教室50センチのラブレター

山野 綾夏

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緑薫る五月‐8

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 緊張で、声がわずかにかすれてしまった。

「久住のやりたいことは、伝わった。でも、人に言わずにやることに慣れきっちゃったから、今すぐにはいとは言えない。今回の保科の新聞が完成したら、それを見て答え出したい。いい?」

「うん、もちろん! 考えてくれるだけでも、嬉しい。来月の定期テスト前には完成させる予定だから、待ってて」

「頑張れー。広報さん、自信のほどは?」

 楽しげに保科くんが尋ねる。

「ばっちり。面白いの作るよ」

 窓から優しく差し込む夕日が、握りしめた私の両手を包み込んだ。


 
 次の日の朝は早めに登校して、ひとりで生徒会室にこもって昨日のインタビューのメモや録音を確認していた。新聞の構成を考えながら、話の要点をまとめていく。
 ああ、そういえば、保科くんの写真を撮るのを忘れてしまった。ユズにはいつも、相手の写真も載せているのに。
 突然、案が一つ浮かぶ。いっそ文も写真も取り払ってしまったらどうだろう。今回の相手は保科くんなんだから、”見る”以外のアプローチだって、いいんじゃない?

 ――広報の仕事は、私にとってラブレターを書いているようなものです。

 冬の初め、生徒会室であの一文を読んだとき、仕事に妥協はしないと決めた。連続して務めた生徒会の広報もあと半年、後悔はしたくない。スマホを持ってメッセージを打った。

『昨日はありがとう。それとごめん、一からやり直したい』

 続けて、思いついた案のことを送る。
 既読がすぐにつき、そわそわしているとメッセージではなく電話の着信が来た。

「もしもし」

『久住さん、このアイディアめっちゃいい! 久住さんが慣れなくて少し大変かもだけど、それでもいいの』

「私は全然平気だよ。これで進めていいかな?」

『うん、次はタイミング見つけて放送室で集まろう。ところで、今もう学校? 始業時間ギリギリだけど』

「うわあ、ほんとだ! 集中してて気づかなかった。今生徒会室だから、ダッシュで行く」

『生徒会室が走るんじゃないよー。じゃあまた、教室で』

 華麗につっこまれて、電話が終わる。荷物をまとめて早足で教室に向かい、チャイムと同時に席に着いた。危なかった。

「久住」

 今まで会話のなかった右隣から声をかけられて、一瞬きょとんとする。横を見ると、桐谷くんと目が合った。

「おはよう」

 たった一言のあいさつが、これでもかと大きく心を揺さぶった。

「おはよう、桐谷くん!」

 素敵な一日の始まりに、私は顔をほころばせる。
 
 

 
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