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山の魔女
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「ばあちゃん、こっち!」
「ハイっ、ただいま!」
エリザベスはカゴを持って、人々の間を歩き回っている。胡桃の収穫中なのだ。
村にたどり着いた時は、意識は朦朧とし、体は傷だらけ、栄養も水分も足らず半死の状態だったものの、ものの一週間で体力はずいぶん回復した。露天風呂の薬草が効いているのか、山の空気があっているのか。とにかく著しい回復力で村人を驚かせた。そして死んだような瞳に生気が戻り、太陽の元でその金の瞳が小さなおひさまのように輝くのを見て、村人はほうとため息を吐く。
醜い容姿の老婆なのに、その笑顔がなぜか可愛い。一生懸命に走り回る姿は老婆のそれではなく、背筋はピンと伸びどんな仕草も気品があった。そんなわけで、村の男達はそのギャップにどう対応して良いのか悩み、女達はエリザベスを守るように、どこへでも背負っては連れて歩いた。
どこへ行くにも背負われることに恐縮して、せめて自分で歩けるようにならなくては、と歩行練習を始め、子供達に文字を教え、本を読み聞かせながら遊ぶことで、どんどん体力をつけていった。子供達の元気を貰ってますます元気になったエリザベスは、切られて歩けなかったはずの足も二週間もかからず治癒してしまったのだ。
「なあ、いくら山神様の薬草とはいえ、回復が早すぎないか?」
「っていうか、歩けるようになるような怪我じゃなかったよなぁ?」
「もしかして山神様のお使い様じゃねえか」
「ああ、エルマさんの言ってた魔女様か?」
村に伝わる伝承で、昔セントポリオンの山には山神様のお使い様として魔女が住んでいた。魔女様は山に不浄なものが来ないか、いつも見張っていて山を守っていたのだという。だがある日、その魔女様の行方がわからなくなり、以来、山の雪が溶けることがなくなった。侵入者を拒絶し、魔女様の帰りを待つセントポリオンは頑なにその口を閉じた。
そしていつの間にか国ができ、ヴェルマニア人が村人を追い出そうとやってきた。先住民である彼らは戦い、魔女様が戻ってくるまでは、我らがお山を守ろうと結束したのがこの村の始まりだった。だが、そんな折、一人の青年が海の方からやってきた。ヴェルマニアの使いの者で名をクゥエイドと言い、和平を求めてきた。セントポリオンの山神様を敬い、敵対することも侵略することもしない。その代わり、山の麓に住み、時に悪しき人間が来たときは、山神様にお伺いを立てて欲しいと言ったのだ。
長い年月が過ぎ、それは村人達の役目となり、時折ヴェルマニア国からは罪人が連れてこられた。時には悪行の限りを尽くした人間で、村人達も何人か殺された。だが、その度に山神様の怒りに触れ、その罪人は山に逃亡し、出てこなくなった。山越えをしたのかもしれないが、そこまで村人達は面倒見きれない。それよりも、そんな極悪人が来た時のためにと体を鍛え、薬草を育て、身を守る術を覚え始めた。山の恩恵もあり、村人達は怪我や病気をしなくなり、長寿になった。長老など裕に150歳を超えているが、まだまだピンピンしている。
そして自分たちが山神様に認められているのだと理解し、魔女様の代わりにお山を守ることに専念した。
罪人は他所者ではあるが、何かしらのご縁があり山に託される。自分たちは、山神様への貢物としての罪人の体裁を整え、怪我を治し、そうして山神様に委ねる。彼らの過去を知る必要はないし、必要以上に情をかけてもいけない。彼ら自身から名を告げられなければ、尋ねることはないし、罪状を尋ねることもしない。懺悔を聞く必要もなければ、咎めることもしない。不浄のものをお山に入れさえしなければ、山神様はお怒りにはならない。
そうして長く静かに暮らしてきた麓の村に、たまに罪を終えて山神様から許され降りてきたものもいる。その人物がこの村で暮らしたいと訴えたのであれば、仲間として受け入れ、共に暮らす。そうしてゆっくりと数を増やしていった村人は、今では三百人ほど。
穏やかな環境に育つ村人達は、たまにくる罪人の滞在を実は楽しみにしていた。荒くれた罪人に負けるほど弱くはないし、村人を傷つければ山神様が黙ってはいない。個々の村人達は逞しかった。
そんな中で現れたしわくちゃの老婆。最初に見た時はもう無理かもしれない、と誰もが思った。それほど体の彼方此方が腐り、痩せ細り、目も開けられないほどウジが湧いていたのだ。
女達のまとめ役でもあるエルマは、長老の次に年長だが、見た目は40歳くらい。実は80歳を超えていた。そのエルマがエリザベスを見ていったのだ。
「昔、お山にいた魔女様によく似ている」と。
エルマ自身、魔女に会った事があるわけではないが、曽祖母から聞かされた容姿とよく似ているのだとか。髪の色や瞳の色は違うものの、ひん曲がった鼻は万能薬樹の実のようだし、薄緑色の肌は山の薬草と同じ色、そして驚異的な回復力と記憶力。慈悲深く愛情深いと言われた魔女様によく似ているのだ。
「ハイっ、ただいま!」
エリザベスはカゴを持って、人々の間を歩き回っている。胡桃の収穫中なのだ。
村にたどり着いた時は、意識は朦朧とし、体は傷だらけ、栄養も水分も足らず半死の状態だったものの、ものの一週間で体力はずいぶん回復した。露天風呂の薬草が効いているのか、山の空気があっているのか。とにかく著しい回復力で村人を驚かせた。そして死んだような瞳に生気が戻り、太陽の元でその金の瞳が小さなおひさまのように輝くのを見て、村人はほうとため息を吐く。
醜い容姿の老婆なのに、その笑顔がなぜか可愛い。一生懸命に走り回る姿は老婆のそれではなく、背筋はピンと伸びどんな仕草も気品があった。そんなわけで、村の男達はそのギャップにどう対応して良いのか悩み、女達はエリザベスを守るように、どこへでも背負っては連れて歩いた。
どこへ行くにも背負われることに恐縮して、せめて自分で歩けるようにならなくては、と歩行練習を始め、子供達に文字を教え、本を読み聞かせながら遊ぶことで、どんどん体力をつけていった。子供達の元気を貰ってますます元気になったエリザベスは、切られて歩けなかったはずの足も二週間もかからず治癒してしまったのだ。
「なあ、いくら山神様の薬草とはいえ、回復が早すぎないか?」
「っていうか、歩けるようになるような怪我じゃなかったよなぁ?」
「もしかして山神様のお使い様じゃねえか」
「ああ、エルマさんの言ってた魔女様か?」
村に伝わる伝承で、昔セントポリオンの山には山神様のお使い様として魔女が住んでいた。魔女様は山に不浄なものが来ないか、いつも見張っていて山を守っていたのだという。だがある日、その魔女様の行方がわからなくなり、以来、山の雪が溶けることがなくなった。侵入者を拒絶し、魔女様の帰りを待つセントポリオンは頑なにその口を閉じた。
そしていつの間にか国ができ、ヴェルマニア人が村人を追い出そうとやってきた。先住民である彼らは戦い、魔女様が戻ってくるまでは、我らがお山を守ろうと結束したのがこの村の始まりだった。だが、そんな折、一人の青年が海の方からやってきた。ヴェルマニアの使いの者で名をクゥエイドと言い、和平を求めてきた。セントポリオンの山神様を敬い、敵対することも侵略することもしない。その代わり、山の麓に住み、時に悪しき人間が来たときは、山神様にお伺いを立てて欲しいと言ったのだ。
長い年月が過ぎ、それは村人達の役目となり、時折ヴェルマニア国からは罪人が連れてこられた。時には悪行の限りを尽くした人間で、村人達も何人か殺された。だが、その度に山神様の怒りに触れ、その罪人は山に逃亡し、出てこなくなった。山越えをしたのかもしれないが、そこまで村人達は面倒見きれない。それよりも、そんな極悪人が来た時のためにと体を鍛え、薬草を育て、身を守る術を覚え始めた。山の恩恵もあり、村人達は怪我や病気をしなくなり、長寿になった。長老など裕に150歳を超えているが、まだまだピンピンしている。
そして自分たちが山神様に認められているのだと理解し、魔女様の代わりにお山を守ることに専念した。
罪人は他所者ではあるが、何かしらのご縁があり山に託される。自分たちは、山神様への貢物としての罪人の体裁を整え、怪我を治し、そうして山神様に委ねる。彼らの過去を知る必要はないし、必要以上に情をかけてもいけない。彼ら自身から名を告げられなければ、尋ねることはないし、罪状を尋ねることもしない。懺悔を聞く必要もなければ、咎めることもしない。不浄のものをお山に入れさえしなければ、山神様はお怒りにはならない。
そうして長く静かに暮らしてきた麓の村に、たまに罪を終えて山神様から許され降りてきたものもいる。その人物がこの村で暮らしたいと訴えたのであれば、仲間として受け入れ、共に暮らす。そうしてゆっくりと数を増やしていった村人は、今では三百人ほど。
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そんな中で現れたしわくちゃの老婆。最初に見た時はもう無理かもしれない、と誰もが思った。それほど体の彼方此方が腐り、痩せ細り、目も開けられないほどウジが湧いていたのだ。
女達のまとめ役でもあるエルマは、長老の次に年長だが、見た目は40歳くらい。実は80歳を超えていた。そのエルマがエリザベスを見ていったのだ。
「昔、お山にいた魔女様によく似ている」と。
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