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7.和やかなお茶会
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「ららら~ららら~ら・ら・ら~♪」
アンネリーゼは上機嫌で花瓶の位置を確認している。
ディンケル侯爵家の庭に白い丸テーブルと椅子が三脚置かれている。テーブルクロスは品のいい白いレースを選んだ。白い花瓶にはオレンジ色のラナンキュラスがふんわりと可愛らしく咲いている。
「アンネリーゼ様。お客様がお見えになりました」
「すぐに行くわ!」
侍女の言葉に慌てて玄関へ出迎えに行く。足取りはスキップをしそうなほど軽やかで声はうきうきと浮かれている。
今日はカタリーナ・カペル伯爵令嬢とモニカ・ダウム子爵令嬢の二人をお茶に招いた。
二人とはそれぞれ手紙のやり取りをしていた。どちらともゆっくり話がしたいと思っていたのだが、ふいに思いついた。二人一緒にお茶に招いてみんなで楽しく過ごそうと。カタリーナは年下なので遠慮がちな態度になってしまうかもしれないがそこはホストとしてしっかりサポートしよう。モニカとは淑女としての高みを目指そうと手紙でやり取りしていた。カタリーナにもいい刺激になるだろう。二人はお互いの存在は知っているが今まで話す機会はなかったそうだ。
「ようこそいらっしゃいました。モニカ様、カタリーナ様」
「アンネリーゼ様。お招きありがとうございます」
まずはモニカがしっとりと美しく会釈をした。
「お招きありがとうございます」
カタリーナは元気いっぱいで大きな声だ。
二人をそのまま庭に案内する。日よけになるような葉の繁った大木の下にテーブルを置きちょうど風もそよいでいるので過ごしやすい。
「どうぞ、おかけになって」
二人に椅子を勧め改めて紹介し合う。モニカはさすがに余裕があるがカタリーナは緊張して体が硬くなっている。なんだか微笑ましいとモニカと頷き合った。
アンネリーゼは侍女に目配せをしてお茶とお菓子を並べさせた。カタリーナがテーブルに飾られた花に視線を向ける。
「可愛いラナンキュラスですね」
「ありがとうございます。お二人をお茶に招くと言ったらジークが用意してくれたのです。お菓子も朝一番にバルリング公爵家から届けてくれて。私の好きなお菓子をわざわざ料理人に頼んで作ってもらったみたい。でもお茶の葉は私がお菓子に合わせて選んだもなの。気に入ってもらえるといいのだけど」
ついでに今日着ているドレスもジークハルトが選んでくれたことも伝えた。
「まあ! アンネリーゼ様は本当にバルリング公爵子息に愛されているのですね。なんて細かい気配りかしら。なかなかそこまでしてくれる男性はいないと思うわ」
モニカは手を合わせうっとりと頷いている。なんだかくすぐったい気持ちになる。
「す、すごい独占欲……じゃなくて愛ですね。さすが魔王……」
カタリーナは笑みを浮かべるも口元が引きつっている。最後の声は聞こえなかったので首を傾げる。
「すごく嬉しいし有難いけど、ジークは私の世話を焼き過ぎて、このままだと私が自立できなくなってしまいそうで怖いわ」
「幸せな悩みですわね」
モニカはニコニコとそう言うがアンネリーゼとしては笑ってもいられない。自分は彼の隣に並びそして力になりたい。一方的に庇護される存在では困るのだ。彼色に染まるのはやぶさかではないが、結婚後は公爵夫人として采配を振るう場面が多くなる。甘えっぱなしにはいかないのだ。
「ですがバルリング公爵子息がアンネリーゼ様のお世話をすることが世界平和につながると思いますわ!」
「えっ? 世界平和?」
力強く断言するカタリーナにアンネリーゼとモニカは規模が大きすぎないかと目を見合わせた。モニカが少し考えた後確かにと頷く。
「カタリーナ様は面白いことをおっしゃるのね。ですが高位貴族である未来のバルリング公爵夫妻が仲睦まじいのはこの国にとってもいいことだと思いますわ」
最初はお互いに距離を測りながら遠慮がちに会話をしていたが、次第に馴染んできた。
「アンネリーゼ様もモニカ様もお茶を飲む姿がとても綺麗です。私、ドレスや髪型などの身だしなみばかりを気にして所作については勉強不足でした。つい、流行りばかり追うことに夢中で……」
アンネリーゼがティーカップを音を立てずにソーサに置く姿をうっとりと見つめたあと、カタリーナはハッとしたようにそう言って肩を落とす。確かにカタリーナは流行のドレスや髪型を自分に似合うように着こなしている。さすが妖精姫と言われるだけのことはある。流行を自分に上手く取り入れ話題を作るのは簡単には出来ない。そんなカタリーナを若い令嬢たちは真似しているそうだ。確かに夜会では似た雰囲気の令嬢をちらほら見かける。
「流行を知ることは大事なことよ。カタリーナ様はそれを上手に活かしていて素晴らしいわ。それに身だしなみが大事なのは当然よ。だって第一印象を決めるのですから。でもさらに所作まで伴えば淑女として怖いものなしになるわ。ね、アンネリーゼ様」
モニカの言葉に頷き同意する。
「ええ、やはり見た目は重要だと思うけど、それだけですべてを判断することはあまりないでしょう。それ以外の行動を重視している人の方が多いと感じるから油断は出来ないのよね」
アンネリーゼは姉のマルティナと基本的な淑女教育を受けてきたが、ジークハルトと婚約してから彼の母親であるヘルミーナから高位貴族の社交の心構えを教えてもらっている。見かけの可愛さだけでもてはやされるのはせいぜい学生時代くらいで、結婚すれば立ち振る舞いで品格を問われる。落ち度があれば追い打ちをかけるように責め立てられることもあるから、隙を作らない為にもそれなりのマナーをしっかりと身に着けるように言われてきた。それは護身にもなるのだ。カタリーナはまだ若いのでこれから学べば充分だろう。なによりもそこに気付くことが大事なのだ。
「カタリーナ様にお勧めの教本をあとで送るわね。私のおばあ様の書いたものなのだけどとても分かりやすいのよ」
「アガーテ夫人の出した教本は私もすべて持っているわ。カタリーナ様、ぜひ読んでみてくださいな」
「まあ! お二人のお勧めですか? ぜひ参考にします」
「ところでカタリーナ様は婚約が決まったのよね。おめでとうございます。お相手は幼馴染なのでしょう。どういったきっかけで婚約を決められたの?」
アンネリーゼは密かに聞きたくてうずうずしていた。やはり人の恋のお話は知りたい。
モニカはまだ知らなかったようで目を丸くした後、優しく微笑んだ。
「カタリーナ様。おめでとうございます。ぜひ、詳しく教えてください。私の婚約者探しの参考にしますわ」
カタリーナは頬をほんのりと染めるとはにかむ。
「ありがとうございます。でも、たぶん参考にはなりませんわ。私たちは領地が隣で父親同士も仲良くて赤ちゃんの頃から一緒に過ごして来たんです。おねしょの数だってお互いに知っているほど。でも学園に入った頃から彼が余所余所しくなって疎遠になっていたんです。でも先日の夜会で私がバルリング公爵子息と踊っている所を見て思う所があったようで、数日後に婚約の申し込みに来てくれたんです。余所余所しかったのは私が可愛くなってどう接していいか分からなかったけど、うかうかして誰かに取られたら嫌だと焦ったと言っていました。久しぶりに話をした彼はやんちゃだった子供の頃と違って頼もしくなっていて……なんか、いいなって。彼が一生懸命私に結婚してくれって言う姿がなんだか可愛くって。なによりもお互いの家族も仲がいいし結婚後の生活も想像しやすくて幸せになれそうだと婚約を決めたんです。爵位も子爵家なので釣り合っていますし幸せって案外身近なところにあるんですね」
夜会でジークハルトと踊っていた時のカタリーナは背伸びをしていたのだろう。今、婚約者を思い浮かべて話す表情は年相応に愛らしい。何だか幸せのお裾分けをしてもらった気分で胸が温かくなる。
「成長してすれ違って、でも結ばれる。素敵ですわ! カタリーナ様は愛されて結婚するのですね。愛されて嫁ぐのは私の理想です。アンネリーゼ様にもお聞きしていいかしら。どういう経緯でバルリング公爵子息と婚約したのですか?」
「私とジークですか?」
突然矛先が自分に向かってしまった。アンネリーゼは小首を傾げながらジークハルトと初めて会った日のことを思い返した。
アンネリーゼは上機嫌で花瓶の位置を確認している。
ディンケル侯爵家の庭に白い丸テーブルと椅子が三脚置かれている。テーブルクロスは品のいい白いレースを選んだ。白い花瓶にはオレンジ色のラナンキュラスがふんわりと可愛らしく咲いている。
「アンネリーゼ様。お客様がお見えになりました」
「すぐに行くわ!」
侍女の言葉に慌てて玄関へ出迎えに行く。足取りはスキップをしそうなほど軽やかで声はうきうきと浮かれている。
今日はカタリーナ・カペル伯爵令嬢とモニカ・ダウム子爵令嬢の二人をお茶に招いた。
二人とはそれぞれ手紙のやり取りをしていた。どちらともゆっくり話がしたいと思っていたのだが、ふいに思いついた。二人一緒にお茶に招いてみんなで楽しく過ごそうと。カタリーナは年下なので遠慮がちな態度になってしまうかもしれないがそこはホストとしてしっかりサポートしよう。モニカとは淑女としての高みを目指そうと手紙でやり取りしていた。カタリーナにもいい刺激になるだろう。二人はお互いの存在は知っているが今まで話す機会はなかったそうだ。
「ようこそいらっしゃいました。モニカ様、カタリーナ様」
「アンネリーゼ様。お招きありがとうございます」
まずはモニカがしっとりと美しく会釈をした。
「お招きありがとうございます」
カタリーナは元気いっぱいで大きな声だ。
二人をそのまま庭に案内する。日よけになるような葉の繁った大木の下にテーブルを置きちょうど風もそよいでいるので過ごしやすい。
「どうぞ、おかけになって」
二人に椅子を勧め改めて紹介し合う。モニカはさすがに余裕があるがカタリーナは緊張して体が硬くなっている。なんだか微笑ましいとモニカと頷き合った。
アンネリーゼは侍女に目配せをしてお茶とお菓子を並べさせた。カタリーナがテーブルに飾られた花に視線を向ける。
「可愛いラナンキュラスですね」
「ありがとうございます。お二人をお茶に招くと言ったらジークが用意してくれたのです。お菓子も朝一番にバルリング公爵家から届けてくれて。私の好きなお菓子をわざわざ料理人に頼んで作ってもらったみたい。でもお茶の葉は私がお菓子に合わせて選んだもなの。気に入ってもらえるといいのだけど」
ついでに今日着ているドレスもジークハルトが選んでくれたことも伝えた。
「まあ! アンネリーゼ様は本当にバルリング公爵子息に愛されているのですね。なんて細かい気配りかしら。なかなかそこまでしてくれる男性はいないと思うわ」
モニカは手を合わせうっとりと頷いている。なんだかくすぐったい気持ちになる。
「す、すごい独占欲……じゃなくて愛ですね。さすが魔王……」
カタリーナは笑みを浮かべるも口元が引きつっている。最後の声は聞こえなかったので首を傾げる。
「すごく嬉しいし有難いけど、ジークは私の世話を焼き過ぎて、このままだと私が自立できなくなってしまいそうで怖いわ」
「幸せな悩みですわね」
モニカはニコニコとそう言うがアンネリーゼとしては笑ってもいられない。自分は彼の隣に並びそして力になりたい。一方的に庇護される存在では困るのだ。彼色に染まるのはやぶさかではないが、結婚後は公爵夫人として采配を振るう場面が多くなる。甘えっぱなしにはいかないのだ。
「ですがバルリング公爵子息がアンネリーゼ様のお世話をすることが世界平和につながると思いますわ!」
「えっ? 世界平和?」
力強く断言するカタリーナにアンネリーゼとモニカは規模が大きすぎないかと目を見合わせた。モニカが少し考えた後確かにと頷く。
「カタリーナ様は面白いことをおっしゃるのね。ですが高位貴族である未来のバルリング公爵夫妻が仲睦まじいのはこの国にとってもいいことだと思いますわ」
最初はお互いに距離を測りながら遠慮がちに会話をしていたが、次第に馴染んできた。
「アンネリーゼ様もモニカ様もお茶を飲む姿がとても綺麗です。私、ドレスや髪型などの身だしなみばかりを気にして所作については勉強不足でした。つい、流行りばかり追うことに夢中で……」
アンネリーゼがティーカップを音を立てずにソーサに置く姿をうっとりと見つめたあと、カタリーナはハッとしたようにそう言って肩を落とす。確かにカタリーナは流行のドレスや髪型を自分に似合うように着こなしている。さすが妖精姫と言われるだけのことはある。流行を自分に上手く取り入れ話題を作るのは簡単には出来ない。そんなカタリーナを若い令嬢たちは真似しているそうだ。確かに夜会では似た雰囲気の令嬢をちらほら見かける。
「流行を知ることは大事なことよ。カタリーナ様はそれを上手に活かしていて素晴らしいわ。それに身だしなみが大事なのは当然よ。だって第一印象を決めるのですから。でもさらに所作まで伴えば淑女として怖いものなしになるわ。ね、アンネリーゼ様」
モニカの言葉に頷き同意する。
「ええ、やはり見た目は重要だと思うけど、それだけですべてを判断することはあまりないでしょう。それ以外の行動を重視している人の方が多いと感じるから油断は出来ないのよね」
アンネリーゼは姉のマルティナと基本的な淑女教育を受けてきたが、ジークハルトと婚約してから彼の母親であるヘルミーナから高位貴族の社交の心構えを教えてもらっている。見かけの可愛さだけでもてはやされるのはせいぜい学生時代くらいで、結婚すれば立ち振る舞いで品格を問われる。落ち度があれば追い打ちをかけるように責め立てられることもあるから、隙を作らない為にもそれなりのマナーをしっかりと身に着けるように言われてきた。それは護身にもなるのだ。カタリーナはまだ若いのでこれから学べば充分だろう。なによりもそこに気付くことが大事なのだ。
「カタリーナ様にお勧めの教本をあとで送るわね。私のおばあ様の書いたものなのだけどとても分かりやすいのよ」
「アガーテ夫人の出した教本は私もすべて持っているわ。カタリーナ様、ぜひ読んでみてくださいな」
「まあ! お二人のお勧めですか? ぜひ参考にします」
「ところでカタリーナ様は婚約が決まったのよね。おめでとうございます。お相手は幼馴染なのでしょう。どういったきっかけで婚約を決められたの?」
アンネリーゼは密かに聞きたくてうずうずしていた。やはり人の恋のお話は知りたい。
モニカはまだ知らなかったようで目を丸くした後、優しく微笑んだ。
「カタリーナ様。おめでとうございます。ぜひ、詳しく教えてください。私の婚約者探しの参考にしますわ」
カタリーナは頬をほんのりと染めるとはにかむ。
「ありがとうございます。でも、たぶん参考にはなりませんわ。私たちは領地が隣で父親同士も仲良くて赤ちゃんの頃から一緒に過ごして来たんです。おねしょの数だってお互いに知っているほど。でも学園に入った頃から彼が余所余所しくなって疎遠になっていたんです。でも先日の夜会で私がバルリング公爵子息と踊っている所を見て思う所があったようで、数日後に婚約の申し込みに来てくれたんです。余所余所しかったのは私が可愛くなってどう接していいか分からなかったけど、うかうかして誰かに取られたら嫌だと焦ったと言っていました。久しぶりに話をした彼はやんちゃだった子供の頃と違って頼もしくなっていて……なんか、いいなって。彼が一生懸命私に結婚してくれって言う姿がなんだか可愛くって。なによりもお互いの家族も仲がいいし結婚後の生活も想像しやすくて幸せになれそうだと婚約を決めたんです。爵位も子爵家なので釣り合っていますし幸せって案外身近なところにあるんですね」
夜会でジークハルトと踊っていた時のカタリーナは背伸びをしていたのだろう。今、婚約者を思い浮かべて話す表情は年相応に愛らしい。何だか幸せのお裾分けをしてもらった気分で胸が温かくなる。
「成長してすれ違って、でも結ばれる。素敵ですわ! カタリーナ様は愛されて結婚するのですね。愛されて嫁ぐのは私の理想です。アンネリーゼ様にもお聞きしていいかしら。どういう経緯でバルリング公爵子息と婚約したのですか?」
「私とジークですか?」
突然矛先が自分に向かってしまった。アンネリーゼは小首を傾げながらジークハルトと初めて会った日のことを思い返した。
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