【完結】ツンデレ属性、俺様傲慢王子は悪役令嬢をつかまえたい!

空原海

文字の大きさ
6 / 9

6 やっぱりクソだな、この王子



「誰がクソ王子だ! この馬鹿!」

 孤児院前に鬱蒼と茂るたぶの木の裏で、海辺で向かい合うネモフィラとヒロインの会話を隠れ聞いていたユーフラテスだったが、ネモフィラの言い分に我慢ならず飛び出した。

 ユーフラテスの腰には帯剣しているサーベルと共に、ネモフィラの弟ハロルドが縋りついてブラブラと揺れていた。

 ネモフィラを孤児院に迎えに行くに当たって、キャンベル辺境伯家側がよこした人間が、ハロルド十五歳である。
 ネモフィラの弟で辺境伯家次男、金髪碧眼の美少年で、ネモフィラ曰く彼もまた「乙女ゲーム」の「攻略対象」らしい。

 ユーフラテスってもう二十一歳なんですけど。
 乙女ゲーム、年齢差ありすぎだろ。

 それはともかく、突然白い砂浜に転げるように飛び出してきたユーフラテス(と腰にまとわりつくハロルド)の登場に、ネモフィラとヒロインは勢いよく振り返った。

「クソ王……殿下!」

 今クソ王子って言おうとしたな。いや、ほとんど言ってたな。
 あと「」を足せば言い切ってたな。

「タイムオーバーだ。ネモフィラ」

 センター分けの長い鬱陶しそうな前髪をかきあげてから腰に手を当て、ユーフラテスはネモフィラを見下ろした。

 漆黒のベールと生成り色のウィンプルが外れ、豊かに波打つブルネットの髪。
 ふくふくとまろやかな頬は、以前より日焼けをして健康的な小麦色。
 日の光を浴びて煌めく淡い水色のつぶらな瞳は、海を照らす空と同じ色をしている。

 ――くっ。やはりネモフィラは可愛いな……。

 久しぶりの再会にユーフラテスの心は浮足立った。その分だけ眉間のシワを深く刻んだ。
 この場でユーフラテスの照れ(もしくはデレ)がわかったのは誰もいなかった。

「何がタイムオーバーなんですの?」

 ネモフィラがコテン、と小首を傾げると、ユーフラテスは胸をおさえた。これはわかりやすい。
 誰もわかってくれなかったが。

 ――あざとい!

 ユーフラテスは未だ腰にぶら下がっていたハロルドを振り払い、気合いを入れ直した。
 ハロルドは打ち寄せられた流木の脇に転がった。

「キャンベル領に帰れ、ネモフィラ。キャンベル辺境伯と話をしろ。落ち着いたら、俺がお前を迎えに行く。先延ばしにしていた王子妃教育を詰め込むからな」

 ネモフィラはギョッとした。

 王子妃教育など、とっくに見捨てられていると思っていた。
 婚約解消はともかく、ネモフィラに王子妃としての姿を期待する人はいないだろうと。

「まあ、王子妃教育だなんて。わたくし、もう二十歳ですわ。もう今更……」
「今更も何も、これまで散々逃げ回っていたお前では、最低限詰め込まねば人前に立てんだろう」

 まあ人前に立たなくても、ユーフラテスの寝所にいてくれればいいんだけど。

「ええ。ですから手っ取り早く婚約を解消してしまえばよろしいのですわ!」

 なんて名案なんでしょう! と嬉しそうに手を叩くネモフィラに、ユーフラテスは悲しみのあまり怒鳴り散らした。

 ――こいつ、まだ婚約解消そんなことを言ってやがる!

「いい加減にしろ! お前が王家から逃げられるわけがないだろう!」

 ネモフィラは未だによくわかっていないようだったが、王家の秘密を暴露して以来、常に監視の目がついているのである。

 しかしネモフィラはそんなことは知らないし、恋する孤児院院長と引き離そうとするユーフラテスは悪魔にしか見えない。
 俺様だし傲慢だし嫌味だし、ネモフィラの愛でる乙女ゲームのヒロイン、リナを虐めるし。

 最悪である。

「わたくしが殿下との婚約を解消しましたら、王家の方々も諸手をあげて喜びますわ」
「まぁ、ある意味そうかもしれんが……」

 つい頷いてしまうユーフラテス。

 もしネモフィラがユーフラテスに嫁がず、ユーフラテスを本当に振り切って逃げようとするならば、ネモフィラの辿り着くゴールはたった一つ。
 髑髏マーク付きゴールである。

 ユーフラテスがネモフィラをしているからこそ、ネモフィラは存在を許されているに過ぎない。
 ネモフィラは王家にとって危険である上に、本人の有用性は低いと見なされている。
 処分してしまう方が扱いが容易なのだ。

 ネモフィラは我が意を得たりとしたり顔で頷く。

「そうでしょう。そうでしょう。わたくしなんて馬鹿で間抜けで殿下に相応しくない欠陥令嬢ですもの」

 ユーフラテスは愛する婚約者がどこかの馬鹿に罵倒されたらしいと知り、激高した。

「誰だ! そんなことを誰がお前に言った!」

 愛するネモフィラたんに何てこと言うんだ!
 この砂浜に生き埋めにしてやる!
 いや剣の錆にしてくれるわ!

 フンスフンスと鼻息荒く憤るユーフラテスに、ネモフィラはしらっと答えた。

「殿下ですわ」
「ぐっ」

 言った。
 確かに言った。

 馬鹿も間抜けも欠陥令嬢も。
 あと「俺に相応しくない(から相応しくあるよう励め)」云々もユーフラテスはよく言っていた。

 やっぱりクソだな、この王子。


感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

【完結】伐採令嬢とお花畑伯爵のままならない結婚生活

有沢楓花
恋愛
――あなたのために杉(仮)を伐る。新婚伯爵夫妻の別居婚、標高差1000メートル  散々結婚を先延ばしにされた挙句、ついに婚約破棄された男爵家の令嬢・ヘルミーナはとうに行き遅れ。  厳格な父親は家の恥さらしだと、彼女を老貴族の後妻として嫁がせようと画策していた。  老貴族の名を聞き、前世の日本人としての記憶がぼんやりとあったヘルミーナは確信する。  ここは乙女系領地運営シミュレーションゲーム『黒薔薇姫のシュトラーセ』エンディング終了直後の世界で、彼女はこの後夫の不正に巻き込まれて没落するのだと。  抗う彼女の窮地を偶然救ってくれたのは、病のせいで顔をくまなく覆った貴族、「お花畑伯爵」ウィルヘルム。  瘴気漂う領地のせいで滅多に領外に出ないとあって、長らく独身だった。  ウィルヘルムが事情でお飾り妻を必要としていると知ったヘルミーナは、彼に結婚と領地運営の手助けを申し出る。  たとえ彼が「二週目フリーモード以降選択可能な、高難易度領地持ちPC」であろうとも。  しかし手助けしようにもコミュニケーションはままならない。  瘴気を徹底的に避けるため、彼は森林限界の上に建てた別邸で一年の大半を過ごしているのだった。 「あなたの暮らす屋敷からは大よそ1000メートルといったところですね。……標高で、ですが」  1000メートルの別居婚を提案されたヘルミーナは、花粉に似た瘴気をまき散らす森を前に決意する。  登山をして会いに行き、政治的パートナーとして距離を詰めることを。  でなければ、また実家に戻されてしまうだろう。  もう後がないヘルミーナは、伯爵とともに領地を繁栄させることができるのか……?  この話は他サイトにも掲載しています。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。