぁ、鬼治丸のことか。俺の双子の弟でな。どうだった? あの頃とは違って元気そうだったか?」
 にんまりと笑う少年のような笑顔にやんわりして涼は言葉を紡ぐ。
「えぇ……、まぁ。倒し損ねましたが元気そうでしたよ。仲間も居るみたいでしたし」
 涼の言葉に鬼道丸が腕を組んだ。それから先ほどの笑みから一気に冷めた表情を見せる。
「ふぅ~ん、あいつがねぇ。――気に食わねぇな。忌み嫌われている餓鬼のくせに」
 一瞬にして冷気が纏うような凍り付く言葉に涼は背筋を伸ばした。大きな商談に失敗したわけではないのに自分が地獄に堕ちたような絶望感に浸れるほど凍えた言葉だった。
 鬼道丸はそんな凍えた言葉を紡いでから福禄へ優しげだがどこか企んだような笑みを見せた。「福禄。お前、俺ともう一度組まないか」
 福禄が首を傾げた。そんな福禄に鬼道丸は彼の反応を待つ。数秒も経たないうちに、福禄はにこっと笑った。「いやだね」
「ならっ、――力ずくだっ!」
 鬼道丸は笑みを浮かべたまま福禄へ殴り込もうとした。それを涼が福禄を庇うように彼の身体をとっさに押したのだ。
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