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56話 恐怖
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空もすっかり暗くなり、綺麗な羽虫の音と共に、少し冷たい空気が辺りを覆っていた。
「あとどれくらいなんだ?」
「そうだなぁ、もう少しで着くはずなんだけど……ん?」
エンファを先頭に、ファイアーウルフ達が敵に襲われた場所に移動していると突然遠くを見て立ち止まった。
「どうした?」
「あそこに光がある。もしかしたら敵がいるんじゃないか?」
敵に見つからないように、全員静かに木の茂みの隠れて光が発せられる場所を確認した。
まだ少し距離が離れているため、細かいところまではわからないが、いくつかのテント張られているのが確認できた。
「多分あそこに軍の奴らがいるはずだ。まだ距離があるからバレないように移動するぞ」
「リウス様、敵の位置を把握することが出来ましたので影移動が使えますが、どう致しますか?」
「本当か!ならゼーラ、よろしく頼む」
「はい、お任せを」
すると、俺が獣人の国に移動した時と同じように地面に黒い穴が出現し、俺は迷うことなくその暗闇に入った。
「皆んなもここに入ってくれ」
「何これ?」
「なんか不気味だな」
「ちょっと怖い……」
目の前に突然現れた暗闇に、少し戸惑いを見せながらも渋々と入ってきた。
こんな暗闇に突然入ってなんて言われたら、そんな反応にもなるよな。
だけど俺にも少し不安がある。
この暗闇についてではなく、影移動した先が敵がいないかどうか。
最悪敵と遭遇してしまった場合は、即戦闘になるはずだ。
でも、出来る限りファイアーウルフ達の安全を確保してから戦闘に入りたいから即戦闘は避けたいところだ。
「頼むから目の前に敵はいないでくれよ」
俺は心のこっそりとそう願った。
だが、願いというのは簡単には叶わない。
「よりによって何で敵の監視の前に出てしまうんだ……」
現在、地面から頭だけ出した俺と、驚きと恐怖で体が固まってしまっている兵士と目が合っている状態だ。
あと少し右にずれていたら草でバレなかったかもしれないのに……。
見つかってしまった以上、ファイアーウルフ達を避難させる前に戦闘が始まってしまうのはやむを得ないだろうな。
「て、敵だ――」
「ちょっと黙っていて下さい」
「むっ……!」
俺に意識が向いている兵士の真後ろに、ゼーラは影移動をして、背後から口を塞いだ。
無駄のない動き、なんとも見事なことだ。
どうやらこの場所にはゼーラに捕まっている兵士しかいないらしく、俺たちに気づく様子は一切なかった。
「今のうちだ」
「やっと外に出れた~」
「涼しくて気持ちいな」
「俺腹減った」
ミルマ達は外に出ると、周りをキョロキョロして警戒を続けているが、シェビー達は背伸びやどうでもいい会話なんかをしている。
なんで獣人側はこんな状況にも関わらずに、全く緊張とかしてないんだよ。
経験の違いってやつか。
「さて、ここからどう動こうか……」
「ちょっと逃げようとしないでくださいよ。まだ貴方には聞きたいことがあるんです」
「むー!むー!」
「貴方はどうせただの雑魚兵士でしょう?この状況で逃げれると思っているのですか?」
「う……」
さっき捕まえた兵士から、ゼーラは情報を聞き出そうと脅しを始めている。
それも笑顔で。
「もし情報を教えていただければ、ここから逃してあげることも考えますが。どうしますか?」
狂気に塗れた眼光を、至近距離で兵士は目にすると体を細かく震わせながら、小さく縦に首を振った。
「わかりました。でも、もし大声を出したら……分かっていますね?」
ゼーラはさらに脅しながら、ゆっくりと兵士の口から手を離した。
「ひぃ……!」
「おお! てっきり大声を出すかと思っていたので殺す気満々だったのですが、どうやら私の見当違いだったようですね。それなら予定通りに質問に答えてもらいます」
兵士は恐怖で怯え続ける中、ゼーラは笑顔を崩すことなく質問を開始した。
「今この場所で待機している兵士の人数は何人いるのですか?」
「や、や、約2000人です」
「そうですか。ならもう一つ。貴方達が襲ったファイアーウルフ達はどこに居るのですか」
「それは……」
「もしかして答えられないと? なら、貴方はここで死んで――」
「こ、ここから近くの洞窟の中に閉じ込めている!」
「だそうです。リウス様」
「ああ、よくやってくれた」
ここから近くの洞窟か。
それなら、ファイアーウルフ達を救出するよりも先に敵を殲滅した方が良いかもしれない。
多分、敵に見つからずに洞窟から全員を連れ出すのは難しいだろうからな。
エンファ達に大まかな流れを伝えようとした時、ふと疑問に思っていた事を思い出した。
「なあ、お前たちの最初の予定だと魔獣の殲滅だったのに、どうしてファイアーウルフ達を殺さずに捕まえているんだ?」
「え?なんでそんなこと知ってるんだよ?お前もしかして裏切り者か!?」
「貴方……誰に向かってそんな口を聞いているのですか?殺されたいのですか?」
「よせ、ゼーラ」
「申し訳ございません」
俺とこいつの話を邪魔しないようにするためか、ゼーラは数歩後ろに下がって待機した。
「俺は裏切り者じゃなくて、裏切られ者だ。そこを勘違いするな。そんなことより、早く俺の質問に答えてくれないか?」
「そ、それは……」
「まさか言わないつもりか?」
それなら、ゼーラみたいに脅してみるか。
人間の腕を、兵士の目の前で長く爪の伸びた魔獣の腕に変化させて、兵士の喉に突き付けた。
「ほら、早く言えよ。元はと言えばお前達から先に手を出したんだ。そのせいで怪我人も……犠牲者も出たんだ。だからお前が情報を吐かないなら……お前の仲間を全員殺してでも……」
「ひっ……!」
「俺は仲間を助ける」
「あとどれくらいなんだ?」
「そうだなぁ、もう少しで着くはずなんだけど……ん?」
エンファを先頭に、ファイアーウルフ達が敵に襲われた場所に移動していると突然遠くを見て立ち止まった。
「どうした?」
「あそこに光がある。もしかしたら敵がいるんじゃないか?」
敵に見つからないように、全員静かに木の茂みの隠れて光が発せられる場所を確認した。
まだ少し距離が離れているため、細かいところまではわからないが、いくつかのテント張られているのが確認できた。
「多分あそこに軍の奴らがいるはずだ。まだ距離があるからバレないように移動するぞ」
「リウス様、敵の位置を把握することが出来ましたので影移動が使えますが、どう致しますか?」
「本当か!ならゼーラ、よろしく頼む」
「はい、お任せを」
すると、俺が獣人の国に移動した時と同じように地面に黒い穴が出現し、俺は迷うことなくその暗闇に入った。
「皆んなもここに入ってくれ」
「何これ?」
「なんか不気味だな」
「ちょっと怖い……」
目の前に突然現れた暗闇に、少し戸惑いを見せながらも渋々と入ってきた。
こんな暗闇に突然入ってなんて言われたら、そんな反応にもなるよな。
だけど俺にも少し不安がある。
この暗闇についてではなく、影移動した先が敵がいないかどうか。
最悪敵と遭遇してしまった場合は、即戦闘になるはずだ。
でも、出来る限りファイアーウルフ達の安全を確保してから戦闘に入りたいから即戦闘は避けたいところだ。
「頼むから目の前に敵はいないでくれよ」
俺は心のこっそりとそう願った。
だが、願いというのは簡単には叶わない。
「よりによって何で敵の監視の前に出てしまうんだ……」
現在、地面から頭だけ出した俺と、驚きと恐怖で体が固まってしまっている兵士と目が合っている状態だ。
あと少し右にずれていたら草でバレなかったかもしれないのに……。
見つかってしまった以上、ファイアーウルフ達を避難させる前に戦闘が始まってしまうのはやむを得ないだろうな。
「て、敵だ――」
「ちょっと黙っていて下さい」
「むっ……!」
俺に意識が向いている兵士の真後ろに、ゼーラは影移動をして、背後から口を塞いだ。
無駄のない動き、なんとも見事なことだ。
どうやらこの場所にはゼーラに捕まっている兵士しかいないらしく、俺たちに気づく様子は一切なかった。
「今のうちだ」
「やっと外に出れた~」
「涼しくて気持ちいな」
「俺腹減った」
ミルマ達は外に出ると、周りをキョロキョロして警戒を続けているが、シェビー達は背伸びやどうでもいい会話なんかをしている。
なんで獣人側はこんな状況にも関わらずに、全く緊張とかしてないんだよ。
経験の違いってやつか。
「さて、ここからどう動こうか……」
「ちょっと逃げようとしないでくださいよ。まだ貴方には聞きたいことがあるんです」
「むー!むー!」
「貴方はどうせただの雑魚兵士でしょう?この状況で逃げれると思っているのですか?」
「う……」
さっき捕まえた兵士から、ゼーラは情報を聞き出そうと脅しを始めている。
それも笑顔で。
「もし情報を教えていただければ、ここから逃してあげることも考えますが。どうしますか?」
狂気に塗れた眼光を、至近距離で兵士は目にすると体を細かく震わせながら、小さく縦に首を振った。
「わかりました。でも、もし大声を出したら……分かっていますね?」
ゼーラはさらに脅しながら、ゆっくりと兵士の口から手を離した。
「ひぃ……!」
「おお! てっきり大声を出すかと思っていたので殺す気満々だったのですが、どうやら私の見当違いだったようですね。それなら予定通りに質問に答えてもらいます」
兵士は恐怖で怯え続ける中、ゼーラは笑顔を崩すことなく質問を開始した。
「今この場所で待機している兵士の人数は何人いるのですか?」
「や、や、約2000人です」
「そうですか。ならもう一つ。貴方達が襲ったファイアーウルフ達はどこに居るのですか」
「それは……」
「もしかして答えられないと? なら、貴方はここで死んで――」
「こ、ここから近くの洞窟の中に閉じ込めている!」
「だそうです。リウス様」
「ああ、よくやってくれた」
ここから近くの洞窟か。
それなら、ファイアーウルフ達を救出するよりも先に敵を殲滅した方が良いかもしれない。
多分、敵に見つからずに洞窟から全員を連れ出すのは難しいだろうからな。
エンファ達に大まかな流れを伝えようとした時、ふと疑問に思っていた事を思い出した。
「なあ、お前たちの最初の予定だと魔獣の殲滅だったのに、どうしてファイアーウルフ達を殺さずに捕まえているんだ?」
「え?なんでそんなこと知ってるんだよ?お前もしかして裏切り者か!?」
「貴方……誰に向かってそんな口を聞いているのですか?殺されたいのですか?」
「よせ、ゼーラ」
「申し訳ございません」
俺とこいつの話を邪魔しないようにするためか、ゼーラは数歩後ろに下がって待機した。
「俺は裏切り者じゃなくて、裏切られ者だ。そこを勘違いするな。そんなことより、早く俺の質問に答えてくれないか?」
「そ、それは……」
「まさか言わないつもりか?」
それなら、ゼーラみたいに脅してみるか。
人間の腕を、兵士の目の前で長く爪の伸びた魔獣の腕に変化させて、兵士の喉に突き付けた。
「ほら、早く言えよ。元はと言えばお前達から先に手を出したんだ。そのせいで怪我人も……犠牲者も出たんだ。だからお前が情報を吐かないなら……お前の仲間を全員殺してでも……」
「ひっ……!」
「俺は仲間を助ける」
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