最強の魔術師と最悪の召喚魔

ノイ

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1章 学園1

15 終結

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凄まじい魔力を持ったドラゴンと精霊。その使い魔たちは相手に向かって攻撃を繰り広げている。基本的に魔力の持つ量は人間と比べると使い魔の方が遥かに高い。そして、その中でも精霊とドラゴンは上位に君臨している。人間よりも遥かに強い彼らの攻撃をいとも簡単に防ぐ黒の魔法。それを見ていた俺たちには絶望しかない。

「嘘………だろ?精霊とドラゴンの連携でもあいつを崩せないのか?」

「………兄さま、このままではラチがあきません」

「わ、わかってる。だが、もう方法は………」

俺は考える。使い魔というのは魔力も強く、万能に思える。しかし、この世界で万能というのはあり得ない。機械だって必ずどこかで故障を起こす。そのように使い魔には時間制限というものがある。まぁ、主人の魔力を食って生きているわけだからその魔力が尽きれば消えるのだが。

「レーナ。お前は………使い魔を持っていないのか?」

「はい………私は召喚が苦手でして」

「まぁ……そうだろうな。あのコントロールじゃ」

「面目ないです」

「いいよ」

召喚には魔力の多さの他にコントロールも必要となってくる。魔力の多さに関しては上位の使い魔を召喚できる要素はある。だが、あのコントロールじゃ意味がない。その二つがあってこそ召喚魔法は完成する。

「どうするか………このままでは押されて皆殺しだ」

「に、兄さまっ!」

「ナツさん………」

「分かった。最後の望みをこれにかけるか」

俺は魔力を集中させながら唱えた。

「【我、ナツ・ヴァーンは自らの手で召喚の扉を開く者】」

そういうと俺の足元には魔法陣が現れる。それが輝き、俺を包む。そして、目覚めた頃にはその場とは違う場所にいた。真っ白で何もないその部屋だったが、目の前には信じられないほど大きな魔力を持ったあいつがいた。

「久しぶりだな………ゼロス」

「ナツ………お前が来るのを待っていたぞ」

「本当にか?俺からゲートを開く権利を取ったのはお前だろ?」

「そうだが………あれは決まりだったからな。だが、ここへのゲートの権利は奪わなかっただろ?」

「そうだな。だが、それが不思議なんだが。どうして、俺を待っていた?」

「あぁ………ルシフェルを倒せるとしたらお前とあいつだけだからな」

「そうだな………だが、俺は一度ルシフェルに負けた」

「そうだ。そして、お前は堕落した。だが、どうして戻ってきた?お前が嫌いなこの世界に」

「そうだな………俺がここに戻ってきたきっかけはリリさんだ。だが、俺は自分の意思でこの世界へ戻ってきた。それは、奴らがまた、現れたという情報を耳にしてな」

「奴ら………?まさか」

「そうだ。俺が数年前に滅ぼしたテロ組織『ドラゴンウェスト』」

「彼奴らか………俺を呼び戻したのは」

「そうだ。俺は決着をつけなければならない。第二の裏切り行為を罰するために」

「そうか………だが、このままではお前も危ういだろ?」

「あぁ………そうだな。今の俺では黒の魔法に太刀打ちすることが出来ない」

「じゃあ………どうするんだ?ナツ」

「だからこそ、ここに来たんじゃないか。俺に力を貸せ、ゼロス」

「………俺もお前の力になりたい。俺がここに入れるのはお前のおかげだと言ってもいいほどだからな」

「じゃ、じゃあ………」
「だが、俺にはどうすることもできない。ゲートを再構築するためには時間がかかりすぎる」

「………そうか。じゃあ、俺は自力でなんとかするわ」

俺は詠唱を唱え、さっきいた自分の世界へ戻ろうとする。しかし、詠唱を始める前にゼロスに呼ばれる。

「待てっ、お前は何か勘違いをしている」

「何が?お前がどうすることもできないなら自力で何とかしなければならないだろ?」

「確かに俺は召喚の主としては何もできない。だが、俺に唯一できることがある」

「何だ?それ」

「それは、ご加護だ」
「確かに………ご加護はできるだろうけどさ。ゼロス、本当にいいのか?」

「あぁ………契りを交わした仲だからな」

「そうかよ。あと、召喚のゲートを再構築するためにはどのくらいかかる?」

「ん………1ヶ月くらいだな」

「そうか………じゃあ、それも頼んでいいか?」

「分かった。引き受けよう。お前はここ数年で強くなった。精神的にな」

「あぁ………そうだな」

「俺のご加護は強力だ。だが、時間制限もある。5分という短い時間だが、いいか?」

「あぁ………俺にはそれしか方法がないからな」

「俺の力は人の本当の力を5分間だけフルに開放できるというものだ」

「なるほどな。じゃあ、問題ないな」

「彼奴を………殺す気か?ナツ」

「ふっ……… 殺さねーよ。5分もあれば十分だ。殺すのなんか1分あれば足りるからな」

「大したものだ。ナツ、君のご武運を願っている」

「あぁ………」

俺の足元には再度、魔法陣が展開される。そして、俺の意識は精霊王のいるその場所から完全に切り離された。そして、俺の目の前にはまた黒の魔法の邪悪な気配をまとったいるのが現れた。

俺の中には懐かしいような気配を感じていた。さっきまでとは比べ物にならないほど大きな魔力。その魔力を感じたレーナたちは驚きを隠せないでいた。

「兄さま…………その力は」

「あぁ……この力にも時間制限があるんだ。話している余裕はない」

「はい。兄さま………頑張ってください」

「あぁ………だが、今の俺には負ける気がしねーんだ」

俺は剣を片手に走ってターゲットに向かう。そして、一言

「【ブロード】」

一瞬でその場から俺の存在は消えた。レーナたちでさえ俺の存在を目で追うことが出来なかった。それもそのはず、俺はもうすでに相手の真後ろに立っている。振り返ろうとしたが、間に合わない。

「闇をも切り裂く剣【レーヴァテイン】」

そう言いながら俺は相手に向けて剣を振り下ろす。それは、相手自身を切り裂いたというわけではない。誰かにやられた黒の魔法には必ずそれを引き起こしたものが相手の周りにいるのは知っていた。だからこそ、俺はそれを切り裂いた。その瞬間、黒の魔法は消滅して相手は地面に倒れこむ。

「ビルっ!」

エリックは倒れ込んだ青年を見て近くに駆け込む。俺もそれを見てその青年の近くまで行き、死んでいないかを確認する。

「大丈夫だ。死んではいない。エリック、こいつを早く病院に連れて行ってあげて」

「分かった。では」

エリックはその青年をおんぶして病院に連れて行こうとする。

「では………俺たちも帰るか」

「はい、兄さま」

俺たちはもう入学式は終わっているだろうが、ヴァレッヂ学園に戻った。しかし、俺たちは忘れていた。本当の裏切り者が誰なのかということを。
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