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第八話 見え見えの罠

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「にゃあ」

「アイリス、そこに罠があるから気をつけろ……と言ってる」

「えっ? うわぁ……古典的で陰湿な罠ね」

ダンジョンに潜入してちょこっと歩いた。

すると目の前には立派な宝箱……なんて、罠に決まってる。
開け口の所をよくよく見てみると、呼吸をするように動いているから、これは噂に聞く『ミミック』というヤツだ。
暗いところだと分かりづらい設計ではあるが、俺は猫だから関係ない。



「にゃあにゃあ……にゃあ」

「ダンジョン攻略、猫になった方がいいかもな……と」

ミミックは無視して、その先へ。


すると今度は大量のゴブリンが襲いかかってきた。
が、アイリスにより瞬殺。俺とヤミィは傍観するだけだった。

「モルトの猫ちゃんモード。……たまになら良いけど、いつもは嫌よ。足手纏いが増えたら、生存率が下がっちゃうじゃない」

「ひどい……モルトかわいそう」

「にゃあ……」

「……ごめん」

アイリスの士気が少し下がった。



また少し歩くと、行き止まりにぶち当たる。
ここまで『財宝ダンジョン』に相応しい報酬はない。
というか、高い受注可能ランクにしては、道中が簡単すぎた。

で、壁が聳え立っていて、これでダンジョンが終わりというのも呆気ない。

「はぁっ……はぁっ……。……硬いわね」

アイリスが壁を破壊できないかと何度か試したが、傷ひとつつけられなかった。
剣を片手に、肩で息をする彼女。その後ろで、俺は壁をくまなく見つめる。

違和感があった。



「にゃあ? にゃあにゃあ」

「あれ? 穴がある……と」

「穴? 穴なんて……あぁ、確かにあるわね。猫ちゃんなら入れるってこと?」

壁の真ん中、その1番上にちょこんと。真四角で、意図的に作られたようだ。
穴はちょうど、俺みたいな猫が入れるようなサイズで鎮座している。
それに、手招かれているような感じもする。異様な雰囲気を纏っていた。

「……でも危ない。モルト、戦えない」

「そうよ。死んじゃっても知らないわよ?」

「にゃあ!」

「大丈夫! ……だって」

「……はぁ。まぁ、ここまで来て何もないってのも癪よね」

と、アイリスも観念したようだ。
それを見届けたヤミィは俺を抱き寄せたまま壁に近づき、腕を穴の方に伸ばす。
壁の穴が近づいたところで、俺がぴょんとそこに飛び入る。

アイリスとヤミィを見下ろすと、双方共に不安そうな眼差しだった。

「にゃあ、にゃあにゃにゃ」

「危なかったら、すぐ帰るって」

「──そうね。そうしなさい」

「にゃ!」

この言葉は、翻訳しなくてもアイリスに伝わったようだ。
「行ってくる!」っていう簡単な言葉だが。



穴の中は直線で、すぐに広間に出た。
どうやら、先ほどの道を遮る壁を越えるための穴だったらしい。

広間は先ほどの殺風景さとは無縁だった。
壁一面が金色で、地面には足の踏み場が無いほど金貨やネックレスなどの財宝が散らばっている。
それに、広間という表現も適切ではない気がする。



──いわゆるボス部屋



なんか奥に、触ってはいけなそうな石像が置いてあった。
それは緻密にドラゴンを再現した石像であり、今にも動き出しそうなほどリアルに、そして生き生きと作られている。
まるでドラゴンをそのまま石化したような造形だった。

俺は少々躊躇ったが、この部屋に入ってみることにした。

シュタッと地面に着地する。
すると、パキパキ……と音を立てて、ドラゴンの表面から石が崩れ落ちてゆく。
しかしながら不思議と、この状況をまずいとは思わなかった。



「──ようやく、古代魔法を使える者がやってきたか……」

ドラゴンの石化は解けた。白いドラゴンだった。
そして信じがたいことに、そのドラゴンが話し出した。
更に『古代魔法』のことまで知っている様子だった。

「……古代魔法のことを、知っているんですか?」

俺はドラゴンにチョコチョコと歩み寄り、尋ねる。

「うむ、それがな……。我はたしかに古代魔法の事を知っているが、解除の仕方を知らないのだ」

「……? 解除ができない?」

「あぁ、そうだ。私も遥か昔、このダンジョンを訪れた。そしてキミのように、この壁の穴を見つけたのだ──」



ドラゴンは昔話を語り出した。

遥か昔、今から約1000年前。
ドラゴンが率いていたパーティは、この財宝ダンジョンに足を踏み入れた。
そして俺たちと同じようにこの壁にぶち当たり、そして古代魔法で猫に変身してこのばしょに入った。

が、ドラゴンの古代魔法は不完全だった。

この部屋に入り、財宝をかき集めていると突然、ドラゴンの姿になってしまったという。
外の仲間に助けを求めたのだが、誰1人として返事をしない。
そしてこの壁を破壊しようと何度試みても、傷ひとつ付けられなかったと。

全てに絶望して、全てを諦めたドラゴンはやがて、誰かが来るまで何も考えずに、眠ることにしたそうだ。



──この一連の話を聞いて、俺は振り返った。



アイリスとヤミィの身に、何かが起こるんじゃないか?
この部屋はフェイクで、本命のボスはその向こう側とか?

例えば、古代魔法を使える主力級のメンバーをここに幽閉し、外側で残りのメンバーを抹殺するという作戦の可能性もある。



ゴゴゴゴゴゴ…………



こういう時、俺の想像はよく当たる。
ほら、ゆっくりと閉まっていっているだろう?
さっき俺が入ってきた穴が…………。

「にゃぁぁぁぁぁ!」

俺は急いで穴に向かうが、そんなことは初めから無駄だった。
壁にたどりつく頃には、穴は完全に塞がっていた。
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