異世界投資家の逆襲 ~冤罪で国を追われた王子は、辺境の地で最強の投資家として成り上がる~

高美濃 四間

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第四章 バブル崩し

魔人の野望

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 数か月後、それなりに商会全体のレンゴク保有数が増えてきたことで、市場への参入は新たな段階へ移行させる。
 まずは、スルーズ商会の情報網を使い、レンゴクに関する情報を国内外問わず広く拡散させ始めた。

 次に、適当な商店に出資し、商品購入をレンゴクで支払えるように整備。
 記録用の羽根ペンは、交換所を通して契約し手に入れさせた。
 店が通貨の代わりに得たレンゴクは、スルーズ商会がテラで買い取るため、店の負担にはならず、導入はスムーズだった。
 正式にレンゴクを取り扱う店が現れたことで、利便性の高いレンゴクの人気は急上昇。
 スルーズ商会は残るほとんどの資産をレンゴクに替えた。

 それによりさらに価値が上がったことで、多くのレンゴク保有者は「使わずに持っているだけで儲かる」という印象を持ったであろうことは想像にかたくない。
 そしてトドメに、「保有しているだけで儲かる」、「もう嫌な仕事はしなくていい」、「早い者勝ち」といった甘言を情報屋たちを通じて世界各地へ拡散させ、爆発的なブームを生むのだった。

「――予定より少し早いな」

 真夜中のノートスの豪邸。
 ファウスト・サナトスは怪訝そうな表情で呟いた。
 仄暗い応接室に差し込む月の光が、彼の影を浮かび上がらせる。

「ええ、あまりに順調で戸惑うくらいです」

 彼と向かい合ってソファに座る、財務大臣キンレイがニンマリと笑みを浮かべた。
 しかしファウストは冷ややかな視線を向ける。

「順調、か……どこまでもおめでたい奴だな」

「は、はい? なにか問題でもありましたか?」

 キンレイは額に脂汗を滲ませ、怯えた声で問う。

「あまり早すぎても困る。国の上層部に浸透する前に、なにかが起こってしまえば、すべてが水の泡だ」

「なにか、ですか?」

「通貨としての信用を失うなにかだ。市井しせいだけレンゴクが広まったところで、大した意味はない。レンゴクによる経済圏は、国民が通貨として使用し、それを国家が容認してこそ完成する」

「も、もちろん心得ております!」

「ふんっ、まあいい。レンゴクの本格的な政治利用はあとどれほどかかる?」

 納税をテラ通貨でなくレンゴクで行えるように整備しろというのが、ファウストの指示だった。
 そうなれば、国民はレンゴクの利用に積極的になり、国の税収もレンゴクによるものになる。出回っている国の通貨が市場から消え、実体なきレンゴクによる経済圏――つまり、サナトス家が経済を支配するのも時間の問題だ。

「そ、それが、他の大臣がなかなか首を縦に振らないもので……」

「貴様もしょせんは大臣か。エデンでは宰相が主導しているから、スムーズに計画が進んでいるというのに」

「は? あのエデンがですか!?」

「宰相のキグスは中々の切れ者だ。うまい具合に王と他の大臣たちを操っている」

 それを聞き、キンレイは額の汗を手ぬぐいでぬぐった。
 暗に自分は無能だと言われているのだ。屈辱に対する怒りよりも、焦りの方が大きい。
 そして、キンレイが最も危惧していることをファウストは口にした。

「やはり、ノートスでも宰相に声をかけるべきだったか」

「っ! そんなことはありません! この計画を進められるのは私だけです! 必ずや、あのカタブツどもを説き伏せてみせましょう!」

「ふんっ、期待しているぞ。いずれは宰相になるのだろう?」

「はい。その暁には、ファウスト殿を王の座に――」

 ファウストは不気味な笑みを見せ頷くと、ゆったりと立ち上がり音もなく去って行くのだった。
 国の通貨が魔人族の管理する通貨に置き換わり、そして国のトップにファウスト・サナトスが君臨することで、小国ノートスは完全に魔人族の手に落ちる。
 キンレイは悪魔に魂を売り渡してでも、次の時代を生き延びかったのだ。
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