俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第277話 お土産

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「す、すみません!」

「おい、ガキ!謝れば済むってもんじゃ

ねぇぞ!」

魔族領にある街の1つ、"ラクゾ"。現

在、ここは真っ昼間なこともあってか、

多くの魔族達で賑わっていた。そんな

中、突如聞こえた怒声に多くの者達が足

を止めて、声の発生源へと目を向ける。

するとそこには10歳ぐらいの幼い魔族

の少年が大きな身体をした魔族の男に向

かって頭を下げているところだった。そ

こからは事態が良くない方向へと進んで

いることがはっきりと分かり、誰もが少

年の行く末を哀れんだ。しかし、だから

といって、少年を助けに向かう者などは

誰1人としていない。魔族は基本的に自

分にしか興味がなく、仲間でもない者を

気にかける程の余裕と優しさを持ち合わ

せてはいないのが常だった。だからこ

そ、周りで見ているだけの傍観者を責め

ることなど出来はしない。これが魔族領

での常識なのであった。

「すみませんでした!わざとじゃないん

です!僕の不注意でおじさんにぶつかっ

てしまいました!」

「"おじさん"だぁ?俺はまだ26歳

だ!それに不注意かどうかなんて関係ね

ぇんだよ!俺を誰だと思ってる。聞いて

驚け。俺はあの"魔牛の蹄バイソン・ホーフ"の一員だぞ!!」

「ええっ!?"魔牛の蹄バイソン・ホーフ"って、あの!?」

「ああ、そうだ!分かったか?俺を敵に

回すとどうなるか?まぁ、お前みたいな

ちんちくりんはクランが動かんでも俺1

人で十分だがな」

「「「ギャハハハッ違ぇねぇ」」」

男の取り巻きの馬鹿笑いが辺りに響き渡

る中、少年の顔はどんどんと青ざめてい

った。少年は魔族であり、幼いながらも

戦う力を多少は有していた。それこそ他

の種族であれば、小手先の技を使って出

し抜き、なんとか逃げ出すことも出来た

かもしれないぐらいにはだ。ところが、

今回は単純に相手が悪かった。取り巻き

を含めた男達も皆、同じ魔族だったの

だ。というよりも魔族領に暮らす者のほ

とんどが魔族であり、たまに来る他種族

の冒険者などはごく僅かしかいない。こ

れによって自然とやり取りをする相手が

魔族ばかりになってしまうのは致し方の

ないことだった。つまり、何が言いたい

かというと絡んでくるのも高確率で自己

顕示欲の強い威張り散らした魔族であ

り、条件が同じであれば、後は経験値が

物を言うことは自明の理ということだっ

た。さらに付け加えて言えば、魔族の特

性上、周りからの助けもおそらく期待は

できないだろう。

「さてと…………一体こいつをどうして

やろうか」

「「「腕が鳴るぜ!!!」」」

「ううっ……………そんな……………」

まさに八方塞がりのこの状況は少年にと

って地獄以外の何物でもなく、この後に

待ち受けている未来を想像してか、少年

は身体を小刻みに震わせ始めたのだっ

た。











「ん?」

「どうしたんだ、シンヤ?」

「なぁ、ネーム。確か、この"ラクゾ"

って街でしか手に入らない物があるんだ

よな?」

「ああ。食べ物から魔道具、それに装飾

品など種類は様々あるが…………そうい

えば全てを取り揃えている店が一軒だけ

あるな」

「だよな。だが、これは……………おかし

いな」

「シンヤさん?」

「ティア、この地図を見てくれ。ここに

は街の様々な施設が載っているんだが、

それによるとネームの言っていた土産物

屋がこの辺なんだ」

「……………はい。確かにそう書かれてい

ますね」

「そうだ。確かに書かれている。しか

し、そんな店は見当たらない。まるで神

隠しにでもあったかのようにな」

「ん~それはおかしいな。確か、私が以

前訪れた時はちゃんと営業していたはず

なんだが………………ん?ちょっと待て。

あの人だかりは何だ?」

ネームが指差す先、そこは何かを見物で

もしているのか多くの野次馬達が集まっ

て人垣を作っていた。そこは人の往来が

激しい場所であり、様々な店が軒を連ね

ている。その為、店主達はとても迷惑そ

うな顔をしており、道行く者も同様に人

垣を迷惑そうな顔をしながら避けてい

た。

「乱闘かなんかを面白がって見ているん

じゃないか?」

「そうなのかな………………って、ああ~

っ!!あった!あったよ!」

「ん?」

「シンヤが求めている土産物を売ってい

るお店さ!ちょうどあの人垣の向こう

に!」

「そうか。見つけてくれて、ありがと

な」

「ふふっ。良かった」

「……………ってことはあの人垣を越えて

いかなきゃならんってことか。まぁ、そ

れじゃあ仕方ないか」

「だよね。わざわざあの中に突っ込んで

いく訳にもいかないから、今回は諦める

として、また時間がある時にで

も………………」

「は?何言ってんだ?今から行くに決ま

ってんだろ」

「ええっ!?で、でもなんか嫌な予感が

するんだけど。絶対にトラブルになるで

しょ。だったら、また今度にでも」

「そんな時間はない。忘れたのか?俺達

の目的を」

「そ、それはそうだけど……………」

「どうせしょうもないことでも起きてん

だろ。何でその為に買いたい物をわざわ

ざ我慢しなければならない」

「ええ~っ…………じゃあお土産自体を

諦めればいいんじゃ」

「それじゃあ、来られなかった奴らが可

哀想だろ」

「…………シンヤって仲間想いなんだ

か、自分勝手なんだか分からなくなって

きた」

「ネーム、深く考えるのはよせ。シンヤ

とはこういう奴なんじゃ」

「まぁ、イヴ様がそう仰るのなら」

「よし、行くぞ」

シンヤの一声で動き出した一行。15名

もの多種族の集団がわざわざ人垣へと突

っ込んでいく光景は非常に珍しく、明ら

かに目立っていたのだがシンヤ達はそん

なことを一切気にすることなく、人垣を

無理矢理こじ開けていった。

「っ!?痛てぇな。なんなん……………」

「悪い。どいてくれるか?」

「っ!?あ、ああっ!こっちこそ、道の

邪魔をして悪かった」

結果、多くの者がシンヤ達を視界に入れ

た瞬間、顔を引き攣らせ、冷や汗を大量

にかきながら道を開けるという謎の現象

が起きた。ネームはそれを不思議に思っ

たが横を通る際に道を開けてくれた者達

が小声で何か言っているのが聞こえ、お

そらくシンヤ達の仕業だろうと思い、特

に気にしないことにしたのだった。









「おい、ガキ。お前は一体どんな仕置き

が……………」

「おい、そこをどけ。邪魔だ」

「あん?」

魔族の男は突然かけられた声に反応し

て、横を向いた。するとそこには多種族

を引き連れた黒髪の青年、シンヤが興味

のなさそうな視線を魔族の男に向けて立

っていた。これに対し魔族の男は嘲笑を

浮かべながら、シンヤへこう言い放っ

た。

「はっ!俺様に向かって強気な態度で来

たから、どんな奴かと思えば………………

ひ弱な人族がこんなとこまではるばる何

しに来た?」

「お前が邪魔でそこの土産物屋へ行けな

いだろ。さっさとどけ」

「てめぇ……………俺様の質問を無視して

進めるとはいい度胸だ。ふんっ。この辺

りじゃ見かけない顔だが……………おっ、

服にクランマークがあるな。お前、もし

かして冒険者か?」

「そういうお前はただのチンピラか?」

「ふんっ!聞いて驚け!俺様はここらじ

ゃ有名なクラン、"魔牛の蹄バイソン・ホーフ"のザウイ様だ!」

「"魔牛の糞"?知らねぇよ、そんな

の」

「ぷぷっ」

シンヤの物言いに近くにいた少年は咄嗟

に笑ってしまった。するとそれに腹を立   

てたのか、魔族の男の額に青筋が立つ。

そして、それを見た少年はハッと我に返

り、慌てて口元を手で隠したが時既に遅

し。魔族の男は物凄い形相で少年を睨み

付けていた。そうして魔族の男はそのま

ま少年へと迫る…………かと思いきや、

突然標的をシンヤへと変え、臨戦態勢を

取った。

「てめぇ……………覚悟はできているんだ

ろうな?」

「いいから、そこをどけ」

「…………我慢の限界だ。久々だな。俺

達を前にして、こんな態度できた奴

は……………おい、お前ら!やっちまう

ぞ!」

「「「おぅ!!!」」」

号令をかけると魔族の男は取り巻きと共

に動き出した。それとほぼ同時にヒュー

ジやリーゼも動き出そうとしたがシンヤ

が手で制した為、彼らは結果的にその場

で踏み留まる形となった。

「死ねぇ~!非力な人族が!」

「「「魔族の恐ろしさを思い知らせてや

る!!!」」」

各々が叫びながら愛用する武器をシンヤ

目掛けて振り下ろす。周りの視線など一

切気にすることなく、それはただただプ

ライドを傷つけられたという理由からの

行為だった。その顔は勝利を確信してお

り、数秒後のシンヤの姿を想像して満足

そうに笑っていた。

「ハハッ~~!どうだ!思い知

っ……………た…………か。あ………………

れ。おかしい……………な」

「「「ザウイ様~~!………………ぐばあ

っ!?」」」

ところが、男達の望む結末はやってこな

かった。何故なら、男達の武器がシンヤ

に到達する前に既に勝負はついていたか

らだ。視認できない程の速さで繰り出さ

れた刀の一撃によって、男の首が宙を舞

い、そこから少し遅れて取り巻き達も同

じ運命を辿ったのである。彼らにとって

は何が起きたのか理解できないまま絶命

した形となったことだろう。

「……………他に仲間もいないな?」

「そうですね。にしても何だったのでし

ょうか?」

「さぁな。ま、とりあえずこれで土産が

手に入るからいいだろ」

その後、呆気に取られたままの周囲を放

って、シンヤ達はお土産物屋へと向かっ

た。

「あんちゃん、人族なのに強いんだな」

店に着くと店主が驚いた表情でシンヤへ

向かって言った。この時もまだ周囲は呆

然としており、いきなり登場した人族の

青年への興味から店主とシンヤの会話に

聞き耳を立てていた。

「種族で判断しているから足元を掬われ

る。それだけだ。ちなみにお前もだぞ、

店主。俺達の足元を見て、ふっかけるな

よ?」

「し、しねぇよ!さっきの見せられちゃ

な!」

その後、周囲はシンヤ達の動向を気にし

つつも普段通りの日常へと戻っていっ

た…………がしかし、結果的に魔族の男

の魔の手から逃れられた少年だけはただ

ただシンヤを見つめて、その場を動かな

った。
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