独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第四章 『アイリス』

階下での噂話

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 「セラフィーヌ様はお昼前どこに行ってたんです?あの、お客様と」

 リリーがいつものように問いを投げかけると、デボラが口を開いた。

 「領地内を車で回っていたそうよ、ディキンソン卿と」

 「ディキンソン卿ってあの人だろう?お嬢様の婚約者候補その1、ディキンソン卿」

 と、シンガーさん。

 「誰です?」

 リリーが聞くと、シンガーさんは面白おかしく話し始めた。

 「セラフィーヌお嬢様が2年前にデビュタントをしただろう?それから2年の間よくパーティーで会って、親睦を深めているらしい。まぁ、簡単に言えば、婚約秒読みのお二人ってことだね」

 こう見えて、シンガーさんは情報通なのだ。

 「まぁ、素敵だわ。私にはいつそんな相手が現れるのかしら?」

 リリーが夢見がちにいうと、すかさずシンガーさんが茶々をいれた。

 「夢見て、その両手を疎かにしているうちは誰も現れないよ」

 「ひどいです。シンガーさん」とうとうリリーはブスッとしてその両手を止めてキッチンから出ていってしまった。

 「もう、シンガーさん。からかいすぎですよ」デボラはそう言いながら、自分のエプロンで手を拭いて、リリーを追いかけていった。

 「あたし、何かしたかね?」

 その場に残ったのはキョトンとした顔で、空を見つめるシンガーさんだけだった。

 「ちょっと!メリル!デボラとリリーはどこに行ったの?今どこかへ走って行くのが見えたけど…」

 空を見つめてぼーっとしていたシンガーさんはアン・カーライルの呼びかけにふと我に帰った。

 「あ、あぁ。あの二人は材料を確認しに行ったんだよ」その時シンガーさんの口から出たのは事実と異なることだった。アン・カーライルは使用人の勤務状況に厳しいし、加えて、シンガーさんの一言が原因で二人もキッチンから出ていったなどと、メリル・シンガーは彼女の数少ない友人に知られたくなかったのだ。

 「そう?」

 アン・カーライルは訝しむように返答をした。

 「でさ、どうしたんだい?何か料理で話かい?」

 話題を変えるためにシンガーさんはいった。

 「そうそう、セラフィーヌ様がいっていたけれど、ディキンソン卿は海老のアレルギーではないらしいわ。それにきゅうりも食べれるそうよ。どうやらディキンソン卿のお兄様と間違えていらしたみたい」

 「あぁ、わかったよ。それじゃ最終夜のスープは海老にするかね」

 シンガーさんが言うと、アン・カーライルは『家政婦長』からメリルの良き友人、アンに変わって今度は声を潜ませて、メリルに話しかけた。

 「あのね、メリル。うちの息子のジョンのことなんだけど、好きな人ができたみたいなの。知らない?」

 「い、いやぁ知らないね、未婚で子供のいないあたしに聞かないどくれよ」

 メリルが冗談のように言うと、アンは「そうよね…」とどこか上の空になってしまった。
 その様子をみ見て、メリルは慌てて付け加える。

 「もし、恋愛の関係でジョンに何かあるんだったら、私から何か聞いとくよ。いいだろう?それで」

 「本当?助かるわ。何かわかったら教えてね。母親でもこの手の問題は聞きずらくって。十八歳の息子ってよく分からない年頃だわ」

 その時だった。いきなり二人の会話の間に入り込むように、執事のドリーがキッチンに現れた。

 「何をしているのかね?カーライルさん、シンガーさん」

 ドリーの横にはジョンの姿がある。噂をすればなんとやら、だ。

 「奥様がお呼びだ。カーライルさん。何やらウィレミナお嬢様のデビュタントのことで相談があるらしい…」

 「はいはい、わかりました。ドリーさん」

 そう言って、アン・カーライルはキッチンを後にした。メリルに向けて口を、『お願いね』と動かしている。

 「やれやれ、また変なことを引き受けちまったみたい」

 メリル・シンガーは苦笑気味につぶやいた。
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