【完結】クローゼットの向こう側〜パートタイムで聖女職します〜

里見知美

文字の大きさ
86 / 127
第4章:聖地アードグイ編

第82話:不安な旅立ち

しおりを挟む
「というわけだから、今からそっち行くわ」

 アイザックが伝達石を使って、クルトとミヤコに連絡を入れた。ミヤコを救世主のように掲げ、それまで虐げられてきたグレンフェールの住人たちは、ルノーに従い町おこしを始めた。

 何はともあれ、まずは生活を立て直さなければ。勢いだけで国は変わらない。独自の生産力、防御力を高め、権力に対抗できるだけの人員を集める。ルノーは住民と討伐隊に指示を出した。その場にいた討伐隊員や戦士、冒険者はそれぞれ小さな町村に話すべく旅立っていった。

 ルブラート教については、まだ話す時ではないとアイザックが口止めをした。モンファルトがルブラート教に集中していた方が、都合がいい。その間、ミヤコたちが聖地を浄化する時間ができるからだ。それがどのくらいかかるのかは、わからないが。

 サトクリフについては、アイザックが監視をすることで落ち着いた。

「絶対にミヤさんに危害を加えないようにしてくださいよ、アイザックさん」
「バーカ。俺がそんなヘマするかよ。それに嬢ちゃんはハルクルトが絶対守るだろ」
「本当なら、俺がついて行きたかったのに」
「アッシュたちと連絡を取り合う必要もあるからな。お前の方が適任なんだよ、悪いな」
「わかってるっス。それから、できればガーネット・サトクリフをこちら側に引っこ抜いてくださいね」
「あいつ、使えると思うか?」
「腐っても聖騎士隊長ですからね。軍師のお墨付きでしょうし、強いっス。幸い王子を嫌ってるみたいだし、アッシュと似たようなタイプと見ました。あの鼻持ちならない矜持さえ崩せればなんとかなるっス」
「そうか。くそ真面目なやつらは苦手なんだが、まあやってみるよ」
「頼んます」

 ルノーとしては、サトクリフに旅の間に考えを変えてもらい、寝返ってもらいたいところだが、それもアイザックの手腕にかかってくる。一つ懸念が残るのは、サトクリフがハルクルトの元婚約者、マリゴールドと繋がっていることだ。ハルクルトを怒らせなければいいが。ルノーは眠れる赤獅子を起こしてくれるな、と願うばかりであった。


 *****


 伝達石の反応が無くなったところで、ミヤコが青ざめながらクルトに聞いた。

反乱軍レジスタンスって……なんか話が大きくなってるね?」
「早かれ遅かれ、こうなることはわかっていたんだ。ミヤを巻き込むつもりはなかったんだが」
「あはは。私もやりたい放題やっちゃったし、仕方ないね」

 クルトが眉をハの字にして、ミヤコの手を取った。

「必ず、守るから…」
「うん。期待してる」

 ミヤコが速攻でそういうと、クルトは瞬きをして、ぷっと吹き出した。

「言うようになったな」
「へへ。慣れですね。クルトさんが強いのわかってるし。このショールもあるし。それに、アイザックさんもルノーさんも覚悟を決めて前に進み始めたんだもの。私がここで尻込みしてちゃ、みんなに迷惑かかるしね」
「みんなも、この不毛な生活を変えようと頑張ってる」
「うん。早く瘴気を全部無くして、魔獣や瘴気の恐怖をなくさないとね」

 クルトは、眩しげに都を見つめるとギュッと抱きしめた。

「ミヤの強さには、感服するよ」
「じゃあ、私がクルトさんを守らないとね」
「はは。期待してるよ」

『キャーーーーー』

 森の方から精霊たちが大はしゃぎで飛んでくるのを見て、ミヤコが目を丸くした。

「シロウ!」

 白マロッカのシロウがカポカポと近づき、ミヤコに鼻面を寄せた。

「来てくれたのね!ありがとう」
『ブルル』
『キャーー!』

 精霊たちも嬉しそうに飛び回り、クルトとミヤコに張り付いた。

「わ、みんなも。いっぱい助けてくれてありがとうね。みんなのおかげで街も村もアイザックさんもルノーさんも無事だったよ。本当にありがとう!」

『キャーーーー!』
「ミヤコ」

 次いで、祖母のキミヨが森から出てきた。

「おばあちゃん」
「大変だったわね。本当に無事でよかったわ。哲也たちは納得してくれた?」
「うん。クルトさんは脅されてたけど」

 ぷぷっと笑って肘でクルトを突つく。

「そう。よかったわ。それでこれからなんだけど」

 クルトは、ざっと現状をキミヨに話し、サトクリフがミヤコを王宮に献上しようと画策していること、モンファルトが王の座を狙っていることなどもかいつまんで話をした。

「革命が起こります。僕たちは愛し子と薬師聖女の教えに従い、国を立て直したい。ルノーがグレンフェールから指揮を摂り、僕たちが聖地を浄化したのち、王都で落ち合うよう予定を立てるつもりです」
「わかったわ。本来なら、精霊は人間の営みに口を出すべきではないのだけど、今回は別よ。大精霊ともあろうものが、ことごとく人間であるあなたたちに助けられているんですもの。指をくわえて傍観しているわけにはいかないわ。そもそも、これはアルヒレイトの失態。あの人にも絶対責任を取らせるから、こっちは任せてちょうだい!」

 キミヨはムン、と胸を張り鼻息荒くミヤコたちに約束をした。

「黙って孫娘をいいようにされるものですか!」
『キャーー!!』

 精霊たちも同意のようだった。

「森の恵みを持ってきたの。先は長いでしょ」

 キミヨは精霊を使って貢物のように薬草や果物、苗や球根を積み上げた。その中にはなぜかペットボトルのイオンドリンクや、日本酒、各種チューハイも含まれていた。

「ちょ…おばあちゃん、これ、どこから…」
「やあねえ。ちょくちょく向こうにも帰ってるから、哲也にお願いしてるのよ。ミヤコがお供えにおいてくれたでしょ?あれ以来ハマっちゃって」
「エエェ…」

 逆にクルトは、目をキラキラさせながらキミヨに礼を告げて、いそいそと空間魔法に収納していた。よほど気に入っているのだと思う。まあ、回復薬と思えば当然か、とミヤコは肩をすくめた。

 キミヨが精霊王と話をつけてくると言って去った後、ようやくアイザックと聖騎士のガーネット・サトクリフが転移魔法で緑の砦前までやってきた。


 *****


「は、初めまして。真木村都です」
「む…マ、マキ…?」
「あ、ミヤで、いいです」

 ガーネット・サトクリフは背の高い女性だった。聖騎士の鎧兜はつけておらず、冒険者のような格好をしているが、長身な上、豊かな亜麻色の髪をポーテールに結いあげ、前髪はポンパドールにして髪の毛が顔にかからないようにしている。
 気の強さは顔に出ているものの、きりりとした切れ長の目を囲む、亜麻色の長い睫毛、通った鼻筋と薄い唇が、気品を帯びている。胸元を編み上げにしたラフな生成りのシャツに、焦げ茶色のぴったりしたパンツが無駄のない長い足を象ってスタイルの良さを強調していた。

 ———うわ、ものすごい美人!

 こっちの人はなんでこうも美形なのか。ミヤコはコンプレックスに押しつぶされそうになって、視線を外した。

「そうか。貴女が、聖女か」
「違います」

 ミヤコは速攻できっぱりと言い放った。これだけは誤解のないようにしておかないと、聖女だの女神だのにまた祭り上げられてしまう。その上、サトクリフはミヤコを王宮に連れて帰ろうと画策しているのだ。

「しかし、数々の奇跡を成し遂げたと聞いたが」
「奇跡じゃないです。私が使うのは、皆さんの使う魔法のようなもので、精霊の力を借りているだけです」
「……ふむ。謙虚なのだな」
「えー……そういうわけでもない、と思うんですが…」

 どちらかというと、図々しいのでは、と思いクルトをちらりと見上げた。目があったクルトはにこりと軽く微笑み、ミヤコの肩に手を回し、自分の方に引き寄せた。

「え、ちょっと、クルトさん?」
「さあ、挨拶も済ませたし、とっとと出かけようか」

 クルトの顔には、作り物の笑顔が張り付き、サトクリフの視線を牽制した。

「ハルクルト…マリゴールド様がよろしくとおっしゃってました」
「それはどうも」
「マリゴールド様」

 確か、クルトの元婚約者だった人だ。アッシュの奥さんになったんじゃなかったっけ?子供がいるとか言ってたような。

「ただの知り合いだよ、ミヤ。軍師のコマだ」

 クルトはそういうとミヤコを連れて踵を返し、さっさとミヤコを抱き上げるとシロウに乗せた。聞く耳すら持ちたくなさそうで、ミヤコにも聞かせたくないという態度が丸わかりだ。笑顔なのだが、目が怖い。

「あ、あの?クルトさん?」

 知っていることだから気にしなくてもいいのに、と狼狽えるミヤコを見てサトクリフは勘違いをしたようだ。ニヤリと綺麗な顔を歪め、口早に説明に入った。

「やあ、ミヤさんはご存知ないんですね?マリゴールド様はハルクルト元隊長の婚約者です。ハルクルトが怪我で隊を退くまではそれはもう仲睦まじく、」
「間違えるな。元・婚約者だ。現・アッシュ・バートンの正妻でね。子供もいるらしい。誰の子かは知らんがね。あぁ、もちろんミヤは知ってるよ。まあ、名前までわざわざ覚える必要はなかったから、言ってないかもしれないがね」

 クルトはそういうとミヤの後ろからシロウにまたがった。

「無駄口は走りながら聞こう。さあ、出発だ」

 そういうと、後ろを振り返りもぜずクルトはシロウを促した。

「……おーい。俺のことは完璧無視かよ」

 アイザックが呆れたように、自分のマロッカの尻を叩いて後に続いた。
 その後ろから無言で睨みつけるサトクリフの視線を感じながら、アイザックは心の中でため息をついた。

 ———こりゃ、前途多難だぜ。くそ、ルノーに代わって貰えば良かった。

 気楽な方を先手で選んだつもりだったアイザックだったが、今回ばかりは貧乏くじを引いたと舌を打った。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

処理中です...