独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第四章 『アイリス』

『アイリス』II

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 モットレイ子爵とセラフィーヌが初対面を果たした次の週の目玉の催し物は、また別の貴族が開催する屋外のパーティーだった。

 「もうあんまり行きたくないんだけれど…」

 そうセラフィーヌが自室でこぼすと、ホリーがそれをたしなめた。

 「いいえ、お嬢さま。今晩もお嬢様が一番お綺麗なのですから、自信を持って、挑んでください!」

 若干14歳のホリーは社交界に夢を抱いていた。

 「そう言うことではないのよ」

 呆れ気味にセラフィーヌが言うと、ホリーはキョトンとした顔でこちらを見つめた。

 「良いわ、おそらく行かなかったら、お母様から何か言われるでしょうから、大人しく行くわ」

 「はい!」

 



 と、あまり乗り気ではなかったセラフィーヌは、会場に来てすぐに疲れてしまったのである。

 「お母様、もう帰らない?」

 セラフィーヌが大勢の人の中から、囲まれている母を見つけ出して言うと、母は驚いて、「ここに来てからまだ少ししか経ってないわよ。サラ、ダンスを楽しんでいらっしゃい」と、言ったきりだった。

 「あら、セラフィーヌさん?また、会いましたわね」

 隅で目立たないようにしていたセラフィーヌを見つけたのは、あのルクリアだった。

 「あ、ルクリアさん」

 「今年。社交界一の花であるあなたが、こんな目立たないところに隠れているだなんて、珍しいことも、あるのですね」

 淑やかにルクリアは微笑んだ。

 ルクリアは既に既婚者だが、未婚の時はセラフィーヌに劣らず、人気があったのだ。
 その淑やかさと、誰とでもすぐに親しくなれるその才能が、当時様々な子息の心を鷲掴みにした。
 しかし彼女は結局幼馴染だったバーナビーと結婚した。結婚して4年になるが、子供はいない。

 「苦手なんです。こう言ったところは」

 セラフィーヌが小声で言うと、ルクリアは驚きの返答をした。

 「自室でペンを握っていた方が楽しい?」

 セラフィーヌは自身の耳を疑った。ルクリアはなんでもお見通し、と言わんばかりに目を細めて、慌て始めたセラフィーヌを眺めて楽しんでいるようだった。

 「あの…どうして?」

 「あら、やっぱり私の推理は正しかったようね」

 「あの、どう言うことですか?」

 そこから、ルクリアは淡々と話し始めた。

 ロクレウノ・ガーデンにひとりでいた話を聞いて、奇妙に思ったこと。
 モットレイ子爵の経営する出版社の話をしたときに、表情が変わったこと。

 「実はね、ロクレウノ・ガーデンで私もぶつからないかしらと思って、先日行ってみたの。思った通り、あなたは居たわ。あなたは仕立てやや既製服店のショーウィンドウに目もくれずに真っ直ぐ文房具屋さんに入っていった。あぁいったお店は、普通侍女が代わりにお使いで入るものよ」

 その鋭い観察眼にセラフィーヌは開いた口が塞がらない思いだった。

 「もしかして、あなたの書いているものをモットレイ子爵に見せれば、なんて思い付いたのではないかしら?」

 その言葉でセラフィーヌの顔は恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。

 「今度、ノース地区のカフェに行きましょう。そこだけで作られているケーキあるの。どうかしら?」

 ルクリアが突然話題を変えた。

 「後日招待状を送るわ。その時にあなたの書いているものも一緒に持っていらしゃい」

 セラフィーヌの返事を待たず、「では、失礼」と言って、ルクリアは優雅にその場を立ち去った。
 
 それからしばらくセラフィーヌはその場から動けなかった。
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