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31.ウエディングドレス
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お義父さまとお義母さまは領地の災害復興を急ピッチで進め終わらせてきた。もちろん領民のためではあるがジリアンに一日も早く会いたかったからだと言ってくれた。
「結婚式は一カ月後でいいわね。帰ってくる途中で教会に予約を入れて来たわよ」
お義父様は「すまんなあ」とちっともすまなさそうではない顔で私たちに笑っている。
「母上。いくらなんでも早すぎます。ジルのドレスをこれから作成するのですよ。満足できるものを用意したいのに」
お義母さまはフレデリックの不満を聞き流し、ジリアンの方を向くと真剣な表情で口を開いた。
「ねえ、ジリアン。あなたが嫌でなければ私の着たウエディングドレスを直して着てみない? そのドレスは私の母も祖母も着た物で思い入れがあるのよ。シンプルな形だから流行にとらわれないでいいと思うの。本当はシャルロッテに着てもらいたかったのだけど、ジョシュアは自分が選んだドレスを着てもらうって譲ってくれなくて。もちろん見て気に入らなければ断ってくれて構わないわ。とても素晴らしい生地を使っていてきちんと保管していたから綺麗な状態を維持しているわ。だから見るだけ見て欲しいの」
「母上。ジリアンには新しいものを用意してやりたい」
「フレッド。私、お義母さまのドレスを見てみたいわ」
「ジル。気を遣わなくてもいいんだ。一生に一度のドレスなんだから――」
「でも、代々娘に引き継がれるドレスって素敵だわ。私にも娘が出来たら同じようにしてあげたい」
フレデリックが手配してくれたドレスのデザイン画も素敵だったが、これだと思えるものはまだない。それならばお義母さまのドレスが見たかった。さっそくお義母さまが侍女にドレスを出すように指示をする。一緒に部屋に向かえばトルソーに着せた純白のドレスがキラキラと輝いている。
デザインは至ってシンプルなAラインでスカートの部分は装飾はなく光沢のある生地が大きく広がっている。上半身もシンプルな形で上品でクラシカルな印象だ。ジリアンは一目で惹かれた。
「私、このドレスを着たいです」
「ジル。これもいいとは思うけどシンプル過ぎないかな? 無理をしなくてもいいんだよ?」
「私の時はベールを華やかにしたのよ。それにシンプルな方がジリアンの美しさが引き立つわよ」
お義母さまはフレデリックの言葉を無視して話を進める。フレデリックは肩を竦め口を閉じた。どうやら諦めたらしい。
「試着してもいいですか?」
もうジリアンの心は決まっていた。フレデリックの気持ちは有難いが、どうしてもこれを着たくなってしまった。最近のドレスはごてごてと飾り付けているのが主流だ。それはウエディングドレスでも同じで、いくつかもらったデザイン画も飾りが多かった。
ジリアンはずっとメイドとして過ごしてきたので華やかなドレスに慣れていない。装飾が多いとドレスに着られている感が強く、シンプルな方がしっくりくると感じた。試着してフレデリックの前でくるりと回って見せる。彼は唸りながら「似合っている……」と言ってくれた。お義母さまはうんうんと頷き誇らしそうな顔をしている。
「ほら、シンプルな方がジリアンの魅力が引き立つでしょう? 丈は少し詰めた方がいいわね。その代わりマリアベールのロング丈にしましょう。ああ、楽しいわ」
「母上! ジルの意見を優先して下さい」
「分かっているわよ」
ジリアンは姿見でじっと眺める。自分でも似合っていると思う。これ以外にはもう考えられない。フレデリックはジリアンの表情で納得したようで両手で降参のポーズを取った。ジリアンの好きにさせてくれるようだ。
「ありがとう。フレッド」
「私としては伯爵家の財力を惜しみなく使って満足のいくドレスを作りたかったが、ジリアンの気持ちを優先したいからね」
「でも今お断りしてしまうのはドレス工房の人たちに申し訳ないかしら」
「そんなこと気にしなくても夜会用のドレスを注文するから問題ないだろう。お色直し用に追加してもいい」
「お色直しはしなくていいと思います。出来ればあのドレスを着ていたいのです。それより夜会用のドレスは先日も注文したばかりですよ?」
「これからは社交の場にも出ることが多くなるだろう。だからある程度の数は必要だ」
そう言われてしまえば要らないとは言えない。この国でのディアス伯爵家の立ち位置はまだ理解できていない。お義母さまに教えを請わなくてはと力が入る。
フレデリックの隣に並んで恥ずかしくない人間になりたい。誰が見ても相応しい妻になって見せる。彼は素敵な人だからきっと女性からモテるだろう。商会にいるときだって男爵令嬢を筆頭に女性たちから声をかけられていた。でも彼の妻はジリアンだ。それなら堂々と戦える権利がある。
「ジリアン。明日は出かけよう。最近は勉強ばかりだったから息抜きも必要だ」
「わあ! 楽しみです」
何を着ていこうかと頭の中で数着のワンピースを思い浮かべる。フレデリックに想いを寄せる女性に声を掛けられても、怯んだりしないようにしっかりと武装をしなくては。ジリアンは気合を入れた。
「結婚式は一カ月後でいいわね。帰ってくる途中で教会に予約を入れて来たわよ」
お義父様は「すまんなあ」とちっともすまなさそうではない顔で私たちに笑っている。
「母上。いくらなんでも早すぎます。ジルのドレスをこれから作成するのですよ。満足できるものを用意したいのに」
お義母さまはフレデリックの不満を聞き流し、ジリアンの方を向くと真剣な表情で口を開いた。
「ねえ、ジリアン。あなたが嫌でなければ私の着たウエディングドレスを直して着てみない? そのドレスは私の母も祖母も着た物で思い入れがあるのよ。シンプルな形だから流行にとらわれないでいいと思うの。本当はシャルロッテに着てもらいたかったのだけど、ジョシュアは自分が選んだドレスを着てもらうって譲ってくれなくて。もちろん見て気に入らなければ断ってくれて構わないわ。とても素晴らしい生地を使っていてきちんと保管していたから綺麗な状態を維持しているわ。だから見るだけ見て欲しいの」
「母上。ジリアンには新しいものを用意してやりたい」
「フレッド。私、お義母さまのドレスを見てみたいわ」
「ジル。気を遣わなくてもいいんだ。一生に一度のドレスなんだから――」
「でも、代々娘に引き継がれるドレスって素敵だわ。私にも娘が出来たら同じようにしてあげたい」
フレデリックが手配してくれたドレスのデザイン画も素敵だったが、これだと思えるものはまだない。それならばお義母さまのドレスが見たかった。さっそくお義母さまが侍女にドレスを出すように指示をする。一緒に部屋に向かえばトルソーに着せた純白のドレスがキラキラと輝いている。
デザインは至ってシンプルなAラインでスカートの部分は装飾はなく光沢のある生地が大きく広がっている。上半身もシンプルな形で上品でクラシカルな印象だ。ジリアンは一目で惹かれた。
「私、このドレスを着たいです」
「ジル。これもいいとは思うけどシンプル過ぎないかな? 無理をしなくてもいいんだよ?」
「私の時はベールを華やかにしたのよ。それにシンプルな方がジリアンの美しさが引き立つわよ」
お義母さまはフレデリックの言葉を無視して話を進める。フレデリックは肩を竦め口を閉じた。どうやら諦めたらしい。
「試着してもいいですか?」
もうジリアンの心は決まっていた。フレデリックの気持ちは有難いが、どうしてもこれを着たくなってしまった。最近のドレスはごてごてと飾り付けているのが主流だ。それはウエディングドレスでも同じで、いくつかもらったデザイン画も飾りが多かった。
ジリアンはずっとメイドとして過ごしてきたので華やかなドレスに慣れていない。装飾が多いとドレスに着られている感が強く、シンプルな方がしっくりくると感じた。試着してフレデリックの前でくるりと回って見せる。彼は唸りながら「似合っている……」と言ってくれた。お義母さまはうんうんと頷き誇らしそうな顔をしている。
「ほら、シンプルな方がジリアンの魅力が引き立つでしょう? 丈は少し詰めた方がいいわね。その代わりマリアベールのロング丈にしましょう。ああ、楽しいわ」
「母上! ジルの意見を優先して下さい」
「分かっているわよ」
ジリアンは姿見でじっと眺める。自分でも似合っていると思う。これ以外にはもう考えられない。フレデリックはジリアンの表情で納得したようで両手で降参のポーズを取った。ジリアンの好きにさせてくれるようだ。
「ありがとう。フレッド」
「私としては伯爵家の財力を惜しみなく使って満足のいくドレスを作りたかったが、ジリアンの気持ちを優先したいからね」
「でも今お断りしてしまうのはドレス工房の人たちに申し訳ないかしら」
「そんなこと気にしなくても夜会用のドレスを注文するから問題ないだろう。お色直し用に追加してもいい」
「お色直しはしなくていいと思います。出来ればあのドレスを着ていたいのです。それより夜会用のドレスは先日も注文したばかりですよ?」
「これからは社交の場にも出ることが多くなるだろう。だからある程度の数は必要だ」
そう言われてしまえば要らないとは言えない。この国でのディアス伯爵家の立ち位置はまだ理解できていない。お義母さまに教えを請わなくてはと力が入る。
フレデリックの隣に並んで恥ずかしくない人間になりたい。誰が見ても相応しい妻になって見せる。彼は素敵な人だからきっと女性からモテるだろう。商会にいるときだって男爵令嬢を筆頭に女性たちから声をかけられていた。でも彼の妻はジリアンだ。それなら堂々と戦える権利がある。
「ジリアン。明日は出かけよう。最近は勉強ばかりだったから息抜きも必要だ」
「わあ! 楽しみです」
何を着ていこうかと頭の中で数着のワンピースを思い浮かべる。フレデリックに想いを寄せる女性に声を掛けられても、怯んだりしないようにしっかりと武装をしなくては。ジリアンは気合を入れた。
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