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1章 サバイバル
光の中で
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僕はそれを眺めていた。何か不思議と現実を受け入れきれず、身体が自分のものでないようだった。
あっ、死ぬか。そう認識した身体に強い〝横向き〟の衝撃が襲った。
「……っ!?」
真横にあいつの顔があった。そいつの嫌味のない、最高のドヤ顔は音の聞こえない世界で言葉を伝える。
その口は大きくそしてはっきりと開かれ、一言一言を区切るように動かされた。
実際にはコンマ数秒であろうその時間は、でもその時だけはそんなスピードで感じられた。
『ま・も・れ』
たった三文字のそれは主語も修飾語もない。でもそれはあいつの目が伝えていた。
周りの風景が徐々にその解像度を上げていく。それにつれて、もどかしかった身体の動きに意志が通じ始める。
思考速度が戻り出したのだ。
色を取り戻し始めた世界の中で僕とあいつの身体が確実なスピードで離れ出す。
あいつの姿がペイントと煙の中に消えた。
僕の身体はその爆風に押され、拠点近くまで飛ばされた。
しばらくの浮遊感の後で背中にこらえきれない衝撃がはしった。
空の青が黒へと変わり始める。
────隼人の意識はそこで途切れた。ここに1人の戦士が脱落した。残された戦士はそれを胸に足をだす。
『空中から落下物!』
無線から誰かの声が伝えられた。
私は反射的に窓に張り付くと、その正体を視認した。
「隼人!?」
村の入口の方は煙とペイントで殆ど視界がなくなっていた。
だが、そのベールの向こうにある存在は肌にくるピリピリとした感覚により伝えられている。
「磯崎とケイリーは村内の罠の全破壊を、残りの第四小隊は隼人の回収をお願いします」
命令と同時に4人は拠点の外へと飛び出した。
部屋に1人残る夜空は壁を見つめた。いや、正確にはその〝壁に立てかけられたもの〟を見つめた。
M1ガーランド
夜空はそれを手にとると、グレネードを装備し、銃口を空に向けた。銃を抱き、祈る少女の姿がそこにあった。
────夕日がその銃口を照らし、それを持つものとの境を無くした。
「場所は分かるのか?」
前を走る背中に迷いは感じられない。風になびく金髪は夕日を受けてより一層輝いている。
その地上の太陽に並びたくて問をなげかけた。
「基本的に村を囲むように配置してあるはずよ。……まぁあの2人のことだから他にも仕掛けてある可能性は高いと思うけど」
彼女のは走りながらとは思えないほどに滑らかにその〝問〟に答えた。
彼女の声は風に乗り、無線と合わせて二重に鼓膜を震わせる。
「目標確認」
話は終わり、とでも言いたげにその報告は行われる。
なるほど、20メートル前方のT字路に3つの木箱が見える。
ケイリーはその横を通り抜ける寸前に一発の弾を撃ち込む。
2人はその弾道を見ることなく次の目標へと走り続ける。
後方から暖かい風が吹き抜けた。
「やっぱり、あの2人、やらかしてるわよ」
5箇所程、爆破させたところでケイリーはそれに気づいた。
磯崎はケイリーの目線を追って、空を見上げた。
空で〝火〟が流れていた。
「あっ、あれは!?」
「導火線よ、あの2人、屋根を経由させて空中にも手榴弾を設置していたのよ!」
その言葉を裏ずけるようにその火は空中の一点に留まると、一拍の時を上げて膨張した質量を放出した。
〝空の火〟はそれだけではない。火は空中でいくつかに分断し、その数を増やしていく。
「磯崎、撤退するよ」
「でも、地上のやつは?」
「それは、無視していい。説明は後、時間がないの」
その言葉には明らかな焦りが見て取れた。磯崎も選ばれた小隊長の1人である、状況を無視して質問を続けるほど愚かではなかった。
(隼人、零の馬鹿!)
────少女の叫び声は彼女の中でひどく響いた。
3日目 午後6時30分
隼人と零が仕掛けていた、空中の手榴弾も爆発はまばらとなり、その脅威は失われようとしていた。
地上の手榴弾は2人の独断でそのほとんどが空のものに変えられていたため、同様に脅威はなかった。
「オオオオォォォォ!!!!!!」
鬨の声が上がった。村はあちこちでの爆発により、既に煙の世界となっている。
風はないわけではないのだが、その煙は不思議とその存在をとどめ続ける。
敵により新たに作られた煙は徐々にその範囲を狭め、拠点へと迫っていた。
この拠点への乗り込みが始まるのは時間の問題であった。
「総員撤退」
遂に夜空は決断した。その声に迷いはない、それでも、その言葉に映る悲しみは消されることなく皆の心に届く。
「私が囮になります。その隙に……」
続く彼女の言葉は、物理的行為によって遮られた。誰かの手が、背後から夜空の口に当てられていた。
その手の優しさから味方ということは分かる。
「小隊長にはその自覚を持ってもらいたいな。ここはケガ人の僕に任せてよ」
彼の口調は優しいが、その瞳は厳しい。
その瞳には反論を許さない迫力があった。
隼人は夜空の口に手を置いたまま視線を合わせる。
「大丈夫、ここで脱落する気はさらさらない」
その言葉で夜空の決意も決まった。
その言葉はその場しのぎの嘘かも知れない。それでもそれは確かに〝部下〟の口から出たものである。
それを信じてやれなくて、それこそ、どこが小隊長と言えるのだろうか。
「第九小隊、3番機担当、笹井隼人訓練生、あなたに当拠点の殿を命じます────後で必ず……合流しなさい」
「了解」
空はやんわりと暗くなってきていた。まだ、木や建物のシルエットは確認出来るもののそれが出来なくなるのにそう時間はかからないだろう。
拠点前方にて本日最大の爆発が起こった。
暗い中でいきなり飛び込んでくる暴力的な光の量は一時的に生物の視界を白く塗り潰した。
その一瞬だけ目を背けていた隼人は村の道を一列で駆け抜ける仲間たちの姿を確認した。
その周辺には目を押さえ、棒立ちになっている敵の姿も見えた。
とっさに確認できるのは3人、その標的に向け、隼人の銃口はゆっくりと定まる。
また、爆発が起きた。先ほどまでに再度仕掛けた、いや適当にばらまいた手榴弾の爆発する音だ。
隼人と零が集めた残りの手榴弾は全て拠点周囲にばらまいてある。
その派手な演出を前に、敵の目にはこちらが脱出したことに気づいたものはいないのであろう。
同じ場所で大きな存在感を見せつけるそれは、敵の視線を一点に集めていた。
1つ、新たな爆発音が響く。その余韻に隠れるように空間を切り裂く音が鳴る。
また1つ、新たな爆発音が響く。その余韻に隠れるように地面に質量が加わる音が鳴る。
光の幻覚の中、一丁の拳銃を持つ彼の姿は夜の光の中に大きく、浮かび上がっていた。
あっ、死ぬか。そう認識した身体に強い〝横向き〟の衝撃が襲った。
「……っ!?」
真横にあいつの顔があった。そいつの嫌味のない、最高のドヤ顔は音の聞こえない世界で言葉を伝える。
その口は大きくそしてはっきりと開かれ、一言一言を区切るように動かされた。
実際にはコンマ数秒であろうその時間は、でもその時だけはそんなスピードで感じられた。
『ま・も・れ』
たった三文字のそれは主語も修飾語もない。でもそれはあいつの目が伝えていた。
周りの風景が徐々にその解像度を上げていく。それにつれて、もどかしかった身体の動きに意志が通じ始める。
思考速度が戻り出したのだ。
色を取り戻し始めた世界の中で僕とあいつの身体が確実なスピードで離れ出す。
あいつの姿がペイントと煙の中に消えた。
僕の身体はその爆風に押され、拠点近くまで飛ばされた。
しばらくの浮遊感の後で背中にこらえきれない衝撃がはしった。
空の青が黒へと変わり始める。
────隼人の意識はそこで途切れた。ここに1人の戦士が脱落した。残された戦士はそれを胸に足をだす。
『空中から落下物!』
無線から誰かの声が伝えられた。
私は反射的に窓に張り付くと、その正体を視認した。
「隼人!?」
村の入口の方は煙とペイントで殆ど視界がなくなっていた。
だが、そのベールの向こうにある存在は肌にくるピリピリとした感覚により伝えられている。
「磯崎とケイリーは村内の罠の全破壊を、残りの第四小隊は隼人の回収をお願いします」
命令と同時に4人は拠点の外へと飛び出した。
部屋に1人残る夜空は壁を見つめた。いや、正確にはその〝壁に立てかけられたもの〟を見つめた。
M1ガーランド
夜空はそれを手にとると、グレネードを装備し、銃口を空に向けた。銃を抱き、祈る少女の姿がそこにあった。
────夕日がその銃口を照らし、それを持つものとの境を無くした。
「場所は分かるのか?」
前を走る背中に迷いは感じられない。風になびく金髪は夕日を受けてより一層輝いている。
その地上の太陽に並びたくて問をなげかけた。
「基本的に村を囲むように配置してあるはずよ。……まぁあの2人のことだから他にも仕掛けてある可能性は高いと思うけど」
彼女のは走りながらとは思えないほどに滑らかにその〝問〟に答えた。
彼女の声は風に乗り、無線と合わせて二重に鼓膜を震わせる。
「目標確認」
話は終わり、とでも言いたげにその報告は行われる。
なるほど、20メートル前方のT字路に3つの木箱が見える。
ケイリーはその横を通り抜ける寸前に一発の弾を撃ち込む。
2人はその弾道を見ることなく次の目標へと走り続ける。
後方から暖かい風が吹き抜けた。
「やっぱり、あの2人、やらかしてるわよ」
5箇所程、爆破させたところでケイリーはそれに気づいた。
磯崎はケイリーの目線を追って、空を見上げた。
空で〝火〟が流れていた。
「あっ、あれは!?」
「導火線よ、あの2人、屋根を経由させて空中にも手榴弾を設置していたのよ!」
その言葉を裏ずけるようにその火は空中の一点に留まると、一拍の時を上げて膨張した質量を放出した。
〝空の火〟はそれだけではない。火は空中でいくつかに分断し、その数を増やしていく。
「磯崎、撤退するよ」
「でも、地上のやつは?」
「それは、無視していい。説明は後、時間がないの」
その言葉には明らかな焦りが見て取れた。磯崎も選ばれた小隊長の1人である、状況を無視して質問を続けるほど愚かではなかった。
(隼人、零の馬鹿!)
────少女の叫び声は彼女の中でひどく響いた。
3日目 午後6時30分
隼人と零が仕掛けていた、空中の手榴弾も爆発はまばらとなり、その脅威は失われようとしていた。
地上の手榴弾は2人の独断でそのほとんどが空のものに変えられていたため、同様に脅威はなかった。
「オオオオォォォォ!!!!!!」
鬨の声が上がった。村はあちこちでの爆発により、既に煙の世界となっている。
風はないわけではないのだが、その煙は不思議とその存在をとどめ続ける。
敵により新たに作られた煙は徐々にその範囲を狭め、拠点へと迫っていた。
この拠点への乗り込みが始まるのは時間の問題であった。
「総員撤退」
遂に夜空は決断した。その声に迷いはない、それでも、その言葉に映る悲しみは消されることなく皆の心に届く。
「私が囮になります。その隙に……」
続く彼女の言葉は、物理的行為によって遮られた。誰かの手が、背後から夜空の口に当てられていた。
その手の優しさから味方ということは分かる。
「小隊長にはその自覚を持ってもらいたいな。ここはケガ人の僕に任せてよ」
彼の口調は優しいが、その瞳は厳しい。
その瞳には反論を許さない迫力があった。
隼人は夜空の口に手を置いたまま視線を合わせる。
「大丈夫、ここで脱落する気はさらさらない」
その言葉で夜空の決意も決まった。
その言葉はその場しのぎの嘘かも知れない。それでもそれは確かに〝部下〟の口から出たものである。
それを信じてやれなくて、それこそ、どこが小隊長と言えるのだろうか。
「第九小隊、3番機担当、笹井隼人訓練生、あなたに当拠点の殿を命じます────後で必ず……合流しなさい」
「了解」
空はやんわりと暗くなってきていた。まだ、木や建物のシルエットは確認出来るもののそれが出来なくなるのにそう時間はかからないだろう。
拠点前方にて本日最大の爆発が起こった。
暗い中でいきなり飛び込んでくる暴力的な光の量は一時的に生物の視界を白く塗り潰した。
その一瞬だけ目を背けていた隼人は村の道を一列で駆け抜ける仲間たちの姿を確認した。
その周辺には目を押さえ、棒立ちになっている敵の姿も見えた。
とっさに確認できるのは3人、その標的に向け、隼人の銃口はゆっくりと定まる。
また、爆発が起きた。先ほどまでに再度仕掛けた、いや適当にばらまいた手榴弾の爆発する音だ。
隼人と零が集めた残りの手榴弾は全て拠点周囲にばらまいてある。
その派手な演出を前に、敵の目にはこちらが脱出したことに気づいたものはいないのであろう。
同じ場所で大きな存在感を見せつけるそれは、敵の視線を一点に集めていた。
1つ、新たな爆発音が響く。その余韻に隠れるように空間を切り裂く音が鳴る。
また1つ、新たな爆発音が響く。その余韻に隠れるように地面に質量が加わる音が鳴る。
光の幻覚の中、一丁の拳銃を持つ彼の姿は夜の光の中に大きく、浮かび上がっていた。
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