6 / 24
6.お説教
今日は隣国からバシュラール公爵を始めとする使節団がお見えになる日だ。大切な賓客なので失礼があってはならない。ジョゼフィーヌは朝早くから城に向かい、打ち合わせに参加していなかったアルバンに釘を刺すことにした。
「アルバン殿下。バシュラール公爵様は陛下のお客様です。丁重に対応してくださいね」
「言われなくてもわかっている。だがいくら母上を助けてもらったからと言って、放蕩公爵をもてなすなど馬鹿馬鹿しい」
「アルバン殿下! それは噂です。真偽の分からないことを軽々しく口にするべきではありません」
ジョゼフィーヌはついカッとなりアルバンを窘めた。
数年前からバシュラール公爵に纏わるよからぬ噂が我が国に流れている。もちろんジョゼフィーヌもその噂は知っている。内容は酷いもので、女性を囲い散財をして領民からは重税を搾り取っているというもので、まさしく放蕩公爵。でも事実かどうかアルバンは調べていない。王族でありながら噂を鵜吞みにした。
「確かに噂だが火のないところに煙は立たない。どうせ金にものを言わせて女を漁る醜い奴に決まっている」
アルバンはバシュラール公爵に会ったことがないので、その姿を想像し侮蔑を込めてそう吐き捨てた。王妃様を助けたときは双方お忍びだったので、バシュラール公爵に会ったのは陛下と宰相だけだった。
ジョゼフィーヌは黙っていられず言い返した。
「アルバン殿下は人のことを言える立場ですか? エステル様のこと、どうなさるおつもりですか?」
「!!」
アルバンが目を大きく見開いて食い入るようにジョゼフィーヌを見た。一瞬だけ眉根を寄せたがすぐに取り繕うように微笑みを浮かべた。
(まさか自分の気持ちがバレていないと本気で思っていたの? 派手な行動までしていたのに? 王妃様は注意をすると言っていたけどこの様子だとまだみたいね)
王妃様はジョゼフィーヌがアルバンを好いていると思い込んでいるから、多少のことなら不満があっても我慢すると思っている。
「エステル嬢? 彼女は、確か……クレール子爵令嬢だったな。どうとは?」
わざとらしい。どうやらとぼけるつもりらしい。
「親しくしていると聞いています。貴族たちの噂にもなっていますよ?」
「私とエステル嬢はただの友人だ。友人なら会って話しても問題ない。まさかジョゼフィーヌは下劣な貴族たちの噂を信じているのか?」
アルバンは下品なことを言うなと、ジョゼフィーヌを軽蔑するような目で見た。いやいや、同じ目で見返してやりたい。
「友人だとしても公務をおざなりにしてまで会う必要がありますか? アルバン殿下はご自分の立場を理解していないのですか? 視察を取り止めて会っていたそうですね」
「あ、あ、あれは偶然会って、そうだ。偶然会って話をしただけだ。公務は重要なものではなかったから問題ない」
ジョゼフィーヌは眉を吊り上げた。
「重要ではない公務だったと? それを勝手に判断されたのですか?」
「そうだ。たかが道を見ろとか川を見ろとかどうでもいいものだ。本当なら私が行くほどのものではない。官吏が行けば十分だった」
無責任な言い訳を聞いてジョゼフィーヌはアルバンを睨んだ。これが将来国を背負う人の発言だとは嘆かわしい。
「その視察は民からの嘆願で予定が組まれたもののはずです。どうでもいいのなら嘆願などこないでしょう。視察がなぜ必要か考えなかったのですか?」
「視察なんてただの消化公務だろう? 怒るほどのことじゃない」
アルバンは開き直ったように胸を張った。アルバンは何年も帝王学を学んでいるのにこの程度なのか。アルバンと結婚することが果てしない苦行に思えてきた。
「アルバン殿下。すべての公務に意味があります。しかも嘆願による視察を軽んじるのは民を蔑ろにするも同然です。一か月後に私と一緒に地方の視察に行くことになっていますよね。それまでにアルバン殿下が取り止めた視察の必要性を再考してください」
ジョゼフィーヌがぴしゃりと言うとアルバンは不満いっぱいの顔をしてぽつりと言った。
「ジョゼフィーヌのそういう家庭教師みたいな物言いは嫌いだ」
「それは光栄ですわ」
ジョゼフィーヌはカッとなり感情的に言い放った。我ながら大人げないと思ったが止まらなかった。
「お前はいつだって年上ぶって可愛くない! どうせ私より自分の方が優れていると思っているのだろう?」
アルバンはプイッと顔を背けた。その後ろでガストンがいつも通りジョゼフィーヌを睨んでいる。
年上ぶるもなにも年上だ。ジョゼフィーヌはウンザリした。こっちだって説教などしたくない。アルバンが王太子として自覚をもって行動してくれればいいだけのこと。しかも反論が「可愛くない」とか子供か! と思う。
「そのようなこと、思ったことはございません。私はこれから夜会の支度があるので下がらせていただきます」
ソファから立ち上がり出て行こうとしたらアルバンに呼び止められた。
「ジョゼフィーヌ、待て」
「何でしょう?」
「嫉妬に駆られてエステルを傷つけるような真似をしたら許さない」
「しません。そんな低俗なことは」
そもそも嫉妬していないし。ジョゼフィーヌは肩を竦めると、アルバンに冷ややかな眼差しを向けた。これ以上一緒にいると殴りたくなりそうなので今度こそ部屋を出た。
「あら? 殿下ったら、本心をペロッと白状しちゃってるわ」
エステルを呼び捨てにしているし、傷つけるなと牽制してきた。今後のことを想像すると憂鬱になる。
(今は気持ちを切り替えて夜会の準備よ)
まだ時間はあるが女性の身支度は大変時間がかかる。ジョゼフィーヌは一度屋敷に戻り、湯浴みを済ますと侍女たちの手を借りて華やかに着飾ったのだった。
「アルバン殿下。バシュラール公爵様は陛下のお客様です。丁重に対応してくださいね」
「言われなくてもわかっている。だがいくら母上を助けてもらったからと言って、放蕩公爵をもてなすなど馬鹿馬鹿しい」
「アルバン殿下! それは噂です。真偽の分からないことを軽々しく口にするべきではありません」
ジョゼフィーヌはついカッとなりアルバンを窘めた。
数年前からバシュラール公爵に纏わるよからぬ噂が我が国に流れている。もちろんジョゼフィーヌもその噂は知っている。内容は酷いもので、女性を囲い散財をして領民からは重税を搾り取っているというもので、まさしく放蕩公爵。でも事実かどうかアルバンは調べていない。王族でありながら噂を鵜吞みにした。
「確かに噂だが火のないところに煙は立たない。どうせ金にものを言わせて女を漁る醜い奴に決まっている」
アルバンはバシュラール公爵に会ったことがないので、その姿を想像し侮蔑を込めてそう吐き捨てた。王妃様を助けたときは双方お忍びだったので、バシュラール公爵に会ったのは陛下と宰相だけだった。
ジョゼフィーヌは黙っていられず言い返した。
「アルバン殿下は人のことを言える立場ですか? エステル様のこと、どうなさるおつもりですか?」
「!!」
アルバンが目を大きく見開いて食い入るようにジョゼフィーヌを見た。一瞬だけ眉根を寄せたがすぐに取り繕うように微笑みを浮かべた。
(まさか自分の気持ちがバレていないと本気で思っていたの? 派手な行動までしていたのに? 王妃様は注意をすると言っていたけどこの様子だとまだみたいね)
王妃様はジョゼフィーヌがアルバンを好いていると思い込んでいるから、多少のことなら不満があっても我慢すると思っている。
「エステル嬢? 彼女は、確か……クレール子爵令嬢だったな。どうとは?」
わざとらしい。どうやらとぼけるつもりらしい。
「親しくしていると聞いています。貴族たちの噂にもなっていますよ?」
「私とエステル嬢はただの友人だ。友人なら会って話しても問題ない。まさかジョゼフィーヌは下劣な貴族たちの噂を信じているのか?」
アルバンは下品なことを言うなと、ジョゼフィーヌを軽蔑するような目で見た。いやいや、同じ目で見返してやりたい。
「友人だとしても公務をおざなりにしてまで会う必要がありますか? アルバン殿下はご自分の立場を理解していないのですか? 視察を取り止めて会っていたそうですね」
「あ、あ、あれは偶然会って、そうだ。偶然会って話をしただけだ。公務は重要なものではなかったから問題ない」
ジョゼフィーヌは眉を吊り上げた。
「重要ではない公務だったと? それを勝手に判断されたのですか?」
「そうだ。たかが道を見ろとか川を見ろとかどうでもいいものだ。本当なら私が行くほどのものではない。官吏が行けば十分だった」
無責任な言い訳を聞いてジョゼフィーヌはアルバンを睨んだ。これが将来国を背負う人の発言だとは嘆かわしい。
「その視察は民からの嘆願で予定が組まれたもののはずです。どうでもいいのなら嘆願などこないでしょう。視察がなぜ必要か考えなかったのですか?」
「視察なんてただの消化公務だろう? 怒るほどのことじゃない」
アルバンは開き直ったように胸を張った。アルバンは何年も帝王学を学んでいるのにこの程度なのか。アルバンと結婚することが果てしない苦行に思えてきた。
「アルバン殿下。すべての公務に意味があります。しかも嘆願による視察を軽んじるのは民を蔑ろにするも同然です。一か月後に私と一緒に地方の視察に行くことになっていますよね。それまでにアルバン殿下が取り止めた視察の必要性を再考してください」
ジョゼフィーヌがぴしゃりと言うとアルバンは不満いっぱいの顔をしてぽつりと言った。
「ジョゼフィーヌのそういう家庭教師みたいな物言いは嫌いだ」
「それは光栄ですわ」
ジョゼフィーヌはカッとなり感情的に言い放った。我ながら大人げないと思ったが止まらなかった。
「お前はいつだって年上ぶって可愛くない! どうせ私より自分の方が優れていると思っているのだろう?」
アルバンはプイッと顔を背けた。その後ろでガストンがいつも通りジョゼフィーヌを睨んでいる。
年上ぶるもなにも年上だ。ジョゼフィーヌはウンザリした。こっちだって説教などしたくない。アルバンが王太子として自覚をもって行動してくれればいいだけのこと。しかも反論が「可愛くない」とか子供か! と思う。
「そのようなこと、思ったことはございません。私はこれから夜会の支度があるので下がらせていただきます」
ソファから立ち上がり出て行こうとしたらアルバンに呼び止められた。
「ジョゼフィーヌ、待て」
「何でしょう?」
「嫉妬に駆られてエステルを傷つけるような真似をしたら許さない」
「しません。そんな低俗なことは」
そもそも嫉妬していないし。ジョゼフィーヌは肩を竦めると、アルバンに冷ややかな眼差しを向けた。これ以上一緒にいると殴りたくなりそうなので今度こそ部屋を出た。
「あら? 殿下ったら、本心をペロッと白状しちゃってるわ」
エステルを呼び捨てにしているし、傷つけるなと牽制してきた。今後のことを想像すると憂鬱になる。
(今は気持ちを切り替えて夜会の準備よ)
まだ時間はあるが女性の身支度は大変時間がかかる。ジョゼフィーヌは一度屋敷に戻り、湯浴みを済ますと侍女たちの手を借りて華やかに着飾ったのだった。
あなたにおすすめの小説
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)