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第四章 バブル崩し
繋がる陰謀
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スルーズ投資商会を中心に、じっくりと動く中、ノベルは単独である行動を起していた。
「――なるほど、参考になりました。ありがとうございます」
ノベルは礼を言うと、小さく古びた一軒家を出る。
そこは一人で情報屋を営んでいる男の拠点だった。
それなりの実力者だと聞いているが、スルーズ商会の出資を断った一匹狼。
そんな彼だからこそ、ノベルは個人的な調査依頼を発注していたのだ。
「ノベル様、いつの間にあんな依頼を出していたんですか?」
「まあ、ちょっとね」
アリサの質問の答えをはぐらかす。
常にアリサが護衛しているわけではないので、彼女が知らないのも無理はない。
これはノベルが独自に動いていたことだ。
「それにしても……エデンは本当に変わったんですね」
ノベルの依頼していた調査内容は、エデンの国内情勢についてだった。
アリサは情報屋から聞いた情報を思い出し、寂しそうに下を向く。
エデンでは王が代わった当初こそ、機動的な政策の実施で改革が進んでいったが、今では大商会の権力が強くなって弱小商会はすぐに潰れ、政治家たちは人気取りに終始しているという。
それでもエデン国民は、なにかあれば国が助けてくれると思考停止し、気に入らないことがあれば政治家を猛烈批判する。だがいざとなれば、批判していた政治家にすがりつくだけの身勝手な民と化していた。
ノベルは激しい怒りを覚えた。
父レイスを引きずり降ろしてまで、変わろうとした国の末路がこれなのかと。
「ノベル様……」
無意識にノベルが拳を握りしめていると、アリサが心配するように顔を覗き込んでいた。
ノベルは無理やり笑顔を作る。
「なんでもないよ。とにかく、僕がエデンで一番知りたかったことは知れた」
「一番知りたかったこと、ですか?」
「そう。アリサは、僕がさっき最後に質問したことを覚えてる?」
「はい。『エデンでも、新通貨レンゴクは流行っているのか?』と。一部では人気が出始めているという回答でしたね」
ノベルは頷く。それこそ、真実に近づくために重要な鍵だった。
「僕たちは、思っていたよりもずっと真相に近づいていたのかもしれない」
「へ? それはどういうことでしょうか?」
「なぜ、闇市場がないはずのエデンでレンゴクが流通していると思う?」
「そ、それは……実は隠れた闇市場があったとか、他国の人が持ってきたとか、ですかね?」
「それもあるかもしれない。でも――」
ノベルは立ち止まり、周囲に聞き耳を立てている者がいないか確認すると、アリサにだけ聞こえるように、小さな声で独自の見解を語った。
「――魔人が裏で糸を引いているのかもしれない」
それを聞いたアリサは驚愕に目を見開き言葉を失う。
ノベルはかつて、城内で怪しい人影を見たことがあったのだ。
実はそれが魔人だったのではないかと、ノベルは疑っていた。
「そんな……」
「僕はそれを確信してる。アリサ、この一件が終わったら覚悟を決めて欲しい」
ノベルは決意に満ちた表情で告げた。
復讐の日は近いのだと。
アリサは気を落ち着かせるように深呼吸すると、まっすぐにノベルの目を見つめて告げる。
「お伝えしたはずです。たとえイバラの道であろうと、あなたを守り抜くと」
ノベルは、こんな素晴らしい仲間がそばにいることを心から感謝した。気恥ずかしくて本人には伝えられなかったが。
二人はそれぞれの決意を胸に、魔人との戦いに身を投じていく。
「――なるほど、参考になりました。ありがとうございます」
ノベルは礼を言うと、小さく古びた一軒家を出る。
そこは一人で情報屋を営んでいる男の拠点だった。
それなりの実力者だと聞いているが、スルーズ商会の出資を断った一匹狼。
そんな彼だからこそ、ノベルは個人的な調査依頼を発注していたのだ。
「ノベル様、いつの間にあんな依頼を出していたんですか?」
「まあ、ちょっとね」
アリサの質問の答えをはぐらかす。
常にアリサが護衛しているわけではないので、彼女が知らないのも無理はない。
これはノベルが独自に動いていたことだ。
「それにしても……エデンは本当に変わったんですね」
ノベルの依頼していた調査内容は、エデンの国内情勢についてだった。
アリサは情報屋から聞いた情報を思い出し、寂しそうに下を向く。
エデンでは王が代わった当初こそ、機動的な政策の実施で改革が進んでいったが、今では大商会の権力が強くなって弱小商会はすぐに潰れ、政治家たちは人気取りに終始しているという。
それでもエデン国民は、なにかあれば国が助けてくれると思考停止し、気に入らないことがあれば政治家を猛烈批判する。だがいざとなれば、批判していた政治家にすがりつくだけの身勝手な民と化していた。
ノベルは激しい怒りを覚えた。
父レイスを引きずり降ろしてまで、変わろうとした国の末路がこれなのかと。
「ノベル様……」
無意識にノベルが拳を握りしめていると、アリサが心配するように顔を覗き込んでいた。
ノベルは無理やり笑顔を作る。
「なんでもないよ。とにかく、僕がエデンで一番知りたかったことは知れた」
「一番知りたかったこと、ですか?」
「そう。アリサは、僕がさっき最後に質問したことを覚えてる?」
「はい。『エデンでも、新通貨レンゴクは流行っているのか?』と。一部では人気が出始めているという回答でしたね」
ノベルは頷く。それこそ、真実に近づくために重要な鍵だった。
「僕たちは、思っていたよりもずっと真相に近づいていたのかもしれない」
「へ? それはどういうことでしょうか?」
「なぜ、闇市場がないはずのエデンでレンゴクが流通していると思う?」
「そ、それは……実は隠れた闇市場があったとか、他国の人が持ってきたとか、ですかね?」
「それもあるかもしれない。でも――」
ノベルは立ち止まり、周囲に聞き耳を立てている者がいないか確認すると、アリサにだけ聞こえるように、小さな声で独自の見解を語った。
「――魔人が裏で糸を引いているのかもしれない」
それを聞いたアリサは驚愕に目を見開き言葉を失う。
ノベルはかつて、城内で怪しい人影を見たことがあったのだ。
実はそれが魔人だったのではないかと、ノベルは疑っていた。
「そんな……」
「僕はそれを確信してる。アリサ、この一件が終わったら覚悟を決めて欲しい」
ノベルは決意に満ちた表情で告げた。
復讐の日は近いのだと。
アリサは気を落ち着かせるように深呼吸すると、まっすぐにノベルの目を見つめて告げる。
「お伝えしたはずです。たとえイバラの道であろうと、あなたを守り抜くと」
ノベルは、こんな素晴らしい仲間がそばにいることを心から感謝した。気恥ずかしくて本人には伝えられなかったが。
二人はそれぞれの決意を胸に、魔人との戦いに身を投じていく。
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