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生徒会室の奥、記録魔法が刻まれた魔導式日誌のページを、ギルバート=エインズワースは眉をひそめて眺めていた。
ページの表面には淡い光の線が走っている。
それは時間軸に沿って記録される、“映像と感情の軌跡”。
生徒会議で発せられた言葉、抑揚、沈黙、心拍――すべてが忠実に映し出される。
だが、その日の会議の記録には、明らかな“歪み”が存在していた。
「……この部分だけ、音が、ない」
ギルバートは指先で光の層をなぞった。
そこには確かにアズナ=グランフォードの姿があった。
生徒たちの意見を聞き、穏やかに微笑む彼女の姿。
だが、声がない。
彼女が口を開いたはずの場面に、魔法は“無音”の記録しか残していない。
「映像も途切れてない……なら、魔法干渉による“上書き”か」
その可能性に思い当たり、ギルバートは顔をしかめた。
魔法記録は本人の“意識”と“感情”にも敏感に反応する。
だが、その部分には、彼女の“内面の波”がなかった。
まるで、感情ごと“抜き取られている”かのように。
――何かを、見せたくなかった?
資料室へと急ぎ、過去の記録を洗い直す。
数ヶ月前の定例会議、学院舞踏会、断罪裁定の席――
アズナが言葉を発しているはずの場面に、いくつか同じような“空白”が存在していた。
「これは偶然じゃない。意図的な“遮断”だ」
魔法記録を操作できるのは、本人か、非常に高度な干渉術を持つ術者だけ。
だが、何より問題なのは、それが“誰に見られることも想定していない”形式で行われているということだった。
香塔裏の書庫、かつてアズナが調香研究に使っていた机の引き出しに、古い魔導式日誌が残されていた。
ギルバートが震える指で最後のページをめくると、そこに手書きで記されていた言葉が、光のように浮かび上がった。
《記録は真実を映す。だが、わたくしの“願い”は真実ではない。
だから、消します。誰にも見られぬよう、わたくしの“思い”を。》
震える筆跡。日付の記載はなし。だが、その横には小さく、“A.G.”の文字。
「……彼女は、自分の本音を……記録から、意図的に封じている……?」
ギルバートはしばし立ち尽くした。
アズナ=グランフォード。
すべてを赦し、理解し、笑顔で包み込む存在。
だが――その笑顔の奥に、本当に何もないのか?
もし、彼女が意図的に“記憶”を消し、“感情”を封じているのだとしたら――
それは優しさでも、支配でもない。
彼女自身が、自分という存在を“削って”存在しているということではないか。
ギルバートの胸に、ひたひたと冷たい不安が広がっていった。
その笑顔は、誰のためのものなのか。
そして、誰の目にも映らぬ“彼女自身”は――どこにいるのか。
ページの表面には淡い光の線が走っている。
それは時間軸に沿って記録される、“映像と感情の軌跡”。
生徒会議で発せられた言葉、抑揚、沈黙、心拍――すべてが忠実に映し出される。
だが、その日の会議の記録には、明らかな“歪み”が存在していた。
「……この部分だけ、音が、ない」
ギルバートは指先で光の層をなぞった。
そこには確かにアズナ=グランフォードの姿があった。
生徒たちの意見を聞き、穏やかに微笑む彼女の姿。
だが、声がない。
彼女が口を開いたはずの場面に、魔法は“無音”の記録しか残していない。
「映像も途切れてない……なら、魔法干渉による“上書き”か」
その可能性に思い当たり、ギルバートは顔をしかめた。
魔法記録は本人の“意識”と“感情”にも敏感に反応する。
だが、その部分には、彼女の“内面の波”がなかった。
まるで、感情ごと“抜き取られている”かのように。
――何かを、見せたくなかった?
資料室へと急ぎ、過去の記録を洗い直す。
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アズナが言葉を発しているはずの場面に、いくつか同じような“空白”が存在していた。
「これは偶然じゃない。意図的な“遮断”だ」
魔法記録を操作できるのは、本人か、非常に高度な干渉術を持つ術者だけ。
だが、何より問題なのは、それが“誰に見られることも想定していない”形式で行われているということだった。
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ギルバートが震える指で最後のページをめくると、そこに手書きで記されていた言葉が、光のように浮かび上がった。
《記録は真実を映す。だが、わたくしの“願い”は真実ではない。
だから、消します。誰にも見られぬよう、わたくしの“思い”を。》
震える筆跡。日付の記載はなし。だが、その横には小さく、“A.G.”の文字。
「……彼女は、自分の本音を……記録から、意図的に封じている……?」
ギルバートはしばし立ち尽くした。
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すべてを赦し、理解し、笑顔で包み込む存在。
だが――その笑顔の奥に、本当に何もないのか?
もし、彼女が意図的に“記憶”を消し、“感情”を封じているのだとしたら――
それは優しさでも、支配でもない。
彼女自身が、自分という存在を“削って”存在しているということではないか。
ギルバートの胸に、ひたひたと冷たい不安が広がっていった。
その笑顔は、誰のためのものなのか。
そして、誰の目にも映らぬ“彼女自身”は――どこにいるのか。
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