社宅

ジョン・グレイディー

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第九章

呪いの拡散

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 あの一件以来、娘は部屋に引き篭もってしまった。

 得体の知れない何かに憑依されたということよりも、父親である俺に対して刃物を向けた行為自体に心を悩ませていた。

 悪い事は続く。

 東京に居る息子から、10月下旬の三連休、滋賀に遊びに来ると連絡が入った。

 何でも、就職先も決まり、その報告がてらに遊びに来ると言う。

 俺と妻は悩んだ。

 本当はこの社宅に来て欲しくはなかった。

 せめて、引っ越してから来て欲しかった。

 しかし、山ほどある断る理由を息子に明確に告げる方が厄介であった。

 何も知らない息子は、予定通り、三連休の初日、京都駅に降り立ち、俺たち夫婦は車で迎えた。

 車中、社宅に着くまでの間、俺は、一応、息子にこう釘を刺した。

「社宅はかなり古く、汚いぞ。」と
  
 息子は大して意に止めず、

「でも家賃は安いんだろう。浩子も一緒だし、僕にとっては安心するよ。」と、

 大人びた言葉を口にした。

 道中の息子はよく喋った。

 東京暮らしの様子や就職先の会社の話など、独壇場で話し続けたが、

 社宅の門を車が潜ると、やはり口を塞いでしまった。

 息子のスケジュールは、一泊2日で滋賀に滞在し、最終日は大阪の友人宅に身を寄せる予定であった。

 その日の夕食は、久々、家族揃っての賑やかな宴となった。

 特に喜んだのが娘であった。

 幼い頃からの相談相手であった兄、ましてや、この社宅に移って来て、同世代の若者と話すことがなかったことから、娘は一頻り喋り続けた。

 一時、意気消沈していた娘が明るく話す姿を見て、我々夫婦も一安心したところであった。

 夕食も終わり、各自、風呂も済ませた。

 リビングの片隅には息子用の布団が敷かれた。

 俺と妻は早目に就寝したが、

 息子と娘はまだリビングで話に花を咲かせているようであった。

 その夜、何も起こらないことを祈り、俺は眠りに着いた。

 朝は無事にやって来た。

 何も起こらなかった。

 俺は息子を京都駅まで送り、息子は「また、遊びに来るから」と言い、友人の待つ大阪へと向かって行った。

 それから2週間ほど経った10月終わりの土曜日の早朝

「貴方起きて!大変なの!武志が大変なの!」と

 妻がスマホ片手に俺を叩き起こしに来た!

「どうしたんだ?」

「武志から電話があったの!武志、泣いてるの!」

「何があった?」

「武志、癌なの!明日、手術するのよ!」

「癌?」

「首元の頸動脈の辺りに腫瘍ができてね…、それが日に日に大きく膨らんでね…、武志、慌てて医者に行ったら…、癌かもしれないって言われて…、急いで切除した方が良いって言われて…」

「分かった。これから東京に行こう!」

 俺たち夫婦は、急いで新幹線に乗り、息子が入院している新橋駅前の自治医大病院へ向かった。

 昼前には病院に着いたが、明日の手術の準備のため、その日は息子と面会することが出来なかった。

 次の日

 手術予定時間に息子の部屋の前に着くと、手術台に乗せられた息子が出て来た。

 流石に息子の表情は暗く、不安気な様子であった。

 手術は無事に済んだ。

 息子共々医者から説明を受けた。

 原因は分からないが、皮膚癌に間違いないだろうと、ただ、早期切除したことから転移の心配はない、腫瘍の検査は1週間程掛かるが、手術による身体へのダメージは少ないから、3日後には退院できる。これからは3ヶ月毎に癌マーカーの検査を受ける等々の説明であった。

 取り敢えず、皆、安心した。

 その日は息子の手術による疲労を考慮し、俺たち夫婦は病院を後にし、次の日、滋賀に戻る前に息子の顔を見に行った。

「早期発見で良かったなぁ!」

「うん!ありがとう。癌って言われた瞬間、目の前が真っ暗になったよ。」

「大したことないから、医者も本人に言ったんだよ。兎に角、転移してなくて良かった!」

「良くなったら、また、滋賀に遊びに行くよ!」

「うん…、でも、お前が来る頃には引っ越しているかも…」

「引っ越すの?」

「そんなんだ…、あの社宅もいろいろあってね。浩子にももう少し綺麗な住居に住ませてあげたくてな。」

「いろいろかぁ…、もしかして、あの社宅、『事故物件』じゃないの?」

「えっ!」

「そうなんだろ?」

「浩子から聞いたのか?」

「いや、浩子は何も言ってないよ。」

「どうして…?」

「あのね、俺、見たんだよ。」

「見た?」

「見たんだ…」

 息子は語った。

【あの日、浩子と話し込み、時計を見たら、12時を既に回っていた。

 浩子はそろそろ寝ると言い、部屋に戻った。

 その後、暫くはテレビを見ていたが、流石に眠たくなったので、トイレに行って寝ることにした。

 息子はトイレを済ませ、リビングのドアを開けた。

 その時!

 敷かれた布団の上に長い髪の白い衣を来た女の人が後ろ向きに座っていた。

 息子はドキッとし、目を疑い、目を擦ると、次の瞬間、女の姿は消えていた。

 息子は少々酒に酔ったのかと思い、その日は何事もなく就寝した。

 次の日

 朝目覚め、寝返りをした。

 そこに見えたのは、何十本もの黒髪が枕にびっしりと張り付いていた。】

「どうして、それを言わなかったの?」

「言えるはずないよ!あんな不気味な社宅の中で、こんな怖い話を!」

 息子は笑いながらそう言ったが、それ以上、社宅の「いろいろ話」に関しては、全く聞くそぶりは見せなかった。

 滋賀からの帰りの新幹線の中で妻は窓を見ながらこう言った。

「専門の人に頼んでみる。

   早くしないと…

 子供達に不幸が訪れている。

 早くしないと…」と

 
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