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《離さない》
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チューリップの謎の解明に進んでいく植物探偵団。資料を漁って判明したことがかなりあった。
まずチューリップは寒さに関しては異常なほど平気なようだが、高温や湿度にはかなり弱いらしい。そのせいで梅雨の時期に入ると、地上部が枯れて球根は残るものの、その球根は腐るというわけだ。
「ふ~ん、なるほどね……。じゃあ第一は球根が腐るからってなるのか」
「ほかには休眠前に球根に蓄えておいた栄養を種子が作るのに専念して弱くなるっていうのも書いてあるぞ」
目木や黒鉄が発する言葉を百日紅は自前のパソコンで書き出し、ウツギは瞳を青と白のコントラスト調にしてレポート用紙に写し出す。
彼は昨日の――楠が忘れられなかった。
『駄目だウツギ。もうやめよう』
『どうしてですか?』
すると楠は真剣な眼差しで見つめたのだ。
『俺とお前は親子みたいな関係なんだ。普通の親子はキスなんてしない。変な感情だって抱かない』
鋭利で冷酷な言葉がぐさりと刺さり、それでもとウツギは言うものの楠は疲れた様子で背を向ける。
『俺は疲れたから自室に戻る。――来るなよ』
パタンと閉ざされたドアから悲しみという感情が込み上げて、ウツギは静かに泣いたのだ。
(楠さん、もうキスしてくれないのかな。それ以上のことも、駄目なのかな……?)
息を漏らしてしまうウツギに百日紅が気にかけるが「さっちゃんには関係ないよ」そう言ってがむしゃらにレポート用紙に書き進めるウツギが寂しそうだなと目木や黒鉄は感じ取っていた。
「さて、チューリップの謎についてのお手並み拝見だな」
顧問の楠が現れて机を囲む感じで発表形式となった。
今回は目木が担当する番である。そんな彼は自信ありげな顔を作った。
「じゃあ先生はチューリップの正式名称はご存じで?」
「鬱金香でついでに言うのならユリ目ユリ科チューリップ属だな」
「さすが庭師もやっているから知識が豊富で」
「……挑発されているのが解せないが、次に進め」
すると目木は歩きながらレポート用紙に目を向けた。
「俺たちは球根の水分量に着目しました。片方は普通に芽が出て咲く奴で、もう片方は育てても出ないものです。――すると、後者の方は水分量が圧倒的にあり、腐っていました」
「それで、お前たちが導き出した答えは?」
「チューリップは湿度に弱いということと――あともう一つ。栄養分を種子に蓄えさせようとして力尽きた……という考え方です。いかがでしょうか」
目木の挑戦的な瞳に楠はふっと笑ったかと思えば、拍手を送っていた。……つまり、謎は解明されたのだ。
「最初の湿度で引っかかるかと思ったが、稀有にならなかったな。――よし、解明祝いだ。コーヒーでも淹れてやる」
「やっほーい!」
目木と百日紅が喜んでハイタッチをするなかで、ウツギは瞳を青くさせていた。そんな彼を見た黒鉄は心配になったようだ。
「どうした、うーちゃん。気分でも悪いか?」
「あ、いや……ううん。俺、コーヒー嫌いだから」
「お、そうか……。なんか悪いな」
「ううん。あと少し疲れちゃったから、植物園に戻るね」
ウツギは冷蔵庫からジャスミンティーを取り出しマグカップに注いで飲み干してから、ふらふらした様子でドアを開けた。――その様子を、コーヒーを淹れている楠が気づいていた。
ふらふらと自室に戻り、ベッドに寝そべってウツギは考え込む。
……楠さんに触れられないのではないか。
……好きじゃなくなったのではないか。
――キスしてくれないのではないか。
「うぅ……ぅうっ、うっ……――ひっくぅ……」
幾筋の涙が溢れてないはずの胸が痛い。その感覚が怖くて堪らない。
(もう寝よう。人間は嫌なことがあったら寝るって楠さんが言っていたから)
楠さんと口にしてウツギは考えぬように眠るのだ。
――甘くておいしそうな香りが部屋に漂っていた。
「んぅ……、なんだろう?」
「起きたか、ウツギ」
目の前にはカップを右手に携えたミステリアスだが色男の楠が微笑んでいた。片目が前髪によって隠されているので眼鏡と相まって色情だがインテリな感覚も味わえる。
そんな楠がウツギは好きだ。――でも、今は現れて欲しくなかった。
「な、んですか、急に?」
「急にじゃないだろ。人がせっかくアイスココア淹れてやったのに」
「それは貰います」
「……卑しい奴」
だが言葉とは裏腹に微笑んでいるので、ウツギの悪気のなさは感じ取っているようだ。
マグカップを受け取りごくりと一口飲む。――今まで味わったことがないくらい濃厚で甘みがあり、水を欲したいくらいであった。
「どうだ? ちょっとチョコレート刻んで入れたんだよ。これでお前も機嫌を――」
ウツギが唇を奪う。吸いつくようなキスに楠も応えるように淫らな液を注ぎ込む。
「んぅ……、んぅ――んぅ……」
ちゅっと音がして涎が垂れたかと思えば、ウツギは甘ったるいココアを幾分飲んだかと思えば机に置き、またしても楠の唇を奪う。
――そのままココアを流し込んでいく。楠の喉仏が上下に鳴った。
唇が執念深く離そうとしないので、楠がウツギの舌を噛んだ。「?」という感覚がして離したウツギに、楠は罰が悪そうな顔をする。
「……水、持ってくるべきだったな。――あと、俺はお嬢様の件については引いているからな」
ニヒルに笑う楠にウツギは笑って抱き締めたのだ。瞳が透き通った白潤であった。
まずチューリップは寒さに関しては異常なほど平気なようだが、高温や湿度にはかなり弱いらしい。そのせいで梅雨の時期に入ると、地上部が枯れて球根は残るものの、その球根は腐るというわけだ。
「ふ~ん、なるほどね……。じゃあ第一は球根が腐るからってなるのか」
「ほかには休眠前に球根に蓄えておいた栄養を種子が作るのに専念して弱くなるっていうのも書いてあるぞ」
目木や黒鉄が発する言葉を百日紅は自前のパソコンで書き出し、ウツギは瞳を青と白のコントラスト調にしてレポート用紙に写し出す。
彼は昨日の――楠が忘れられなかった。
『駄目だウツギ。もうやめよう』
『どうしてですか?』
すると楠は真剣な眼差しで見つめたのだ。
『俺とお前は親子みたいな関係なんだ。普通の親子はキスなんてしない。変な感情だって抱かない』
鋭利で冷酷な言葉がぐさりと刺さり、それでもとウツギは言うものの楠は疲れた様子で背を向ける。
『俺は疲れたから自室に戻る。――来るなよ』
パタンと閉ざされたドアから悲しみという感情が込み上げて、ウツギは静かに泣いたのだ。
(楠さん、もうキスしてくれないのかな。それ以上のことも、駄目なのかな……?)
息を漏らしてしまうウツギに百日紅が気にかけるが「さっちゃんには関係ないよ」そう言ってがむしゃらにレポート用紙に書き進めるウツギが寂しそうだなと目木や黒鉄は感じ取っていた。
「さて、チューリップの謎についてのお手並み拝見だな」
顧問の楠が現れて机を囲む感じで発表形式となった。
今回は目木が担当する番である。そんな彼は自信ありげな顔を作った。
「じゃあ先生はチューリップの正式名称はご存じで?」
「鬱金香でついでに言うのならユリ目ユリ科チューリップ属だな」
「さすが庭師もやっているから知識が豊富で」
「……挑発されているのが解せないが、次に進め」
すると目木は歩きながらレポート用紙に目を向けた。
「俺たちは球根の水分量に着目しました。片方は普通に芽が出て咲く奴で、もう片方は育てても出ないものです。――すると、後者の方は水分量が圧倒的にあり、腐っていました」
「それで、お前たちが導き出した答えは?」
「チューリップは湿度に弱いということと――あともう一つ。栄養分を種子に蓄えさせようとして力尽きた……という考え方です。いかがでしょうか」
目木の挑戦的な瞳に楠はふっと笑ったかと思えば、拍手を送っていた。……つまり、謎は解明されたのだ。
「最初の湿度で引っかかるかと思ったが、稀有にならなかったな。――よし、解明祝いだ。コーヒーでも淹れてやる」
「やっほーい!」
目木と百日紅が喜んでハイタッチをするなかで、ウツギは瞳を青くさせていた。そんな彼を見た黒鉄は心配になったようだ。
「どうした、うーちゃん。気分でも悪いか?」
「あ、いや……ううん。俺、コーヒー嫌いだから」
「お、そうか……。なんか悪いな」
「ううん。あと少し疲れちゃったから、植物園に戻るね」
ウツギは冷蔵庫からジャスミンティーを取り出しマグカップに注いで飲み干してから、ふらふらした様子でドアを開けた。――その様子を、コーヒーを淹れている楠が気づいていた。
ふらふらと自室に戻り、ベッドに寝そべってウツギは考え込む。
……楠さんに触れられないのではないか。
……好きじゃなくなったのではないか。
――キスしてくれないのではないか。
「うぅ……ぅうっ、うっ……――ひっくぅ……」
幾筋の涙が溢れてないはずの胸が痛い。その感覚が怖くて堪らない。
(もう寝よう。人間は嫌なことがあったら寝るって楠さんが言っていたから)
楠さんと口にしてウツギは考えぬように眠るのだ。
――甘くておいしそうな香りが部屋に漂っていた。
「んぅ……、なんだろう?」
「起きたか、ウツギ」
目の前にはカップを右手に携えたミステリアスだが色男の楠が微笑んでいた。片目が前髪によって隠されているので眼鏡と相まって色情だがインテリな感覚も味わえる。
そんな楠がウツギは好きだ。――でも、今は現れて欲しくなかった。
「な、んですか、急に?」
「急にじゃないだろ。人がせっかくアイスココア淹れてやったのに」
「それは貰います」
「……卑しい奴」
だが言葉とは裏腹に微笑んでいるので、ウツギの悪気のなさは感じ取っているようだ。
マグカップを受け取りごくりと一口飲む。――今まで味わったことがないくらい濃厚で甘みがあり、水を欲したいくらいであった。
「どうだ? ちょっとチョコレート刻んで入れたんだよ。これでお前も機嫌を――」
ウツギが唇を奪う。吸いつくようなキスに楠も応えるように淫らな液を注ぎ込む。
「んぅ……、んぅ――んぅ……」
ちゅっと音がして涎が垂れたかと思えば、ウツギは甘ったるいココアを幾分飲んだかと思えば机に置き、またしても楠の唇を奪う。
――そのままココアを流し込んでいく。楠の喉仏が上下に鳴った。
唇が執念深く離そうとしないので、楠がウツギの舌を噛んだ。「?」という感覚がして離したウツギに、楠は罰が悪そうな顔をする。
「……水、持ってくるべきだったな。――あと、俺はお嬢様の件については引いているからな」
ニヒルに笑う楠にウツギは笑って抱き締めたのだ。瞳が透き通った白潤であった。
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