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《前兆》
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楠にキスをして抱き締めた翌日、ウツギはルンルン気分であった。
「ふんふ~ん、ふふ~ん、ふ~ん!」
心があったら踊りだしそうな勢いだ。……というか踊りだしている。
あの後『まぁ親子でもキスしたり、抱き締めたりするからな。今回は良いとしよう』などと謎の括りを付けて、キスやハグをするのはオッケーとなった。――ただし、二人っきりでするのが条件である。
それでもとてつもなく嬉しかった。
「うひひ~、やったぁ~! またキスもハグもできる~!」
すると気合が入って、樟の落ち葉をほうきでささっと掃除していく。樟脳の香りが心地よい。
――だが状況が一変した。
「おいおい兄さん、ちょ~とばかし面貸せないかい?」
「俺たちと来てくれるかな?」
白衣を着た二人の男が開場前なのに勝手に入園してきたのだ。さすがにウツギも「すみません、まだ開場が……」口籠るように言ってしまうのだが、一人の男に腕を掴まれて引っ張られたのだ。
「なに言ってんだ、AB77-2005樹! お前はガラクタじゃないってことが証明されたんだよ!」
AB77-2005樹。……自分の本名だが今は違う。自分は今、阿部 稔という人間だ。ネイチャードールという人間だ。
ウツギが手を振り払い逃げ出そうとして……掴まる。痛みはないが髪の毛を掴まれているので、皮膚が引っ張られる感覚に陥る。
「ほら、こいつを早く!」
「楠さん! 楠さん!! ――うぐっ!」
口を手で押さえられたので咄嗟に嚙みついた。「いだぁっ!??」と男が言って、ウツギは全速力で走り出す。……口の中が鉄のような腐った味がした。
全速力で駆け出し、楠の自室をけたたましく開け放った。
轟音が鳴り響いて「なんだ!?」下着だけしか身に着けていない様子の楠など気にせずにウツギは抱き着いて――泣き出してしまった。
「お、おい。どうした、急に?」
筋肉質な色気が漂う楠の胸を抱いて、ウツギは泣き出しながら経緯を話し出した。掃除をしていたら変な男二人に連れ去られそうになったこと。楠を何度も呼んだこと。――恐怖という感情が芽生えたこと。
「こわかった、です、うぅ……ひぃっく……ぅうっ!」
涙を零しながら訴えかける華奢で色白な青年に、楠はふと頭を過らせたがかぶりを振り「とりあえずは警察だな」そう告げて抱擁した。
楠はあたたかった。涙が次第に止まっていく。
「今日は大学を休んで検診しよう。俺が帰ってくるまで自室で待っているんだ。鍵は閉めておくんだぞ?」
額にキスをされて安堵したウツギは眠るように、楠の部屋で堕ちたのだ。
「ふんふ~ん、ふふ~ん、ふ~ん!」
心があったら踊りだしそうな勢いだ。……というか踊りだしている。
あの後『まぁ親子でもキスしたり、抱き締めたりするからな。今回は良いとしよう』などと謎の括りを付けて、キスやハグをするのはオッケーとなった。――ただし、二人っきりでするのが条件である。
それでもとてつもなく嬉しかった。
「うひひ~、やったぁ~! またキスもハグもできる~!」
すると気合が入って、樟の落ち葉をほうきでささっと掃除していく。樟脳の香りが心地よい。
――だが状況が一変した。
「おいおい兄さん、ちょ~とばかし面貸せないかい?」
「俺たちと来てくれるかな?」
白衣を着た二人の男が開場前なのに勝手に入園してきたのだ。さすがにウツギも「すみません、まだ開場が……」口籠るように言ってしまうのだが、一人の男に腕を掴まれて引っ張られたのだ。
「なに言ってんだ、AB77-2005樹! お前はガラクタじゃないってことが証明されたんだよ!」
AB77-2005樹。……自分の本名だが今は違う。自分は今、阿部 稔という人間だ。ネイチャードールという人間だ。
ウツギが手を振り払い逃げ出そうとして……掴まる。痛みはないが髪の毛を掴まれているので、皮膚が引っ張られる感覚に陥る。
「ほら、こいつを早く!」
「楠さん! 楠さん!! ――うぐっ!」
口を手で押さえられたので咄嗟に嚙みついた。「いだぁっ!??」と男が言って、ウツギは全速力で走り出す。……口の中が鉄のような腐った味がした。
全速力で駆け出し、楠の自室をけたたましく開け放った。
轟音が鳴り響いて「なんだ!?」下着だけしか身に着けていない様子の楠など気にせずにウツギは抱き着いて――泣き出してしまった。
「お、おい。どうした、急に?」
筋肉質な色気が漂う楠の胸を抱いて、ウツギは泣き出しながら経緯を話し出した。掃除をしていたら変な男二人に連れ去られそうになったこと。楠を何度も呼んだこと。――恐怖という感情が芽生えたこと。
「こわかった、です、うぅ……ひぃっく……ぅうっ!」
涙を零しながら訴えかける華奢で色白な青年に、楠はふと頭を過らせたがかぶりを振り「とりあえずは警察だな」そう告げて抱擁した。
楠はあたたかった。涙が次第に止まっていく。
「今日は大学を休んで検診しよう。俺が帰ってくるまで自室で待っているんだ。鍵は閉めておくんだぞ?」
額にキスをされて安堵したウツギは眠るように、楠の部屋で堕ちたのだ。
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