そして兄は猫になる

Ete

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あなたは神様ですか？

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クロが帰って来た！
それだけで　みんなのテンションが一気に上がった。

「ほら～。クロだろう」母が得意げに言う。

近くに寄ると逃げてしまうが、しばらくするとまたテーブルに戻ってくる。
触ろうとすると「シャーーーーーっ」と威嚇する。
これは前と変わらないか。

野良猫の割にはそんなに痩せてもいなかった。
思ったより毛並みもいい。
どこかでご飯をもらっていたのだろうか？

耳の近くと手には小さな怪我をしていた。
よその猫と喧嘩でもしたに違いない。
でもまた　フラッと何処かへ行ってしまう可能性もある。
ぬか喜びにならなければいいが。

そんな心配をよそに、
クロは毎日実家に姿を見せた。

必ずテーブルの上にいて、窓越しに家の中をじっと観ていたり、寝転んだり。
母の話によると、暗くなっても、家の電気が消えるまで外にいるらしい。
その後はカーテンを開けると姿がなくて、何処かへ行ってしまう。
倉庫の奥でも入っているのかな？

翌朝になると「にゃー」と鳴いて、『来たよ』と知らせる。
実家に新しいルーティンが出来上がった。

クロは家に入ろうとはしなかった。
いつも外から中を見てるだけ。
雨が降っても、テーブルのある場所はカーポートがあるので濡れる事はない。
母は寒くなったからとテーブルの上に籠を置いて毛布を入れてやる。
風が吹くからと段ボール箱で風除けをつける。
挙句に『猫ちぐら』を買って置いておく…などなど

もう飼ったらいいんじゃない？

兄の誕生日。
いつもと違って　クロがいるだけ賑やかな気がした。
クロは相変わらず外のテーブルにいる。
中に入れば温かいのに。

「サッシを少し開けておくけど、家には入ろうとはしないんだよ。怯えて逃げても可哀想だし」母は居てくれるならこのままでもいいと言う。

なるほど。

「じゃあ、テーブルの距離を少しずつ家に近づけたらどう？最後には家に入ってくるんじゃないかな」
うん。私にしてはいいアイデア！

次の日、テーブルは窓ギリギリにくっつけてあった(笑)

少しずつって言ったのに～！

でもクロはちゃんとテーブルに居た。
窓越しにすぐ顔が見える距離。

怪我も気になるし、とにかく捕まえないことにはその程度もわからない。

根気よくおやつで誘っているうちに、それだけは家の中で食べるようになった。
でも人が近寄るとすぐ逃げてしまう。
こうなったら『家に入ったら窓を締めましょう作戦』しかない！
んで休みの日に決行して病院に連れて行こう！

と言うことで、無事　作戦成功(笑)

病院に連れて行くのはいいけど、とにかく噛まれたり引っ掻かれないようにしなくてはいけない。どんな病気持ってるか分からないし。
ネットで調べたら、「洗濯ネットに入れるといい」と書いてあったので、早速準備して夫がチャレンジ！

え？
何でそんなに素直に入る？

シャーって言わなかった。
うちの犬が小さい時に使っていたキャリーに入れたけど、すごく大人しい。
まるで捕まるのを知ってたかのようにスムーズイン！
何で⁉︎ 良い人って分かったのかな？

そのまま車に乗せて動物病院に向かった。

病院でも脱走しないようにすごーーーく気をつけた。
獣医さんがネットごと抱っこしたが…暴れない。
どうして⁉︎

「お利口でしたよ。怪我は大したことなかったので消毒だけしておきました。猫エイズとか、病気もあるかと思いましたが何も出ませんでした」

ノミも結構いたので薬をその場で着けてもらう。
ウジャウジャ落ちて来た。
うっわー。

お腹に虫がいたらいけないので念のため駆虫剤も一緒に飲ませてくれた。
うんちと一緒に出てくるそうな。
ノミ以外はほぼ健康と言うことだ。
野良なのに優良じゃないか。
しかも「お利口」って…。

去勢手術の予約も入れて、帰りにホームセンターに寄る。
猫グッズやキャットフード、トイレなどを購入した。
展示品だったけど格安のキャットタワーがあったので、ええい！大奮発だ！
もう２度と無駄になりませんように‼︎

実家に帰ってあちこち場所を決めてセットする。
ご飯や水もリビングに準備。
トイレは縁側にセット。

すると、おしっこを我慢していたのか？
トイレはあっという間に成功。

あれ？まだトイレの場所　教えていませんけど？

そう。クロはとても賢かった。

とはいえまだ警戒はしていて、触らせてはくれないし、隅っこに逃げて隠れたりした。
仕方ないよね。今まで外暮らしだったんだから。
少しずつ慣れていけばいいよ。

はぁ～！
でもよかった。
あとは手術するだけ。
早く慣れてくれればいいなぁ。

クロが家猫になってから数日後。

その日は休みだった。
実家に上がると　クロはピューっと逃げて行った。
きっとそのうち慣れてくれるだろう。

天気も良好。青空が広がっている。
寒いけど気持ちがいいなぁ。
なんて考えながら実家の前の道に出かけた。

すると
あのボロボロな『タヌキ』がすぐそこを歩いているじゃないか⁉︎

ゲッ⁉︎まだいたの⁉︎
ってかまだ生きてたの⁉︎
相変わらず毛はあちこち抜けている。
驚いてちょっと鳥肌が立った。

タヌキはそこで立ち止まり　チラリとこちらを見た。
そしてまたトテトテと山の方へ向かって歩いて行った。

ちょっと待てよ？

あのタヌキが来てから

父の骨折と同時にクロがやって来て

10回目の兄の命日を迎え

兄の誕生日が来て

そしてクロが家猫になった

実家は家族が増えて
「悲しみ」が「幸せ」に変わった

この流れって…。

…もしもし　タヌキさん？

あなたはまさか　神様ですか？

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