独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

文字の大きさ
26 / 48
第四章 『アイリス』

3年前の話

しおりを挟む
 「あらあら、やっぱりモットレイ子爵様も今年一番話題のオルヴィス侯爵令嬢が気になるようですね」

 そう言って近づいてきたのは、友人として親しいルクリアだった。ルクリアには3人の妹がおり、すぐ下の妹はデビュタントを数日前に終えたばかりだった。ルクリアはネビュラ伯爵の長女で、もう既に結婚している。その相手は同じ伯爵位の次男である、バーナビーだ。彼はネビュラ伯爵の遠縁だった。ちなみに、モットレイ子爵とバーナビー、ルクリアは元々仲の良い3人組だった。

 「ルクリア、からかうのはよしてくれ。ただ、あの子を知っているだけだよ」

 そうヘイウッドが言うと、ルクリアは眉をひそめた。

 「あのお嬢様は今年初めてここに来たのよ。どうして知っているの?」

 「先日、ロクレウノ・ガーデンでぶつかったんだ。彼女、なんだか急いでいたみたいだ」

 「デビュタント直後の子がロクレウノ・ガーデンでひとり?なんだかそれって奇妙ね」

 ルクリアは探偵のように頭を傾げ、手を顎に添えて考え込んだ。
 一方のヘイウッドは侯爵令嬢の方を何度か見て、周りに誰かしらいるのを毎度確認し、もうぶつかったことを謝りに行くのは諦めた。



 ***



 しばらく経って、パーティーが中盤に差しかかったところで、モットレイ子爵はいつものように招待された屋敷のバルコニーに出た。室内では若い令嬢子息が疲れを知らずに踊っている。モットレイ子爵だって未婚で若いのだが、社交の場があまり好きではない彼は夜風に当たる方が考え事ができてよかった。

 広い屋敷の中人の居ない居心地の良さそうなバルコニーを探して壁に沿って、人と人の間をうねるように進むと、モットレイ子爵は再びあのセラフィーヌとぶつかったのである。

 「失礼、レディ」

 「こちらこそ、失礼いたしました」

 その時のセラフィーヌは物腰柔らかく優雅に足を折った。その行為は彼女にとってほぼ癖になっていた。

 「おや、また会いましたね」

 モットレイ子爵がセラフィーヌに気づいてそう声をかけると、うつむいてモットレイ子爵の顔までまともに見ていなかったセラフィーヌは、表情を上げた。

 「あぁ、先日の…」

 「もう一度謝りたかったんです。あなたに」

 モットレイ子爵が言うと、セラフィーヌはキョトンとした顔をした。

 「いえ、こちらこそ。先日も今日も私がちゃんと前を見ていなかったせいですわ」

 するとそこに、ルクリアが現れた。

 「あら、レディ・セラフィーヌ、モットレイ子爵と面識が?」

 「いえ、初めてです」

 「それでは、紹介致しましょう」

 ルクリアは笑顔になって、紹介を始めた。

 例外は多々あるが、紹介なしに話しかけたり友好を結ぼうとしたりするのは、貴族の間ではマナー違反なのだ。

 「こちらモットレイ子爵、そしてこちらがデビュタントを終えたばかりの、社交界の花オルヴィス侯爵令嬢、レディ・セラフィーヌですわ」

 ルクリアはふたりの軽いお辞儀を見守ってから再び続ける。

 「モットレイ子爵は出版社をお持ちですの。昨年かしら、前にナイトの子息が書いたラヴストーリーが出版されましたでしょう?モットレイ子爵が、彼に可能性を見出して出版したんですのよ」

 余計なことを。とモットレイ子爵が思っていると、セラフィーヌは楽しそうに話を聞いている。
 それをみてモットレイ子爵も自然と笑顔になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...