社宅

ジョン・グレイディー

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第八章

厄祓いの隙間

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 この社宅で暮らし始め、早や半年が経った。

 その間、我々家族は絶えず何かに怯えながら暮らしていた。

 科学的に不可解な超常現象という動画を嫌を無しに見せつけられながら…

 ここで言っておく。

 我々家族は決して霊感が強いなど、精神的に障害があるなど、それら現象を見得るべく素養など微塵足りともなかったのだ!

 それなのに…、こんな不気味な体験を強いられてしまった…

 もうこれ以上、ここに住み、何かに怯えながら生活する事は限界であった。

 俺は引っ越し先の物件を探し始めた。

 探すうちに、4月に転居して行った隣室夫婦の言葉が脳裏に浮かんで来た。

「湖の東側に引っ越します。」

 俺はそれが妥当であると改めて感じた。

 比叡山から離れる!

 東側に移る!

 そう、肝に銘じ、琵琶湖線沿いの野洲市、守山市、栗東市の物件を探し求めた。

 妻は…

 妻は、最早、正常な精神状態ではなかった…

 妻は自らネット等で調べた「魔除け」の儀式をやり始めた。

 日吉大社や近江神宮など有名な寺社に行き、白紙を貰い、毎朝、それを燃やし続けた。

 妻は言う。

「1階の人もきっと、魔除けをしてたのね。」と

 俺は藁をも掴むような妻の気持ちを汲み、魔除けを手伝い、そして、厄除けで有名な奈良の寺にも妻を連れて行った。

 その寺で二人揃って厄除け祓いをして貰い、お札も購入し、帰宅早々、あの北部屋の壁に、そのお札を貼り付けた。

 更に、毎朝、部屋中の四隅に塩を盛った。

 何でも良い、少しで良いから、引っ越すまでの間、この事態が好転することを願っていた。

 そんな悪足掻きが功を奏したのか、10月に入ると、一旦、事が落ち着き始めた。

 妻を襲っていた『長い黒髪の白い女』は姿を見せなくなった。

 妻は喜んだ。

 お札や厄除けの効果があったと喜んだ。

 俺もその時はそう思った。

 しかし…

 そうは行かなかった…

    奴等の標的が変わっただけであったのだ…

 油断していた…

 ある静かな10月の月夜の出来事であった。

 心地よい秋風

 真夏、一日中フル稼働していた冷房機も休憩期間に入り、ベランダの網戸から秋風が吹き込んでいた。

 そんな夜分に、

「ギュイーン!」と

 いきなり楽器音がけたたましく鳴り響き渡った。
 
 俺は驚き、布団から飛び跳ね、慌てて、騒音の鳴るリビングに向かうと、

 娘が椅子に腰掛けギターを弾いていた。それもコードをアンプに繋いで弾いているのである。

「おい!浩子!やめなさい!近所迷惑になる!やめなさい!」と俺は怒鳴った。

「誰も居ないじゃん!」と浩子は平然と答えた。

 その瞬間、俺は耳を疑った。

 いつもの浩子の声質とは違い、男性のような声色であったのだ。

 一向に弾きやめようとしない浩子に対して、俺は力ずくでギターを取り上げた。

 浩子が俺を睨んだ。

 俺はギョッとした。

 月光に薄らと映る浩子の表情は、青白さの中に眼光だけ白光りしていたのだ。

 リビングの電気が着いた。

 騒動に気づいた妻もリビングに駆け寄って来たのだ。

「浩子ちやん!どうしたの?」と

 妻が浩子に近寄り肩に手を掛けようとした。

「触るな!」

 浩子がそれを一喝した。

 その声は男性の声であった…

 そして、浩子は椅子から立ち上がると、台所の棚を開け、包丁を握り締め、

「死んでやる!喉を掻っ切って、死んでやる!」と喚き出した。

 俺は、この眼前で喚き散らしている人間は浩子ではないと感じた!

「死ぬなら死んでみろ!」と俺は怒鳴った。

 すると、

「クソ野郎!お前も死ね!」と浩子はそう吠えながら俺に包丁を向けた。

 その瞬間、妻が浩子の腕を掴んだ。

 俺は急いで浩子の手から包丁を取り上げた。

「バタンッ」と

 浩子は椅子の上に倒れ込んだ。

 気を失ったようであった。

 俺は浩子を抱え、部屋のベッドに横たわらせた。

 浩子の吐息は酒臭かった。

 部屋にはウヰスキーのボトルが転がっていた。

「お酒飲んだのね。酔っ払っていたのね」と妻が言った。

 俺は何も言わず首を振った…

 俺は思った。

 今度の標的は娘であったと。

 油断していた…

 娘が「裸の男の子を見た」と言った時も、少々、例の映画の一コマに似ていたので、我々夫婦の幽霊話に娘は便乗して言っただけだと鷹を括っていた…

 現に娘は妻のように怖がる事なく平然と暮らしていた。

 全くもって油断していた…

   奴等は娘に憑依したのだ…
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