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第4章:聖地アードグイ編
閑話:シロウの告白
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ちょっと重かったので、休憩。
煩悩に塗れたシロウの独白。
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私には、シロノクワ・マーロンスターという大層な名前がある。
仕事は、精霊王のアストラル体という、いわば護衛だ。通常業務では精霊王に貼り着き、彼のお方の体型を保ちながら、外敵の攻撃からお守りするというもの。何しろ精霊王さまは当然、精霊であり、形を持たない。いわば光の塊というか、魔素の塊というか、ともかく、妖精のように人間の容姿を真似したりはしないのが普通だ。
だが、それもキミヨさまが現れてから人型容器が流行りだした。キミヨさまはもともとは人間だ。人間の体という器に美しい月の巫女様の魂が入っている。精霊王がキミヨさまに惹かれ、私を入れ物として用意した。人間贔屓の妖精王の意見を取り入れながら、大精霊達も当然、精霊王様に合わせて、キミヨさまの好みに沿うように姿身を作り上げた。人間界でいう、イケメンというやつらしい。
そんなわけで、私も精霊王様の入れ物の保護という、大事な役目をいただいて生まれたわけであるが、ある日、精霊王様のミニチュア版が現れた。ミヤコさまだ。可愛い。きょろりとした大きな瞳はグミの実のようにキラキラして丸い。リンゴベリーのようなほっぺも、チャコの花びらような赤い唇も、まるで地の大精霊さまから加護をいただいた秋の実りのようで、実に尊い。その器は小さい版キミヨ殿のようでいて、中に入っている生命力は、底が見えない大きさでちょっと怖い。あんな小さな体にぎゅうぎゅうに押し込めて、針を刺したらピュルルルルと弾けて飛んでいきそうな危うい感がある。大丈夫なのだろうか。
案の定、ミヤコさまは、その生命力の制御がうまく行かないようで、精霊王様はオロオロ、私に子守の役を授けた。ご自分はいいのだろうかと不安にも思ったが、この世界で精霊王様にケンカを売るような輩もいるわけもなく、私はミヤコさまの前に現れた。本当はミヤコさまのアストラル体になろうと張り付いてみたのだが、つるつるした丸い石に水をかけるようなもので、癒着がうまくできなかった。それというのも、ミヤコさまには魔力がないからだと気がついた。
そこで私はミヤコさまの周辺をウロウロしていたわけだが、ある日、精霊王様がマロッカの形をとり、ミヤコさまを援助しろとおっしゃった。なるほど。乗り物になればいいわけだ。私は一頭のマロッカに纏わりつき体躯を少し変え、王者の風格に作り上げた。なかなかのものだと自分でも満足の出来だった。その姿でミヤコさまの前に現れ、『私の名はシロノクワ・マーロン・スター。あなた様の護衛としてまいりました』と話しかけた。
残念なことに、ミヤコさまに私の声は届かなかった。おかしい。元の体の頭脳が足りず、ブルルとかイーオーに変わってしまう。
そうしているうちに、ミヤコさまは「閃いた!」とばかりに、私に『シロウ』と名付けた。
ミヤコさま。皆の者が、私が白いから「シロウ」と名付けたとバカにしておられるぞ!ぐぬぬ。
しかしその腹立ちもミヤコさまが私の背に跨られた時に吹っ飛んだ。ミヤコさまが私の上に。柔らかな肢体の温もりがジンと全身に染み渡った。なんという至福。思わず、風のように走り回りたい衝動に駆られたが、初めてということもあり、恐る恐る動いた。私の歩みと共に体を揺らしタイミングを取るミヤコさま。
「あっ、すごい。でも、もっとゆっくり…」
くっ、至福。
「長時間は股が痛い…」
……初めてでは仕方がありませんね。
これからいくらでも乗ってくれて構いません。そして早く私に慣れてください。マロッカの癖で、跳ねるように駆けた時、はっし!と私の首筋にしがみついたミヤコさまの柔らかい、む、む、胸の感触と吐息がゾクゾクと身体中を駆け巡った。
愛おしい。
可愛い。
天使のようなミヤコさま。
このまま攫って、隠してしまおうかと思うほど。
この気持ちを人間は恋と呼ぶのだろうか。しかし、動物の体は直情的に反応してしまうのが難点だ。私は紳士。下半身の事情など隠さねば。
しかしそのトキメキも、あっという間に攫われてしまった。あの男。荒々しい魔力を隠すそぶりもなく、ぶちまけて歩く破廉恥な男。なんたる屈辱。なんたる侮辱。飢えた猿のように四六時中発情しおって!
この男をミヤコさまと共に私の背に乗せるなど!男など、乗せても嬉しくもない!
『シロノクワ。お前は護衛だろう』
無情にも、精霊王様からお叱りを受けた。だけど、精霊王様、ミヤコさまは私の…!
『しかも、お前マロッカだぞ?』
だからなんだというのです!?
『人間と獣は相容れん』
なんですと?!
しかし、私は獣ではなくアストラル体!ならば、簡単。人間に憑依すればいいのです!あのような野蛮人、ミヤコさまには勿体無い。誰か、どこかに都合のいい体は落ちていないものだろうか…。できれば自我が少なく、乗っ取りやすいイケメンのオス…。
しかしながら、ミヤコさまの好みのオスは、なんとあの赤毛の様子。憎々し気はあの男。
虎視眈々とチャンスをうかがい、あわよくば乗っ取ろうとしてみたのですが、何せ野蛮人。私に対しての警戒を緩めようともしません。そしてつい先日の、悪霊との戦い。恐ろしく強いあの男に、私の背から感じるミヤコさまの狼狽えようと言ったら…。
「あっクルトさん、すごい…。やっぱり強い!」
「クルトさん、頑張れ!そこだ!やった!」
ぐぬぬ。
それほど、強い男が好きならば、私の力も見せて差し上げましょう。
そーれ!
ドゴオオオォォォォーーーーーーン!!
どうですか!強いでしょう!?しかも神聖魔法ですよ!あの男には使えません!ミヤコさま!
「よし、シロウ上出来だよ!」
ああ、至福。
ご褒美はなんでしょうか。キッスでも抱擁でも二人きりで遠乗りでも。愛の逃避行!キミヨ様の読んでたハーレクインロマンス小説によく出てきますよね!
「今日は特別な日だから、大好きなシロウには、ちょっとだけリンゴのサワーをあげる♡」
りんごのサワー…。
残念ですが、愛の逃避行は次の機会にとっておきましょう。私の背に乗せるのは、あなただけです。一生ついていきますからね。覚悟してください、ミヤコ様。ふふふ。
==========
ク:「どうも、シロウから殺気を感じるんだけど…」
ア:「ああ……あれは相当嬢ちゃんに入れ上げてるからな」
ク:「はあ。マロッカまでもライバルか……」
ア:「嬢ちゃんが喜んで跨るのはあいつだけだからなあ」
ク:「……言い方」
ちょっと気落ち悪いシロウでした。
煩悩に塗れたシロウの独白。
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私には、シロノクワ・マーロンスターという大層な名前がある。
仕事は、精霊王のアストラル体という、いわば護衛だ。通常業務では精霊王に貼り着き、彼のお方の体型を保ちながら、外敵の攻撃からお守りするというもの。何しろ精霊王さまは当然、精霊であり、形を持たない。いわば光の塊というか、魔素の塊というか、ともかく、妖精のように人間の容姿を真似したりはしないのが普通だ。
だが、それもキミヨさまが現れてから人型容器が流行りだした。キミヨさまはもともとは人間だ。人間の体という器に美しい月の巫女様の魂が入っている。精霊王がキミヨさまに惹かれ、私を入れ物として用意した。人間贔屓の妖精王の意見を取り入れながら、大精霊達も当然、精霊王様に合わせて、キミヨさまの好みに沿うように姿身を作り上げた。人間界でいう、イケメンというやつらしい。
そんなわけで、私も精霊王様の入れ物の保護という、大事な役目をいただいて生まれたわけであるが、ある日、精霊王様のミニチュア版が現れた。ミヤコさまだ。可愛い。きょろりとした大きな瞳はグミの実のようにキラキラして丸い。リンゴベリーのようなほっぺも、チャコの花びらような赤い唇も、まるで地の大精霊さまから加護をいただいた秋の実りのようで、実に尊い。その器は小さい版キミヨ殿のようでいて、中に入っている生命力は、底が見えない大きさでちょっと怖い。あんな小さな体にぎゅうぎゅうに押し込めて、針を刺したらピュルルルルと弾けて飛んでいきそうな危うい感がある。大丈夫なのだろうか。
案の定、ミヤコさまは、その生命力の制御がうまく行かないようで、精霊王様はオロオロ、私に子守の役を授けた。ご自分はいいのだろうかと不安にも思ったが、この世界で精霊王様にケンカを売るような輩もいるわけもなく、私はミヤコさまの前に現れた。本当はミヤコさまのアストラル体になろうと張り付いてみたのだが、つるつるした丸い石に水をかけるようなもので、癒着がうまくできなかった。それというのも、ミヤコさまには魔力がないからだと気がついた。
そこで私はミヤコさまの周辺をウロウロしていたわけだが、ある日、精霊王様がマロッカの形をとり、ミヤコさまを援助しろとおっしゃった。なるほど。乗り物になればいいわけだ。私は一頭のマロッカに纏わりつき体躯を少し変え、王者の風格に作り上げた。なかなかのものだと自分でも満足の出来だった。その姿でミヤコさまの前に現れ、『私の名はシロノクワ・マーロン・スター。あなた様の護衛としてまいりました』と話しかけた。
残念なことに、ミヤコさまに私の声は届かなかった。おかしい。元の体の頭脳が足りず、ブルルとかイーオーに変わってしまう。
そうしているうちに、ミヤコさまは「閃いた!」とばかりに、私に『シロウ』と名付けた。
ミヤコさま。皆の者が、私が白いから「シロウ」と名付けたとバカにしておられるぞ!ぐぬぬ。
しかしその腹立ちもミヤコさまが私の背に跨られた時に吹っ飛んだ。ミヤコさまが私の上に。柔らかな肢体の温もりがジンと全身に染み渡った。なんという至福。思わず、風のように走り回りたい衝動に駆られたが、初めてということもあり、恐る恐る動いた。私の歩みと共に体を揺らしタイミングを取るミヤコさま。
「あっ、すごい。でも、もっとゆっくり…」
くっ、至福。
「長時間は股が痛い…」
……初めてでは仕方がありませんね。
これからいくらでも乗ってくれて構いません。そして早く私に慣れてください。マロッカの癖で、跳ねるように駆けた時、はっし!と私の首筋にしがみついたミヤコさまの柔らかい、む、む、胸の感触と吐息がゾクゾクと身体中を駆け巡った。
愛おしい。
可愛い。
天使のようなミヤコさま。
このまま攫って、隠してしまおうかと思うほど。
この気持ちを人間は恋と呼ぶのだろうか。しかし、動物の体は直情的に反応してしまうのが難点だ。私は紳士。下半身の事情など隠さねば。
しかしそのトキメキも、あっという間に攫われてしまった。あの男。荒々しい魔力を隠すそぶりもなく、ぶちまけて歩く破廉恥な男。なんたる屈辱。なんたる侮辱。飢えた猿のように四六時中発情しおって!
この男をミヤコさまと共に私の背に乗せるなど!男など、乗せても嬉しくもない!
『シロノクワ。お前は護衛だろう』
無情にも、精霊王様からお叱りを受けた。だけど、精霊王様、ミヤコさまは私の…!
『しかも、お前マロッカだぞ?』
だからなんだというのです!?
『人間と獣は相容れん』
なんですと?!
しかし、私は獣ではなくアストラル体!ならば、簡単。人間に憑依すればいいのです!あのような野蛮人、ミヤコさまには勿体無い。誰か、どこかに都合のいい体は落ちていないものだろうか…。できれば自我が少なく、乗っ取りやすいイケメンのオス…。
しかしながら、ミヤコさまの好みのオスは、なんとあの赤毛の様子。憎々し気はあの男。
虎視眈々とチャンスをうかがい、あわよくば乗っ取ろうとしてみたのですが、何せ野蛮人。私に対しての警戒を緩めようともしません。そしてつい先日の、悪霊との戦い。恐ろしく強いあの男に、私の背から感じるミヤコさまの狼狽えようと言ったら…。
「あっクルトさん、すごい…。やっぱり強い!」
「クルトさん、頑張れ!そこだ!やった!」
ぐぬぬ。
それほど、強い男が好きならば、私の力も見せて差し上げましょう。
そーれ!
ドゴオオオォォォォーーーーーーン!!
どうですか!強いでしょう!?しかも神聖魔法ですよ!あの男には使えません!ミヤコさま!
「よし、シロウ上出来だよ!」
ああ、至福。
ご褒美はなんでしょうか。キッスでも抱擁でも二人きりで遠乗りでも。愛の逃避行!キミヨ様の読んでたハーレクインロマンス小説によく出てきますよね!
「今日は特別な日だから、大好きなシロウには、ちょっとだけリンゴのサワーをあげる♡」
りんごのサワー…。
残念ですが、愛の逃避行は次の機会にとっておきましょう。私の背に乗せるのは、あなただけです。一生ついていきますからね。覚悟してください、ミヤコ様。ふふふ。
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ク:「どうも、シロウから殺気を感じるんだけど…」
ア:「ああ……あれは相当嬢ちゃんに入れ上げてるからな」
ク:「はあ。マロッカまでもライバルか……」
ア:「嬢ちゃんが喜んで跨るのはあいつだけだからなあ」
ク:「……言い方」
ちょっと気落ち悪いシロウでした。
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