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Episode② 港区ラプソディ
第9章|弱肉強食の世界 <39>この部屋からは、東京タワーが綺麗に見える(密森司の視点)→【Episode②】(完)
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<39>
たまーに、いるんだよな。
既婚女と、不倫してる独身男。
“一途で頑固な性格”が暴走するパターン。
昼に自分を抑圧しすぎて、夜に爆発するパターン。
相手が他人のもの、っていうのが逆に快感になっちゃう、マゾヒスト倒錯パターン。
せっかく独身という自由な立場なんだから、火遊び程度で終わらせときゃいいのに、いつの間にか現実見失って、禁断の~、にマジ溺れするやつもいる。
これだけの美人なら、さすがのカタブツ鈴木も理性を失ってもおかしくない。
そういえば……鈴木が連れていた新人風の女。足立里菜。
鈴木のことを慕っています、ってオーラ、丸出しだったな。
残念だったなぁ。キミの上司は、ロクな男じゃないと思うぜ。
「鈴木風寿。……俺、あんたのこと、気に入っちゃったなぁ。ハハハ」
――――大学在学中、父親の経営していた建築関連会社が倒産し廃業。
――――その後ほどなく、父親が死去。
中小企業含め、倒産情報に関してはお手のものだ。前職の後輩に声をかければ、すぐに詳細は分かる。調べてみるか。
顔を上げ、窓の外を見た。
―――都会の夜景は、うっとりするほど美しい。
栗栖貞乃を説得して入社した俺の読みは当たり、投資ファンド『ジュリー・マリー・キャピタル』に転職してほどなく、俺は投資成績を上げることに成功するようになった。
結果、業績連動性のボーナスに加えて、たっぷりとキャリーと配当を与えられ、収入も社内ポジションも右肩上がりに跳ねたので、港区タワマン上層階のこの部屋を買った。
もしあのまま前の企業信用情報調査会社に留まっていたら、いくら俺が出世頭だったといっても、億を超える都心の高級マンションを手に入れて住むことなど一生できなかっただろう。
紙巻きたばこに、火を点けた。
喉から肺に、苦味のある旨さが広がる。
投資の世界には、コツコツ真面目に事業会社のサラリーマンをしているだけでは得られないほどの、莫大な利益のチャンスがある……。
それに個人投資家に比べて、投資ファンドのメンバーとして会社やカネを運用する立場は、ずっと安全なんだ。
なんせ、運用しているのは、所詮自分の資金ではない。
個人が貯金して集められる金額の何倍ものカネを預託されて動かすことができるから、効率がいい。
金持ちから集めた軍資金で、会社を買って、転売する。
転売完了までに“企業価値”を上げるための方策は自ら打ち立てるが、それを実現するための泥臭い労働は、安い給料で汗水垂らして働いてくれる、買収先の一般職員たちにやらせておけばいい。苦労するのは下界のやつら。
……やはり、社会の既得権益を握っている上澄みの連中は、頭が良く、一番オイシイやり方を知っている。
オイシイからこそ、Fラン大学卒の俺たちには食い荒らされないよう、固く門を閉ざしているのだ。
―――高い買い物だったが、この部屋、買ってよかったなぁ……。
息を吐き、ガラス窓の向こうを眺める。
毎夜、自宅から首都・東京の中心部を見下すことができるのは、たまらない快感だ。
住所を書くとき、“東京都 港区在住”というだけで、優越感を満たしてくれるしさ。
俺は、もっともっと……この東京で、のし上がってやる。
金と力を、手に入れる。
そのために利用できるものは、なんでも使わせてもらうよ。
興信所、盗聴器、聞き込み。
情報は、力だ。情報は、金になる。
手元の調査報告書を、もう一度眺めた。
「……鈴木、風寿……。俺の野生の勘によれば、だが……あんたとは、そう遠くない未来に、再会する気がするなァ………。フフッ」
東京タワーの放つ赤オレンジの美麗な煌めきを眺めながら、ひとり、笑った。
『ハ タ オ ト !~働くオトナの保健室~(産業医と保健師のカルテ)【Episode②】』(完)
たまーに、いるんだよな。
既婚女と、不倫してる独身男。
“一途で頑固な性格”が暴走するパターン。
昼に自分を抑圧しすぎて、夜に爆発するパターン。
相手が他人のもの、っていうのが逆に快感になっちゃう、マゾヒスト倒錯パターン。
せっかく独身という自由な立場なんだから、火遊び程度で終わらせときゃいいのに、いつの間にか現実見失って、禁断の~、にマジ溺れするやつもいる。
これだけの美人なら、さすがのカタブツ鈴木も理性を失ってもおかしくない。
そういえば……鈴木が連れていた新人風の女。足立里菜。
鈴木のことを慕っています、ってオーラ、丸出しだったな。
残念だったなぁ。キミの上司は、ロクな男じゃないと思うぜ。
「鈴木風寿。……俺、あんたのこと、気に入っちゃったなぁ。ハハハ」
――――大学在学中、父親の経営していた建築関連会社が倒産し廃業。
――――その後ほどなく、父親が死去。
中小企業含め、倒産情報に関してはお手のものだ。前職の後輩に声をかければ、すぐに詳細は分かる。調べてみるか。
顔を上げ、窓の外を見た。
―――都会の夜景は、うっとりするほど美しい。
栗栖貞乃を説得して入社した俺の読みは当たり、投資ファンド『ジュリー・マリー・キャピタル』に転職してほどなく、俺は投資成績を上げることに成功するようになった。
結果、業績連動性のボーナスに加えて、たっぷりとキャリーと配当を与えられ、収入も社内ポジションも右肩上がりに跳ねたので、港区タワマン上層階のこの部屋を買った。
もしあのまま前の企業信用情報調査会社に留まっていたら、いくら俺が出世頭だったといっても、億を超える都心の高級マンションを手に入れて住むことなど一生できなかっただろう。
紙巻きたばこに、火を点けた。
喉から肺に、苦味のある旨さが広がる。
投資の世界には、コツコツ真面目に事業会社のサラリーマンをしているだけでは得られないほどの、莫大な利益のチャンスがある……。
それに個人投資家に比べて、投資ファンドのメンバーとして会社やカネを運用する立場は、ずっと安全なんだ。
なんせ、運用しているのは、所詮自分の資金ではない。
個人が貯金して集められる金額の何倍ものカネを預託されて動かすことができるから、効率がいい。
金持ちから集めた軍資金で、会社を買って、転売する。
転売完了までに“企業価値”を上げるための方策は自ら打ち立てるが、それを実現するための泥臭い労働は、安い給料で汗水垂らして働いてくれる、買収先の一般職員たちにやらせておけばいい。苦労するのは下界のやつら。
……やはり、社会の既得権益を握っている上澄みの連中は、頭が良く、一番オイシイやり方を知っている。
オイシイからこそ、Fラン大学卒の俺たちには食い荒らされないよう、固く門を閉ざしているのだ。
―――高い買い物だったが、この部屋、買ってよかったなぁ……。
息を吐き、ガラス窓の向こうを眺める。
毎夜、自宅から首都・東京の中心部を見下すことができるのは、たまらない快感だ。
住所を書くとき、“東京都 港区在住”というだけで、優越感を満たしてくれるしさ。
俺は、もっともっと……この東京で、のし上がってやる。
金と力を、手に入れる。
そのために利用できるものは、なんでも使わせてもらうよ。
興信所、盗聴器、聞き込み。
情報は、力だ。情報は、金になる。
手元の調査報告書を、もう一度眺めた。
「……鈴木、風寿……。俺の野生の勘によれば、だが……あんたとは、そう遠くない未来に、再会する気がするなァ………。フフッ」
東京タワーの放つ赤オレンジの美麗な煌めきを眺めながら、ひとり、笑った。
『ハ タ オ ト !~働くオトナの保健室~(産業医と保健師のカルテ)【Episode②】』(完)
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