23 / 48
第四章 『アイリス』
階下での噂話
しおりを挟む「セラフィーヌ様はお昼前どこに行ってたんです?あの、お客様と」
リリーがいつものように問いを投げかけると、デボラが口を開いた。
「領地内を車で回っていたそうよ、ディキンソン卿と」
「ディキンソン卿ってあの人だろう?お嬢様の婚約者候補その1、ディキンソン卿」
と、シンガーさん。
「誰です?」
リリーが聞くと、シンガーさんは面白おかしく話し始めた。
「セラフィーヌお嬢様が2年前にデビュタントをしただろう?それから2年の間よくパーティーで会って、親睦を深めているらしい。まぁ、簡単に言えば、婚約秒読みのお二人ってことだね」
こう見えて、シンガーさんは情報通なのだ。
「まぁ、素敵だわ。私にはいつそんな相手が現れるのかしら?」
リリーが夢見がちにいうと、すかさずシンガーさんが茶々をいれた。
「夢見て、その両手を疎かにしているうちは誰も現れないよ」
「ひどいです。シンガーさん」とうとうリリーはブスッとしてその両手を止めてキッチンから出ていってしまった。
「もう、シンガーさん。からかいすぎですよ」デボラはそう言いながら、自分のエプロンで手を拭いて、リリーを追いかけていった。
「あたし、何かしたかね?」
その場に残ったのはキョトンとした顔で、空を見つめるシンガーさんだけだった。
「ちょっと!メリル!デボラとリリーはどこに行ったの?今どこかへ走って行くのが見えたけど…」
空を見つめてぼーっとしていたシンガーさんはアン・カーライルの呼びかけにふと我に帰った。
「あ、あぁ。あの二人は材料を確認しに行ったんだよ」その時シンガーさんの口から出たのは事実と異なることだった。アン・カーライルは使用人の勤務状況に厳しいし、加えて、シンガーさんの一言が原因で二人もキッチンから出ていったなどと、メリル・シンガーは彼女の数少ない友人に知られたくなかったのだ。
「そう?」
アン・カーライルは訝しむように返答をした。
「でさ、どうしたんだい?何か料理で話かい?」
話題を変えるためにシンガーさんはいった。
「そうそう、セラフィーヌ様がいっていたけれど、ディキンソン卿は海老のアレルギーではないらしいわ。それにきゅうりも食べれるそうよ。どうやらディキンソン卿のお兄様と間違えていらしたみたい」
「あぁ、わかったよ。それじゃ最終夜のスープは海老にするかね」
シンガーさんが言うと、アン・カーライルは『家政婦長』からメリルの良き友人、アンに変わって今度は声を潜ませて、メリルに話しかけた。
「あのね、メリル。うちの息子のジョンのことなんだけど、好きな人ができたみたいなの。知らない?」
「い、いやぁ知らないね、未婚で子供のいないあたしに聞かないどくれよ」
メリルが冗談のように言うと、アンは「そうよね…」とどこか上の空になってしまった。
その様子をみ見て、メリルは慌てて付け加える。
「もし、恋愛の関係でジョンに何かあるんだったら、私から何か聞いとくよ。いいだろう?それで」
「本当?助かるわ。何かわかったら教えてね。母親でもこの手の問題は聞きずらくって。十八歳の息子ってよく分からない年頃だわ」
その時だった。いきなり二人の会話の間に入り込むように、執事のドリーがキッチンに現れた。
「何をしているのかね?カーライルさん、シンガーさん」
ドリーの横にはジョンの姿がある。噂をすればなんとやら、だ。
「奥様がお呼びだ。カーライルさん。何やらウィレミナお嬢様のデビュタントのことで相談があるらしい…」
「はいはい、わかりました。ドリーさん」
そう言って、アン・カーライルはキッチンを後にした。メリルに向けて口を、『お願いね』と動かしている。
「やれやれ、また変なことを引き受けちまったみたい」
メリル・シンガーは苦笑気味につぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる