【完結】悪女を断罪した王太子が聖女を最愛とするまで

空原海

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第一章 聖女の祝福

第四話 就寝前のひととき

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 婚約者殿と顔合わせをした当夜は晩餐会が催された。
 主賓であるわらわが十歳と幼く未成年であるため、食事時はゲルプ王国側の気遣いで、王族同士の格式張ったものではなく、和やかに進んだ。
 官僚への接待としての酒席は、わらわが席を立った後、部屋を変えて設けるのだろう。


「ここまでの案内、感謝する」


 客間のある翼までエスコートする婚約者殿に礼をする。


「ああ。よく休んでほしい」

「そなたもな」


 頷き返した婚約者殿を確認し、背を向けると「あなたには」と声をかけられた。


「なんじゃ」


 ふたたび振り返ると、うつむき逡巡する婚約者殿の姿があった。


「いや。すまない。呼び止めて悪かった」


 特に興味もないのだが、ここでそのまま流すようでは婚約者としての体面がつかない。
 帝国皇族は情がないなどと吹聴されても困る。


「そうか? わらわには、婚約者殿が無意味に就寝前のレディを引き止めるような、そういう類の殿方には見えんのじゃが」


 このまま意味深長に言葉を飲み込むのであれば、それは不埒な恋の駆け引きと見なすぞ、と言外に示してみると、婚約者殿はわずかに顔を赤くした。


「これはすまない。いや、たしかに」

「気にするな。わらわはまだ数えて十。醜聞にもならぬ」

「そういうわけにもいかんだろう」


 婚約者殿は帝国の侍女と騎士、それからゲルプ王国の侍従に騎士らに目を走らせた。
 それから決意したように口元を引き結ぶ。その様子はまるで第一王女殿と同じだな、となんとはなしに見つめた。


「昼間の皇女殿下の言葉が気にかかっていた」


 婚約者殿は生真面目ゆえ、視野が狭いのか。その言いようではさらに怪しく、憶測を呼びそうだ。
 足元をすくわれかねない直情さ。帝国皇族にはいない種類。


「弟が私を慕っているようだとあなたは言った」

「確かに」

「それは真実そのように見えたのか」


 縋るような眼差しに、思わず目を瞬かせた。


「嘘をつく必要など、わらわにはない」

「そうか」


 ふたたび目を伏せ、「そうだな」と噛みしめるようにつぶやく婚約者殿の、その小さく落とした肩を扇でぴしゃりと叩いてやりたくなった。


「そなたが第二王子殿を慈しんでいるようにも見えたが、それは確かめずともよいな?」


 顔をあげ、ハッと息を呑む婚約者殿は間抜け面をさらしていた。
 「ではこれで失礼する」と今度こそ婚約者殿に背を向けると、背後から弱々しい声で「感謝する」と言われた。



 この国の王子王女は、危機感があまりにも薄い。わらわをなんだと捉えているのか。

 扉を抜け、ソファに腰掛け溜息をつく。すると帝国から連れてきた侍女から、同腹の兄達に文を綴るよう、トレイに便箋とインクに羽根ペンを載せて差し出された。
 首を振ってそれを下げさせ、臙脂色の表紙に箔押しされた日記帳を代わりに受け取る。


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