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第39話「中毒」

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 熱い…………。

 体が熱い…………。
 頭が熱い…………。

 喉が焼けるようだ……!

「ごほっ、ごほっ!」

 あまりの苦しさと熱さに喉の奥に溜まったそれを吐き出すようにしてアルガスは激しくせき込んだ。

「ぐ……おぇぇぇえ」

 そのまま顔を横に向けると、バシャバシャと胃の中の物を吐き出す。

「アルガスさん?!」

 そのまま目を開けると、心配そうな顔をしたミィナと、難しい顔をしたシーリンがいた。

 他にもう一人気配を感じるが……。

「───こ、ここは?」
「宿や。アタシの部屋に、取りあえず運ばせたで」

 どうやら、アルガスが今朝まで泊まっていたあの宿らしい。

 既にチェックアウトしていたので、シーリンの部屋に取りあえず通されたとのこと。

 もう一人いるのは、
「─────市長さんか。……こんな時まで顔を見せないでくれ」

「そうは参りませんよ。街の英雄が斃れたとあっては、一も二もなく駆け付けますよ」

 ち……勝手なことを。
 なーにが英雄だ。

 市長の面が見たくなくて、アルガスは無理やり体を起こす。

「ちょ、アンタ?! む、無理したらアカンて……! 大分悪いんやて、ギルドの職員が言っとったで?」

「これくらい……! ぐ」

 うぉぇええええ……!

「ひえ?!」

 バシャバシャと、とっく何も入っていない胃袋からは胃液ばかりが吐き出される。

 そこから発せられる酸っぱい匂いが立ち込める中、シーリンが苦い顔をしていた。

「ほれ、見ぃ……」

「アルガス殿……。ギルド職員がいうには、一種の食あたりの様なものだそうです。または新種の病気か、毒か……いずれにしても、この街にいる程度の術士では、治癒魔法でもお手上げの物だそうで」

 そう言って、市長も苦い顔だ。

「くそ……! し、食あたりだと?」

 そんなアホな話があるか。

 少なくとも、アルガスだけが食あたりになるほど不自然なものはない。

 ミィナと同じものを食べているし、そのほとんどが食堂で出されたものか、ギルドで食べた物ばかりだ。

 その連中にも、同じ症状が出ているというのか?

 ましてや、病気や毒だと?
 ありえねぇ……。

「とにかく、休んどれ。宿には、アタシから言うとくさかいに……」

 エグエグと泣きじゃくるミィナの抱締めながら、シーリンがいった。

「すまん……。くそぉ、何だってこんな時に!」

 街を出ようとした直後に、これだ。

「……ミィナは無事なんだな? 食いもんだとしたら、この子も宿の人間もまずいぞ?」
「そうですな……。それを疑って私のほうでも、調査させておきました。───自警団が言うには、今のところこの症状が出ているのはアルガス殿だけです」

 おいおい。早いな、コイツ。
 ずっと俺の動向を監視していたんじゃないのか?

 だとすると、
「病気か……? あるいは毒───」

 可能性としては病気だろうか。

 しかし、このタイミングで発症して、新種の病気だとか?

 ちょっと考えにくい……。

 タイミングが悪すぎる。
 いや、良すぎるのか…………。一部の人間にとっては───。

 怪しいのは、二人。
 容疑の幅を広げれば際限がないものの、手を下せる可能性は、ここではほんの数名だ。

 そのまえに、まず確認。


 ───ステータスは、


 ブゥン……!

名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦車(ティーガーⅠ)

体 力:1202(- 601)
筋 力: 906(- 453)
防御力:9999(-4999)
魔 力:  38(-  19)
敏 捷:  58(-  29)
抵抗力: 122(-  61)

※ 状態異常:中毒


「おいおいおいおい……ち、中毒だと?」

 ステータスにはクッキリと毒に犯されていると出ている。

「ど、どないしてん?」
 シーリンが訝し気に訊ねてくる。

「ステータスを確認した。毒だ…………。おまけに、ステータスが半分になってやがる。…………聞いたこともないぞこんな症状。もしや、呪いの類か?」

「す、ステータスが半分んん??」
「な、なんと? ど、毒ですと?!」

 シーリンも市長も驚いている。

「な、なんちゅうこっちゃ! アタシはそんなこと……」
「そ、それは参りましたな……」

 なぜか、どちらも微妙に異なる反応。
 シーリンはシーリンで何故か目をキョドキョドさせている。

 市長は、なんてこったといった雰囲気で頭を抱えている。

 ───どういうことだ?

「おい、お前ら……!」

 震える体を起こすアルガスに、

「し、知らん! あ、ああああ、アタシこんなん聞いてへんで!」

「まずい……まずいですな! これはマズイ……! は、はははは、早く治療士を手配しなければ───」

 何だコイツ等?

 いかにも態度のおかしい二人。
 それを問い詰めたいものの、体が言う事を聞かない。

 そこに、
「──市長! た、たたたた、大変です!」

 バターーンッ! と、扉を無造作に開けて入ってくる奴がいた。

 自警団の制服を着た奴だが、名前は知らない。

「何事か?! 病人の部屋だぞ」
「も、申し訳ありません───ですが、」

 市長に耳を寄せ何事かを語る自警団。
 その言葉に目を見開いた市長。

「ば、バカな?! は、早すぎる───王国への根回しはどうなっているんですか!?」

「そ、それは自分には───ですが、間違いありませんっ! すでに物見からの報告では目と鼻の先の距離です!」

 「それはまずい、それはまずい!」と市長が繰り返し、口に中で呟いている。

 しかし、それらはアルガスには全て関係のないことで───。

「おい、市長……関係ないことをグダグダ言ってる暇があったら出ていけ! 目障りだ」

 これは本音だ。
 だが、それを聞いた市長はキッとアルガスを見据えると言い放った。

「無関係などではありませんぞ! リリムダの領主が軍勢を率いて荒野突っ切ってきました!」




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