俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
8 / 416
第1章 青年、異世界に降臨す

第8話 ランクアップ

しおりを挟む


「あ、そうだ。忘れてた」

俺はすっかり頭から抜け落ちていたある事をする為に先程までいた受付まで戻っていった。

「すまん。魔物の死体を買い取って欲しいんだが……ついでに装備も」

「あ、は、はい!かしこまりました!」

それから、俺はゴミの死体から剥ぎ取った装備に加えて、アイテムボックスから次々と魔物の死体を取り出していった。全て絶望の森で狩ったもので念の為、こんなこともあろうかと保管しておいたのだ。受付嬢はどんどんと積み上がっていく死体に一人ではさすがに手に負えないと思ったのか、他の職員にも声を掛けると急いで選別・査定へと取り掛かった。最初の内は魔物のレベルの高さに驚いたり、興奮したりしている者がちらほらといたが、どんなに対応しても終わる気配のない査定の連鎖にいつの間にか疲労困憊になっていた。そして、そんな時、彼女達は聞いてしまったのだ。これよりもさらなる地獄へと叩き落とす青年のその悪意のない一言を……。

「これで三割くらいか……」

ある者は目を丸くし、また、ある者は顔を青ざめさせた。中にはぶつぶつとうわ言のように何か呟いている者もいる。いずれにせよ、彼女達が気の毒であることに変わりはない。しかし、彼女達もプロ。目の前にこなさなければならないミッションがあるのなら、そこから逃げるわけにはいかない。ましてや、相手がギルド内で平然と殺しを行うような人物なのである。丁寧すぎる対応に越したことはないだろう。

「そこまでにしてやってくれんかの?」

すると受付嬢達がまるでこれから死地へと赴く戦士の表情を浮かべ、気を引き締め直しているところへ声が掛かった。

「誰だ、お前?」

「ワシか?ワシはな……ギルドマスターじゃ」


――――――――――――――――――――


「ほぅ…こいつはゴブリンキングか…大きいのぅ……こっちのはロックバード!おかしいのぅ……ここら辺では見かけないはずなんじゃが」

ギルドマスターと名乗った目の前の老人はあたふたしていた受付嬢達を押し除けると自ら、査定に参加してきた。ギルドマスターという言葉自体、虚言を吐いている可能性がある為、神眼を使ってみるとどうやら、嘘はついていないということが分かった。


――――――――――――――――――――

ブロン・レジスター
性別:男 種族:人族 年齢:73歳

Lv 50
HP    3000/3000
MP    2500/2500
ATK    1980
DEF    1867
AGI     1443
INT      1725
LUK     1000

固有スキル
金剛・火事場の馬鹿力・脳筋・限界突破・不屈の闘志・状態異常軽減・物理攻撃軽減・魔法攻撃軽減・賢人・魔学・薬学

武技スキル
剣術:Lv.7
槍術:Lv.3
杖術:Lv.5

魔法
火魔法:Lv.6
水魔法:Lv.5
土魔法:Lv.4
風魔法:Lv.6
無魔法:Lv.7

称号
ギルドマスター・魔法剣士の才・切り開く者・努力をこよなく愛する者・戦闘狂

――――――――――――――――――――


「……なるほど。よし、お主ら、査定が終わったぞ」

「ご苦労さん……受付嬢達」

「ワシにじゃないんかい!!」

「で、いくらになった?」

「無視かい……まぁ、ええわい。魔物の死体が合計100体で……金貨62枚と装備の方が銀貨500枚じゃ」

「了解……いきなり、大金持ちだ」

「言っとくが普通、新人冒険者は初日でこんな稼げんぞ」

「ふ~ん」

「反応薄いのぅ……ところでお主ら、ちょいと時間はあるかの?」

「ない」

「まぁ、何となくそう言うと思ったが……いいから聞いとくれ。これから、ワシと模擬戦をしてくれんかの?ワシと良い勝負ができれば、お主…シンヤのランクをギルドマスター権限でFからDにするぞよ」

「その条件じゃあ、無理だ」

「ふむ…というと?」

「俺がお前に勝ったら、俺のランクをA、こいつらのをBにしろ」

「なんと……お主、無茶苦茶なことを言いよるのぅ」

「今、こうしている間にもお前に無駄な時間を使ってるんだ。ほら、早くしないと条件のランクを吊り上げるぞ」

「分かったのじゃ……では場所を変えようかの」


――――――――――――――――――――


「殺しはなし。どちらかが負けを認めるまで続ける。よいな?」

「ああ」

俺達は場所をギルドの地下にある訓練場へと移して、説明を聞いていた。目の前にはギルドマスターがいる。得物は直剣だが、魔法も得意としている俗に言う魔法剣士タイプ。容姿を言うと顔は年相応で眉毛や髭は白く伸びて垂れ下がっている。一見すると好々爺のように映るかもしれないが、目はギラつき、口の端を吊り上げて笑うその様子からは歴戦の戦士たる貫禄が溢れてやまない。そこから視線を下へとズラすと体は昔から鍛え込まれていることが一目で分かるほどガッチリとしている。所々、斬り傷や火傷の跡があり、この人物がいかに過酷な戦場に身を置いてきたのかが窺える。体幹もとてもしっかりしているのだろう。丸太のように太い2本の脚でどっしりと立つその威容はまるで樹齢100年を超える大樹が大地に根を張り、災害をものともせずに決して倒れない様を連想させる。………こいつはただの老人ではないな。

「では始め!」

「最初から全力でいくぞよ!遠慮はなしじゃ!金剛、脳筋、無魔法の重ね掛」

「それ以上、喋ったら、腕を斬り落とす」

だが、そんなものは関係ない。大きな力にはそれ以上の圧倒的な力を用いてねじ伏せる。今、この瞬間、この場で通用するのは忖度でも八百長でもましてや話し合いでもない。主導権を握り、優位に立つこと……これが全てである。

「な、い、一体、いつの間に」

「今の質問にだけは答えてやる。模擬戦が始まった瞬間、自力でお前の後ろに回り込んだ。ただ、それだけだ」

「ぐぬぅ……分かったのじゃ。審判!」

「は、はい!勝者、シンヤ・モリタニ!」


こうして俺達の冒険者ランクは初日から大いに上がったのだった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...