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第3章:聖地ウスクヴェサール編
第76話:この世界は精霊で溢れている
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ハルクルトとミヤコと別れた後の話。アイザック視点です。
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この世界は精霊で溢れている。
アイザッックはこれまでも精霊の姿は目にしてきたが、これほどいるとは思いもしなかった。
「うざってーなあ」
グレンフェールの街に戻る途中、モンドたちが通り抜けてきた道がまるでジャングルのようになっていることに気がついて、アイザックとルノーは呆気にとられた。
「すごい力っスね。ミヤさん半端ない」
「できることなら、もうちっと抑えてもらっても良かったんだがな」
なぎ倒された木々の修復に、森の精霊たちがブンブンせわしなく飛び回っている。ルノーにその光景が見えないというのが羨ましくもあり、アイザックは蝿を払うように手を振り回した。
「精霊っスか?」
「ああ、ゴマンといてな。吐きたくなるほどだ」
「でも、清々しくて森林浴、気持ちいいんっスけど」
「見えなきゃそうだろうよ」
西獄谷を出ると、そこまで乗ってきたマロッカが、気ままに草を食みながら、アイザックたちを待っていた。転移魔法でグレンフェールへ戻ろうかとも思っていたが、谷がほぼ丸裸になって湖になった代わりに、街道が森に変わっていたこともあり、二人は念のためマロッカに乗って帰ることにしたのだ。その途中、魔獣でも出てこようものなら、退治しないわけにはいかない。谷から逃げた獣や魔獣に街を襲われては元も子もないからだ。
だが、その心配は杞憂だったようだ。
ミヤコの残した種は十分に育ち、ミヤコに代わって精霊たちが喜々として成長を促しているし、自然動物はその恩恵を得て、代わりの住処を見つけたようだった。それに加えて、魔獣や瘴気は影も形もない。すっかり浄化され、周囲の空気さえ穏やかに変わっていた。
「この分だと、グレンフェールの街も大丈夫っスね」
「街まで森になってなきゃな」
「ああ、それ言える。アイザックさんは見てないかもしれないけど、樟の聖地はスゴかったんっスよ。目の前でどんぐりが大木に変わって、あっという間に砂漠の地が緑に覆われて。ホロンでせき止められた川が氾濫して向かって来た時の驚きったら、それこそ奇跡かと思ったくらいっス」
「そうか。酔っぱらった勢いでバーズ村に森が生えたときは、俺でもビビった」
「ミヤさんの足跡みたいっスね。行くとこ行くとこで森作っちゃって」
「……ああ、そのせいか」
精霊が増えたのは。
自然が溢れて、それに合わせて精霊が生まれる。もともと精霊はたくさんいたのだが、瘴気に呑まれて魔獣と同化したり瘴魔になったりしていたのだ。それが浄化されて、消えた精霊もいただろうが、元に戻った精霊も、新たに生まれた精霊もいるのだろう。森の精霊だけでなく、水の精霊もおそらくは同じ。
この世界はもともと精霊で溢れていたのだ。
「……本当は、この世界は精霊のモノだったのかも知れねえなぁ」
「俺たちが生かされてるって考えろってことっスか?」
アイザックはルノーの呟きに答えることはできなかった。
「俺たちが瘴気を作ったのか、精霊が人間に対して牽制したのか…どっちなんだろうな」
********
「あっ!アイザックさんが戻ってきた!」
「ちょっと、ちょっと!どこ行ってたのさ!大変だったんだよ!」
グレンフェールの街が見えてきたあたりで、森の中からカゴを持った街の人間がワラワラと出てきた。カゴの中には薬草やらベリーやらが山積みになっている。
「お、早速薬草採取か?」
「それだけじゃないんだよ!ポポムの実もモガットも黒苺も!」
「郷土料理の復元もできそうだよ!」
「ガスたちが狩りにも出かけてね。瘴気もないし、魔獣もいないみたいだって、討伐隊の人たちが報告に来てくれたんだよ」
朝日が昇る頃に、爆音を聞いた街の人達が、魔獣の暴走かと焦って起き出すと地鳴りと共に地震が起こり、土中から魔虫が大量に這い出してきた。それこそ地を埋め尽くす量で、全員大騒ぎになって屋根やら塀やらによじ登り戦々恐々としたものの。
這い出した虫たちは我先にと逃げ回り、挙句シュウシュウと瘴気が上がったかと思えば、力なく消えてしまうのもいれば、小さな虫に姿を変えて、もそもそと土中に戻っていくものもいたそうだ。
唖然として町人が見守る中、魔虫によって鋤きあげられた土から次々と緑の芽が芽吹き、あっという間に町中を緑の絨毯に変えてしまったらしい。恐る恐る地面に降りてそれぞれの家を確認してみれば、畑に植えた食物がたわわに実り、果樹には果実が枝をしならせ、井戸には新鮮な水が湛えられていた。
大慌てで討伐隊のいる詰所に行ってみれば、愛し子はすでに谷に向かったというし、街の防壁の向こうには森が広がっているという。数刻前に探索に行った討伐隊員たちが、魔獣も瘴気も消えたと言って戻ってきて、街は一気に活気付いた。清掃に励む者、狩りに行く者、薬草を集める者、食物の採取をする者に分かれ、老人も子供も生き生きと働いたのだ。
「川にも魚が戻ってきてるらしいぜ!」
「ボアもいたぞ!」
危険が全くないわけではないが、それまで魔獣や瘴気の危険に晒されて生きてきた街の住人にとって、野生動物の危険度はその比ではないらしい。
「こりゃあ、報告なんていらねえんじゃねえか?」
「この街を見たらミヤさんの凄さが体感できるっスね」
「ルノー副隊長!アイザックさん!」
街に残っていた隊員が、アイザックたちを見つけて駆け寄ってきた。
「い、愛し子は!?ハルクルト隊長はどこへ?」
「心配しなくても、生きてるよ。モンドのやつはここに戻ってきたか?」
「いえ。朝方、様子を見に行くと言って討伐隊を連れて西獄谷に行ったっきり、ここへは」
「そうか。西獄谷であいつらには会った。すぐにも天南門へ向かうようなことを言っていたから転移魔法を使ったのかもな」
「精鋭討伐隊の連中もモンドと共に?」
「そのようだな」
「それより愛し子はどちらへ?」
「ああ…ミヤとハルクルトはひとまず緑の砦に戻ってる。愛し子の世界の方で、なにやらあってな」
「……ああ、そうか。愛し子は異世界人でしたっけ…」
「ああ。行き来ができるってのがすごいけどな」
「どこまでも規格外ですね」
「まぁ、またこっちに戻ってくるから問題はねえが。ここに残ってる隊の長は誰だ?」
「そ、それが、あの」
隊員が言葉を濁し、目を泳がせた時後ろから声がかかった。
「貴殿がアイザック・ルーベンか」
声のする方にアイザックが顔を向けると、そこには聖騎士のアーマーに身を包んだ長い亜麻色の髪を編み込んで片肩にたらした女騎士が立っていた。
「私はガーネット・サトクリフ。天南門を守る第一聖騎士団隊長だ。此度の西獄谷の報告を願おう」
「……は?」
アイザックとルノーは顔を見合わせた。
「なんだって天南門の聖騎士がこんなことにいるんだ?」
「…天南門に糞王子がやって来てな…」
ガーネットが半目になり、どす黒い気を放った。
「……ああ」
「クソ王子っスか……」
「役に立たない廃嫡されたはずのクソガキが大きな顔をして『ここは私に任せて、お前はグレンフェールで顛末の報告を聞いてこい』などと吐かしてな。まったく誰が今まで王都を守っていたと思って…」
黙っていればおそらく美しい姫とも言える美形のガーネットは、形の良い眉をしかめてぺっと唾を地面に吐いた。モンドの真似をして話す口調から、王子を小馬鹿にしていることがよくわかった。吐かれた唾を目で追いながら、アイザックは視線をガーネットに戻す。
(女だてらに聖騎士か)
下手な冒険者よりスレた態度なんじゃないのか。聖騎士である前に、女でこんな態度をとるやつは滅多に見ねえな、とアイザックは半ば呆れた顔をする。
「貴殿の考えていることはわかっている。だがな、あのクソはどうしても性に合わなくてな。考えただけで頭が腐りそうだ」
「なるほど」
「腐っても王子だがな。おとなしく幽閉されていればいいものを…」
「言い得て妙だが…あんた聖騎士だよな」
「見た目はな。今となっては何が『聖』なんだかわからんが。貴殿は聖女と行動を共にしたと聞いたが、本物か」
「嬢ちゃんか…。聖女とは呼ばれたくないみたいだが、まあ……同一人物とみていいだろう」
「詳しく話せ」
ルノーは数歩下がったところで、先ほどまで言葉を濁していた討伐隊員の隣に立ってアイザックとガーネットのやり取りを見ていた。
「サトクリフ隊長、モンファルト王子と会ってからずっとやさぐれて、あんな調子なんですよ。僕たち、もう怖くて…」
「…あのアイザックさんが押されてますもんね…迫力っス」
「ちょっと前よりマシなんですよ」
「あれで、マシ…」
だが、ガーネットの噂はルノーも聞いている。下級貴族の出だが剣技が舞のように美しく、その上見た目によらず腕力もあるという。背も高くスラリとした体躯はニードルと呼ばれる細い長剣を得意とするが、合成魔法も得意と聞いた。長い腕を使った特徴的な剣技とスピード、柔軟な考えから隊を勝利に導いている。
(ミヤさんに会う前のハルクルト隊長と同等の合成魔法使いっぽいっすね。今の隊長は人間離れしすぎて、誰とも比較ができないっスけど)
聖騎士は国が集めた騎士の集団だ。ルノーは執行人として国との深い関わり合いを避けて生きてきたため、聖騎士とは一度も交わりがない。だが、ガーネットの持つ気は噂が単なる噂ではないことがわかる。
悪態をつきながらも、隙のない立ち姿と対人の距離の置き方から、かなりの場数を踏んでいて、わざと口調を崩して相手の意表をつくあたりは、アイザックよりも数段上手と見える。しかもどうやら、モンファルト王子を毛嫌いしており、国の対応にも現聖女にも頭から信用しているようには見えない。
実力はあるようだし、人望も厚い。
執行人になり得るか。
ルノーはペロリと乾いた唇を舐めた。
==========
ヘッドハンター、ルノー。
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この世界は精霊で溢れている。
アイザッックはこれまでも精霊の姿は目にしてきたが、これほどいるとは思いもしなかった。
「うざってーなあ」
グレンフェールの街に戻る途中、モンドたちが通り抜けてきた道がまるでジャングルのようになっていることに気がついて、アイザックとルノーは呆気にとられた。
「すごい力っスね。ミヤさん半端ない」
「できることなら、もうちっと抑えてもらっても良かったんだがな」
なぎ倒された木々の修復に、森の精霊たちがブンブンせわしなく飛び回っている。ルノーにその光景が見えないというのが羨ましくもあり、アイザックは蝿を払うように手を振り回した。
「精霊っスか?」
「ああ、ゴマンといてな。吐きたくなるほどだ」
「でも、清々しくて森林浴、気持ちいいんっスけど」
「見えなきゃそうだろうよ」
西獄谷を出ると、そこまで乗ってきたマロッカが、気ままに草を食みながら、アイザックたちを待っていた。転移魔法でグレンフェールへ戻ろうかとも思っていたが、谷がほぼ丸裸になって湖になった代わりに、街道が森に変わっていたこともあり、二人は念のためマロッカに乗って帰ることにしたのだ。その途中、魔獣でも出てこようものなら、退治しないわけにはいかない。谷から逃げた獣や魔獣に街を襲われては元も子もないからだ。
だが、その心配は杞憂だったようだ。
ミヤコの残した種は十分に育ち、ミヤコに代わって精霊たちが喜々として成長を促しているし、自然動物はその恩恵を得て、代わりの住処を見つけたようだった。それに加えて、魔獣や瘴気は影も形もない。すっかり浄化され、周囲の空気さえ穏やかに変わっていた。
「この分だと、グレンフェールの街も大丈夫っスね」
「街まで森になってなきゃな」
「ああ、それ言える。アイザックさんは見てないかもしれないけど、樟の聖地はスゴかったんっスよ。目の前でどんぐりが大木に変わって、あっという間に砂漠の地が緑に覆われて。ホロンでせき止められた川が氾濫して向かって来た時の驚きったら、それこそ奇跡かと思ったくらいっス」
「そうか。酔っぱらった勢いでバーズ村に森が生えたときは、俺でもビビった」
「ミヤさんの足跡みたいっスね。行くとこ行くとこで森作っちゃって」
「……ああ、そのせいか」
精霊が増えたのは。
自然が溢れて、それに合わせて精霊が生まれる。もともと精霊はたくさんいたのだが、瘴気に呑まれて魔獣と同化したり瘴魔になったりしていたのだ。それが浄化されて、消えた精霊もいただろうが、元に戻った精霊も、新たに生まれた精霊もいるのだろう。森の精霊だけでなく、水の精霊もおそらくは同じ。
この世界はもともと精霊で溢れていたのだ。
「……本当は、この世界は精霊のモノだったのかも知れねえなぁ」
「俺たちが生かされてるって考えろってことっスか?」
アイザックはルノーの呟きに答えることはできなかった。
「俺たちが瘴気を作ったのか、精霊が人間に対して牽制したのか…どっちなんだろうな」
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「あっ!アイザックさんが戻ってきた!」
「ちょっと、ちょっと!どこ行ってたのさ!大変だったんだよ!」
グレンフェールの街が見えてきたあたりで、森の中からカゴを持った街の人間がワラワラと出てきた。カゴの中には薬草やらベリーやらが山積みになっている。
「お、早速薬草採取か?」
「それだけじゃないんだよ!ポポムの実もモガットも黒苺も!」
「郷土料理の復元もできそうだよ!」
「ガスたちが狩りにも出かけてね。瘴気もないし、魔獣もいないみたいだって、討伐隊の人たちが報告に来てくれたんだよ」
朝日が昇る頃に、爆音を聞いた街の人達が、魔獣の暴走かと焦って起き出すと地鳴りと共に地震が起こり、土中から魔虫が大量に這い出してきた。それこそ地を埋め尽くす量で、全員大騒ぎになって屋根やら塀やらによじ登り戦々恐々としたものの。
這い出した虫たちは我先にと逃げ回り、挙句シュウシュウと瘴気が上がったかと思えば、力なく消えてしまうのもいれば、小さな虫に姿を変えて、もそもそと土中に戻っていくものもいたそうだ。
唖然として町人が見守る中、魔虫によって鋤きあげられた土から次々と緑の芽が芽吹き、あっという間に町中を緑の絨毯に変えてしまったらしい。恐る恐る地面に降りてそれぞれの家を確認してみれば、畑に植えた食物がたわわに実り、果樹には果実が枝をしならせ、井戸には新鮮な水が湛えられていた。
大慌てで討伐隊のいる詰所に行ってみれば、愛し子はすでに谷に向かったというし、街の防壁の向こうには森が広がっているという。数刻前に探索に行った討伐隊員たちが、魔獣も瘴気も消えたと言って戻ってきて、街は一気に活気付いた。清掃に励む者、狩りに行く者、薬草を集める者、食物の採取をする者に分かれ、老人も子供も生き生きと働いたのだ。
「川にも魚が戻ってきてるらしいぜ!」
「ボアもいたぞ!」
危険が全くないわけではないが、それまで魔獣や瘴気の危険に晒されて生きてきた街の住人にとって、野生動物の危険度はその比ではないらしい。
「こりゃあ、報告なんていらねえんじゃねえか?」
「この街を見たらミヤさんの凄さが体感できるっスね」
「ルノー副隊長!アイザックさん!」
街に残っていた隊員が、アイザックたちを見つけて駆け寄ってきた。
「い、愛し子は!?ハルクルト隊長はどこへ?」
「心配しなくても、生きてるよ。モンドのやつはここに戻ってきたか?」
「いえ。朝方、様子を見に行くと言って討伐隊を連れて西獄谷に行ったっきり、ここへは」
「そうか。西獄谷であいつらには会った。すぐにも天南門へ向かうようなことを言っていたから転移魔法を使ったのかもな」
「精鋭討伐隊の連中もモンドと共に?」
「そのようだな」
「それより愛し子はどちらへ?」
「ああ…ミヤとハルクルトはひとまず緑の砦に戻ってる。愛し子の世界の方で、なにやらあってな」
「……ああ、そうか。愛し子は異世界人でしたっけ…」
「ああ。行き来ができるってのがすごいけどな」
「どこまでも規格外ですね」
「まぁ、またこっちに戻ってくるから問題はねえが。ここに残ってる隊の長は誰だ?」
「そ、それが、あの」
隊員が言葉を濁し、目を泳がせた時後ろから声がかかった。
「貴殿がアイザック・ルーベンか」
声のする方にアイザックが顔を向けると、そこには聖騎士のアーマーに身を包んだ長い亜麻色の髪を編み込んで片肩にたらした女騎士が立っていた。
「私はガーネット・サトクリフ。天南門を守る第一聖騎士団隊長だ。此度の西獄谷の報告を願おう」
「……は?」
アイザックとルノーは顔を見合わせた。
「なんだって天南門の聖騎士がこんなことにいるんだ?」
「…天南門に糞王子がやって来てな…」
ガーネットが半目になり、どす黒い気を放った。
「……ああ」
「クソ王子っスか……」
「役に立たない廃嫡されたはずのクソガキが大きな顔をして『ここは私に任せて、お前はグレンフェールで顛末の報告を聞いてこい』などと吐かしてな。まったく誰が今まで王都を守っていたと思って…」
黙っていればおそらく美しい姫とも言える美形のガーネットは、形の良い眉をしかめてぺっと唾を地面に吐いた。モンドの真似をして話す口調から、王子を小馬鹿にしていることがよくわかった。吐かれた唾を目で追いながら、アイザックは視線をガーネットに戻す。
(女だてらに聖騎士か)
下手な冒険者よりスレた態度なんじゃないのか。聖騎士である前に、女でこんな態度をとるやつは滅多に見ねえな、とアイザックは半ば呆れた顔をする。
「貴殿の考えていることはわかっている。だがな、あのクソはどうしても性に合わなくてな。考えただけで頭が腐りそうだ」
「なるほど」
「腐っても王子だがな。おとなしく幽閉されていればいいものを…」
「言い得て妙だが…あんた聖騎士だよな」
「見た目はな。今となっては何が『聖』なんだかわからんが。貴殿は聖女と行動を共にしたと聞いたが、本物か」
「嬢ちゃんか…。聖女とは呼ばれたくないみたいだが、まあ……同一人物とみていいだろう」
「詳しく話せ」
ルノーは数歩下がったところで、先ほどまで言葉を濁していた討伐隊員の隣に立ってアイザックとガーネットのやり取りを見ていた。
「サトクリフ隊長、モンファルト王子と会ってからずっとやさぐれて、あんな調子なんですよ。僕たち、もう怖くて…」
「…あのアイザックさんが押されてますもんね…迫力っス」
「ちょっと前よりマシなんですよ」
「あれで、マシ…」
だが、ガーネットの噂はルノーも聞いている。下級貴族の出だが剣技が舞のように美しく、その上見た目によらず腕力もあるという。背も高くスラリとした体躯はニードルと呼ばれる細い長剣を得意とするが、合成魔法も得意と聞いた。長い腕を使った特徴的な剣技とスピード、柔軟な考えから隊を勝利に導いている。
(ミヤさんに会う前のハルクルト隊長と同等の合成魔法使いっぽいっすね。今の隊長は人間離れしすぎて、誰とも比較ができないっスけど)
聖騎士は国が集めた騎士の集団だ。ルノーは執行人として国との深い関わり合いを避けて生きてきたため、聖騎士とは一度も交わりがない。だが、ガーネットの持つ気は噂が単なる噂ではないことがわかる。
悪態をつきながらも、隙のない立ち姿と対人の距離の置き方から、かなりの場数を踏んでいて、わざと口調を崩して相手の意表をつくあたりは、アイザックよりも数段上手と見える。しかもどうやら、モンファルト王子を毛嫌いしており、国の対応にも現聖女にも頭から信用しているようには見えない。
実力はあるようだし、人望も厚い。
執行人になり得るか。
ルノーはペロリと乾いた唇を舐めた。
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ヘッドハンター、ルノー。
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