1 / 9
1 ツンデレ王子は婚約者にかっこつけたい
フランクベルト王国第二王子ユーフラテスはツンデレだった。
婚約者であるキャンベル辺境伯令嬢ネモフィラのことが出会った頃、つまりユーフラテス六歳、ネモフィラ五歳のとき婚約締結のため、顔合わせしたときから大好き。大・大・大好きである。
一目で心奪われた。
ネモフィラは不細工ではないが決して美人ではなく、ぽっちゃりしていて、そして鈍くさかった。
淑女の礼なんてしようものなら片足がふらついて転ぶし、何か問いかけても「ええと、よくわかりませんわ」と返ってくる。
わからないとは何だ、と聞いても、殿下のおっしゃることはいつも難しくて、と言う。
最初のうちは馬鹿にされているのかと思ったが、聞かれた質問にうんうん悩んで、結局わからない、という答えになるようだった。
そもそもネモフィラに政治経済、隣国との力関係、大貴族の持つ青い血とその扱い等の話をしようとしたユーフラテスが悪いのだが。
ネモフィラは貴族令嬢で、政治経済について深く学ぶことはない。
しかしユーフラテスは好きな女の子の前、学んだばかりの知識を披露することで博識だと思われたかった。
さりげなく話を討論のような形までもっていったところでネモフィラを論破し、ネモフィラに感嘆と尊敬の目で見つめられて、さすが殿下! お考えが深い! 素敵! と言われたかった。
かっこつけたかったのだ。ユーフラテスはアホだった。
また青い血とは建国の暁に、王家へ忠誠の誓いをたてた貴族達が脈々と受け継いできた、古の契約と、その証である。
同時にこの国の王侯貴族の体を脈々と流れる、魔力の元となるものである。
そしてまた約150年前、フランクベルト王国第十一代国王レオンハルトの政策転換により、王族からはほぼ失われてしまったものである。
レオンハルト国王は一説によると、建国の勇である初代国王に匹敵する程の魔力の持ち主であったという。
しかし彼は突如外交に重きを置くと宣言し、他国の血を混じえることとなった。
それまで青い血を大事に後世へと繋いでいくため、国内の貴族とのみ婚姻関係を結び、濃い血縁関係を築き、他国の血を入れなかった王家の慣習を破ったのである。
これにより発現の儀と戴冠の儀の後に代々国王と認められていた王族であったのが、発現の儀を執り行っても、それ以降は王族の誰一人として青い血を発現させなくなった。
この青天の霹靂とも言うべき、レオンハルト国王の突然の強引な施策変更の背景には、長きに渡る某国との戦争終結のため、後手に回っていた諸外国との同盟強化を図る為だったとか。これまで頑なに他国の血を受け入れなかったフランクべルト王国王家への諸外国からの批難、また孤立にいよいよ耐え難くなったためだとか。
いくつかの説が唱えられている。
理由は何であれ、レオンハルト国王自らが他国の姫を娶り王妃とし、その後青い血が発現しなくなったことにより、王家より魔力は急速に失われた。
それに伴い、王家主体で進められていた魔術・魔法の研究もまた衰退していく。
保守的な大貴族は純血主義を掲げ、今世でも青い血をその身に宿すが、しかしながら元を辿れば王家への忠誠を誓うためのもの。
そのためか青い血は未だ色濃く大貴族達の身に流れているものの、魔法に魔術を操ることのできる者は最早いない。
王侯貴族に属さず命を受けない魔術師が、いくらかいるのみである。
フランクベルト王国独自の古代の力が失われたことについて、第十一代国王レオンハルトは愚王であったと見る一派と、一方で他国との結びつきを強めたことにより、王国の孤立から繋がる周辺諸国からの侵略、隷属、また王国滅亡を防いだと賢王と見なす一派とで、歴史家の間で評価は分かれる。
以上の経緯を辿った、青い血を失った王家と、王家への忠誠の証でありながら青い血を受け継ぎ王家への優位性を目論む大貴族。
貴族達は王家を支持する体を示しながらも、現在、水面下では対立関係にある。
これらについて、ユーフラテスは教師に習ったばかりであった。
教師がまだ幼い王子にこの複雑な内政問題を教えたことには理由がある。
王族の歴史を王族の一人として習得する意味は勿論、王家と大貴族との力関係を第二王子として必ず知るべきだったからだ。
王族としての立場を理解し、王族としての矜持を保ち、いかに貴族に応じ振る舞うか。自ずと定まってくるものである。
王家と大貴族との対立について、また王家の立場における大貴族達の扱いについて、幼いユーフラテスはこれまた幼いネモフィラの意を聞きたいと思っていた。
将来の王子妃となるネモフィラと今のうちから意を交わし覚悟を同じくしたいというより、単純にユーフラテスは持論をぶち上げて、ネモフィラにキャー素敵、と思われたかったのである。
つくづく残念な王子様だったが、まだ十歳と幼かったため、多目に見てほしい。好きな女の子に格好つけたいお年頃である。
「ネモフィラ。お前の家は純血主義ではないな」
「ええ。そのように聞いておりますわ」
両拳をテーブルの上に置き、キリッと眼尻を上げ、ユーフラテスはネモフィラを睨みあげた。
対するネモフィラはぽわわん、といつものように微笑みともつかない何とも間の抜けた、緩みきった顔でユーフラテスを見た。
――ちくしょう、可愛い。
内心悶えに悶えたユーフラテスだが、素直に可愛いだなんて口に出せるのなら、ツンデレではない。
俺様傲慢王子は赤くなった頬を誤魔化すように、ゴホン、と咳払いをした。ツンデレあるある。
「キャンベル辺境伯家は王家に忠誠を誓っているな?」
「勿論ですわ」
当然である。
ここでネモフィラが、我が一族は王家に忠誠など誓っていないなどと答えようものなら、一族郎党まとめて粛正されてしまう。
何しろこの茶会は王宮で行われている。
ユーフラテスの後ろにもネモフィラの後ろにも、それぞれ侍女に屈強な護衛騎士が控えているのである。
彼等はそこに存在しないかのように振る舞いながら、幼い婚約者同士の会話を漏らすことなく耳に入れ、必要とあらば上へと報告する。その上が辿り着くところは国王陛下である。
何を当たり前のことを……。
とはネモフィラは思わなかった。特に何も思わなかった。
聞かれたので答えただけである。
問いかけたユーフラテスも特に意味はなく、話の導入であっただけだが、ネモフィラの肯定に満足そうに頷いた。偉そうである。
「だが他貴族のように、青い血でもって忠を為すわけではない」
さぁここから始めるぞ! ちょっと小難しい内政論なんかブチかましちゃうぞ、とユーフラテスが鼻息を荒くしたとき、突然ネモフィラが口を開いた。
「あら。だって当然ですわ。第十一代国王陛下であられたレオンハルト元国王陛下と我が祖先、当時のキャンベル辺境伯家長女で唯一の嫡子ナタリー・キャンベルは百五十年前の当時、婚約関係にあったのですわ。レオンハルト元国王陛下は第五王子で、もともとはキャンベル辺境伯家に婿入りするはずでしたのに、突然青い血が発現した上、お父上の第十代国王陛下が崩御が重なったため、急遽ご即位なされたのです」
「は?」
ツラツラと淀みなく話し始めたネモフィラに、ユーフラテスは呆気にとられた。そんな話は教師から聞いていない。
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
【完結】伐採令嬢とお花畑伯爵のままならない結婚生活
有沢楓花
恋愛
――あなたのために杉(仮)を伐る。新婚伯爵夫妻の別居婚、標高差1000メートル
散々結婚を先延ばしにされた挙句、ついに婚約破棄された男爵家の令嬢・ヘルミーナはとうに行き遅れ。
厳格な父親は家の恥さらしだと、彼女を老貴族の後妻として嫁がせようと画策していた。
老貴族の名を聞き、前世の日本人としての記憶がぼんやりとあったヘルミーナは確信する。
ここは乙女系領地運営シミュレーションゲーム『黒薔薇姫のシュトラーセ』エンディング終了直後の世界で、彼女はこの後夫の不正に巻き込まれて没落するのだと。
抗う彼女の窮地を偶然救ってくれたのは、病のせいで顔をくまなく覆った貴族、「お花畑伯爵」ウィルヘルム。
瘴気漂う領地のせいで滅多に領外に出ないとあって、長らく独身だった。
ウィルヘルムが事情でお飾り妻を必要としていると知ったヘルミーナは、彼に結婚と領地運営の手助けを申し出る。
たとえ彼が「二週目フリーモード以降選択可能な、高難易度領地持ちPC」であろうとも。
しかし手助けしようにもコミュニケーションはままならない。
瘴気を徹底的に避けるため、彼は森林限界の上に建てた別邸で一年の大半を過ごしているのだった。
「あなたの暮らす屋敷からは大よそ1000メートルといったところですね。……標高で、ですが」
1000メートルの別居婚を提案されたヘルミーナは、花粉に似た瘴気をまき散らす森を前に決意する。
登山をして会いに行き、政治的パートナーとして距離を詰めることを。
でなければ、また実家に戻されてしまうだろう。
もう後がないヘルミーナは、伯爵とともに領地を繁栄させることができるのか……?
この話は他サイトにも掲載しています。
毒姫の婚約騒動
SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。
「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」
「分かりました。」
そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に?
あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は?
毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。