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30.彼のご両親
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フレデリックは一週間ほど休みを取ったがさすがにこれ以上は無理だと仕事に出かけることになった。その前に改めて二人の人を紹介された。
「ダイナは私の乳母だったが、結婚したら私の妻に仕えたいと言っていた。きっとジルを助けてくれるだろう。両親は忙しくしていて母の家政の手伝いを長年してきた実績もある」
ダイナはジリアン付きの侍女頭として采配してくれることになった。
「もちろんです。坊ちゃんがちっとも結婚して下さらないから待ちくたびれてしまいましたよ。半ば諦めていましたけどジリアン様のおかげで安堵しました。どうかこれからよろしくお願いしますね」
商会で会っていた時のよう気安く話してくれる。暮らしたことのない国での生活に知っている人が存在することはとても安心する。
「こちらこそよろしくお願いします」
もう一人はタイラーだった。強面がニカっと笑うと野性味溢れなかなかの迫力だ。でも彼が優しい人だと知っているので怖くはない。
「その節はありがとうございました」
「どういたしまして。若奥様」
「タイラーはジルの護衛を頼んであるからそのつもりで」
「はい。分かりました」
フレデリックを見送った後はダイナにこの国の話を聞く。マナーとか習慣や領地管理など多岐にわたる。更には専門分野別に家庭教師を付けてくれたので勉強に集中できる。ジリアンは学ぶことが好きだ。知らないことを知って吸収していくことはわくわくして楽しい。
屋敷の案内や使用人の紹介はフレデリックがしてくれていたが細々としたことはダイナがサポートしてくれるので安心だ。
「ジリアン様は基礎がしっかりしているので淑女として申し分ないですね」
ダイナや家庭教師のお墨付きに胸を撫でおろす。午後にはドレス工房から採寸のために職人が来た。デザイン画をたくさん用意していた。それを見ながらアンケート形式で質問に応えていく。フレデリックがウエディングドレスを依頼するために呼んだのだ。
「もう結婚してしまったあとなのにいいのかしら?」
「結婚したと言っても書類上のことだけでしょう。式を挙げるのはお披露目も兼ねているのですから当然です。女性の一大イベントを流すなどあり得ませんから!」
ダイナは腰に手を当てふんと息巻いた。
「お披露目……」
自分が周りに受け入れてもらえるか、不安はある。まずはフレデリックのご両親なのだが、近いうちに領地から戻ってくると連絡を聞いて、そわそわと落ち着かなくなってしまった。みんな心配はないと言ってくれるが出来れば愛する人の両親に認めて欲しい。緊張したまま日々を過ごせばフレデリックは苦笑いを浮かべ「うちの両親はジルを絶対に好きになるから大丈夫だよ」と繰り返す。まだ会ってもいないのに安易に請け負わないで欲しいと頬を膨らませれば楽しそうにジリアンの頬を摘まむ。
そしてその日は突然やって来た。
朝食をフレデリックと食べていると突然玄関の方から声がガヤガヤと聞こえだす。二人で目を見合わせるとフレデリックはニッコリと笑顔を向ける。
「とうとう感動の顔合わせの瞬間だね」
「えっ?「ジリア――ン!!」
扉がものすごい勢いで開くとフレデリックそっくりの美女が室内を見回し、ジリアンに目を止めるとすごい勢いで近づいてきた。ジリアンはナプキンで口元を拭うと思わず席を立ち直立不動になる。
女性はジリアンをじっと見つめると両手を広げ抱きしめて来た。その細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほどぎゅうぎゅうに締め付けられる。ちょっと苦しい。
「私の娘! 会いたかったわ。フレデリックを選んでくれてありがとう。大歓迎よ!!」
あまりにもパワフルな登場に呆然としているとフレデリックがその女性をジリアンからペリッと引き離す。
「母上。ジルが驚いています。落ち着いてください」
「だって、こんなに嬉しいことがあったのよ。興奮するに決まっているでしょう。面倒くさいから結婚しないって宣言していた息子が結婚したのだもの~。ねえ? アルロ」
フレデリックと同じ少し垂れ目で甘い雰囲気がある色っぽい女性は表情豊かに大きな声で喜色を表す。貴族女性らしくない姿に驚いてしまう。ジリアンは勝手にフレデリックの母親は毅然とした厳しい女性像をイメージして緊張していたのだが、真逆の様子に拍子抜けした。そのおかげで肩の力が抜け、ほうっと息を吐くことが出来た。
「そうだな。ジリアンは私たちにとっては奇跡のお嫁さんだ。感謝しているよ」
苦笑いを浮かべながらも柔らかな雰囲気を持つ男性はシャルロッテによく似ている。彼がお義父さまのようだ。フレデリックの仕切りで改めてお互いに挨拶を交わした。
「ジリアン。もう私たちは家族になった。何かあれば遠慮なく相談しなさい。もちろんフレデリックと喧嘩した時はジリアンの味方になる。いいな、フレデリック」
「ぜひ、そうして下さい」
お義父さまの言葉に当然だとフレデリックは頷く。
「ジリアン。今度一緒にお買い物に行きましょう! シャルロッテが結婚してからジョシュアが独占して寂しかったのよ。もう一人娘が出来て本当に嬉しいわ」
二人は会ったばかりのジリアンを当然のように受け入れてくれる。血の繋がった伯父家族とは冷たい関係だった。家族の繋がりは血だけではないんだと教えてくれる。
「私でいいのですか?」
それでも聞かずにはいられなかった。
「私たちの息子は人を見る目があると信じているわ。シャルロッテも手紙であなたのことを知らせてきて、素敵な義妹が出来たって喜んでいたの。私は娘の見る目も信用している。二人があなたを信じるのなら私たちもあなたを信じるわ。当然よ」
ジリアンの胸に温かいものが広がる。瞳が潤んで鼻がつんとする。こんなに人に恵まれて幸せになっていいのだろうか。ここはジリアンの新しく生きる場所だとみんなが後押しをしてくれる。フレデリックがそっとジリアンの肩を抱き寄せた。この人に出会えてよかった。ジリアンは心の底からそう思った。
「ダイナは私の乳母だったが、結婚したら私の妻に仕えたいと言っていた。きっとジルを助けてくれるだろう。両親は忙しくしていて母の家政の手伝いを長年してきた実績もある」
ダイナはジリアン付きの侍女頭として采配してくれることになった。
「もちろんです。坊ちゃんがちっとも結婚して下さらないから待ちくたびれてしまいましたよ。半ば諦めていましたけどジリアン様のおかげで安堵しました。どうかこれからよろしくお願いしますね」
商会で会っていた時のよう気安く話してくれる。暮らしたことのない国での生活に知っている人が存在することはとても安心する。
「こちらこそよろしくお願いします」
もう一人はタイラーだった。強面がニカっと笑うと野性味溢れなかなかの迫力だ。でも彼が優しい人だと知っているので怖くはない。
「その節はありがとうございました」
「どういたしまして。若奥様」
「タイラーはジルの護衛を頼んであるからそのつもりで」
「はい。分かりました」
フレデリックを見送った後はダイナにこの国の話を聞く。マナーとか習慣や領地管理など多岐にわたる。更には専門分野別に家庭教師を付けてくれたので勉強に集中できる。ジリアンは学ぶことが好きだ。知らないことを知って吸収していくことはわくわくして楽しい。
屋敷の案内や使用人の紹介はフレデリックがしてくれていたが細々としたことはダイナがサポートしてくれるので安心だ。
「ジリアン様は基礎がしっかりしているので淑女として申し分ないですね」
ダイナや家庭教師のお墨付きに胸を撫でおろす。午後にはドレス工房から採寸のために職人が来た。デザイン画をたくさん用意していた。それを見ながらアンケート形式で質問に応えていく。フレデリックがウエディングドレスを依頼するために呼んだのだ。
「もう結婚してしまったあとなのにいいのかしら?」
「結婚したと言っても書類上のことだけでしょう。式を挙げるのはお披露目も兼ねているのですから当然です。女性の一大イベントを流すなどあり得ませんから!」
ダイナは腰に手を当てふんと息巻いた。
「お披露目……」
自分が周りに受け入れてもらえるか、不安はある。まずはフレデリックのご両親なのだが、近いうちに領地から戻ってくると連絡を聞いて、そわそわと落ち着かなくなってしまった。みんな心配はないと言ってくれるが出来れば愛する人の両親に認めて欲しい。緊張したまま日々を過ごせばフレデリックは苦笑いを浮かべ「うちの両親はジルを絶対に好きになるから大丈夫だよ」と繰り返す。まだ会ってもいないのに安易に請け負わないで欲しいと頬を膨らませれば楽しそうにジリアンの頬を摘まむ。
そしてその日は突然やって来た。
朝食をフレデリックと食べていると突然玄関の方から声がガヤガヤと聞こえだす。二人で目を見合わせるとフレデリックはニッコリと笑顔を向ける。
「とうとう感動の顔合わせの瞬間だね」
「えっ?「ジリア――ン!!」
扉がものすごい勢いで開くとフレデリックそっくりの美女が室内を見回し、ジリアンに目を止めるとすごい勢いで近づいてきた。ジリアンはナプキンで口元を拭うと思わず席を立ち直立不動になる。
女性はジリアンをじっと見つめると両手を広げ抱きしめて来た。その細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほどぎゅうぎゅうに締め付けられる。ちょっと苦しい。
「私の娘! 会いたかったわ。フレデリックを選んでくれてありがとう。大歓迎よ!!」
あまりにもパワフルな登場に呆然としているとフレデリックがその女性をジリアンからペリッと引き離す。
「母上。ジルが驚いています。落ち着いてください」
「だって、こんなに嬉しいことがあったのよ。興奮するに決まっているでしょう。面倒くさいから結婚しないって宣言していた息子が結婚したのだもの~。ねえ? アルロ」
フレデリックと同じ少し垂れ目で甘い雰囲気がある色っぽい女性は表情豊かに大きな声で喜色を表す。貴族女性らしくない姿に驚いてしまう。ジリアンは勝手にフレデリックの母親は毅然とした厳しい女性像をイメージして緊張していたのだが、真逆の様子に拍子抜けした。そのおかげで肩の力が抜け、ほうっと息を吐くことが出来た。
「そうだな。ジリアンは私たちにとっては奇跡のお嫁さんだ。感謝しているよ」
苦笑いを浮かべながらも柔らかな雰囲気を持つ男性はシャルロッテによく似ている。彼がお義父さまのようだ。フレデリックの仕切りで改めてお互いに挨拶を交わした。
「ジリアン。もう私たちは家族になった。何かあれば遠慮なく相談しなさい。もちろんフレデリックと喧嘩した時はジリアンの味方になる。いいな、フレデリック」
「ぜひ、そうして下さい」
お義父さまの言葉に当然だとフレデリックは頷く。
「ジリアン。今度一緒にお買い物に行きましょう! シャルロッテが結婚してからジョシュアが独占して寂しかったのよ。もう一人娘が出来て本当に嬉しいわ」
二人は会ったばかりのジリアンを当然のように受け入れてくれる。血の繋がった伯父家族とは冷たい関係だった。家族の繋がりは血だけではないんだと教えてくれる。
「私でいいのですか?」
それでも聞かずにはいられなかった。
「私たちの息子は人を見る目があると信じているわ。シャルロッテも手紙であなたのことを知らせてきて、素敵な義妹が出来たって喜んでいたの。私は娘の見る目も信用している。二人があなたを信じるのなら私たちもあなたを信じるわ。当然よ」
ジリアンの胸に温かいものが広がる。瞳が潤んで鼻がつんとする。こんなに人に恵まれて幸せになっていいのだろうか。ここはジリアンの新しく生きる場所だとみんなが後押しをしてくれる。フレデリックがそっとジリアンの肩を抱き寄せた。この人に出会えてよかった。ジリアンは心の底からそう思った。
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