【完結】クローゼットの向こう側〜パートタイムで聖女職します〜

里見知美

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第2章:西獄谷編

第47話:地酒と悪癖

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 火照った体ではミヤコの服は着にくいだろうと、村人から借りた軽い麻のような布でできたワンピースを着て女たちと下山をする際に、ヒルダと呼ばれた少女はしつこいほどミヤコにまとわりついて、本当にハルクルトとは恋人でも結婚の約束をしたわけではないのかと念を押し、自分がアタックしてもいいかと聞いてきた。

 モヤモヤする心情を隠しながらもミヤコは「私には関係ないし」と苦笑し、お好きにどうぞとヒルダに勧めた。クルトの元に戻ると、アッシュとルノー、アイザックがクルトと共に火を囲み酒を交わして談笑しているのが見えた。クルトがミヤコに気がつき笑顔を見せたが、瞬間真顔になりミヤコに向かって足早に駆け寄った。

「温泉はどうだった?」
「あ、はい。気持ちよかったです。温泉の底に薬草が生えてるんです。不思議でした」
「へえ、薬草ね…あの、ミヤ。ショールはちゃんと羽織って」
「あ、あの。ショール、なんですけど。む、村の人がその…」
「……ああ、この国の習慣について聞いたんだね?」
「え、ええ。あの」
「……嫌だった?」
「え?いえ、そういうんじゃないです、けど」
「ミヤ。僕がこれを渡した理由は二つ。一つは攻撃防御のため。もう一つはミヤの立場のためだ」
「立場?」
「ミヤもわかってると思うけど、戦士や討伐隊員はほとんど全員が男だ。そんな中に無防備な君を突っ込んだらどうなると思う?」
「あ」
「だから、僕の庇護下にあるということを知らしめるためでもあったんだよ。わかるね?」
「は、はい」
「誤解を招くかもしれないけど、無体を働かれるよりは良い」
「そ、そうですよね…気がつきませんでした」
「だから常に身に付けていて欲しい」

 そういうとクルトはミヤコの手からショールを取りミヤコに巻きつけた。それからミヤコを抱きしめるように手を廻すとミヤコの耳に顔を近づけた。

「あと、その服だと炎に照らされて体のラインがわかるから、気をつけて」

 そう言われてハタッと気がつくミヤコ。ぼっと顔に火がついてクルトを見ればクルトも真っ赤になって口元を片手で覆っていた。

「ク、クルトさん!」
「ごめん。だけどみんなが気がつく前に言っといた方がいいと思って」

 なけなしの胸とお尻では艶かしい体のラインはでないけれど、だからと言って晒し出すのも恥ずかしすぎた。お子様体型ってバレた!いや、もうすでにバレてたのかも知れないけど!

 炉火を囲んでいたルノー、アッシュとアイザックは慌てて席を立ったハルクルトを目で追い、一部始終を見てからはあと息を吐いて半目になった。

「相当参ってるな、ありゃあ」
「ええ、もう。ここまでの道のりも、それはそれは恥ずかしく…」
「ハルクルト隊長、ロリ入ってるッス。無体働くの、目に見えてるッス」
「あの女いくつだ?一体何年待つつもりなんだ、ハルクルトのやつ」
「……ミヤさんは25歳だそうです」

 ブフーーーッ!!

 そう言ったアッシュに、酒を吹き出したのはルノーとアイザックだった。

「俺より年上ッスか!?」
「嘘だろ、おい」
「本人の口から聞きましたよ」
「でもってミヤさん、気づいてないんッスよ、隊長のアプローチ。彼女相当の天然ッスね」
「マジか…。不毛だな」
「ヘタレですからね…」

 ハルクルトとミヤコが並んで戻ってくるのを、生暖かい目で見られていたのだが、ミヤコは気がつかずハルクルトは眼光厳しく周囲を警戒していたのだった。



 *****



西獄谷ウエストエンドには俺もついていこう」

 そう口を切ったのはアイザックだった。

「ホロンの水場の問題も収まったし、バーズは警護の者だけで十分だと思う」
西獄谷ウエストエンドの人員は天南門サウスゲートに割かれるからな。アイザックが来てくれるならありがたい即戦力だが、僕からは報酬は用意できない」
「なあに、嬢ちゃんのうまい飯が食えるなら、それだけでも行く気になるぜ」
「…ミヤには重要な任務がある」
「へっ。飯を作る以外何ができるんだ、あんた」

 そう言ってクルトの横でチビチビと地酒のマロッカミルク割りを飲んでいたミヤコに話を振った。

「……瘴気を浄化できます」

 ちょっとムッとしてミヤコがアイザックを睨みつけると、精霊たちもざっとアイザックを睨んだ。

「おいおい。ちょっと聞いただけじゃねえか、物騒だな」
「え?」
「こいつらだよ、お前さんのお付きの精霊共」
「ア、アイザックさん、見えるんですか」
「おう…あんたももちろん見えるんだよな」
「クルトさん…!」
「アイザック、詳しく話を聞こうじゃないか」

 アイザックは自分の家系の話をし、生まれた時から精霊が見え、助けられたと話した。警戒心を解いたミヤコの精霊たちもふわりふわりとアイザックの周りを舞い、先ほどの緊張感はかけらもない。

「アッシュは既に知ってるが…」
「ルノーさんも精霊王は見てるはずですよね」
「ええと、ミヤさんが精霊王の孫娘ってことッスよね」
「精霊王の孫!?」

 ミヤコとクルトは掻い摘んでミヤコたちのミッションを話した。モンドがモンファルト王子であること、王都で聖女に対してのクーデターを起こそうとしていること、ルブラート教との確執に終止符をつけようとしている事、西獄谷ウエストエンドでのミヤコの役割など。

「僕としてはモンドを100%信用してはいないのだが、今できることはミヤのいう通り西獄谷ウエストエンドを救うことだ」

 アイザックは首の後ろを撫でながら天を見上げた。

「話がでけえな」
「ああ」
「俺はモンドに会った事はないが、話には聞いてる」
「精霊はモンドを毛嫌いしてる節がある」
「……解らんでもないがな。腹黒そうだ」
「王族だからな。何を企んでいるんだか」
「話はわかった。引退したと思っていたハルクルトおまえが出てきたんだ。西獄谷ウエストエンドの浄化は、出来るのか」
「ミヤがいれば…おそらく可能だ」
「だが、どうやって?こんなか細い女一人で…もちろん精霊の力は借りるんだろうが、どうやってあそこを浄化するんだ?」

「歌れすよ」
「…ん?」
「歌うんれす」
「ミヤ?」
「わたしの歌れジョーカしますっ」

 ミヤコはコテンと頭をかしげて二ヘラと笑った。

「いいれすか。わたしは精霊王アルヒレイトの孫娘!」

 そう言ってミヤコはアイザックの襟首をぐいっと掴み上げる。とはいえ、全く迫力なく首に張り付いているようにしか見えないのだが。

「あなたにゃ分からないでしょーがっ!わたしの責任れクルトしゃんもみなしゃんもいっぱい苦労しました!わたしの責任れす。ミヤコ、歌います!」
「ミ、ミヤ?どうした?」

 後で発覚した事だがこの地酒、ザクラにはポムの果汁が入っており、戦士たちの間では討伐や戦闘の後に魔力補充のためによく飲むものだった。しかもミヤは、温泉で薬草に含まれる媚薬効果のある魔力を肌から吸収し、酒から知らずと魔力を補充されたため、相まってひどい魔力酔いを起こしていたのだ。単に酒癖が悪いともいうが…。

 クルト以外にミヤコが魔力なしというのは誰一人として気がついておらず、まさかそんな事がミヤコに起こっているとは微塵も気がつかず。オロオロとクルトがミヤコを抱え込むが、酔っ払ったミヤコは一振りでクルトの手を払いのけ、立ち上がった。

 手には架空のマイクを持っている。

「ミヤコ、十八番、歌います!」
「ま、待て!ミヤ!」

 浄化の歌。

 祝福の歌。

 精霊のレクイエム。

 振り付けつきで、ヘビメタのヘドバン並みに頭も振って、ミヤコは歌って踊った。

 精霊も踊った。フラフラになって倒れたのもいた。

 草木が、川が、ざわめいて一斉に踊った。


***



「………んっ?」

 一瞬の違和感にミヤコははっきりと目が覚めた。息ができない。

「んんっ?」

 目の前が暗い。口の中に広がる違和感。

 ごくり。

 何かを飲み込んだ。喉に広がるのは冷たい液体。一気に目が覚めた。

 目を開くとそこには長い睫毛とうっすらとミヤコを覗き込む新緑。それがクルトの瞳だと気がつくのにたっぷり5秒。

「!!」

 ミヤコの唇から圧迫された柔らかな感触が離れた。

「気がついたか…」
「ふぇ?」

 クルトの顔が再度近づき、唇を塞がれた。今度は何かの錠剤を舌の上に乗せられて飲み込んだ。

「プヘッ!?」

 吐き出そうとしたが、それはすでに咽喉を通り過ぎ胃の中へ流された。と、またしても唇を塞がれた。

「……んっ」

 何が起こったのかさっぱり思い出せない。炉火を囲んでみんなで話していたのは覚えている。

 それから、それから…。

 ナ ニ ガ ア ッ タ。


 気がつけば、ミヤコはクルトの腕の中にしっかり抱きかかえられてクルトの吐息を耳元に感じ、鳥肌が立った。

「ク、クククク…!」
「笑い事じゃないよ、ミヤ」
「笑ってません!何してるんですか」
「拘束してるんだよ」
「拘束…って、なんで?」
「覚えてない?」
「え、えっと?」
「…君は本当に…」

 クルトは「はあ」と息を吐いて抱きしめていた手を緩めた。

「わ、わたし、何かとんでもないことを…?」
「ああ、いや……。大丈夫。この辺りはすっかり浄化されて、きっちり祝福を受けただけだから…」
「祝福……」
「歌って踊って、精霊も張り切って浄化に励んだから。ただ…」
「歌って踊って?!も、森、作りましたか?」
「ああ、うん。森も作ったし、なんかいろいろやってくれた」
「ひえぇ…」
「いや、それはいいんだ。みんな喜んでるから。すべて良い方へ向かった」
「じゃ、じゃあとりあえず、よかった…?」
「…うん。でももう、ザクラは飲んだらダメだよ」
「……酔っぱらいましたね、わたし」
「うん」
「な、何をしでかしましたか」
「いや……ちょっと…うん、その」

 クルトが真っ赤になった。

 いやあああああ!わたし絶対何か恥ずかしいことしたんだ!

「あ、あの、クルトさん!ごごごごめんなさい!酔っ払うことなんて滅多にないのに!」
「いや、気にしないでくれ。覚えていないんならそれで」
「ええええ!?ちょ、ちょっと待ってください。わたし何したんです?」



 クルトがその質問に答えることはなかった。

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