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第5章:聖地ラスラッカ編
第105話:風の大精霊
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時は少し戻り。
「国王はどこだ!」
ミラート神国の軍師であるガルシア・デルドレ・ルフリストは宮殿内を大股で歩き、逃げ隠れしている大臣たちを引きずり出し、問い詰めたていた。
「ひ、ヒィッ!軍師、我らも知らん!それより、あの廃嫡王子が王都に戻ってきていると聞いたが!そっちはどうなっているのだ!?」
「見張りは付けてある!だが肝心の王がいなければ、守るものも守れない!」
「王はここ何日も王宮にいないのだ!どこへ行ったのかわからんが、護衛も一緒だ」
「チッ…」
「そ、それより反乱はどうなっているのだ!なぜ軍は動かない?!」
「あちこちで問題が湧き上がっているのだ!王都には聖騎士を置いてある。各地から戦士たちが戻ってくるまでは持ちこたえるはずだ。そもそも、貴族たちは何をしている!瘴気と魔獣のせいで国民は飢えているんだぞ!暴動が起こる前になぜ対処しなかったのだ。あなた方は王宮に隠れて何を話し合っている!」
この数ヶ月の国内の騒動に騎士も討伐隊も東に西に飛び回り、魔獣と瘴気に振り回されていた。王都の反乱を抑えるために騎士も働き詰めで疲労や不満がたまってきている。国は機能しておらず、ルブラート教の件もあり聖地周辺の異変の確認すら追いついていない。
瘴気の問題は何もミラート神国に限ったことではなく、精霊の力が弱れば当然隣国でも問題が起きているのだ。どの国も自国のことで忙しく、他所の国まで関わっていられないというのが現状だった。そして、ミラート神国の土地はそのどの国よりもひどい位置にある。東の魔の森、西の西獄谷に陸路を阻まれ、北は海峡、南は山脈に覆われていた。
その昔は聖女がいて精霊が自然を守り、この国は豊かで守られた土地だったのだが、いつしか聖女が消え、瘴気が増え、森や谷に魔獣が潜み、今では四面楚歌に陥ってしまったのだ。
どこで間違えたのか。
執務室に戻ったガルシアは、討伐隊隊長のアッシュを呼び出して報告書を読んでいた。
東の魔の森が崩壊し、魔獣と瘴気が消え新たな森が生い茂ったと聞いたと思ったら、今度は聖地ソルイリスが浄化された。それに伴い、バーズ村付近に壮大な森が一夜にして湧き上がった。それだけでも情報が飛び交い、手に負えないというのに、今度は西の聖地ウスクヴェサールで謎の光と地震騒動が起こり、西獄谷《ウエストエンド》の地形が変わった。そして消え去った魔障。広がりつつある森林に精霊の視覚化。これもたった一夜にして起こった事件だった。
アッシュによる以前の報告書では、異世界から来た聖女と息子であるハルクルトがその中心にいる、とあった。事実確認のために息子を呼び戻そうとすれば頑なに拒否を続け、挙句に行方不明になり代わりにアイザックが出張ってきた。あれは軍を嫌って戦士になったはずだ。随分昔に共に戦ったことはあったが、あの頃のアイザックはまだほんの子供だった。聖地を巡りながらコソコソしていると思っていたが、どうやらあいつも例の聖女と関わりがあるらしい。
その聖女は誰なのかと報告書を読めば、緑の砦から突然現れた存在で、聖女ではないだとか。
「ハルクルト絡みか……」
この聖女の出現にはハルクルトが深く関わっているようだ。毒にやられて長くないと聞いて、ガルシアがどれほど悔やんだことかわからない。だが或る日突然蘇り、以前にもまして魔力が増えたと噂で聞いた。風の加護と火の加護でフェニックスのように蘇ったかとホッと胸を撫で下ろしたものの、一向に戻って来る様子がない。聖女に陶酔していると耳に入ってくる。
「異世界人などに骨抜きにされおって、バカが……」
だが、そのあとの報告書を読んで目を疑った。精霊王の愛し子だと。魔の森を薬草の森に変え、大地の聖地と水の聖地を浄化した後、姿を消した。己の息子と共に。
血は争えないとはこのことか。この親にしてこの子ありだ、とガルシアは苦笑した。あるいは母に似たか。姿を消したとはいえど、誰一人として死んだとは思っていない。誰かが隠蔽している情報がある。おそらくアッシュも知っているのだろうが、ルノーとアイザックあたりがうまく隠しているのだろう。
「このわしを差し置いて、何を企んでいる……?」
若い連中が何かをやろうと画策しているのだ。ガルシアはため息をつくが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
この国はどのみち立て直しが必要なのだ。腑抜けの国王は逃げ、重臣達は自分の身ばかりを心配して宮殿に隠れている。王都は機能を果たしておらず、国民の不平不満は爆発寸前だ。
それを纏めるには、カリスマ性のある者が頂に立つのは当然だろう。それがハルクルトであるならば文句はないのだがな、とガルシアは考えるが、その考えを否定するように首を横に振る。
――あれは母親に似て自由を好むからな。
「国王はこの数ヶ月、神殿に閉じこもったまま出てこないとのことですが」
アッシュが難しい顔で報告書を突き出した。どこかへ逃げ回っているとは思っていたが、まさかの神殿だとは。
「先日の水の聖地の浄化に伴い、中央神殿を囲った森が枯れ果てたと報告が入っています。あそこは毒の森と成り果てていたので、誰も近づけなかったのですが。隊員を何人かを送りましょうか」
「王ともあろうものが毒に侵され寂れた神殿に逃げ込むとはな。空いている人間を何人か送ってくれ。確認だけでいい。ルブラートの教徒はどうなった?水の聖地に潜んでいた者は消滅したと聞いたが」
「はい。ルブラート教徒が潜んでいたと思われる西獄谷《ウエストエンド》は、ミヤ殿の聖なる浄化の力で完全に浄化され、その時の爆破で不浄な者はすべて消し去られたようです。その後の調べでも谷の泉が湖に変わり、聖地が拡大されました」
「ミヤという聖女の力は、そんなにすごかったのか」
「ええ、私はグレンフェールの街にいましたが、その時の聖なる光の凄まじさは覚えております。ミヤ殿のお力で、聖地どころか街も復興しました」
「なるほどな……。それで、その後のモンファルトの動きはどうだ?」
「は。現在のところ王都に逗留し、公爵家に潜んでいます。奴も国王の行方を捜しているようですが…。その、マリゴールドを手なずけたようでして…」
「あの娘は、お前の嫁ではなかったか」
「はぁ。まあ、名目上は。婚姻の儀から会っていませんが」
「妻を満足させるのも貴族の役目だぞ」
「私は、討伐隊員であって貴族の地位はあくまで飾りです。それに、あれは不貞を働いてどこぞの男の子供を産んでおりますから」
「ハァ……。過去とはいえ、あれとハルクルトを結ばせたのだがな」
「ハルクルト隊長は、ミヤ殿一筋ですから」
「……骨抜きにされておると聞いたが、それほどに美しいのか」
「……興味深い方だと、思います」
「……それで、息子を含む精鋭討伐隊員全員をすっかり手なずけ、アイザックとバーズの村人だけで止まらずグレンフェールも懐柔されたと」
「……は。ミヤ殿の作る料理で胃袋を掴まれた者がほとんどかと。それと、モンファルト元殿下もおそらく彼女に執着しているかと思われます」
ガルシアは額を片手で覆い、持っていた報告書を卓上に投げ捨てた。食い物で、だと?
「お前は、ハルクルトがどこにいるか知っているのか?」
「……いえ。ですが、生きておられます」
「そうか……」
つまり、その聖女だか愛し子だかと行動しているということか。おそらくは聖地浄化のために飛び回っているか。ハルクルトに忠誠を誓っているから問題はないが、この男は馬鹿正直で隠し事が出来ない。ルノーに上手く使われるわけだ。
ガルシアはフッと口元を歪ませた。
「それで?お前たちはモンファルトをどうするつもりなんだ?」
「それは…私からはなんとも」
「誰なら話ができるんだ?」
「……今のところは、分かり兼ねます」
「ふん……年寄りは役に立たんか」
「そ、そういうわけでは……」
「まあ、いい。そのまま見張りを続けろ。動きがあれば、逐一連絡しろ」
「は」
ガルシアは疲れた顔を上げ、バルコニーに出た。そろそろ日が沈む。東を見れば鬱蒼と茂る森が遠くに広がり、すでに宵闇に溶けて影を落としている。
「今頃は火の聖地にでも向かっているか…生きていればそれでいいが」
この静けさも後何日、持つのか。瘴気が消えてからというもの、風がやんだ。わずかなそよ風は時折吹くが、以前のような力強さはない。自分に風の加護が付いていれば、と唇を噛む。
「そうすれば、ここから飛び出してすぐあなたに会いに行くのに…」
ガルシアは東の森よりも遠くを見るようにその目を細めた。
「……シア」
かすかな声に、ガルシアの肩がぴくりと震えた。凍りついたようにその場に立ち、息を潜めて全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「ガル、シア」
今度は先程よりも近く、はっきりと自分を呼ぶ声に目を大きく開けた。
「エ、リカ……?」
芳しい香りとともに、ふわりと風が舞う。ガルシアは振り向くと、そこに崩れ落ちるように現れた人を受け止め、膝をつく。
「エリカ!」
ガルシアが抱きかかえたのは、風の大精霊エリカだった。
ガルシアが一生に一度恋をして愛した大精霊、ハルクルトの母親。その大精霊が今にも消えそうな風貌でガルシアの前に現れた。美しかった亜麻色の髪は艶をなくし、肌は風景に紛れてしまいそうなほど白い。
「何があった!?なぜここに……?」
「ガルシア……私の地がもう、持たなくて、だから、最後に会いたくて」
「な…!馬鹿な。風の聖地に何が……!?」
弱々しく笑うエリカを抱きあげてガルシアは愕然とした。あれほど活気にあふれて飛び回っていたエリカが自分の腕の中でぐったりとしている。聖地が、風の聖地が壊れかけている。それが何を意味するのか。ガルシアはギュッと唇を結んだ。
「ハルクルトが、僕たちの息子が精霊王の愛し子と聖地を浄化していると聞いた……!もしかしたら、風の聖地に向かっているかもしれない」
「あの子が…?ふふ。そう。頼もしくなったわね。ありがとうガルシア……でも、あの地は、もう手遅れだわ。だって、風が使えなくては、行けないもの……」
「アレは風使いだ。諦めるなエリカ。あの子は、何度も死地から蘇っている。きっと、大丈夫だ。僕らの息子を信じよう。それに、あの子には精霊王の愛し子が付いているらしい」
「愛し子……ああ、噂で聞いたわ。そう、あの子も、助けてくれるの…」
ガルシアはエリカを救うため必死に頭を働かせ、他の大精霊に祈りを込めた。大地の大精霊と水の大精霊の聖地は救われた。ならば、彼らがエリカを助けてくれないかと。エリカを失うわけにはいかない。
誰か、誰でもいい。エリカを。
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時は少し戻り。
「国王はどこだ!」
ミラート神国の軍師であるガルシア・デルドレ・ルフリストは宮殿内を大股で歩き、逃げ隠れしている大臣たちを引きずり出し、問い詰めたていた。
「ひ、ヒィッ!軍師、我らも知らん!それより、あの廃嫡王子が王都に戻ってきていると聞いたが!そっちはどうなっているのだ!?」
「見張りは付けてある!だが肝心の王がいなければ、守るものも守れない!」
「王はここ何日も王宮にいないのだ!どこへ行ったのかわからんが、護衛も一緒だ」
「チッ…」
「そ、それより反乱はどうなっているのだ!なぜ軍は動かない?!」
「あちこちで問題が湧き上がっているのだ!王都には聖騎士を置いてある。各地から戦士たちが戻ってくるまでは持ちこたえるはずだ。そもそも、貴族たちは何をしている!瘴気と魔獣のせいで国民は飢えているんだぞ!暴動が起こる前になぜ対処しなかったのだ。あなた方は王宮に隠れて何を話し合っている!」
この数ヶ月の国内の騒動に騎士も討伐隊も東に西に飛び回り、魔獣と瘴気に振り回されていた。王都の反乱を抑えるために騎士も働き詰めで疲労や不満がたまってきている。国は機能しておらず、ルブラート教の件もあり聖地周辺の異変の確認すら追いついていない。
瘴気の問題は何もミラート神国に限ったことではなく、精霊の力が弱れば当然隣国でも問題が起きているのだ。どの国も自国のことで忙しく、他所の国まで関わっていられないというのが現状だった。そして、ミラート神国の土地はそのどの国よりもひどい位置にある。東の魔の森、西の西獄谷に陸路を阻まれ、北は海峡、南は山脈に覆われていた。
その昔は聖女がいて精霊が自然を守り、この国は豊かで守られた土地だったのだが、いつしか聖女が消え、瘴気が増え、森や谷に魔獣が潜み、今では四面楚歌に陥ってしまったのだ。
どこで間違えたのか。
執務室に戻ったガルシアは、討伐隊隊長のアッシュを呼び出して報告書を読んでいた。
東の魔の森が崩壊し、魔獣と瘴気が消え新たな森が生い茂ったと聞いたと思ったら、今度は聖地ソルイリスが浄化された。それに伴い、バーズ村付近に壮大な森が一夜にして湧き上がった。それだけでも情報が飛び交い、手に負えないというのに、今度は西の聖地ウスクヴェサールで謎の光と地震騒動が起こり、西獄谷《ウエストエンド》の地形が変わった。そして消え去った魔障。広がりつつある森林に精霊の視覚化。これもたった一夜にして起こった事件だった。
アッシュによる以前の報告書では、異世界から来た聖女と息子であるハルクルトがその中心にいる、とあった。事実確認のために息子を呼び戻そうとすれば頑なに拒否を続け、挙句に行方不明になり代わりにアイザックが出張ってきた。あれは軍を嫌って戦士になったはずだ。随分昔に共に戦ったことはあったが、あの頃のアイザックはまだほんの子供だった。聖地を巡りながらコソコソしていると思っていたが、どうやらあいつも例の聖女と関わりがあるらしい。
その聖女は誰なのかと報告書を読めば、緑の砦から突然現れた存在で、聖女ではないだとか。
「ハルクルト絡みか……」
この聖女の出現にはハルクルトが深く関わっているようだ。毒にやられて長くないと聞いて、ガルシアがどれほど悔やんだことかわからない。だが或る日突然蘇り、以前にもまして魔力が増えたと噂で聞いた。風の加護と火の加護でフェニックスのように蘇ったかとホッと胸を撫で下ろしたものの、一向に戻って来る様子がない。聖女に陶酔していると耳に入ってくる。
「異世界人などに骨抜きにされおって、バカが……」
だが、そのあとの報告書を読んで目を疑った。精霊王の愛し子だと。魔の森を薬草の森に変え、大地の聖地と水の聖地を浄化した後、姿を消した。己の息子と共に。
血は争えないとはこのことか。この親にしてこの子ありだ、とガルシアは苦笑した。あるいは母に似たか。姿を消したとはいえど、誰一人として死んだとは思っていない。誰かが隠蔽している情報がある。おそらくアッシュも知っているのだろうが、ルノーとアイザックあたりがうまく隠しているのだろう。
「このわしを差し置いて、何を企んでいる……?」
若い連中が何かをやろうと画策しているのだ。ガルシアはため息をつくが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
この国はどのみち立て直しが必要なのだ。腑抜けの国王は逃げ、重臣達は自分の身ばかりを心配して宮殿に隠れている。王都は機能を果たしておらず、国民の不平不満は爆発寸前だ。
それを纏めるには、カリスマ性のある者が頂に立つのは当然だろう。それがハルクルトであるならば文句はないのだがな、とガルシアは考えるが、その考えを否定するように首を横に振る。
――あれは母親に似て自由を好むからな。
「国王はこの数ヶ月、神殿に閉じこもったまま出てこないとのことですが」
アッシュが難しい顔で報告書を突き出した。どこかへ逃げ回っているとは思っていたが、まさかの神殿だとは。
「先日の水の聖地の浄化に伴い、中央神殿を囲った森が枯れ果てたと報告が入っています。あそこは毒の森と成り果てていたので、誰も近づけなかったのですが。隊員を何人かを送りましょうか」
「王ともあろうものが毒に侵され寂れた神殿に逃げ込むとはな。空いている人間を何人か送ってくれ。確認だけでいい。ルブラートの教徒はどうなった?水の聖地に潜んでいた者は消滅したと聞いたが」
「はい。ルブラート教徒が潜んでいたと思われる西獄谷《ウエストエンド》は、ミヤ殿の聖なる浄化の力で完全に浄化され、その時の爆破で不浄な者はすべて消し去られたようです。その後の調べでも谷の泉が湖に変わり、聖地が拡大されました」
「ミヤという聖女の力は、そんなにすごかったのか」
「ええ、私はグレンフェールの街にいましたが、その時の聖なる光の凄まじさは覚えております。ミヤ殿のお力で、聖地どころか街も復興しました」
「なるほどな……。それで、その後のモンファルトの動きはどうだ?」
「は。現在のところ王都に逗留し、公爵家に潜んでいます。奴も国王の行方を捜しているようですが…。その、マリゴールドを手なずけたようでして…」
「あの娘は、お前の嫁ではなかったか」
「はぁ。まあ、名目上は。婚姻の儀から会っていませんが」
「妻を満足させるのも貴族の役目だぞ」
「私は、討伐隊員であって貴族の地位はあくまで飾りです。それに、あれは不貞を働いてどこぞの男の子供を産んでおりますから」
「ハァ……。過去とはいえ、あれとハルクルトを結ばせたのだがな」
「ハルクルト隊長は、ミヤ殿一筋ですから」
「……骨抜きにされておると聞いたが、それほどに美しいのか」
「……興味深い方だと、思います」
「……それで、息子を含む精鋭討伐隊員全員をすっかり手なずけ、アイザックとバーズの村人だけで止まらずグレンフェールも懐柔されたと」
「……は。ミヤ殿の作る料理で胃袋を掴まれた者がほとんどかと。それと、モンファルト元殿下もおそらく彼女に執着しているかと思われます」
ガルシアは額を片手で覆い、持っていた報告書を卓上に投げ捨てた。食い物で、だと?
「お前は、ハルクルトがどこにいるか知っているのか?」
「……いえ。ですが、生きておられます」
「そうか……」
つまり、その聖女だか愛し子だかと行動しているということか。おそらくは聖地浄化のために飛び回っているか。ハルクルトに忠誠を誓っているから問題はないが、この男は馬鹿正直で隠し事が出来ない。ルノーに上手く使われるわけだ。
ガルシアはフッと口元を歪ませた。
「それで?お前たちはモンファルトをどうするつもりなんだ?」
「それは…私からはなんとも」
「誰なら話ができるんだ?」
「……今のところは、分かり兼ねます」
「ふん……年寄りは役に立たんか」
「そ、そういうわけでは……」
「まあ、いい。そのまま見張りを続けろ。動きがあれば、逐一連絡しろ」
「は」
ガルシアは疲れた顔を上げ、バルコニーに出た。そろそろ日が沈む。東を見れば鬱蒼と茂る森が遠くに広がり、すでに宵闇に溶けて影を落としている。
「今頃は火の聖地にでも向かっているか…生きていればそれでいいが」
この静けさも後何日、持つのか。瘴気が消えてからというもの、風がやんだ。わずかなそよ風は時折吹くが、以前のような力強さはない。自分に風の加護が付いていれば、と唇を噛む。
「そうすれば、ここから飛び出してすぐあなたに会いに行くのに…」
ガルシアは東の森よりも遠くを見るようにその目を細めた。
「……シア」
かすかな声に、ガルシアの肩がぴくりと震えた。凍りついたようにその場に立ち、息を潜めて全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「ガル、シア」
今度は先程よりも近く、はっきりと自分を呼ぶ声に目を大きく開けた。
「エ、リカ……?」
芳しい香りとともに、ふわりと風が舞う。ガルシアは振り向くと、そこに崩れ落ちるように現れた人を受け止め、膝をつく。
「エリカ!」
ガルシアが抱きかかえたのは、風の大精霊エリカだった。
ガルシアが一生に一度恋をして愛した大精霊、ハルクルトの母親。その大精霊が今にも消えそうな風貌でガルシアの前に現れた。美しかった亜麻色の髪は艶をなくし、肌は風景に紛れてしまいそうなほど白い。
「何があった!?なぜここに……?」
「ガルシア……私の地がもう、持たなくて、だから、最後に会いたくて」
「な…!馬鹿な。風の聖地に何が……!?」
弱々しく笑うエリカを抱きあげてガルシアは愕然とした。あれほど活気にあふれて飛び回っていたエリカが自分の腕の中でぐったりとしている。聖地が、風の聖地が壊れかけている。それが何を意味するのか。ガルシアはギュッと唇を結んだ。
「ハルクルトが、僕たちの息子が精霊王の愛し子と聖地を浄化していると聞いた……!もしかしたら、風の聖地に向かっているかもしれない」
「あの子が…?ふふ。そう。頼もしくなったわね。ありがとうガルシア……でも、あの地は、もう手遅れだわ。だって、風が使えなくては、行けないもの……」
「アレは風使いだ。諦めるなエリカ。あの子は、何度も死地から蘇っている。きっと、大丈夫だ。僕らの息子を信じよう。それに、あの子には精霊王の愛し子が付いているらしい」
「愛し子……ああ、噂で聞いたわ。そう、あの子も、助けてくれるの…」
ガルシアはエリカを救うため必死に頭を働かせ、他の大精霊に祈りを込めた。大地の大精霊と水の大精霊の聖地は救われた。ならば、彼らがエリカを助けてくれないかと。エリカを失うわけにはいかない。
誰か、誰でもいい。エリカを。
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