教室50センチのラブレター

山野 綾夏

文字の大きさ
2 / 18

桜色のため息‐1

しおりを挟む
『続いて、各組の応援団の演舞です』

 重みのある和太鼓の音が鳴り響き、袴を着て揃いの扇を持った赤組の応援団から演舞が始まった。応援席中がわあっと歓声につつまれる。
 
「はー。練習見てたときは緑組が一番だと思ってたけど、他も迫力すごいね」

「ね! 動きも全然ずれないね」

 隣で感心するりさぽんに返事をしつつ、手帳サイズのノートとペンを用意した。

〈体育祭の記事→やっぱり演舞? 赤、白、緑、青どれも盛り上がっている。今年は赤組が恒例の学ランではなく袴と扇。白組は――〉


 何を書くか迷っていたけれど、やっぱり学院誌に寄せる体育祭の記事は応援団の演舞にしよう。写真も載せれば華やかになるだろうから、中等部や大学の記事と並んでも埋もれない。ペンを走らせ続けた。

「おーい、いろは! 次だよ、三年の借り物競争。広報さんの職業病はあとにしてって」

「あ、そうだった! ごめんごめん」

 クラスメイトから声を掛けられ、はちまきを締めなおして急いで入場門へ向かった。
 周りから軽い調子で呼ばれる「広報さん」の発端は、二年前の秋の生徒会選挙だ。

「ええっと、皆さんから広報さんって呼んでもらえるような、親しみを持ってもらえる存在になりたいです!」

 よく言えば初々しく悪く言えばたどたどしい演説を経て、当時一年生の私はなんとか当選できた。昨年秋に再選し、ありがたいことに二期連続広報だ。
 生徒会広報は、附属高校の生徒だけが読む学内新聞の作成と、中等部や大学でも読まれる学院誌の記事執筆の二つが主な仕事だ。体育祭についての文を書くのは、後者のほう。

『さあ、借り物が書かれた紙の準備も万端、出場者も入場門に出揃ったということで! 借り物競争のスタートです。皆さん、準備はいいですか?』

 イェーイ!
 放送部のアナウンスが名物部長に代わり、場の空気がバラエティー番組のようなポップなものに変わる。
 第一走者がんばー、というクラスからの声にとりあえずピースサインをした。あ、スマホで撮られた。
 ホイッスルの合図と共に走り、拾った紙を広げるとこう書かれていた。

〈推し〉

 ……私が引きたくなかったお題ナンバーワンかもしれない。
 ひきつった顔を上げると、ちょうど係の仕事でカラーコーンを運んでいる私の推しが視界に入った。
 ごくりと喉をならし、後ろから声を掛ける。

「桐谷くん、あの」

 私の好みの、少し茶色がかった瞳がこちらを向いた。

「私のお題、これなんだけどね。推」

「嫌だ」
 
 紙を開いて見せた途端、本当に嫌そうな顔と声色で一刀両断された。

「だよね! ごめんなさい他当たる!」

 両手を合わせて頭を下げ、プランBに移るためにクラスの応援席へ走った。

「りさぽ~ん! 宮島くんのグッズ持ってこっち来てー!」

「アクスタでいいー?」

「ばっちりすぎる!」

 こちらに走ってきたりさぽんの空いた手を取り、ゴールまで一直線に走る。推しグッズということで認定され、見事一位を獲得できた。

「助かった。持つべきはアイドルオタクの友だね」

「うるさいわ。というかお題が推しなら、いろはの推し様連れてけばよかったじゃん」

「嫌って言われた」

「あはは! いや、あははじゃないか、ごめんごめん」

 りさぽんは宮島くんのアクスタを大事そうに持ちながらケラケラ笑っている。
 肩を落とす私に、砂が混じった風が容赦なく吹きつけてきた。

 私は同じクラスの隣の席に推しがいて、その推しから絶望的に避けられている。

 
 話は先月の始業式に遡る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...