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「実は隣国に婚約者がいるんだけど、言わなければバレないし、バレたらまあ、バラしてもどうせ子爵令嬢ごとき、誰も文句は言わないだろう」
「……」
「バジル、あなた何をいってるの?」

 王妃様がカップをがしゃんとソーサーに落とし、立ち上がった。

「あなたには、隣国の王女との話が上がっているでしょう?数ヶ月後には王女殿下もこちらにお見えになると言うのに何をいって…」

 どうやら王妃は第二王子の奸計に関与していたわけではなさそうで、目を白黒させている。

「母上も父上も本当に見通しが悪い。僕が隣国の王女と結婚したら、僕は王太子になれないじゃないか。兄上に結婚させるべきなんだよ、あんな女は。バカなんだから。僕は王太子の座を兄上に譲る気はないんだよ?だからこの子爵令嬢を使って、バカ真面目な兄上の弱みを探そうとしているんだ。兄上の側近にシャルルを近づけて、色々自白してもらおうと思ってるんだから、邪魔しないでくれよ。そうだ!ついでに僕が母上の化粧品に毒を入れて徐々に弱らせているのも、シャルルのせいにしてしまおうかな。父上のワインの毒も、そろそろ肺を痛めてきているはずだし、咳き込んできたら、王太子の選定も早めてもらわなくちゃね。それにしても侯爵家の麻薬の発覚はこっちも痛かったよ、余計なことをしてくれたもんだね、シャルル。せっかくもう少しで中毒になって、毒と高血圧でぽっくりいってもらうはずだったのに。また隣国から麻薬の苗を仕入れてこなくちゃいけなくなったよ」

 第二王子は饒舌だった。蟹のように泡を吹いた王妃に爽やかな笑顔を向けて、お茶を飲んだところでふと素面に戻り、第二王子は青ざめた。シャルルを見て王妃を見て、ドア越しにいる騎士を見て、ふるふると首を横に振った。

「ち、ちがう」

 その様子を見て、シャルルは思った。極悪人は皆、奸計がバレると最初に「ちがう」と言うんだなと。冷めた目で第二王子を見て、再び頭を下げシャルルはようやく口を開いた。

「大人しく罪を償ってくださいませ」

 王様が好んで飲むワインは、我が子爵家のワインなのだ。毒など入れて、兄のせいにされたらどうしてくれよう。絶対許さない。お兄様、呪いが思わぬところで役に立ちましたよ!とシャルルは鼻息荒く、兄を思った。

 王妃付きの騎士が第二王子を縛り上げ、ちがう、ちがうんだと叫ぶ第二王子は幽閉された。


「お前、何してるんだよ」
「お兄様に言われたくありません」

 王妃は、自分の腹を痛めて産んだ子供が自分を殺そうとしていたことが発覚して、心を病んでしまわれた。王は至急で身体検査を受け、酒は兄が直々に持参した子爵家のものだけを飲むようになったそうだ。余計な仕事ができたと兄は愚痴っていたが、その分、余分に報奨もいただき、愚痴は飲み込んでいたようだった。

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