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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Sub-Note_2. 惑星連合諜報員【カリナ】

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 【フェニコプテラス】の下町、【セカンドステップ】のホテルにて、キャンソン姉弟はライラと共に夜を過ごす。

 レオとライラは既に、それぞれのベッドで寝ている。サドは引き続き盗聴を行い、シフト、巡回ルート、および他の手段を探っている。

 既に深夜の11時を回る。サドも退屈になってきて寝落ちしかけるが、顔をひっぱたいて何とか正気を保つ。

 数時間ほど情報を傍受して分かったことは、段々と警備網の範囲が拡大していくこと。ライラが捕まるまで広がる。


(朝までには……もう酷くなりそう。ホテル付近まで来るかもね……。なるべく戦闘を避ける巡回ルートを……と。

……ん?この機種は……!)


 サドはある機種の接続チャネルの履歴を見て、すぐに通信を切り、メモに書き置きしてから端末を持って出ていった。

 レオはサドが出ていく様子を見ていた。ベッドの中でアニメを見ていたのだ。レオは起き上がり、サドの書き置きを読む。



惑星連合の人がいます。
通信を逆探知されます。
この場所がバレないよう
端末持って、外出します。
あしからず。

サド・キャンソン



 レオはすぐに通話を行う。


『レオ?起きていた?』

「サド、すぐ戻って来い。あんたが一番行っちゃいけねぇだろ。」

『部屋がバレたら、こっちが誘拐犯になる。住民じゃないから話も聞いてもらえない。』

「それに、惑星連合なんだから政府側に決まってんだろ。捕まったら終わりだ。」

『被害が3人から1人に少なくなるだけさ。それに、運が良ければあの人に会える。僕はその人と面識があるからね。

ついでに何か夜食とかいる?クッキーとか、パンとか……コンビニから買ってくるよ。』

「……まあ、別にいいけどさ。気をつけろよ。」


 レオは通話を切る。サドの事を強く気にしていた。外を見て考え込む。


(……やっぱり心配だ。)


 レオも外に出る。次のように書き置いた。



バカ弟を連れて帰る。
寝て待ってろ。

レオ



_____


 真夜中、静かな街を散歩している。サド自身はただの散歩として出たわけではない。

 まず惑星連合の人とレオ達を離すこと、そして現在の警備網を目で把握すること。そして物品を買うこと。これが実質、最後の準備になりかねない。


(……まだホテル近くには来ていない。このペースだと起床時に丁度ここに来ると思う。

……っ!誰か来る!)


 サドは誰かが来る気配を察した。


(惑星連合か……警備か……?)


 武器に手を触れて、いつでも発動できるよう準備する。



「……物騒な技術持ってるやつが、こんな可憐な小僧だったとはなぁ……」

「誰ですか!?名を名乗ってください!」


 現れたのは、サドより体格が二回りほど大きな豪傑な風貌の女性であった。


「名を名乗れだぁ?……お前から名乗れ!」

(本名は勿論割れてるし、偽名はライラさんと同様に知られているかもしれない!)

「ど~したぁ?そんなに見つめてよぉ。……名前も言えねぇ事情があんのか?」


 サドは警戒を強める。


「あなたを信用できません。そんな身なりで近寄って来ないでください。」

「ハッ!この程度の街にしか居座れない身分のくせに、今更気にすんなよ。この手の都市にいる以上、初対面なんて必ずあるだろ。

……お前が【プラズマネットワーク】開発の関係者だってことぐらい知っている。端末を調べればすぐ分かる。

名前は……誰だっけな。アルカウスだっけ?」

「あなたから話しかけてきたのですから、あなたから話せばいいでしょう。」


 いい加減、相手の様子見をきっぱりと止める。カリナは自己紹介を始めた。


「……【惑星連合】の【カリナ】だ。この星の下調べに来た。【電波塔】から通信が遮断されて、そのトラブルシューティングに来たってわけだ。

次はお前だ。」


 カリナはサドに指をさす。惑星連合ならば先端技術に対しても、含蓄がある可能性がある。即興の偽名も見通してくるだろう。


(惑星連合の人とは何度も連絡を取っていた。偽名から本名を導出することも容易い。もう逃げ場はないか……)

「……【サド・キャンソン】です。」

「………。」


 カリナは【ブレインチップ】で情報を自分の周囲に広げる。画像、文書、映像、様々な情報が乱立している。整理して情報を探す。この時点でレジスタンスより技術力が上回っている。

 しかし、一旦情報を取り下げてため息をついて首を横に振る。


「……分かんねぇや。」

(職務怠慢にも程があるでしょ……。)


 サドは目が点になる。すごいのか、そうでもないのか読めない人であった。


「……ポーラにはブロックされたし、負け犬の手を借りるのもしゃくだし、どうしよっかなぁ~。」

「用がないなら……私はこれで。」


 サドは距離を取って逃げようとするが、カリナが情報を飛ばしてサドを無理やり止める。何もない、空データのタブを後ろから飛ばしてきた。


「話ぐらいしようぜ。こっちだって仕事終わらせてぇんだ……。付いてきてもらう。」

「……任意なんでしょう。お断りします。」


 サドは構わず去っていく。カリナは後ろから早歩きで近づき、サドをベンチに向けて粗雑に座らせる。


「痛ッ……」

「逃がすと思うか?あの事件の生き残りを見過ごすわけにはいかねえなぁ……

……こういう時に便利なのが、暴力なんだよなぁ!」


 右腕を振りかぶった瞬間、後頭部に銃を突きつけられる感触を得る。カリナは後ろを見る。

 レオが光線銃を突きつけていた。


「やってみるか?実弾撃つときより、酷くなるかもな。」

「お前は……!」


 サドはベンチから離れて、レオの後ろに一旦退いた。レオは尋ねようとしたものの、サドが事情を話す。


「この人は、【カリナ】っていう人。【惑星連合】で何かを探っている。敵か味方か分からない。」

「暴力振ってきたんだ。そういうのは軽くいなすもんだ。」


 レオは武器を手に取る。カリナはこの時を待ちわびたかのように喜ぶ。


「いいぜ……初対面だから、手加減しておく。その前に消し炭になんじゃねぇぞ!」


 カリナは大剣持ちのトロそうな少女を狙って襲いかかる。しかしレオは合体剣を縦に置き、そのまま三角状のシールドを張って防御する。

 シールドをぶち破るほどのパワーを拳に込めた。レオは左腕に力を入れて振り払う。カリナは硬い両腕で防御した。どうやら義手のようだ。

 カリナが後ろに退いたところを、サドが後ろから押し出す。

 レオが前から彼女の喉元に剣先をつけ、サドはビームソードで心臓を貫けるだろう角度で背後から放出口を突きつける。


「………。」

「……次は無いと思え。」


 レオは一言入れる。

 カリナはしばらく黙っていた。


「……いいだろう。取りあえず“アタシ”は、お前らに関して目溢ししてやろう。」

「何?」

「それってどういう……」

「まあ、その武器降ろせ。そこのベンチに座って話してやる。」


 レオ達は一旦武器をしまった。約束通り、カリナはベンチに座って袋から物を用意する。


「……別にアタシが本気出さなくとも、部下の奴らがやりゃ、ここの調査なんか一発だ。

出る幕もねぇよ。アタシが暴力に頼らなくても奴らが勝手に成果を出すんだ。」

「だからやる気なかったんですね……。」


 サドは呆気に取られていた。レオは尋ねる。


「んで、コイツらは一体何の調査してんだ?」

「電波塔が不調になっている原因を探っているらしい。ポーラさんと通信してたらしいけど、ブロックされたみたい。」

「ふ~ん、そう。」


 レオは真顔で受け流す。


「ここにはまあ、壁の向こうの状況を探るために来たんだ。最終目標はアルゴだからな。【惑星連合】の名を出しても出てこないから、こういう場所から徐々に追い詰めるつもりだ。」

「……まだ信用できないな。」

「……分かったよ。とりあえずはお前らを“商売相手”として目溢ししてやったからな。」


 カリナはレオ達に説明する。


「アタシが認めた相手にだけ、外惑星の物品を密輸する。連合が定めた値段で手打ちする。珍しいものもあるぜ。

……値下げ交渉なんてことは考えるなよ。一生やらねぇからな。だが通常価格以上の値上げはしない。それはマナーだからな。“旬”を見て判断しろよ。」


 カリナは外惑星の物品の密輸をしている。どうやらオプションについても、連合の規格で制定されているようだ。

 サドはレオに大切なことを伝える。


「今の時間が最後の準備時間になると思う。朝には色んな場所に警備がやってくるからね。今のうちに準備した方がいいかも。」

(……そうかもな。)


 軽く物品を見るが、使えそうなものはあまり見当たらなかった。2人が立ち去ろうとしたところに、カリナが口を挟む。


「……その口振りじゃ、噂は聞いてんだろうな。こっちに誘拐された地球の住民がいる。

兵士もピリピリしてんだろう。アタシはその原因を探りに向こうに行く。」

「そうか……私も行く。」

「ちょっと……」


 レオが告発した。サドが止めようとするも手遅れである。


「……お前、……名前は?」

「……レオだ。二度と身内に手をかけんな。」


 そう言い残して、姉弟は立ち去った。カリナはその名を聞いて、思い返そうとする。


「レオ……誰だっけ……ポーラやシリウスは確実に知ってんだけどな~。……とりあえず飯買っとくか。」


 カリナも支度してこの場を後にする。


_____


 レオ達は誰もいないホテルラウンジで軽く話をしていた。サドが明日の事について話す。


「明日はモーニングを食べてから行くよ。すぐに出られるよう、支度は済ませて。」

「済ませてる。」

「大体出る頃には警備網がこれくらい広くなっている。だから繁華街に素早く向かって、裏路地に入って身を隠しつつ、ここの業務員用の入り口を目指す。

そこで機体を拝借してもらうのさ。」

「なるほどな。機体の鍵をどう手に入れるんだ?」

「電波で感知するタイプの鍵だから、P-botピーボットの力で無理やり開ける。」


 レオは感心して軽く頷く。しかし、彼女にとって問題はそこではなかった。


「あんたさ……」

「どうしたの?」

「あのな、自助の精神がどうのこうの言うつもりはないけど、そもそも政府に身柄取られて一番ヤバいお前が、仲間に秘密にしたまま先陣切ってんじゃねぇよ!」

「みみみみみ……」


 レオがサドの頬を横に引っ張る。


「寝ている人を起こすなとか関係なく、大事な用なら起こして知らせろ!報連相もまともにできねぇのか、このメガネがッ!」

「もッ!」


 今度は頬を内側に押し込む。しばらく押さえつけてから離した。


「……ったく世話かけやがって。1つの失敗ぐらいでくよくよすんな。役に立ってねぇわけじゃねぇんだから。」

「ごめん……。」

「まあ、事情は分かったよ。これからは【惑星連合】にも気をつけなきゃいけない。それと出るときに、ホテル街に警備が張り込んでくる。そして軽食とか買って備える。

別に悪くねぇじゃねぇか。でも、1人で行かせられねぇのはこっちも一緒だ。少しは慎重に動けよ。」


 サドは反省していた。そして、レオは連合の名を聞いて考える。


(……惑星連合……目溢しするとは言ってるが、一応戦う準備も万全にしなきゃ駄目だな……。なるべく避けたい相手だ。)


 レオ達はラウンジのクッキーとコーヒーで、静かな空気を愉しむ。


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