独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第四章 『アイリス』

ダンスの申し込み

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 夜、コツコツとノックの音が聞こえて、ウィレミナは隠し扉の方へと急いで近づいた。恐る恐る扉を開けると、やはり、そこには姉の姿があった。

 「どう?話し相手になってくれない?」

 セラフィーヌはそう言いながら、ウィレミナの部屋にするりと入り込んだ。入ったセラフィーヌは、ウィレミナの持っていたものを見て、クスリと笑う。ウィレミナも、それに気づいて、一緒に微笑んだ。
 ウィレミナが持っていたのは月刊キャティリィモーム、今セラフィーヌが執筆している小説欄が載っている雑誌である。

 その日は、ディキンソン卿が帰ってから、数日が経過していた。

 「それで?ディキンソン卿と何か約束したの?ディキンソン卿が帰る時、何やら話していたみたいだけれど」

 ウィレミナがよく母から隠れて読書をする窓辺がある。半月の形をしたその場所は、その形に沿ってふかふかのソファがあり、カーテンがかかっているので、その中に隠れていれば、カーテンを捲られない限り、ウィレミナが見つかることはないのだ。その窓辺から、客人用の表玄関がよく見下ろせるのだ。だから、ウィレミナはセラフィーヌとディキンソン卿が仲良さげに話しているのを、みつことができたのである。

 「どうして知っているの?」

 もちろん、その窓辺の存在を知らないセラフィーヌはそう聞き返した。そして、続ける。

 「あの時はあなたのデビュタントについて、聞かれていたのよ」

 そうセラフィーヌがいうと、途端にウィレミナの顔に後悔の表情が現れた。ウィレミナはデビュタントに関する一切の情報から逃れようとここ数日努めていたのだ。

 「その時にどのくらいの期間、キャティリィに滞在するのか聞かれていたのよ」

 セラフィーヌは言って笑顔を作った。ウィレミナにはこれだけしか言っていないが、話題の本題は別のところにあったのだ。
 その時、セラフィーヌはディキンソン卿にデビュタント後に開かれる晩餐会の時のダンスを申し込まれたのだった。

 「もしよろしければ、一曲目のダンスを一緒に踊ってくださいませんか?」

 そうディキンソン卿は言った。
 セラフィーヌがデビュタントを終えてから2年の間、ディキンソン卿とセラフィーヌは毎回一曲以上共に踊っていたが、社交シーズン最初のダンスに申し込まれたのはこれが初めてだった。
 社交シーズン初めて踊る相手は、女にとって大きな意味を持つ。なぜなら、その年に結ばれるカップルの大体が、社交シーズン最初のダンスを共に踊っているので、注目されやすいのだ。ノックストーク誌社交コラムを受け持つミセス・エルシーに目をつけられれば、その場にいなかった人にも、知れ渡るのである。
 行く先々で、「あら、レディ・セラフィーヌ。何か、ご報告はありますの?」と既婚者に結婚を催促され、未婚の娘には「セラフィーヌ、あなたが結婚したらもう別の世界の人ね」と誇張してからかわれるのだ。
 それにセラフィーヌは耐えることができるだろうか。しかし、セラフィーヌはその時、何も考えずに心の赴くままに二つ返事で、承諾した。
 今思い出しただけで、セラフィーヌの顔は熱くなった。
 セラフィーヌは慌てて、話題を変える。

 「そうそう、あなたがデビュタントの時に一気に作品を出したくて、今書き溜めているの」
 そうセラフィーヌは言って、背中に隠すように持っていた紙束をサラリと出してみせた。セラフィーヌの手にはあちこちインクの擦れた跡がついており、ネグリジェの手元も同じく汚れている。

 「お姉さま、本当にすごい集中力ね。私はデビュタントの準備に頭が痛いわ」

 「妹がせっかく作ってくれたいい機会だもの。3ヶ月近くキャティリィに居られるなんて、素敵だわ」
 
 「いい機会、だなんてずるいわ。私はデビュタントなんて来なければいいのにって思っているのに。
  座って」

 ウィレミナは姉をベットの上に誘って、二人で仲良く腰掛けた。
 
 「月刊キャティリィモームに載せる記事を溜めているの?」

 ウィレミナが聞くと、セラフィーヌはおろした赤毛を波のように揺らして頭を振った。

 「また長編を書いててね、その構想と途中経過を見せて、出版許可をもらうのよ。出版許可証をもらえたら、期日までに出版社に作品を送るの」

 「お姉様、お姉さまはどうやって『アイリス』を出版できたの?出版社に持ち込んだの?」

 ウィレミナは最近疑問に思っていたことをやっと口に出して聞くことができた。

 「いいえ、ある友人が協力してくれたのよ」

 「協力?」

 そうして、セラフィーヌは話し始めた。彼女が『アイリス』を執筆していた時の話を。
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