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第4章:聖地アードグイ編
第95話:癒しの泉
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ミヤコがクルトたちと旅立ってからそろそろ五日が経つ。
おそらく火の聖地アードグイを目の前に苦戦していることだろうが、そこでキミヨや精霊王が手助けをするわけにもいかない。
これはミヤコ自身の試練でもある。他者が無理やり炎の大精霊の加護を願うわけにもいかず、彼女がやり遂げなければ意味がない。ミヤコにしかできない浄化の力が必要であり、それにキミヨでは力が及ばないのだ。
「私は私のできることをする」
そう呟いて顔を上げたキミヨは、できたばかりの聖水の泉を眺めた。ウスカーサにお願いをして、ナイアドが繋げてくれた水脈に、大地の大精霊レアの力で泉を作ってもらった。この水だけでもかなり清浄力はあるものの、人間に欲しいのは回復薬や毒消し、傷薬だ。魔力増強は、ミヤコに教えてもらった美味しいレシピがある。ミヤコの家の畑からカボチャやトマトを失敬して、こちらで野生化させることも成功した。異世界から持ち込んだ食べ物は、こちらでは体力や魔力に影響を与えることがわかったからだ。そして、これらを薬師に教えるのがキミヨの役割。
薬師見習いの娘に採取してもらった薬草をより分けて、手順を踏んでポーションを作成していく。薬師の娘をはじめとして、魔力はあるが体が不自由な者や、採取にすら行けない幼い子供、お年寄りを集め伝授していく。幸い、ウスカーサの聖域から直接引いた聖水は効き目が高く、体調に不具合のあった者たちから疲労や怪我が消えていき、この五日で街に活気が戻ってきていた。
「医療の祖母!金柑の実がたくさん取れたよ!」
「医療の祖母!サムの畑で採れたパンサが例年にない大きさだって!種がたくさん手に入りそうだよ。これで生薬ができるね?」
町の人はキミヨをエイル・ナンナと呼ぶようになった。医療の祖母という意味だ。愛し子の祖母であり、精霊王の妻とあっては聖女とも呼べず、グレンフェールの子供達がおばあちゃんと呼び始めたのが始まりだった。キミヨは親愛を込めたその名をいたく気に入っていた。過去を振り返っても、他人と深く付き合うことが許されなかったキミヨは、ミヤコが関わりを持つまで、人間たちとは一線を画してきた。だからこそ、親しみを含んだその呼び名はとても嬉しい。
「これで、ミヤコが大精霊全ての加護を得れば、この世界はきっと安定するわよね」
そうして、全ての加護を得たミヤコにあの赤毛の獅子ができる限り寄り添ってくれれば。
「あの子もきっと救われるわよね…」
『大丈夫だよ、あの子は強い』
ぽつりと不安げに放った言葉に脳内で返事をしたのは精霊王。キミヨが振り返るより早く、後ろから腕を回しキミヨを抱きしめる。
『アルヒレイト。来てたの?』
『うん、様子を見に来た。この町の人間は、もう大丈夫だろう?家に帰らないか?』
『まだダメよ、アルヒレイト。この町の人だけじゃダメなのよ。もっとたくさんの人に広めなければ』
『でもそれはキミヨがしなくてもいいのだろう?』
『ミヤコを助けたいのよ。わかるでしょう』
『あれには、赤毛もいるし、執行人もいるだろう』
『ミヤコには……あの子達には、聖地の浄化に集中してもらいたいもの』
『ミラート神国のくだらない争いは、人間に任せておけばいいじゃないか』
『あの汚れた女の魂がアーラの業火で焼かれるまでは気が抜けないわ』
『ルビラか』
『しつこいのよ、あの汚れは。お風呂場のカビみたいにね。それにあれの子孫もまだ生き延びているし』
『ああ、あの腐れ外道の末裔か…。ふむ。アレくらいなら俺が一発…』
『あなたは手を出しちゃダメ!生態自体が変わるわよ!』
『むう。そうだった…面倒臭いな』
『あなたには、出来るならアガバとエリカにミヤコが会いに行くことを伝えて欲しいんだけど』
『アガバはいいが…。エリカはどこにいるかなあ』
アガバは炎の大精霊で、間違いなくアードグイの聖域にいるはずだ。何しろカリプソが見張っている。どこかへ行こうものなら津波で押し返されるに違いないし、あのカリプソにアガバが叶うはずもない。それにアガバの奥方、カルラも溺愛系の怖い人物だったはず。アルヒレイトは遠い目をした。
問題は風の大精霊のエリカだ。
「彼女は奔放だから、聖域で何が起こってるかもわかってないかもしれないわね。せめて大精霊らしく聖域に居てもらいたいのだけど…」
風に向かって一つのところにいろというのも、魚に泳ぐなと言っているようなもので難しい話だ。大陸まで来てくれれば話もできるというものだが。
「ともかく精霊王のあなたにしかできないことでしょ。ちゃんと探して、伝えてちょうだい。できればあちらからミヤコに会いに行ってもらいたいものだけど、借りを作るのも怖いのよね。だから頑張ってね!」
有無を言わさぬ笑顔でキミヨから送り出されたアルヒレイトは、大きなため息をついた。
「あの、医療の祖母。どなたとお話をしていらっしゃるので?」
「あらやだわ。私、口に出してた?」
「はあ。聖域がどうとか」
「ごめんなさい。精霊王と話していたのよ」
「精霊王さまがこちらに?」
ぎょっとした薬師見習いの娘が目を丸くして、キョロキョロ辺りを見渡した。
「もう行ってしまったから、大丈夫よ」
「ああ、私ももう少し魔力が多ければ、感じるくらいはできたでしょうに」
「ふふ。精霊王が見えるほどの魔力を持っていたら、あなたを聖女に仕立て上げるわ」
「そそ、それはご勘弁ください!」
精霊たちは、姿を見せたい相手にしか具現化しない。魔力の強い人は、光の妖精を見たりナイアドやドライアドを見ることもあるが、それも彼らが相性の良い魔力を受けて具現化するだけで、基本精霊がその姿を見せることは少ない。
——ミヤコの周りにはかなりの魔力の持ち主が集まってるってことよね。クルト君もルノー君もアルヒレイトが見えていたし、アイザックちゃんはシロウの意思が伝わるし。
クルトは、元々の魔力もあったものの、ミヤコと接触してから魔力が激増した。ルノーもアイザックも同じく。クルトの討伐隊員も何人かは魔力が増えているだろうし、旅に同行しているガーネットもおそらく、後を追うように魔力が増えるだろう。彼女は聖騎士なだけに、シロウとも意思の疎通ができるようになるかもしれない。
ということは、何度か接触したミラートの末裔はどうだろうか。
「ねえ、廃嫡された王子様の名前なんだったかしら?」
「え、モンド、さんですか。えっと、モンファルト王子だったと思いますが」
「ああ、それそれ。モンドって通り名なのね…。今どこにいるか知ってる?」
「ええと、先日ミヤ様がお帰りになる前に、王都に行くようなことを言ってたと。ああ、それで聖騎士隊長のサトクリフ様が、入れ替わるようにここに来ていたんだと思いますよ」
「ああ、なるほどね。じゃあ、ルノー君は?」
「ルノーさんは神出鬼没ですからねえ。王都か、バーズ村か。ひょっとしたらヒョッコリ此処に来るかも知れません」
「そう。ん、わかったわ。じゃあスカンピーちゃん」
「あたしの名前はスキャンピルです!」
「スキャンピーちゃん、後10本づつ回復薬と毒消を聖水から作ってもらって、その後傷薬用の湿布を50枚作っておいてくれる?」
「スキャンピルですってば!わかりましたよ。エイル・ナンナ」
「ちょっとルノー君、探してくるわね。帰りにキパ肉丼もらってくるわ」
「ふえっ!?お願いします!頑張って作ります!」
*****
「アッシュ、神殿で国王と聖女が見つかったというのは本当か」
「モンファルト王子!は、はい。昨夜から森が騒がしいと報告を受けていたので、今朝方兵士を派遣したところ神殿の森が枯れ果て、泉の近くでお二方が倒れているのを確認したようです」
王都に忍び込んでいたモンドが、その報告を聞いたのは昼も近い頃だった。
「そうか。ルブラート教の連中は見つかったのか?」
「いえ。神官はもとより、大神官様のお姿すら発見されず。神殿内は荒れ果てており、目立つ服飾品などもなかったことから、少なくとも数日前には逃げ出したのではないかと思われます」
「チッ…。神官にもルブラート教の息がかかっていたということか……」
「あと、神殿の泉はすでに枯れ果てており、神殿を囲う森も毒にやられたせいか、すでに腐敗が進んでおりました。あの土地はもう使い物になりますまい」
「ふん……聖女など元から不必要だったんだ。神殿などなくても構わんだろう」
「で、ですが、我が国はミラートを神として…」
「あれは、神でもなんでもない。田舎の商人だったんだがな。偶然精霊の加護を得て、たまたま偉そうになっただけだ」
「は……?」
「国王だった俺の親父は神の血筋でもなければ、精霊の加護も魔力もない、ただのクズだったってわけだよ。聖女とグルになって母を殺し、踊らされた馬鹿だ。勝手に死んでくれたおかげで手間が省けた」
「!ま、まだお二人の死亡確認はされておりません!」
「ならば、確認んいいこうではないか。死んでいれば、この俺が次世代の王だ」
———そして俺には魔力がある。闇魔法が使えるのは、俺以外にいないはずだ。聖騎士の光魔法など高が知れているし、宰相も元帥も役目さえ与えておけば、おとなしいものだ。
……問題があるとすれば、ハルクルトと、異世界から来た女、ミヤ。
「愛し子は見つかったか?」
「は……いえ。情報は入ってきておりません。ただ、聖地ウスクヴェサールは立ち直り、森が増えたとの報告は受けました。それとグレンフェールも復興の兆しを見せております。森が増えたおかげで、野生の動物や植物が手に入りやすくなったことが原因かと思われます」
アッシュは本来の目的を隠しながら、うまくモンファルトを監視していた。聖地ウスクヴェサールの暴発から、ミヤコを始めとしてハルクルト、アイザック、そしてルノーの情報は一切漏らしてはいない。ルノーはもちろん転移魔法を使い影で動いており、その情報網はアッシュですら掴めていない。
副隊長などという地位で、己の能力を隠してきたルノーが、アッシュにとってはいささか不気味な存在であるのは確かだった。ハーフラの遺跡で、執行人としてアッシュ達の前に立ちふさがった時の、あの殺気は今思い出しても寒気がする。
(一番敵に回したくない相手だ)
それに比べ、モンファルトには奥行きがない。王子として生まれ、非情な背景があるとはいえ、常に上から物を見ていた立場の人間だ。いかに国民のためと訴えようと、自分の立場を確保することに躍起になっている姿は、敬意を表するに値しない。
魔力が高いと本人は自慢しているようだが、その魔力はルノーやハルクルトの比ではない。おそらくアイザックにも及ばないだろう。アッシュよりは魔力量が多いかもしれないが、所詮は井の中の蛙なのだ。上に立つ者が必ずしも最強である必要はないが、自己分析のできない者が上に立てるほど世間は甘くない。
しかもミラートはただの商人だったと公言した。馬鹿なのだろうか。そんなことを公にしてしまえば、誰がこの男を王と認めると言うのか。
「最近貴族がおかしな行動を取っていると聞くが、どうなっている?」
「は。それに関しては只今調べている最中ですが、ここしばらく国王が姿を見せず国政も滞っておりましたので、おそらく不安に思っているのだと」
「ルブラート教の行方もわかっていないからな。そろそろ表明するべきか」
「表明、とおっしゃると?」
「国王の崩御と新国王の即位だ」
おそらく火の聖地アードグイを目の前に苦戦していることだろうが、そこでキミヨや精霊王が手助けをするわけにもいかない。
これはミヤコ自身の試練でもある。他者が無理やり炎の大精霊の加護を願うわけにもいかず、彼女がやり遂げなければ意味がない。ミヤコにしかできない浄化の力が必要であり、それにキミヨでは力が及ばないのだ。
「私は私のできることをする」
そう呟いて顔を上げたキミヨは、できたばかりの聖水の泉を眺めた。ウスカーサにお願いをして、ナイアドが繋げてくれた水脈に、大地の大精霊レアの力で泉を作ってもらった。この水だけでもかなり清浄力はあるものの、人間に欲しいのは回復薬や毒消し、傷薬だ。魔力増強は、ミヤコに教えてもらった美味しいレシピがある。ミヤコの家の畑からカボチャやトマトを失敬して、こちらで野生化させることも成功した。異世界から持ち込んだ食べ物は、こちらでは体力や魔力に影響を与えることがわかったからだ。そして、これらを薬師に教えるのがキミヨの役割。
薬師見習いの娘に採取してもらった薬草をより分けて、手順を踏んでポーションを作成していく。薬師の娘をはじめとして、魔力はあるが体が不自由な者や、採取にすら行けない幼い子供、お年寄りを集め伝授していく。幸い、ウスカーサの聖域から直接引いた聖水は効き目が高く、体調に不具合のあった者たちから疲労や怪我が消えていき、この五日で街に活気が戻ってきていた。
「医療の祖母!金柑の実がたくさん取れたよ!」
「医療の祖母!サムの畑で採れたパンサが例年にない大きさだって!種がたくさん手に入りそうだよ。これで生薬ができるね?」
町の人はキミヨをエイル・ナンナと呼ぶようになった。医療の祖母という意味だ。愛し子の祖母であり、精霊王の妻とあっては聖女とも呼べず、グレンフェールの子供達がおばあちゃんと呼び始めたのが始まりだった。キミヨは親愛を込めたその名をいたく気に入っていた。過去を振り返っても、他人と深く付き合うことが許されなかったキミヨは、ミヤコが関わりを持つまで、人間たちとは一線を画してきた。だからこそ、親しみを含んだその呼び名はとても嬉しい。
「これで、ミヤコが大精霊全ての加護を得れば、この世界はきっと安定するわよね」
そうして、全ての加護を得たミヤコにあの赤毛の獅子ができる限り寄り添ってくれれば。
「あの子もきっと救われるわよね…」
『大丈夫だよ、あの子は強い』
ぽつりと不安げに放った言葉に脳内で返事をしたのは精霊王。キミヨが振り返るより早く、後ろから腕を回しキミヨを抱きしめる。
『アルヒレイト。来てたの?』
『うん、様子を見に来た。この町の人間は、もう大丈夫だろう?家に帰らないか?』
『まだダメよ、アルヒレイト。この町の人だけじゃダメなのよ。もっとたくさんの人に広めなければ』
『でもそれはキミヨがしなくてもいいのだろう?』
『ミヤコを助けたいのよ。わかるでしょう』
『あれには、赤毛もいるし、執行人もいるだろう』
『ミヤコには……あの子達には、聖地の浄化に集中してもらいたいもの』
『ミラート神国のくだらない争いは、人間に任せておけばいいじゃないか』
『あの汚れた女の魂がアーラの業火で焼かれるまでは気が抜けないわ』
『ルビラか』
『しつこいのよ、あの汚れは。お風呂場のカビみたいにね。それにあれの子孫もまだ生き延びているし』
『ああ、あの腐れ外道の末裔か…。ふむ。アレくらいなら俺が一発…』
『あなたは手を出しちゃダメ!生態自体が変わるわよ!』
『むう。そうだった…面倒臭いな』
『あなたには、出来るならアガバとエリカにミヤコが会いに行くことを伝えて欲しいんだけど』
『アガバはいいが…。エリカはどこにいるかなあ』
アガバは炎の大精霊で、間違いなくアードグイの聖域にいるはずだ。何しろカリプソが見張っている。どこかへ行こうものなら津波で押し返されるに違いないし、あのカリプソにアガバが叶うはずもない。それにアガバの奥方、カルラも溺愛系の怖い人物だったはず。アルヒレイトは遠い目をした。
問題は風の大精霊のエリカだ。
「彼女は奔放だから、聖域で何が起こってるかもわかってないかもしれないわね。せめて大精霊らしく聖域に居てもらいたいのだけど…」
風に向かって一つのところにいろというのも、魚に泳ぐなと言っているようなもので難しい話だ。大陸まで来てくれれば話もできるというものだが。
「ともかく精霊王のあなたにしかできないことでしょ。ちゃんと探して、伝えてちょうだい。できればあちらからミヤコに会いに行ってもらいたいものだけど、借りを作るのも怖いのよね。だから頑張ってね!」
有無を言わさぬ笑顔でキミヨから送り出されたアルヒレイトは、大きなため息をついた。
「あの、医療の祖母。どなたとお話をしていらっしゃるので?」
「あらやだわ。私、口に出してた?」
「はあ。聖域がどうとか」
「ごめんなさい。精霊王と話していたのよ」
「精霊王さまがこちらに?」
ぎょっとした薬師見習いの娘が目を丸くして、キョロキョロ辺りを見渡した。
「もう行ってしまったから、大丈夫よ」
「ああ、私ももう少し魔力が多ければ、感じるくらいはできたでしょうに」
「ふふ。精霊王が見えるほどの魔力を持っていたら、あなたを聖女に仕立て上げるわ」
「そそ、それはご勘弁ください!」
精霊たちは、姿を見せたい相手にしか具現化しない。魔力の強い人は、光の妖精を見たりナイアドやドライアドを見ることもあるが、それも彼らが相性の良い魔力を受けて具現化するだけで、基本精霊がその姿を見せることは少ない。
——ミヤコの周りにはかなりの魔力の持ち主が集まってるってことよね。クルト君もルノー君もアルヒレイトが見えていたし、アイザックちゃんはシロウの意思が伝わるし。
クルトは、元々の魔力もあったものの、ミヤコと接触してから魔力が激増した。ルノーもアイザックも同じく。クルトの討伐隊員も何人かは魔力が増えているだろうし、旅に同行しているガーネットもおそらく、後を追うように魔力が増えるだろう。彼女は聖騎士なだけに、シロウとも意思の疎通ができるようになるかもしれない。
ということは、何度か接触したミラートの末裔はどうだろうか。
「ねえ、廃嫡された王子様の名前なんだったかしら?」
「え、モンド、さんですか。えっと、モンファルト王子だったと思いますが」
「ああ、それそれ。モンドって通り名なのね…。今どこにいるか知ってる?」
「ええと、先日ミヤ様がお帰りになる前に、王都に行くようなことを言ってたと。ああ、それで聖騎士隊長のサトクリフ様が、入れ替わるようにここに来ていたんだと思いますよ」
「ああ、なるほどね。じゃあ、ルノー君は?」
「ルノーさんは神出鬼没ですからねえ。王都か、バーズ村か。ひょっとしたらヒョッコリ此処に来るかも知れません」
「そう。ん、わかったわ。じゃあスカンピーちゃん」
「あたしの名前はスキャンピルです!」
「スキャンピーちゃん、後10本づつ回復薬と毒消を聖水から作ってもらって、その後傷薬用の湿布を50枚作っておいてくれる?」
「スキャンピルですってば!わかりましたよ。エイル・ナンナ」
「ちょっとルノー君、探してくるわね。帰りにキパ肉丼もらってくるわ」
「ふえっ!?お願いします!頑張って作ります!」
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「アッシュ、神殿で国王と聖女が見つかったというのは本当か」
「モンファルト王子!は、はい。昨夜から森が騒がしいと報告を受けていたので、今朝方兵士を派遣したところ神殿の森が枯れ果て、泉の近くでお二方が倒れているのを確認したようです」
王都に忍び込んでいたモンドが、その報告を聞いたのは昼も近い頃だった。
「そうか。ルブラート教の連中は見つかったのか?」
「いえ。神官はもとより、大神官様のお姿すら発見されず。神殿内は荒れ果てており、目立つ服飾品などもなかったことから、少なくとも数日前には逃げ出したのではないかと思われます」
「チッ…。神官にもルブラート教の息がかかっていたということか……」
「あと、神殿の泉はすでに枯れ果てており、神殿を囲う森も毒にやられたせいか、すでに腐敗が進んでおりました。あの土地はもう使い物になりますまい」
「ふん……聖女など元から不必要だったんだ。神殿などなくても構わんだろう」
「で、ですが、我が国はミラートを神として…」
「あれは、神でもなんでもない。田舎の商人だったんだがな。偶然精霊の加護を得て、たまたま偉そうになっただけだ」
「は……?」
「国王だった俺の親父は神の血筋でもなければ、精霊の加護も魔力もない、ただのクズだったってわけだよ。聖女とグルになって母を殺し、踊らされた馬鹿だ。勝手に死んでくれたおかげで手間が省けた」
「!ま、まだお二人の死亡確認はされておりません!」
「ならば、確認んいいこうではないか。死んでいれば、この俺が次世代の王だ」
———そして俺には魔力がある。闇魔法が使えるのは、俺以外にいないはずだ。聖騎士の光魔法など高が知れているし、宰相も元帥も役目さえ与えておけば、おとなしいものだ。
……問題があるとすれば、ハルクルトと、異世界から来た女、ミヤ。
「愛し子は見つかったか?」
「は……いえ。情報は入ってきておりません。ただ、聖地ウスクヴェサールは立ち直り、森が増えたとの報告は受けました。それとグレンフェールも復興の兆しを見せております。森が増えたおかげで、野生の動物や植物が手に入りやすくなったことが原因かと思われます」
アッシュは本来の目的を隠しながら、うまくモンファルトを監視していた。聖地ウスクヴェサールの暴発から、ミヤコを始めとしてハルクルト、アイザック、そしてルノーの情報は一切漏らしてはいない。ルノーはもちろん転移魔法を使い影で動いており、その情報網はアッシュですら掴めていない。
副隊長などという地位で、己の能力を隠してきたルノーが、アッシュにとってはいささか不気味な存在であるのは確かだった。ハーフラの遺跡で、執行人としてアッシュ達の前に立ちふさがった時の、あの殺気は今思い出しても寒気がする。
(一番敵に回したくない相手だ)
それに比べ、モンファルトには奥行きがない。王子として生まれ、非情な背景があるとはいえ、常に上から物を見ていた立場の人間だ。いかに国民のためと訴えようと、自分の立場を確保することに躍起になっている姿は、敬意を表するに値しない。
魔力が高いと本人は自慢しているようだが、その魔力はルノーやハルクルトの比ではない。おそらくアイザックにも及ばないだろう。アッシュよりは魔力量が多いかもしれないが、所詮は井の中の蛙なのだ。上に立つ者が必ずしも最強である必要はないが、自己分析のできない者が上に立てるほど世間は甘くない。
しかもミラートはただの商人だったと公言した。馬鹿なのだろうか。そんなことを公にしてしまえば、誰がこの男を王と認めると言うのか。
「最近貴族がおかしな行動を取っていると聞くが、どうなっている?」
「は。それに関しては只今調べている最中ですが、ここしばらく国王が姿を見せず国政も滞っておりましたので、おそらく不安に思っているのだと」
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