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ハルバートの苦悩
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その頃、王城ではハルバートが頭を抱えていた。
母である王妃は、いよいよ全身を呪いに纏い、皮膚は青黒く、所々膿が垂れ流れ、痒みに発狂していたし、国王は国王で、押し寄せる諸外国の対応に追われ、住み着き始めた外国人に王都の治安は乱れた。少なくない数の王国民がバタバタと変死を遂げ、おかしな死病が広まったことも国民を不安にさせた。
もちろんハルバートも国王も原因はわかっている。魔女が言っていた山神の祟りだ。だが、そんなことを国民に告げるわけにもいかない。何せ、エリザベスを罪人に仕立て上げたのは国王その人なのだ。そんなことを言えば、糾弾されて今以上に国は乱れ、反乱や暴動が起き、国がなくなるかもしれない。
加えて、西の密林が突然枯れ果て、汚水が王都に流れ込んで来たと同時に、夜な夜なアンデッドなどの魔物が徘徊するようになった。
人々は恐慌に陥り、王都から逃げ出す者も出てきた。だが、ヴェルマニア王国に逃げ場はない。魔物が出てくる西の森を抜けて隣国へ向かうか、気高いセントポリオン山脈を越えるか、あるいは漁船を使って大海に出て、他国の商船などに拾ってもらうか。この国自体が檻の中なのだ。
「陛下!大変です、陛下!」
その日、騎士が慌てて会合中の謁見の間に飛び込んできた。礼儀も何もあったものではなく、隣国の外交官たちと国王が睨みつけると、その騎士は慌てて頭を下げた。
「ほ、報告を申し上げます!南の大洋、我が国への入り口にあります五柱の岩が突如崩れ落ち、湾岸が遮断されました!それにより、数隻の漁船が戻れず、商団船も大海への退路を断たれました!」
それを聞いて泡を食ったのは外交官たちだ。小型の商船に乗ってこの国にやってきたものの、閉じ込められてしまったのだから。あわよくば、この国を乗っ取るつもりで商談に来たものの、『ユートピアのようだ』と聞いていたのと全然違い、王都は悪臭に魔獣、アンデッドのモンスターに加え死病に溢れ、おまけに国は貧乏で、話のできる人間がいない、田舎の王国だったのだから。
聞けば帝国から呪いを受け、大被害を被っているので手を貸してほしいと言われる始末。帝国から呪われるような国に手を出せば、自国もどうなるかわかったものではない。早々に引き上げようとしていたところだったのだ。それまで穏やかな湾岸線に助けられていた南海洋は防波堤だった岩柱を失い、荒波にさらされた。残っていた漁船はたまったものではなく、大波に攫われ大破するか、沖に運ばれてしまった。
「セントポリオン神のお怒りに触れたのだ!」
一人が言い出すと、それは瞬く間に広がり、国は大混乱に陥った。しかし被害は止まることを知らず、南からまともに吹きつける潮風によって作物が枯れ、食糧不足に陥った。西の森から流れ出した川によって井戸水も汚染され、ますます死病が広がっていく。ヴェルマニア王国に滞在していた荒くれ者や外交官が、暴徒によって血祭りに挙げられ、生贄として西の密林前にある奉納殿に捧げられた。だが、当然事態は一向に治まらず、人々は王都から去り、セントポリオン神に祈りながら赦しを乞うた。
「この国は終わりだ……」
げっそりと痩せ細った王は、膿を垂れ流す己の王妃を睨みつけた。
「嫉妬に狂い、我が子を呪い、神の愛し子であったエリザベスを帝国に売り払った貴様のせいだ」
「あ、あなただって!あの子を追放処分にしたのはあなたではないですか!」
「そ、それはっ…!お前のせいだ!お前が帝国なんぞに媚びさえ売らなければ!」
「西の魔女を自由にしたのも、あなたではありませんか!」
「お前が外遊などしたいというからだ!」
この数ヶ月、国王夫妻は同じような内容で殺し合いのような喧嘩をしている。そう。実際に殺し合っているのだ。剣を抜き、毒を盛り、首を絞め、塔から突き落とし。だが、どの方法でも彼らが死ぬことはなかった。
『あんた達の呪いを完全に解いて、殺されない様に』という魔女との契約によって。王妃には、おそらく山神からの祟りも含まれているのかもしれない。
「エリザベス…。私が君を信じていたのならこんなことには…」
魔女に己の髪も、容姿も若さも差し出してまでハルバートを救おうとした少女。七年以上も一緒にいたのに、信じてやらなかった。あれほどそばにいたのに。礼を言う事もなく放り出してしまった。今更だ。公爵令嬢として生きてきた彼女が、若さもなく、老いぼれた姿のままで万年雪の山へ放り出すなんて。生きていく術などない。
「一体何が呪いで、何が加護だったのか…」
魔女の契約には、もちろんこの国の王太子であるハルバートも含まれていた。王族の呪いを完全に解き、殺されないようにする。
そもそもこの国に加護はあったのだろうか。元から呪われた土地だったのではないか。三百年もの間、何も変わらず箱庭の中でただただ生かされていたのだ。その呪いが解かれ、動き出した時に翻弄され、本来あるべき姿に変わっていく、ただそれだけなのではないだろうか。
魔女との契約そのものが呪いだったのだとしたら。
「死んでくれ!」
父王が叫び、自身の妻の胸に短剣をさす。母は叫び、血を吐きながら髪を振り乱し夫の首を絞め、それでも死ぬことができない二人を横目に、ハルバートは頭を抱え「殺してくれ」と一人呟いた。
そんな絶望を胸にしたハルバートの元に、帝国の王の突然死の情報が届いた。近隣国は今更ヴェルマニア王国に興味はない。それ以上に我先に帝国を手に入れようと動き出した。大洋から隔離されたこの国は、またしても置いてきぼりを喰らったのだ。
母である王妃は、いよいよ全身を呪いに纏い、皮膚は青黒く、所々膿が垂れ流れ、痒みに発狂していたし、国王は国王で、押し寄せる諸外国の対応に追われ、住み着き始めた外国人に王都の治安は乱れた。少なくない数の王国民がバタバタと変死を遂げ、おかしな死病が広まったことも国民を不安にさせた。
もちろんハルバートも国王も原因はわかっている。魔女が言っていた山神の祟りだ。だが、そんなことを国民に告げるわけにもいかない。何せ、エリザベスを罪人に仕立て上げたのは国王その人なのだ。そんなことを言えば、糾弾されて今以上に国は乱れ、反乱や暴動が起き、国がなくなるかもしれない。
加えて、西の密林が突然枯れ果て、汚水が王都に流れ込んで来たと同時に、夜な夜なアンデッドなどの魔物が徘徊するようになった。
人々は恐慌に陥り、王都から逃げ出す者も出てきた。だが、ヴェルマニア王国に逃げ場はない。魔物が出てくる西の森を抜けて隣国へ向かうか、気高いセントポリオン山脈を越えるか、あるいは漁船を使って大海に出て、他国の商船などに拾ってもらうか。この国自体が檻の中なのだ。
「陛下!大変です、陛下!」
その日、騎士が慌てて会合中の謁見の間に飛び込んできた。礼儀も何もあったものではなく、隣国の外交官たちと国王が睨みつけると、その騎士は慌てて頭を下げた。
「ほ、報告を申し上げます!南の大洋、我が国への入り口にあります五柱の岩が突如崩れ落ち、湾岸が遮断されました!それにより、数隻の漁船が戻れず、商団船も大海への退路を断たれました!」
それを聞いて泡を食ったのは外交官たちだ。小型の商船に乗ってこの国にやってきたものの、閉じ込められてしまったのだから。あわよくば、この国を乗っ取るつもりで商談に来たものの、『ユートピアのようだ』と聞いていたのと全然違い、王都は悪臭に魔獣、アンデッドのモンスターに加え死病に溢れ、おまけに国は貧乏で、話のできる人間がいない、田舎の王国だったのだから。
聞けば帝国から呪いを受け、大被害を被っているので手を貸してほしいと言われる始末。帝国から呪われるような国に手を出せば、自国もどうなるかわかったものではない。早々に引き上げようとしていたところだったのだ。それまで穏やかな湾岸線に助けられていた南海洋は防波堤だった岩柱を失い、荒波にさらされた。残っていた漁船はたまったものではなく、大波に攫われ大破するか、沖に運ばれてしまった。
「セントポリオン神のお怒りに触れたのだ!」
一人が言い出すと、それは瞬く間に広がり、国は大混乱に陥った。しかし被害は止まることを知らず、南からまともに吹きつける潮風によって作物が枯れ、食糧不足に陥った。西の森から流れ出した川によって井戸水も汚染され、ますます死病が広がっていく。ヴェルマニア王国に滞在していた荒くれ者や外交官が、暴徒によって血祭りに挙げられ、生贄として西の密林前にある奉納殿に捧げられた。だが、当然事態は一向に治まらず、人々は王都から去り、セントポリオン神に祈りながら赦しを乞うた。
「この国は終わりだ……」
げっそりと痩せ細った王は、膿を垂れ流す己の王妃を睨みつけた。
「嫉妬に狂い、我が子を呪い、神の愛し子であったエリザベスを帝国に売り払った貴様のせいだ」
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「そ、それはっ…!お前のせいだ!お前が帝国なんぞに媚びさえ売らなければ!」
「西の魔女を自由にしたのも、あなたではありませんか!」
「お前が外遊などしたいというからだ!」
この数ヶ月、国王夫妻は同じような内容で殺し合いのような喧嘩をしている。そう。実際に殺し合っているのだ。剣を抜き、毒を盛り、首を絞め、塔から突き落とし。だが、どの方法でも彼らが死ぬことはなかった。
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