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学園編
高嶺の花
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初日から喧嘩を売られたが、基本お行儀の良い貴族令嬢として振る舞うアンナルチアは、遠巻きにする男子生徒と、興味はあるが話しかけてこない女生徒のクラスですっかり浮いてしまっていた。学年トップということもあって気後れしているのか、あるいは気の強さから敬遠されているのか。
トマス達が自分の失態を言いふらすわけが無いから、彼らとのやりとりを、どこかで見られていたに違いない、とアンナルチアは舌打ちをしたくなった。
「まあいいわ。奨学金のためにも勉学には励まないといけないし、生徒会の仕事もあるし。いちいち構っていられないもの」
アンナルチアはそっとため息をつき、ひとりごちた。
クラスルームも滞りなく進み、昼休みになったところで廊下が騒がしくなった。
「アニー」
「ルーク先輩。それにアマリア先輩もどうしました?生徒会の集合ですか?」
教室の扉を開けてひょこりと顔を出したのはルークでその後ろでアマリアがヒラヒラと手を振っている。
「今朝の騒動をルークから聞いて、心配になって見にきたのよ」
「まあ。お騒がせいたしました。特に問題はありませんでしたので、どうぞご安心を」
「そうだって聞いたわ。ねえ、これからお昼でしょう?カフェテラスでご一緒しない?それとも、もうお友達はできて?」
う、と一瞬固まったアンナルチアだったが、体裁を取り戻し、それではご一緒いたしますとアマリアの誘いに乗った。
「ルークから聞いたのよ!アニーは体術も素晴らしいんですのね。私も自衛のために学びましたのよ。放課後ちょっと手合わせを願えないかしら?私相手だと皆さん手を抜かれて訓練にならないの。ルークやアレックスじゃ強すぎて勝ち目もないし。女性とは言え、体術くらい覚えなくてはこれからの時代生きていけませんもの。さすがは私のアニーだわ。ねえ、新入生の皆様もそう思いませんこと?」
アンナマリアは僅かに目を見開いた。おそらく遠巻きにされるか難癖をつけられるかを心配して、こうしてわざわざ来てくれたのだ。憧れの視線を持って息を呑んでいたクラスメイトはコクコクと頷き、今朝の騒動を知らなかったであろう生徒は「なんの話?」とヒソヒソ話し始めた。
「そうそう。そのことで皆様にひとつお伝えしておきますわ」
アマリアがつい、と顎を上げ視線を巡らしにこやかに声を上げると、辺りは一斉にシンと静まり返った。制服であろうと立ち姿は美しく、その声には有無を言わせない威厳がある。これが王族に連なる侯爵令嬢たるものか、とアンナルチアはごくりと喉を鳴らした。
「ご存知とは思いますが、我が校は実力主義です。親の七光りや自家の格などは、この小さな箱庭社会の中では通用致しません。あなた方のご両親やご家族は高位貴族かも知れませんが、それはあなたの実力ではございません。私も含めて、ここにいる皆様は貴族の家庭に生まれた、というだけの子供です。
勿論、あなた方には貴族としての矜持を持って日々勉学に勤しんでいただきますが、家格を盾に弱い者いじめや、男尊女卑を推奨するような態度は、あなた方の成績にも卒業後の社交でも影響を与えます。すでに黒星のついた生徒もいるようですが、学園で間違いが許されるのは3つまで。黒星が三つ付いた生徒は我が校の風紀を乱す者として即座に処罰されます。社会に出れば黒星一つでも身を滅ぼすこともあるでしょう。学園は己の能力を高めるために与えられた場所であることを夢夢お忘れないよう、心に刻みつけてくださいまし。規定規約の教本には必ず目を通しておくこと。あとで知らなかったでは済まされませんことよ。
小さいことでも構いません。何か問題があれば、生徒会へ意見を持ち込んでくださいまし。生徒会役員は常に腕章を着けていますから、すぐお分かりになると思いますわ。生徒会へ向かえないというのであれば、ここにいるアンナルチア嬢へ一報入れて下さっても構いませんわ。皆さんもご存知のように、彼女は生徒会役員に任命されました。生徒会役員は一人が全員のために、全員が一人のために行動しますの。ここにいるアンナルチア嬢を貶めるという事は、生徒会を貶めるという事。その場合は徹底的に調査をさせていただきますわ。よろしいかしら?」
周囲からひゅっと息を呑む音と、さーっと血の引く音がしたような気がした。
「お分かりになって?」
アマリアがもう一度笑顔で確認を取ると、その場にいた全員が頷きはい、と答えた。勿論アンナルチアも含めてだ。
(アマリア様。すごいカリスマ性だわ。さすがは王妃教育まで受けた方。もしアマリア様が王太子妃になっていたら絶対侍女を選んでいたわね、私)
胸元で両手を組み合わせ、キラキラした瞳で憧れの視線を向けるアンナルチアを撫でくりまわしたアマリアは、満足して頷き、それでは参りましょうとカフェテラスへと向かった。
トマス達が自分の失態を言いふらすわけが無いから、彼らとのやりとりを、どこかで見られていたに違いない、とアンナルチアは舌打ちをしたくなった。
「まあいいわ。奨学金のためにも勉学には励まないといけないし、生徒会の仕事もあるし。いちいち構っていられないもの」
アンナルチアはそっとため息をつき、ひとりごちた。
クラスルームも滞りなく進み、昼休みになったところで廊下が騒がしくなった。
「アニー」
「ルーク先輩。それにアマリア先輩もどうしました?生徒会の集合ですか?」
教室の扉を開けてひょこりと顔を出したのはルークでその後ろでアマリアがヒラヒラと手を振っている。
「今朝の騒動をルークから聞いて、心配になって見にきたのよ」
「まあ。お騒がせいたしました。特に問題はありませんでしたので、どうぞご安心を」
「そうだって聞いたわ。ねえ、これからお昼でしょう?カフェテラスでご一緒しない?それとも、もうお友達はできて?」
う、と一瞬固まったアンナルチアだったが、体裁を取り戻し、それではご一緒いたしますとアマリアの誘いに乗った。
「ルークから聞いたのよ!アニーは体術も素晴らしいんですのね。私も自衛のために学びましたのよ。放課後ちょっと手合わせを願えないかしら?私相手だと皆さん手を抜かれて訓練にならないの。ルークやアレックスじゃ強すぎて勝ち目もないし。女性とは言え、体術くらい覚えなくてはこれからの時代生きていけませんもの。さすがは私のアニーだわ。ねえ、新入生の皆様もそう思いませんこと?」
アンナマリアは僅かに目を見開いた。おそらく遠巻きにされるか難癖をつけられるかを心配して、こうしてわざわざ来てくれたのだ。憧れの視線を持って息を呑んでいたクラスメイトはコクコクと頷き、今朝の騒動を知らなかったであろう生徒は「なんの話?」とヒソヒソ話し始めた。
「そうそう。そのことで皆様にひとつお伝えしておきますわ」
アマリアがつい、と顎を上げ視線を巡らしにこやかに声を上げると、辺りは一斉にシンと静まり返った。制服であろうと立ち姿は美しく、その声には有無を言わせない威厳がある。これが王族に連なる侯爵令嬢たるものか、とアンナルチアはごくりと喉を鳴らした。
「ご存知とは思いますが、我が校は実力主義です。親の七光りや自家の格などは、この小さな箱庭社会の中では通用致しません。あなた方のご両親やご家族は高位貴族かも知れませんが、それはあなたの実力ではございません。私も含めて、ここにいる皆様は貴族の家庭に生まれた、というだけの子供です。
勿論、あなた方には貴族としての矜持を持って日々勉学に勤しんでいただきますが、家格を盾に弱い者いじめや、男尊女卑を推奨するような態度は、あなた方の成績にも卒業後の社交でも影響を与えます。すでに黒星のついた生徒もいるようですが、学園で間違いが許されるのは3つまで。黒星が三つ付いた生徒は我が校の風紀を乱す者として即座に処罰されます。社会に出れば黒星一つでも身を滅ぼすこともあるでしょう。学園は己の能力を高めるために与えられた場所であることを夢夢お忘れないよう、心に刻みつけてくださいまし。規定規約の教本には必ず目を通しておくこと。あとで知らなかったでは済まされませんことよ。
小さいことでも構いません。何か問題があれば、生徒会へ意見を持ち込んでくださいまし。生徒会役員は常に腕章を着けていますから、すぐお分かりになると思いますわ。生徒会へ向かえないというのであれば、ここにいるアンナルチア嬢へ一報入れて下さっても構いませんわ。皆さんもご存知のように、彼女は生徒会役員に任命されました。生徒会役員は一人が全員のために、全員が一人のために行動しますの。ここにいるアンナルチア嬢を貶めるという事は、生徒会を貶めるという事。その場合は徹底的に調査をさせていただきますわ。よろしいかしら?」
周囲からひゅっと息を呑む音と、さーっと血の引く音がしたような気がした。
「お分かりになって?」
アマリアがもう一度笑顔で確認を取ると、その場にいた全員が頷きはい、と答えた。勿論アンナルチアも含めてだ。
(アマリア様。すごいカリスマ性だわ。さすがは王妃教育まで受けた方。もしアマリア様が王太子妃になっていたら絶対侍女を選んでいたわね、私)
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