クスノキとアベリア

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《キスして》

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 チューリップの謎の解明はかなり進んでいる。
 まず、チューリップの球根を調べた目木と黒鉄は成果がないと言っておきながら、片方は水分量が多いことが判明した。また腐っているとも。「成果あるじゃねぇか!」百日紅が突っ込みを入れつつ、目木や黒鉄はにやりと微笑みながらも資料を漁っていくのだ。そんな四人だが、ウツギはかなり上の空で……。
「うーちゃん平気? なんかさっちゃんにされた?」
「してねぇよ、別に!」
「むっつりスケベのさっちゃんには聞いていないの。――で、なにかあった?」
 「俺は無罪だ!」と主張し、「うるさい、手を動かせ」黒鉄に叱られて項垂れる百日紅を傍目にウツギは溢れるはずのない瞳を潤ませ「楠さんに捨てられるかも……」皆を勘違いさせる発言をしたのだ。
「「「はぁっ!???」」」
 さすがに戸惑う様子の彼らにウツギは濃厚な青に染めて紡ぎだしていく。
「俺、楠さんに拾われて色んなことをさせてくれたんです。植物園の手入れも楽しいし、こうやってみんなの輪に入れたのも嬉しかったし、助手にもなれたし、あと……」
「あと?」
 ウツギの濃紺が白く染まり頬が赤くなった。なにかを察知した目木は「さっちゃんの耳、塞いで」と告げるや否や黒鉄が両耳を塞いで後ろを向かせていた。
 黒鉄も察していたらしい。案の定、百日紅がぎゃんぎゃん騒いでいるが気にせずに、紅潮しているウツギへ目木は視線を落とした。
「それ以上のことされたの? たとえばこの前の……キス以外に」
「……はい。褒めてくれる時にしてくれます。それにこの前は肌に触れて、俺の、あの……その……」
 目線を下にして白と青のコントラスト調で真っ赤になる馬鹿正直さに、目木は盛大に、とてつもなく盛大なため息を吐いたのだ。
「――最低だな、先生。そんで、この純粋無自覚ボーイになに吹き込まれたの?」
「……ド田舎にいる豪邸で庭の手入れをするけれど、楠さんを狙っているお嬢様がいるって」
 すると目木は今でも百日紅の両耳を抑えている黒鉄に、目線で合図した。するとわかったかのように両耳を解放したかと思えば――ゴツンと拳骨を食らわせていたのだ。
「いだぁ!!?? なにすん――」
「うーちゃんを不安にさせたからだ、このサル」
「なっ、サルって……」
 今度こそ項垂れて泣き出しそうな百日紅と、羞恥と渦巻く感情に混乱して泣き出しそうなウツギに二人は肩を落とした。
「まぁチューリップの謎も解明できそうだしさ。先生に電話してみたら?」
「……俺、スマホないです」
「ま、じか……。じゃあ俺の貸してあげるからさ。アプリに連絡先入っているから。――ほら、このアイコンのこの通話ボタン押せば、通話できるから」
 丁寧に説明をして通話を開始させる目木に感謝をして、スマホに耳を傾ける。――しょげている百日紅の両耳を黒鉄が再び奪った。
 この天然爆発生物がなにを言い出すのか予想できないからだ。
 コール音が数回して『目木か? なんか用事か?』疲弊を交えたような楠の声に、ウツギのあるはずのない心臓が震え、全身が火照る。
「楠さん! ウツギです!!! 早く帰ってきてください!!!!」
『ってうるさ……。もう仕事終えて大学に向かおうとしていたんだ。……ったく、疲れてんのによ』
 皮肉交じりだがそれでもウツギは嬉しかった。
「あとでキスしてくださいね! じゃあまた!!!」
『はぁっ!??』
 とんでもないほどでかい声で言い放ったので、百日紅にも聞こえたようだ。「え……、キス?」二人に問いかけるが、黒鉄が「魚のきすが旨いんだとさ」そうこじつけした。
 ……ナイス、相棒!
 目木がにやりと笑っていた。

 ――楠の帰りは遅かった。夜の七時を回っても帰ってこないので、植物探偵団は謎を解き明かす前に各々で帰ってしまうが……ウツギはひたすらに待っていた。
 資料の整理やディベートで疲弊はかなりあるが、それでも待っていた。楠の為に。――楠に会いたいから。
 ガチャリと音がしてウツギは全身を震わせた。……汗だくの楠が帰ってきたのだ。汗だくであっても首にはタオルが掛けられていて、不思議と嫌な香りはしない。
 逆に樟脳のつんざく香りが放って充満し、色香となっていた。
 ごくりと呑み込んで「おつかれさまです」なんとなく小さな声になってしまうウツギに、楠は破顔した。
「なんだ、その気圧されたような反応は~? やっぱり俺が怖くなったか?」
 両手でがおーとニヤついて笑う楠の普段の調子に充てられて、ウツギはくすりと微笑んだかと思えば……駆け寄って触れた。触れただけの、可愛らしいキスであった。
「お、おい……?」
 途端に戸惑う楠に負けずにウツギはたくさんのキスを注ぐ。子供のようなキスをされて「待った!!」そう言って楠がウツギの行為を中断させる。
「お前なんか変だぞ? 目木になんかされたか? 黒鉄はないとして、百日紅……とか?」
「違いますよ。楠さんが心配だったんです。――奪われないか心配だったんです」
 楠の汗だくな身体に触れて、抱き締める。汗臭さは否めないが、逆にウツギを欲情させる。――淫らな言葉が走った。
「せんせい……、シてください。もっと、エッチなの、して?」
 楠が酷く驚いた顔をした。
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