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バシン、と肉を打つ音が執務室に響き、フランシスは壁際まで吹っ飛んだ。
「あっ、兄上っ!痛いっ…!」
口の中を切ったのか、打たれた頬を押さえながら手についた血を見てギョッとするが、鬼の形相の王太子である兄を見てフランシスは震え上がった。護衛も侍従も身動き一つせず、壁際に張り付いていて、誰一人フランシスを助け起こそうとすらしなかった。
「父上。かわいい末の弟ではありましたが、ここまで馬鹿だとは思いもよりませんでした。フランシスはもはや北の塔に入れるしかないでしょう」
「きっ、北の塔!?あそこは犯罪を起こした王族の墓場ではないですか!私が何をしたというのです!?」
兄の言葉に驚いて反論の声を上げたが、凍りつくような軽蔑の眼差しを向けられてフランシスは後退った。
「何をしたかだと?貴様は王家の存亡における禁忌を犯したんだぞ!二度目までは許されたが今度ばかりはいくら私でも庇いきれん!」
「禁忌?なんですか、それはっ!そんな大それた事、私がするわけがない!」
「ではなぜ、レニー嬢との婚約を破棄した?」
「えっ?」
それまで黙って聞いていた父王が、額を抑えその頭をゆっくり横に振った。顔色は悪く目が落ち窪み、ギラギラとした眼光だけが異様に映る。
「今日の催しは、二週間後に行われる国際歌劇音楽祭に初出席するレニー・フローレスの先行舞台のためだとは、お前も知っていただろう」
「…はい?」
フランシスはぽかんとした。全く知らなかったという顔だ。
今夜は王宮パーティがあり、本祭の前に成人前の独身貴族だけのダンスパーティが催されるから、それに婚約者を伴って出席しろと言われていた。国王夫妻と王太子はその後の催しの準備に忙しく、第二王子は騎士隊長を務めているため、近衛をまとめて配置確認に忙しい。
そのため第三王子は前座を任されていたが、婚約者のいない者はその機会を得るため、出会いの場を提供するパーティなのだと理解していたから、レニーの舞台のことなど全く頭に入っていなかった。
自分の婚約者であるレニーを差し置いて、寵愛するアマディリアを連れて出席しようと思っていたのに、その肝心のアマディリアは階段から落ちて骨折したため、本日のダンスパーティにも出席できなくなってしまった。それでイライラしていたのもあった。
「で、ですが、あの女は、」
「黙れ」
父王が眼光鋭く、唸る様な低音でフランシスの言い訳を妨げた。
「その際に、お前はフローレスの娘に向かって二度と王宮に来るな、金輪際歌うな、といったそうだな?」
「そ、それは、あの、こ、言葉の綾でっ」
「王族ともあろう者が……言葉の綾でその暴言を吐き、本日の催しを中止にさせたのか!貴様は王族という立場を真に理解しているのかっ!能書きばかり垂れるのが貴様のいう王家の役目かっ!」
「ひっ!?」
学院だったならば。せめて個人的な場所だったのなら、言い訳もできよう。低頭に愚息が申し訳なかったと、恥を忍んで謝ればなかったことにも出来たであろうが。
父王の、見たことも聞いたこともないような火を吹くような本気の怒りに呑まれて、フランシスは震え上がった。なぜ兄や父王がこれ程までに激昂しているのか、全く理解できない。
「貴様がレニー嬢に婚約破棄を伝えたのは、何度目だ?」
「え…」
「あっ、兄上っ!痛いっ…!」
口の中を切ったのか、打たれた頬を押さえながら手についた血を見てギョッとするが、鬼の形相の王太子である兄を見てフランシスは震え上がった。護衛も侍従も身動き一つせず、壁際に張り付いていて、誰一人フランシスを助け起こそうとすらしなかった。
「父上。かわいい末の弟ではありましたが、ここまで馬鹿だとは思いもよりませんでした。フランシスはもはや北の塔に入れるしかないでしょう」
「きっ、北の塔!?あそこは犯罪を起こした王族の墓場ではないですか!私が何をしたというのです!?」
兄の言葉に驚いて反論の声を上げたが、凍りつくような軽蔑の眼差しを向けられてフランシスは後退った。
「何をしたかだと?貴様は王家の存亡における禁忌を犯したんだぞ!二度目までは許されたが今度ばかりはいくら私でも庇いきれん!」
「禁忌?なんですか、それはっ!そんな大それた事、私がするわけがない!」
「ではなぜ、レニー嬢との婚約を破棄した?」
「えっ?」
それまで黙って聞いていた父王が、額を抑えその頭をゆっくり横に振った。顔色は悪く目が落ち窪み、ギラギラとした眼光だけが異様に映る。
「今日の催しは、二週間後に行われる国際歌劇音楽祭に初出席するレニー・フローレスの先行舞台のためだとは、お前も知っていただろう」
「…はい?」
フランシスはぽかんとした。全く知らなかったという顔だ。
今夜は王宮パーティがあり、本祭の前に成人前の独身貴族だけのダンスパーティが催されるから、それに婚約者を伴って出席しろと言われていた。国王夫妻と王太子はその後の催しの準備に忙しく、第二王子は騎士隊長を務めているため、近衛をまとめて配置確認に忙しい。
そのため第三王子は前座を任されていたが、婚約者のいない者はその機会を得るため、出会いの場を提供するパーティなのだと理解していたから、レニーの舞台のことなど全く頭に入っていなかった。
自分の婚約者であるレニーを差し置いて、寵愛するアマディリアを連れて出席しようと思っていたのに、その肝心のアマディリアは階段から落ちて骨折したため、本日のダンスパーティにも出席できなくなってしまった。それでイライラしていたのもあった。
「で、ですが、あの女は、」
「黙れ」
父王が眼光鋭く、唸る様な低音でフランシスの言い訳を妨げた。
「その際に、お前はフローレスの娘に向かって二度と王宮に来るな、金輪際歌うな、といったそうだな?」
「そ、それは、あの、こ、言葉の綾でっ」
「王族ともあろう者が……言葉の綾でその暴言を吐き、本日の催しを中止にさせたのか!貴様は王族という立場を真に理解しているのかっ!能書きばかり垂れるのが貴様のいう王家の役目かっ!」
「ひっ!?」
学院だったならば。せめて個人的な場所だったのなら、言い訳もできよう。低頭に愚息が申し訳なかったと、恥を忍んで謝ればなかったことにも出来たであろうが。
父王の、見たことも聞いたこともないような火を吹くような本気の怒りに呑まれて、フランシスは震え上がった。なぜ兄や父王がこれ程までに激昂しているのか、全く理解できない。
「貴様がレニー嬢に婚約破棄を伝えたのは、何度目だ?」
「え…」
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