俺は善人にはなれない

気衒い

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第4章 迷宮都市

第52話 初級ダンジョン

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ダンジョン…………それは迷宮とも呼ばれる中が非常に入り組んだ構造をしている建造物である。何者がいつ、どういった経緯でどのくらいの期間をかけて、造ったものなのか詳しいことは未だに何も分かっておらず、そもそも人工物なのかも怪しいところだ。その為、中に入るまではそこが何層・何階で構成されているのか、また敵の有無、それから入手できるものについても一切不明で一体、どんな危険が待ち受けているのか分かったものではない。しかし、ここに挑戦する冒険者は後を絶たない。理由は単純明快。それだけの危険を冒しても得られるものがあるからだ。それは何も金銀財宝、宝箱の武器や魔道具、魔物の売却金だけではない。ダンジョンを制覇した者という称号そのものである。冒険者ギルドの中ではダンジョン制覇者をとても高く評価しており、制覇者がそこで得た情報やダンジョン内の構造を可視化し書き記したもの、つまり地図の買い取りに多額の金銭を支払っているのが現状である。また、ダンジョンを制覇すれば、そのパーティーやクラン自体にも箔が付き、色々と恩恵を受ける機会が増えるのも事実であった。

「ここが入り口か…………よし、行くぞ」

入り口前の受付でギルドカードを見せ、クラン全員でダンジョンへと乗り込んでいく。ダンジョンの名前は"闘流門"。シリスティラビンに多数あるダンジョンの中で初心者の冒険者が最初に挑むダンジョンの1つであり、全部で20階層ある。ちなみに今までの最速制覇者は現在のSSSランク冒険者、"雲海"とかいう奴が率いるクランでかかった時間は6時間らしい。



――――――――――――――――――――




「罠発見!そこの足元、気をつけて!」

ローズの固有スキルにより、彼女と同じパーティーのメンバーは罠を回避して、前へと進む。現在、クラン総勢23名を4つのパーティー毎に分けて探索を行っていた。1階層ごとに色々とメンバーを組み替えながら、隅々まで調べて回る方法での探索。これにはそれぞれのメンバーとの相性や戦闘時の連携・戦闘スタイルの把握、それから罠を感知・発見する固有スキルを持つ者がいるパーティーといないパーティーでの差異などを確かめる意味合いがあった。

「ぬるいわっ!"天翼斬"!」

「これはどう?"惑わし戯美"!」

しかし、罠があろうとなかろうと俺達にはもはや関係ないのかもしれない。現に今、天狗のオウギと虫人のアゲハが問答無用で魔物を倒している。ここが初級ダンジョンだからか、どうやら力の差がありすぎたようだ。

「よし、あと1時間でこのダンジョンを制覇するぞ」



――――――――――――――――――――



「こいつが最後のボスか…………」

初級ダンジョン、"闘流門"の20階層目。最後のボスは一つ目の鬼…………通称、サイクロプスであった。強靭な肉体から放たれる棍棒の一撃はあらゆる冒険者を屠り、地面を大きく揺らすほどの衝撃があるらしいのだが、今はそれ以上の衝撃がサイクロプスの方を襲っている。

「ウチのテリトリーに踏み込んだアルな?では遠慮なく…………"薔薇園"」

「グガアアアア!」

直後、サイクロプスの周りを無数の薔薇が囲み、あらゆる感覚が麻痺していく。それに対し、本能的な恐怖を感じたサイクロプスは無我夢中で棍棒を振るった。しかし………

「遅いアルヨ。あんたも一緒にティア姐さんの指導を受けるといいアルヨ」

スピードで圧倒的に上の者がいた場合、そんな数打ちゃ当たる作戦などは水泡に帰す。サイクロプスにとっては今日ほど相手が悪かった日など存在しないだろう。そうこちらに思わせるほど、勝敗はこの時点で喫していた。

「"狩り染め"!」

「グギャャャ!」

最後は仕込み杖から放たれた一撃がサイクロプスの身体を切り裂き、その命を刈り取った。勝利を収めたのは花人族、薔薇種のバイラであった。



――――――――――――――――――――



「ほれ、これが証拠だ」

「まさか、本当に制覇してしまうとは…………しかも、気のせいでしょうか?かかった時間が2時間と記載されているのは」

ダンジョンを制覇した後、冒険者ギルドへと戻った俺達は受付嬢のライムにギルドカードを見せていた。ダンジョンを制覇した際、どういう仕組みか、ギルドカードにちゃんとそのことが記載されるらしいのだ。これでギルドに証明しろと言わんばかりに。

「本当だ。だが、たかが初級だろう?俺達はもっとランクが上のダンジョンを探索するつもりなんだ。こんなところ、ササっと終わらせないとな」

「いや、いくら初級だからといって、この時間で制覇するなんてSSSランク冒険者でも
不可能ですよ。それなのに………」

「まぁ、細かいことはいいだろ。とりあえず、宝箱から出た武器や魔物の買い取り、それから、こいつらのランク更新も頼む」

「はいはい、分かりましたよ。ちょっと待って下さい。ギルドマスターもお呼びしますから」

こうして、迷宮都市での初の冒険者活動は終わっていく。次に目指すは中級ダンジョン。これも非常に楽しみである。



――――――――――――――――――――



「こちら、ーーー。本日のご報告です」

「待っていたぞ。奴はどんな状況だ?」

「はい。どうやら、迷宮都市シリスティラビンにある初級ダンジョン"闘流門"をわずか2時間足らずで制覇したみたいです」

「何?それは本当か?」

「はい。はっきりとこの耳で聞きました。おそらく、あの時、ギルドにいた者達なら全員聞こえていたんじゃないでしょうか?すぐにその話は広まると思いますね」

「もし、それが本当だとしたら、とんでもないことだからな。いくら初級とはいえ、あの"雲海"を超える記録を出しただけでなく、時間が時間だ」

「より多くのそれこそ高ランク冒険者から目をつけられることは間違いないでしょうね」

「やはり、早めに監視しておいて正解だったな。奴はフリーダムにいる時から、常人離れしていたからな」

「では引き続き、監視を続けていきます」

「ああ、頼む。他にもそちらに潜り込んでいる同志がいる。必要なら随時、協力して事に当たってくれ」

「かしこまりました」

「では健闘を祈る」

「はい」
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