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桜色のため息‐1
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『続いて、各組の応援団の演舞です』
重みのある和太鼓の音が鳴り響き、袴を着て揃いの扇を持った赤組の応援団から演舞が始まった。応援席中がわあっと歓声につつまれる。
「はー。練習見てたときは緑組が一番だと思ってたけど、他も迫力すごいね」
「ね! 動きも全然ずれないね」
隣で感心するりさぽんに返事をしつつ、手帳サイズのノートとペンを用意した。
〈体育祭の記事→やっぱり演舞? 赤、白、緑、青どれも盛り上がっている。今年は赤組が恒例の学ランではなく袴と扇。白組は――〉
何を書くか迷っていたけれど、やっぱり学院誌に寄せる体育祭の記事は応援団の演舞にしよう。写真も載せれば華やかになるだろうから、中等部や大学の記事と並んでも埋もれない。ペンを走らせ続けた。
「おーい、いろは! 次だよ、三年の借り物競争。広報さんの職業病はあとにしてって」
「あ、そうだった! ごめんごめん」
クラスメイトから声を掛けられ、はちまきを締めなおして急いで入場門へ向かった。
周りから軽い調子で呼ばれる「広報さん」の発端は、二年前の秋の生徒会選挙だ。
「ええっと、皆さんから広報さんって呼んでもらえるような、親しみを持ってもらえる存在になりたいです!」
よく言えば初々しく悪く言えばたどたどしい演説を経て、当時一年生の私はなんとか当選できた。昨年秋に再選し、ありがたいことに二期連続広報だ。
生徒会広報は、附属高校の生徒だけが読む学内新聞の作成と、中等部や大学でも読まれる学院誌の記事執筆の二つが主な仕事だ。体育祭についての文を書くのは、後者のほう。
『さあ、借り物が書かれた紙の準備も万端、出場者も入場門に出揃ったということで! 借り物競争のスタートです。皆さん、準備はいいですか?』
イェーイ!
放送部のアナウンスが名物部長に代わり、場の空気がバラエティー番組のようなポップなものに変わる。
第一走者がんばー、というクラスからの声にとりあえずピースサインをした。あ、スマホで撮られた。
ホイッスルの合図と共に走り、拾った紙を広げるとこう書かれていた。
〈推し〉
……私が引きたくなかったお題ナンバーワンかもしれない。
ひきつった顔を上げると、ちょうど係の仕事でカラーコーンを運んでいる私の推しが視界に入った。
ごくりと喉をならし、後ろから声を掛ける。
「桐谷くん、あの」
私の好みの、少し茶色がかった瞳がこちらを向いた。
「私のお題、これなんだけどね。推」
「嫌だ」
紙を開いて見せた途端、本当に嫌そうな顔と声色で一刀両断された。
「だよね! ごめんなさい他当たる!」
両手を合わせて頭を下げ、プランBに移るためにクラスの応援席へ走った。
「りさぽ~ん! 宮島くんのグッズ持ってこっち来てー!」
「アクスタでいいー?」
「ばっちりすぎる!」
こちらに走ってきたりさぽんの空いた手を取り、ゴールまで一直線に走る。推しグッズということで認定され、見事一位を獲得できた。
「助かった。持つべきはアイドルオタクの友だね」
「うるさいわ。というかお題が推しなら、いろはの推し様連れてけばよかったじゃん」
「嫌って言われた」
「あはは! いや、あははじゃないか、ごめんごめん」
りさぽんは宮島くんのアクスタを大事そうに持ちながらケラケラ笑っている。
肩を落とす私に、砂が混じった風が容赦なく吹きつけてきた。
私は同じクラスの隣の席に推しがいて、その推しから絶望的に避けられている。
話は先月の始業式に遡る。
重みのある和太鼓の音が鳴り響き、袴を着て揃いの扇を持った赤組の応援団から演舞が始まった。応援席中がわあっと歓声につつまれる。
「はー。練習見てたときは緑組が一番だと思ってたけど、他も迫力すごいね」
「ね! 動きも全然ずれないね」
隣で感心するりさぽんに返事をしつつ、手帳サイズのノートとペンを用意した。
〈体育祭の記事→やっぱり演舞? 赤、白、緑、青どれも盛り上がっている。今年は赤組が恒例の学ランではなく袴と扇。白組は――〉
何を書くか迷っていたけれど、やっぱり学院誌に寄せる体育祭の記事は応援団の演舞にしよう。写真も載せれば華やかになるだろうから、中等部や大学の記事と並んでも埋もれない。ペンを走らせ続けた。
「おーい、いろは! 次だよ、三年の借り物競争。広報さんの職業病はあとにしてって」
「あ、そうだった! ごめんごめん」
クラスメイトから声を掛けられ、はちまきを締めなおして急いで入場門へ向かった。
周りから軽い調子で呼ばれる「広報さん」の発端は、二年前の秋の生徒会選挙だ。
「ええっと、皆さんから広報さんって呼んでもらえるような、親しみを持ってもらえる存在になりたいです!」
よく言えば初々しく悪く言えばたどたどしい演説を経て、当時一年生の私はなんとか当選できた。昨年秋に再選し、ありがたいことに二期連続広報だ。
生徒会広報は、附属高校の生徒だけが読む学内新聞の作成と、中等部や大学でも読まれる学院誌の記事執筆の二つが主な仕事だ。体育祭についての文を書くのは、後者のほう。
『さあ、借り物が書かれた紙の準備も万端、出場者も入場門に出揃ったということで! 借り物競争のスタートです。皆さん、準備はいいですか?』
イェーイ!
放送部のアナウンスが名物部長に代わり、場の空気がバラエティー番組のようなポップなものに変わる。
第一走者がんばー、というクラスからの声にとりあえずピースサインをした。あ、スマホで撮られた。
ホイッスルの合図と共に走り、拾った紙を広げるとこう書かれていた。
〈推し〉
……私が引きたくなかったお題ナンバーワンかもしれない。
ひきつった顔を上げると、ちょうど係の仕事でカラーコーンを運んでいる私の推しが視界に入った。
ごくりと喉をならし、後ろから声を掛ける。
「桐谷くん、あの」
私の好みの、少し茶色がかった瞳がこちらを向いた。
「私のお題、これなんだけどね。推」
「嫌だ」
紙を開いて見せた途端、本当に嫌そうな顔と声色で一刀両断された。
「だよね! ごめんなさい他当たる!」
両手を合わせて頭を下げ、プランBに移るためにクラスの応援席へ走った。
「りさぽ~ん! 宮島くんのグッズ持ってこっち来てー!」
「アクスタでいいー?」
「ばっちりすぎる!」
こちらに走ってきたりさぽんの空いた手を取り、ゴールまで一直線に走る。推しグッズということで認定され、見事一位を獲得できた。
「助かった。持つべきはアイドルオタクの友だね」
「うるさいわ。というかお題が推しなら、いろはの推し様連れてけばよかったじゃん」
「嫌って言われた」
「あはは! いや、あははじゃないか、ごめんごめん」
りさぽんは宮島くんのアクスタを大事そうに持ちながらケラケラ笑っている。
肩を落とす私に、砂が混じった風が容赦なく吹きつけてきた。
私は同じクラスの隣の席に推しがいて、その推しから絶望的に避けられている。
話は先月の始業式に遡る。
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