『この悪役令嬢、すべてを許しすぎて逆に怖い』

白石あかね

文字の大きさ
22 / 46

22

しおりを挟む
生徒会室の奥、記録魔法が刻まれた魔導式日誌のページを、ギルバート=エインズワースは眉をひそめて眺めていた。

ページの表面には淡い光の線が走っている。  
それは時間軸に沿って記録される、“映像と感情の軌跡”。  
生徒会議で発せられた言葉、抑揚、沈黙、心拍――すべてが忠実に映し出される。

だが、その日の会議の記録には、明らかな“歪み”が存在していた。

「……この部分だけ、音が、ない」

ギルバートは指先で光の層をなぞった。  
そこには確かにアズナ=グランフォードの姿があった。  
生徒たちの意見を聞き、穏やかに微笑む彼女の姿。

だが、声がない。  
彼女が口を開いたはずの場面に、魔法は“無音”の記録しか残していない。

「映像も途切れてない……なら、魔法干渉による“上書き”か」

その可能性に思い当たり、ギルバートは顔をしかめた。  
魔法記録は本人の“意識”と“感情”にも敏感に反応する。  
だが、その部分には、彼女の“内面の波”がなかった。  
まるで、感情ごと“抜き取られている”かのように。

――何かを、見せたくなかった?

資料室へと急ぎ、過去の記録を洗い直す。  
数ヶ月前の定例会議、学院舞踏会、断罪裁定の席――  
アズナが言葉を発しているはずの場面に、いくつか同じような“空白”が存在していた。

「これは偶然じゃない。意図的な“遮断”だ」

魔法記録を操作できるのは、本人か、非常に高度な干渉術を持つ術者だけ。  
だが、何より問題なのは、それが“誰に見られることも想定していない”形式で行われているということだった。

香塔裏の書庫、かつてアズナが調香研究に使っていた机の引き出しに、古い魔導式日誌が残されていた。

ギルバートが震える指で最後のページをめくると、そこに手書きで記されていた言葉が、光のように浮かび上がった。

《記録は真実を映す。だが、わたくしの“願い”は真実ではない。  
だから、消します。誰にも見られぬよう、わたくしの“思い”を。》

震える筆跡。日付の記載はなし。だが、その横には小さく、“A.G.”の文字。

「……彼女は、自分の本音を……記録から、意図的に封じている……?」

ギルバートはしばし立ち尽くした。

アズナ=グランフォード。  
すべてを赦し、理解し、笑顔で包み込む存在。

だが――その笑顔の奥に、本当に何もないのか?

もし、彼女が意図的に“記憶”を消し、“感情”を封じているのだとしたら――  
それは優しさでも、支配でもない。  
彼女自身が、自分という存在を“削って”存在しているということではないか。

ギルバートの胸に、ひたひたと冷たい不安が広がっていった。

その笑顔は、誰のためのものなのか。  
そして、誰の目にも映らぬ“彼女自身”は――どこにいるのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

処理中です...