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第1話「豪雨の中で……」
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ザァァァァァァァァァ……。
ザザァァァァァァァァ……───。
雨。
冷たい雨が降りしきる。
その雨の下に男はいた。
彼は傘をさすでもなく、また庇の下で雨を逃れるでもなく、ただただ雨に打たれていた。
容赦なく降りしきる雨は男の肌に突き刺さり、その体温を奪っていく。
だが、彼は微動だにせず、夜空を見上げ雨に打たれるに任せていた。
出で立ちは貧相な兵士のそれ。
しかし、見た目は敗残兵のようにくたびれており、装備もお世辞にもよいとは言えなかった。
薄汚れた皮鎧に、短い槍。……剣は佩いていない。
冷たい雨から頭部を守る兜すらなく、彼の白髪交じりの黒髪を守る物は何もなかった。
だが、装備のそれに反して、彼の容姿は比較的整っていた。
それもそのはず。
人間にしては尖った耳が、彼にエルフの血が僅かに混じっている事を示している。
その血によるものか──容姿は整っている。いるのだが……今はその見る影もない。
健康ならばともかく、今の彼のありさまと言えば……。
頬はこけ、無精髭だらけの顔はまるで精気を感じさせなかった。
クラム・エンバニア──それが彼の名だ。
兵士の出で立ちをしているが、生粋のソレではないことは立ち振る舞いでわかるというもの。
だが、この酷い土砂降りの中……まんじりともせず立ち続けられるのは中々の精神力だと言えよう。
冷たい雨に打たれながらも一言半句の文句も告げず。
黙々と任務をこなす、兵士の鑑────。
そう、任務。
彼の任務は夜間の警備。
────貴人の『寝所』の番だ。
……。
ま、そう纏めれば、まるで聞こえのいい言葉だが……。
実際はどうか────。
※
雨に打たれるままのクラムは、数回の瞬きの後、自嘲した。
貴人……そうだ。貴人、偉い人さ────。
(────少なくとも、一般的な人類にとってはな……)
瞼を濡らす雨をはらいのけ、淡く濁る視界の先を見通す。
その先にあったのは、一つの豪奢な天幕だ。
煌々と明かりのついた天幕は、実に温かそうで快適に見えた。実際、快適なのだろう。
肉が激しくぶつかり合う音に混じって響く嬌声。艶やかな声と爽やかなハスキーボイスが絡み合い全く別世界のようだ。
影絵のように浮かび上がった天幕の中。そこに照らし出されるのは、男女が激しく睦み合うそれ。
クラムはそれを見たくもないというのに、まるで見せつけるかのように明るい光源はその様子をまざまざと照らし出していた。
何度も何度も繋がる男女の影────。
微かに漂う酸えた臭い……。
激しい雨音にかき消されながらも、不意に響く甘い声。
「あぁン♡ ぁぁあ──♡♡」
バチュン♡、バチュン! と湿ったような、肉を打つ音がそこに混じり、それに合わせて揺れる二つの人影がどうしようもなくクラムの心を逆なでした。
「……ぁさん──」
クラムの口から洩れる呻き。
それを堪えようと、ギリリリと噛み締められた口からは、一筋の血が滲みだし……歯茎と唇が裂けていく。
さらに、バリッという音が不気味に鼓膜に響いた。
また奥歯にヒビが入ったのだろう……。
いつものことだ──。
だが、そのおかげで、怒りに燃え上がりそうな激情が冷えて、正気を保つことができた。
おまけに雨。
今も顔を絶え間なく叩きつけるそれは────。
今……!
今だけはありがたい……。
もし──。
ああ、もし──雨が降っていなければ、
もしも、この冷たい雨で、激情が冷めていなければ────。
もし……。
……この忌々しい足枷がなければ……──。
シャリィィン……と、無機質で寒々とした金属音が足元から響く。
無骨で、人の付け心地など何も考えていない鉄の輪っか…更に、そこから伸びる鎖と鉄球。
俺は────。
「はああぁぁぁぁん♡」
不意に、雨が弱くなり女の嬌声がこれでもかと漏れる。
艶やかで、湿った、生暖かい……ソレ。
それが薄っぺらい天幕の布で防げるはずもなく──……使用者も防ぐつもりはないのだから当然だ。
「ひゃははははッ、まだだ。まだまだだぞぉぉ!」
楽し気な男の声に続き、女の嬌声が艶やかに響く。
嫌がるソレではない。
むしろ積極的に貪り……男を求めている。
ああん♡♡、
ああぁー♡、
と────……耳を塞ぎたくなるような、
鬱陶しくも……悔しくも……腹立たしくも……!
けれども─────────!!
あん♡ ああ♡ ああーーー♡
激しく、激しく、激しく!!
絡み合う男女の声がぁぁあああ──────!!!
ザァァァァァァァァァァァァァァァ……。
ザァァァァァァァァァァァァァァァ……──。
ありがたい……。
雨よ………………感謝します。
天を仰ぎ、暗い夜空から降りしきる雨を顔に受ける。
誰にも見られていない。
……見たくもないだろう。
顔から流れるソレは、冷たい雨を受けただけのせいではない。
……。
そうだ、雨だけなものか────。
ギリリリリ……と────支給品の槍を握りしめる。
中古で安物のそれは……酷く冷え切っていた。
あぁぁぁぁ……雨よ感謝します。
雨がなければ……────俺はこれを、あの男の土手っ腹にぶち込んでいます。
そして、刺して、掻きまわして……臓物を抉っています──。
雨よ……。
感謝────。
そして、クソ食らえだ!!!
雨が降っていなければ────。
天幕の中で、艶やかな声をあげ、瑞々しい体を震わせる彼女を貫いている男に視線を向け──慟哭するッ!
あの『勇者』を刺し殺してやるのに!!!!!!
──────────────────
お読みいただきありがとうございます!
一言でもいいのだ感想いただければ幸いです。
「エロい」「つまらない」等々、大感謝!
そして、
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ザザァァァァァァァァ……───。
雨。
冷たい雨が降りしきる。
その雨の下に男はいた。
彼は傘をさすでもなく、また庇の下で雨を逃れるでもなく、ただただ雨に打たれていた。
容赦なく降りしきる雨は男の肌に突き刺さり、その体温を奪っていく。
だが、彼は微動だにせず、夜空を見上げ雨に打たれるに任せていた。
出で立ちは貧相な兵士のそれ。
しかし、見た目は敗残兵のようにくたびれており、装備もお世辞にもよいとは言えなかった。
薄汚れた皮鎧に、短い槍。……剣は佩いていない。
冷たい雨から頭部を守る兜すらなく、彼の白髪交じりの黒髪を守る物は何もなかった。
だが、装備のそれに反して、彼の容姿は比較的整っていた。
それもそのはず。
人間にしては尖った耳が、彼にエルフの血が僅かに混じっている事を示している。
その血によるものか──容姿は整っている。いるのだが……今はその見る影もない。
健康ならばともかく、今の彼のありさまと言えば……。
頬はこけ、無精髭だらけの顔はまるで精気を感じさせなかった。
クラム・エンバニア──それが彼の名だ。
兵士の出で立ちをしているが、生粋のソレではないことは立ち振る舞いでわかるというもの。
だが、この酷い土砂降りの中……まんじりともせず立ち続けられるのは中々の精神力だと言えよう。
冷たい雨に打たれながらも一言半句の文句も告げず。
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そう、任務。
彼の任務は夜間の警備。
────貴人の『寝所』の番だ。
……。
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実際はどうか────。
※
雨に打たれるままのクラムは、数回の瞬きの後、自嘲した。
貴人……そうだ。貴人、偉い人さ────。
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その先にあったのは、一つの豪奢な天幕だ。
煌々と明かりのついた天幕は、実に温かそうで快適に見えた。実際、快適なのだろう。
肉が激しくぶつかり合う音に混じって響く嬌声。艶やかな声と爽やかなハスキーボイスが絡み合い全く別世界のようだ。
影絵のように浮かび上がった天幕の中。そこに照らし出されるのは、男女が激しく睦み合うそれ。
クラムはそれを見たくもないというのに、まるで見せつけるかのように明るい光源はその様子をまざまざと照らし出していた。
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微かに漂う酸えた臭い……。
激しい雨音にかき消されながらも、不意に響く甘い声。
「あぁン♡ ぁぁあ──♡♡」
バチュン♡、バチュン! と湿ったような、肉を打つ音がそこに混じり、それに合わせて揺れる二つの人影がどうしようもなくクラムの心を逆なでした。
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クラムの口から洩れる呻き。
それを堪えようと、ギリリリと噛み締められた口からは、一筋の血が滲みだし……歯茎と唇が裂けていく。
さらに、バリッという音が不気味に鼓膜に響いた。
また奥歯にヒビが入ったのだろう……。
いつものことだ──。
だが、そのおかげで、怒りに燃え上がりそうな激情が冷えて、正気を保つことができた。
おまけに雨。
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もしも、この冷たい雨で、激情が冷めていなければ────。
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……。
そうだ、雨だけなものか────。
ギリリリリ……と────支給品の槍を握りしめる。
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