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一回戦第三試合2

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「いやはや、これが一回戦のお相手とはねえ…」

 試合場中央。審判による注意事項を聞き流しつつ、ベーロイが呟いた。

「このような小娘相手では、吾輩の生み出したベーロイ流剣術の偉大さを世に知らしめる事が出来ぬではないか」

 ベーロイはドジョウのような髭の先をピン、と引っ張った。その様子を見つつ、白髪の少女…ローエングリンが問いかける。

「なあ、オッサン。あんたの生み出したベーロイ流ってのはそんなに凄いのかい?」

 その言葉に、ベーロイは不機嫌さを露わにした。

「オッサンではない!吾輩はまだ28歳だ。そしてベーロイ流の偉大さを問うとは愚問!吾輩こそ、かの剣聖アルトゥース以来の天才であるぞ!我が流派、そして我が名は二千年の後まで残るであろうな!」

「へえ…アルトゥース…」

 ローエングリンの瞳が僅かに光る。

「その割には、ベーロイ流なんて聞いた事ないけどなァ」

「それは流派を興してまだ日が浅いからに過ぎん!光栄に思うがよいぞ、偉大なるベーロイ流の踏み台になれる事をな!」

「そうかいそうかい。それじゃァせいぜい期待させてもらおうかねェ。オレを楽しませてくれよ?」

 不敵な笑顔を見せるローエングリン。その様子に、ベーロイはますます顔をしかめる。

「貴様には目上の者に対する礼儀と言うのが欠けているようだ。それと、女なら女らしい口調を心がけたまえ」

「あー、はいはい」

 そう答えた時、審判から試合開始位置に移動するよう指示があった。ベーロイ、ローエングリン共にそれぞれの開始位置へと下がる。

 ローエングリンは背中の槍に手を伸ばしつつ、小さく呟いた。

「くだらねェ…あんたの言う事は、何もかもがくだらねェよ」



 ――カーン。

 試合開始のゴングが鳴った。ベーロイは腰に差した細身の剣を抜き、切先を前方に向けて構えを取る。

「さあ、かかって来るが良い!我がベーロイ流、の…」

 ベーロイの言葉はそこで途切れた。代わりに、

「な…!?」

 と驚きの声を漏らす。

 彼の視線は自身の左胸に向けられていた。そこには――槍の穂先が突きつけられている。もう数cm槍を突き出せば、ベーロイの胸は貫かれるだろう。その槍を持つのは、白髪の少女…ローエングリン。

 少女が試合開始直後に放ったのは、ただの突き。しかし、とてつもなく素早い一撃。ベーロイは反応する事すらできなかった。ローエングリンが槍を止めなければ心臓は貫かれていたはずだ。

「さっさと降参してくれよ、オッサン。このまま槍を突き刺してもいいんだぜ?オレは」

 ローエングリンが囁いた。ベーロイの背にゾクリとした怖気が走る。

「こ、こ、こ…降参する…」

 ベーロイは剣を捨て、手を上げた。

 試合終了を告げるゴングが鳴ると同時に、実況役であるニコニスの声が響き渡った。

「おおっと!これは何とも呆気ない幕切れだー!なんと!見習の少女が新流派開祖を圧倒――!」


 一回戦第三試合 ローエングリン・ファイアフィズvsベーロイ・ウースラ…勝者、ローエングリン・ファイアフィズ
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